1 / 108
プロローグ
しおりを挟む
「あーこれ、私の好きだった乙女ゲームの世界だわ」
私の住む世界が。乙女ゲームの世界だと気付いたのは――婚約者候補として王城のバラが咲く庭園で、金髪、碧眼、王子のような容姿の男の子、カロール王子とお会いしたときだった。
「はじめまして、カロール・アンサンテです」
え、カロール・アンサンテ? そ、その名前はハマっていた乙女ゲームの、ヒーローの名前と同じだ。
じゃ、私は……このふんわり縦ロール、白銀の髪は、この乙女ゲームに一人しかいない。
「どうしました、ルーチェ嬢?」
……ルーチェ、そう私は悪役令嬢ルーチェ・ロジエだ。
なぜ? このような事になっているの?
たしか久しぶりの休日に、推しのアニメグッズを買いに街まで出かけたはず。グッズ店でお目当ての品を買って、うきうき乗りこんだ帰りのバス……ん? んん? そこから先の記憶がない。
ということは。
そのあと私に何かがあって、ちまたで有名な異世界転生したんだ。と、気付いたのは十年前のこと。
今宵はついにきた学園最後の舞踏会、悪役令嬢の断罪イベント。カロール殿下の婚約者にきまってから、厳しい王妃教育、学園生活とここまでの道のりは長かった。
ようやく、悪役令嬢がおわる。
カロール殿下、国外追放一択でおねがいします。
はやる気持ちを抑え、騎士が開けた扉からエスコートなく会場に入場した。集まる貴族たちの、いやな視線の中を進み断罪の場に立った。
すでに壇上で待っていたカロール殿下は私を睨みつけ、その傍らにはヒロインのリリーナさんがいた。
「よくきたな公爵令嬢ルーチェ・ロジエ嬢。魔力なしの君と婚約破棄をする。俺は魔力もちで可愛いく、優しい、男爵令嬢リリーナを心から愛してしまった」
「ごめんなさい、ルーチェ様。私もカロール様を愛してしまったの」
「魔力なしの分際で! よくも、いままでリリーナちゃんを苦しめやがって!」
「「そうだ、そうだ!」」
壇上で寄り添う酔狂な二人と、彼女の騎士になったつもりの『リリーナ親衛隊』はこの場でも、乙女ゲームとは違い魔力なしの私を見下し、大袈裟(おおげさ)に声を上げた。
「リリーナさんをいじめた悪女め!」
「いままで、おこなったことへの謝罪しろ!」
「リリーナちゃんにあやまれ!」
彼らは私のことをリリーナさんをいじめる悪女だという。じっさい彼女と面と向かって会話をしたこともなければ、いじめたことすらない。
しいていえば、新鋭隊の方が残酷だった。
身に覚えのない難癖をつけられ、階段から突き落とされたあのとき先輩が守ってくれなかったら、大怪我をしていただろう。
それらすべて終わったこと、つまらない断罪イベントは即座に終わらせましょう。
「カロール殿下、婚約破棄を承諾いたしました。国王陛下、王妃へのご報告、婚約破棄の書類などはすべて、カロール殿下とリリーナさんにお任せいたします」
「わかった、父上には俺から伝える。ルーチェ嬢との婚約破棄がすみしだい。ルーチェ嬢がおこなってきた罪への罰を伝える」
(この場で国外追放は言い渡されないのか……)
断罪イベントもおわり、あとは退場するだけ。
ふと、努力してきた日々を思いだす。
私は……カロール殿下が好きだった。
殿下がリリーナさんを好きになっていなかったら、隣に立ち、この国とあなたを守りたいと思っていた。
今となっては、それは叶わぬ夢となった。
もう、カロール殿下にお会いすることもない。
最後だし、すべてを吐きだしてもいいわよね。
「カロール殿下、最後に一言よろしいでしょうか?」
「ひとこと? いいだろう、リリーナへの謝罪しかと述べよ!」
「……残念ながら謝罪ではありません。私、ルーチェ・ロジエはカロール殿下のことをお慕いしておりました。これからは愛するリリーナさんと、末永くお幸せになってくださいませ」
そう伝えて、二人に深く頭を下げた。
これで、思い残すことはもうない。
踵を返して会場をでて行こうとする、私の背に――"バキッ、バギッ"と何かにヒビが入る音が響いた。そしてーー壇上に立つカロール殿下がいきなり『グワァ!』と叫び、壇上に両膝を突き頭を抱えて苦しみはじめた。
「カロール様、どうしたの?」
「「カロール殿下?」」
あわてて壇上の親衛隊とリリーナさんは彼を支え、警備をしていた城の騎士たちも壇上に駆け寄る。
「はやく、ここに医者を呼べ!」
慌ただしくなる舞踏会の会場。
私の横を走る騎士。
息を飲み、壇上をみつめる貴族たち。
(いったい、なにが起きているの?)
壇上で頭を抱えて苦しむ殿下をながめた。
カロール殿下は呻きながら私をみつめ、何か伝えようとしている。
「…………っ」
【おい、いまのうちに、ここから出たほうがいいぞ】
いきなり、頭の中に声が聞こえてきた。
「だ、だれ?」
【誰でもいい、この場に残っているとお前がやったかと思われるぞ】
「え、私がやった?」
【そうだ、アイツはお前の一言の後に苦しみだした】
「そ、そうかも……」
婚約破棄は終わったことだし、殿下の周りには愛するリリーナさんと攻略対象もいるし、誰かが医者も呼んだ。
【はやくしろ!】
「ええ、わかったわ」
私はその声に従って混乱する会場からでて、馬車に飛び乗り屋敷に戻った。
私の住む世界が。乙女ゲームの世界だと気付いたのは――婚約者候補として王城のバラが咲く庭園で、金髪、碧眼、王子のような容姿の男の子、カロール王子とお会いしたときだった。
「はじめまして、カロール・アンサンテです」
え、カロール・アンサンテ? そ、その名前はハマっていた乙女ゲームの、ヒーローの名前と同じだ。
じゃ、私は……このふんわり縦ロール、白銀の髪は、この乙女ゲームに一人しかいない。
「どうしました、ルーチェ嬢?」
……ルーチェ、そう私は悪役令嬢ルーチェ・ロジエだ。
なぜ? このような事になっているの?
たしか久しぶりの休日に、推しのアニメグッズを買いに街まで出かけたはず。グッズ店でお目当ての品を買って、うきうき乗りこんだ帰りのバス……ん? んん? そこから先の記憶がない。
ということは。
そのあと私に何かがあって、ちまたで有名な異世界転生したんだ。と、気付いたのは十年前のこと。
今宵はついにきた学園最後の舞踏会、悪役令嬢の断罪イベント。カロール殿下の婚約者にきまってから、厳しい王妃教育、学園生活とここまでの道のりは長かった。
ようやく、悪役令嬢がおわる。
カロール殿下、国外追放一択でおねがいします。
はやる気持ちを抑え、騎士が開けた扉からエスコートなく会場に入場した。集まる貴族たちの、いやな視線の中を進み断罪の場に立った。
すでに壇上で待っていたカロール殿下は私を睨みつけ、その傍らにはヒロインのリリーナさんがいた。
「よくきたな公爵令嬢ルーチェ・ロジエ嬢。魔力なしの君と婚約破棄をする。俺は魔力もちで可愛いく、優しい、男爵令嬢リリーナを心から愛してしまった」
「ごめんなさい、ルーチェ様。私もカロール様を愛してしまったの」
「魔力なしの分際で! よくも、いままでリリーナちゃんを苦しめやがって!」
「「そうだ、そうだ!」」
壇上で寄り添う酔狂な二人と、彼女の騎士になったつもりの『リリーナ親衛隊』はこの場でも、乙女ゲームとは違い魔力なしの私を見下し、大袈裟(おおげさ)に声を上げた。
「リリーナさんをいじめた悪女め!」
「いままで、おこなったことへの謝罪しろ!」
「リリーナちゃんにあやまれ!」
彼らは私のことをリリーナさんをいじめる悪女だという。じっさい彼女と面と向かって会話をしたこともなければ、いじめたことすらない。
しいていえば、新鋭隊の方が残酷だった。
身に覚えのない難癖をつけられ、階段から突き落とされたあのとき先輩が守ってくれなかったら、大怪我をしていただろう。
それらすべて終わったこと、つまらない断罪イベントは即座に終わらせましょう。
「カロール殿下、婚約破棄を承諾いたしました。国王陛下、王妃へのご報告、婚約破棄の書類などはすべて、カロール殿下とリリーナさんにお任せいたします」
「わかった、父上には俺から伝える。ルーチェ嬢との婚約破棄がすみしだい。ルーチェ嬢がおこなってきた罪への罰を伝える」
(この場で国外追放は言い渡されないのか……)
断罪イベントもおわり、あとは退場するだけ。
ふと、努力してきた日々を思いだす。
私は……カロール殿下が好きだった。
殿下がリリーナさんを好きになっていなかったら、隣に立ち、この国とあなたを守りたいと思っていた。
今となっては、それは叶わぬ夢となった。
もう、カロール殿下にお会いすることもない。
最後だし、すべてを吐きだしてもいいわよね。
「カロール殿下、最後に一言よろしいでしょうか?」
「ひとこと? いいだろう、リリーナへの謝罪しかと述べよ!」
「……残念ながら謝罪ではありません。私、ルーチェ・ロジエはカロール殿下のことをお慕いしておりました。これからは愛するリリーナさんと、末永くお幸せになってくださいませ」
そう伝えて、二人に深く頭を下げた。
これで、思い残すことはもうない。
踵を返して会場をでて行こうとする、私の背に――"バキッ、バギッ"と何かにヒビが入る音が響いた。そしてーー壇上に立つカロール殿下がいきなり『グワァ!』と叫び、壇上に両膝を突き頭を抱えて苦しみはじめた。
「カロール様、どうしたの?」
「「カロール殿下?」」
あわてて壇上の親衛隊とリリーナさんは彼を支え、警備をしていた城の騎士たちも壇上に駆け寄る。
「はやく、ここに医者を呼べ!」
慌ただしくなる舞踏会の会場。
私の横を走る騎士。
息を飲み、壇上をみつめる貴族たち。
(いったい、なにが起きているの?)
壇上で頭を抱えて苦しむ殿下をながめた。
カロール殿下は呻きながら私をみつめ、何か伝えようとしている。
「…………っ」
【おい、いまのうちに、ここから出たほうがいいぞ】
いきなり、頭の中に声が聞こえてきた。
「だ、だれ?」
【誰でもいい、この場に残っているとお前がやったかと思われるぞ】
「え、私がやった?」
【そうだ、アイツはお前の一言の後に苦しみだした】
「そ、そうかも……」
婚約破棄は終わったことだし、殿下の周りには愛するリリーナさんと攻略対象もいるし、誰かが医者も呼んだ。
【はやくしろ!】
「ええ、わかったわ」
私はその声に従って混乱する会場からでて、馬車に飛び乗り屋敷に戻った。
64
あなたにおすすめの小説
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした
まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」
王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。
大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。
おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。
ワシの怒りに火がついた。
ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。
乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!!
※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる