魔力なし悪役令嬢の"婚約破棄"後は、楽しい魔法と美味しいご飯があふれている。

にのまえ

文字の大きさ
6 / 108

5

しおりを挟む
 長い白銀の髪をポニーテールにすれば、準備は終わり。

 その準備が終わる前に「ルーチェちゃん、起きてる? 仕込みを始めるよ!」と、下からおばちゃんーー女将さんの元気な声が聞こえてきた。

 もう、そんな時間? と壁にかけた時計をみても、仕込みが始まるには一時間はやい。もしかして、壁にはった日替わり定食表を確認すると、お店で二番人気のコロッケ定食の日。

(今日のお昼は港街から、揚げたてのコロッケを求めて、たくさんのお客さんがくるわ)

「ルーチェちゃん?」
「いま、行きます!」

 返事をかえして木製の階段をおり、いつものように店の裏に降りると。山盛りのジャガイモのカゴがドーンと三つも置かれていた。

 コロッケとつけ合わせのポテトサラダも作るからだろう。
 さっそくカゴを用意して皮剥きの支度を始めると、裏の扉が開き丸椅子を二つ持った女将さんが現れた。

「ルーチェちゃん、おはよう」

「おはようございます。女将さん、この前よりもジャガイモの数、増えましたよね」

「ああ、増えたね。コロッケ定食とポテトサラダはウチの人気だからね。ルーチェちゃんも朝食に食べるだろう?」

「もちろん、いただきます」
「じゃあ、ジャガイモを全部、剥こうかね」


 女将さんから丸椅子を受け取りジャガイモをむき始める。小型ナイフをつかい手際よく、ジャガイモの皮をむく私をみた、女将さんはウンウン頷き微笑んだ。

「ルーチェちゃん、ジャガイモの皮剥きが、上手くなったね」

「え、ほんとうですか?」

 嬉しい女将さんに褒められた。


 ここで働きはじめた半年前――いまのようにジャガイモを剥いていたのだけど、前世ではピーラーを使ってしか、野菜の皮を剥いたことがない私は困った。

 はじめは小型ナイフがうまく使えず、なんども指を切ったし。ジャガイモが可哀想なくらいに小さく剥けたりもした。いまだって、私がジャガイモを一個むくまでに、女将さんはジャガイモを三個も剥いてしまう。

 ーーまだ、まだね。
 
「ルーチェちゃん、ジャガイモの皮むき後もう少しで終わるよ!」

「はい!」
 
 
 
 *


 
「お袋、ルーチェ」

 裏口の扉がガチャッと開き、女将さんと大将さんの、ひとり息子の二つ上のニックが裏口から顔を出した。 

「ニックさん、おはようございます」
「よっ、ルーチェ! ジャガイモの剥きご苦労さん。朝食、何にする?」

 朝食は、

「ポテトサラダをはさんだ、分厚いサンドイッチをおねがいします!」
 
 意気込んでいった私に、プッとニックは笑い。

「また、それかよ。お袋もルーチェと同じでいい?」

「そうだね、私もそれでお願いしょうかね」

 わかったとニックは頷き、剥きおわったジャガイモのカゴを持って厨房に戻っていった。




 三カゴ分あった、たくさんのジャガイモも残り二個。

「ルーチェちゃん、ラスト!」

 女将さんの声でジャガイモの皮剥きが終わった。朝食前に大量にでた皮の片付けを始めるのだけど、このジャガイモの皮を捨てるのはもったいない。

 皮をキレイに洗って水気を取り、高温の油で揚げると使った油も綺麗になって、塩を振ればサクサク立派なおやつになる。

「女将さん、この剥いたジャガイモの皮をください!」

 と、お願いしたところ。
 私の意図がわかったのか女将さんは笑い。

「もしかして、ジャガイモの皮を素揚げにするのかい?」

「はい、そうです」

「いいよ。私も食べたいから、半分こね」

 皮をザルに移して裏口近くの井戸水で、二人並んで皮を洗い始めた。

「そうだ、ルーチェちゃんにいいこと教えてあげる。揚げたてのジャガイモの皮に塩と黒胡椒を振ると、ピリリとして美味しいよ」

「塩と黒胡椒ですかぁ、いいですね」

 後は七味にマヨネーズ、味噌、揚げ皮の味付けに花が咲いていた。裏口の扉が開きふたたびニックが顔を出して、私たちの話が聞こえたのだろう。

「俺は七味、マヨと醤油派かな? 朝食出来たよ」

「じゃー、朝食に行こうかね」
「はい、お腹空きました」

 洗いを終わったジャガイモの水を切り、天日干しをして裏口から店に入る。入ったすぐの厨房に仕込み中のおじさんーー大将さんの後ろ姿がみえた。

「大将さん、おはようございます」
「おはよう、ルーチェ。朝食できてるよ」

 厨房を抜けて店のホールのテーブルには、ハムエッグ、スープ、出来立ての分厚いポテトサラダのサンドイッチと、一口サイズのサンドイッチ、コーヒーが置かれていた。

 私と女将さんはテーブルに着き、手を合わせる。

「いただきます……んんっ! ジャガイモ、ハム、キュウリ、ニンジンのポテトサラダ美味しい!」

「おいしいね。とくにルーチェちゃんが教えてくれた、このマヨネーズがいい味だしてるね」

「はい、マヨネーズは最高です」

 前世、料理が人並みに好きで、マヨラーだった私はマヨネーズも自分で作っていた。お礼も兼ねて、知っている料理をいくつかノートに書いて伝えた。

 そのなかにマヨネーズあったんだ。
 普通の手作りマヨネーズが、大将さんの手により絶品マヨネーズにかわった。

「んん、最高!」

「プッ、ルーチェの一口はいつみてもデカいな」

 ニックは"ニシシッ"笑いながら自分の朝食を持ち、私の前のテーブルに着き食事を始めた。
 その前でポテトサラダのサンドイッチにかぶりつく私に。

「しっかし、ルーチェはなんでも美味そうに食べるなぁ」

「大将さんが作る料理はどれも美味しいもの」

「おい、ルーチェ、俺は? 俺も親父と一緒に作ってるんだけど」

「フフッ、ニックさんが作る料理も美味しいよ」

「だろ? 今度、一緒に何か作ろうぜ」
「いいわよ」

「二人で作るのか? わかった、作った料理を味見してやろう」

 そこに仕込みを終わらせた大将さんも加わる。

「お父さんがするんなら、私も味見するよ」

「親父とお袋が味見役か……ルーチェなに作る?」

「そうね。なにがいいかなぁ? だし、鳥と卵を使った親子丼とか?」

「親子丼? うまそうな料理だな」

 みんなで他愛もない話をしながらテーブルをかこむ、この朝食の時間が好き。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」 王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。 大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。 おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。 ワシの怒りに火がついた。 ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。 乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!! ※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。

処理中です...