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シエルの初恋
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ルーの笑顔を守りたい、俺はアンサンテ国で恋をした。
ほんの数年まえ? いや今も俺は人が苦手で。自分の側には俺のことを分かり、心を許せれる人だけでいい。他なの者は要らぬ。女、恋人など論外だと思っていた。
そんな16歳の俺達に転機が訪れる――珍しく呼ばれた王の間で、国王陛下は俺達を見てこう告げた。
「二人に魔法国アンサンテ国へに行ってもらいたい」
どこだ、アンサンテ国とは? なぜ、国王陛下はそんな事を言い出したのだと、困惑した。
「陛下はどうして? その様なことを私達に言うのですか?」
「嫌です、僕は……よその国になど行きたくありません」
魔法使いとして、このストレーガ国に貢献できればいいと、国の為に努力してきた俺とラエル。もしかして俺達が要らなくなったのか。
「君達の友で、私の息子ベルーガの為だと言ったら嫌か?」
「ベルーガ王子の為ですか……」
それだと話は変わってくる、ベルーガは俺とラエルの大切な友だ。好きだったナタリー様と仲たがいをしてから落ち込んでいる――元気づけたい
「わかりました陛下、私達が何をするのか、詳しくお聞かせください」
国王陛下の話はこうだった。ベルーガの婚約者ナタリー様との婚約破棄が決まった。次の候補者を選ぶべく、舞踏会を開き候補者の令嬢を選んでは見たものの。皆、ベルーガと魔力の相性が悪い。
皆、魔力酔いを起こしてしまい、数分と足らずに気分を悪くする、中には倒れる者まで現れてしまった。
ベルーガもまた俺達と同じように膨大な魔力を持って生まれた。しかし俺達よりも不器用な、ベルーガは魔力を上手くコントロール出来ない。
一通りベルーガには遊びと言って、付き人になった頃からコントロールの特訓はしたからか。子供の頃より一応まともにはなったが、少しでも気持ちが高ぶるとコントロールを失う。
そうなるとベルーガよりも、魔力の低い姫では耐えれない。ナタリー様は選ばれた唯一の婚約者だった。
婚約破棄が決まった以上、次の候補者を見つけねばならない。陛下達は大陸を探し、俺達は外の国をと、話し合いで決まったらしい。
「これは私からの勅令である。お前達には友好のある魔法国の学園に入学をして、お前達の目でベルーガと釣り合う令嬢を見つけて来て欲しい」
その勅命を受けて、黙っていたラエルは「無理だ」と声を上げた――俺よりも酷い人嫌いの弟。慣れた相手としか話す事の出来ない。その弟――ラエルが真っ青な顔で嫌だと狼狽えている。
これはどうしたもんだろうか、ここは兄として一肌脱ぐしかないか。一週間後、互いの使い魔に乗り俺達はストレーガ国を出た。休み休み着いた先はアンサンテ王都から少し離れた、モール港街の裏路地の家。
国王陛下は弟のためにと、人気の無い所に住処を用意してくれた。
『兄貴、僕も頑張る』
学園には通えないけど、人が余り来ない店ならなんとか頑張ってみると言ったラエルと、魔導具を扱う魔法屋を開くことにした。
『しかし、国王陛下から許しが出てよかったな、少し羨ましい』
『ごめんね兄貴。僕は人や人との付き合いが得意ではない。それに兄貴ほど上手く気配を消せないから』
ずっと、ごめんねと謝り落ち込む弟を励ます。
『まあいいさ、すぐに見つけて仕舞えばいい。なんなら学園に入る前にアンサンテ王都で見つければいいよな』
『いい案だけど、簡単に見つかるかな?』
『見つけてやるぜ!』
ベルーガに似合う令嬢なんて、そう簡単に見つかるとは思っていない。しかし、学園には入学するまで時間もある、ダメ元でやってみるか。こんな勅命は早く終わらせて、弟とストレーガ国に帰りたい。
次の日、アンサンテ王都の広場。道化師の姿で素性を隠して広場に立ち、大声を上げた。
『素敵な魔法をお披露目いたしましょう』
お金なんていらない。ただ早く早く。ベルーガに合った令嬢、女性を見つけたい。始める時刻は俺の気が向いた時、お昼過ぎの一時間だけ。
王都でやってみると結構な人が集まった。この国も魔法が盛んな国で良かった。
前回の披露から何日か後に王都の広場に立つと、女の子がど真ん中を陣取った。
(なんだ、こいつド真ん前に座った)
魔法国で逆に珍しく、魔力をまったく感じない女の子。いつも身なりの良い服を身に付けているから、どこかの令嬢だろうな。
白銀の長い髪にサファイアの瞳をキラキラと輝かせて、汚れることにも気にせず地面にじかに座る。
(魔力ゼロのお前は用済みなんだよ)
だけど、この子はかなりの魔法好きらしい。しかし、あの子は追ってきたメイドに見つかり、馬車まで連れて行かれてしまった。
(くっく、ザマァみろ)
《ウルラ、あの子を追って何を話してるか教えてくれ》
《わかった》
使い魔を使い魔法を披露しながら、馬車の前で言い合う二人の会話を聞いた。
『ルーチェ様、王城にお戻りください。ダンスの練習が始まりますよ』
(ダンス? やはり、どこかの令嬢か)
『カーリー、ごめんなさい。噂に聞いた道化師の魔法が見たいの。お願いダンスの時間をずらしてもらって、見終わったらその何倍も練習を頑張るから』
その女性は必死にメイドに頭を下げていた。ほんとうに魔法が好きなんだな、少し嬉しい。
『ルーチェ様、明日になさってください。今日のダンスレッスンにカロール王子が見学に来ると、先ほど連絡がありました』
王子だと、あの子はアンサンテ国の王子の関係者。だとすると婚約者かな。
『そうですか、それは行かなくては。道化師さんまた来るかな? ねぇカーリー道化師さんの魔法は綺麗で周りが輝いて見えるの、そこに居るだけで私も幸せな気持ちになれるの』
フフとメイドに微笑んだ女の子……ヤベェ、可愛い。仕方がないな明日も来てやるか、別にお前のためじゃないぞベルーガのためだ。
昨日と同じ場所で待つと。来た、あの子だ。あんなに急いで走って来て、俺の真ん前に座る。おい、その綺麗なドレスは汚れてもいいのか。あー瞳がキラキラだ、気にして無いんだな。
俺は魔法を披露しながらその子を見ていた。どの魔法を見ても口を開けっぱなしで瞳はキラキラしっぱなし。何故だか、今日はあの子が可愛く見えた。
それから毎日来ると必ずあの子も来ていた。いつも楽しそうにキラキラした瞳で、俺が披露する魔法を見ていた。――でも、今日で終わり明日から学園が始まる。あの子に会えないと思うだけで、胸が痛んだ。
『これにてすべての魔法は終了、いままでありがとうございました』
最後の礼をしている途中。
『『ええーー! 今日で終わりなの! ……あっ』』
女の子が無意識に大声で叫んだのか、自分の声の大きさに驚き顔を真っ赤にしていた。俺はその女の子にお礼を言った。
『いつも見てくれてありがとうね、お嬢様』
声をかけると嬉しそうに、近くに寄ってきて俺の手を握った。うわっ、いい香り。この子近くで見れば見るほど、すごく可愛い。今日で終わりだと言ったことが悲しいのか、その子の瞳が悲しそうだった。
『ねえ、本当にこれで魔法は終わりなの?』
『うん、明日から学園が始まるからな。俺、勉強しないと』
この子に会えないのは残念だけど、学園でベルーガの婚約者探しをしないとな。面倒だが国王陛下の勅命だ、しっかりやるさ。
『学園? 王都にある魔法学園ですか? 私も来年になったらその学園に入学するんです。学年と学科は違うけど貴方に会えるのですね』
女の子は嬉しそうに微笑み、今ままでのお礼だと、自分の髪にさしていた銀のヘアピンの二本のうち一本を俺にくれた。
『いいの?』
『ええ、貴方はいま道化師の格好をしていて素顔はわかりませんわ。だから、そのヘアピンをどこかに付けておいてくださいね。必ず貴方を見つけますから』
おい、俺を見つけるって『あ、お迎えが来たみたい御機嫌よう』と女の子は微笑んで、名前を聞かず言わずに去って行った。俺の手にはその子から貰った、ヘアピンだけが残っていた。
『……また会えるか』
それから使い魔と弟が待つ魔法屋に帰り、店に入ってすぐ俺の顔を見た弟は瞳を大きくした。
『お帰り兄貴! ……どうしたの? その真赤な顔』
真っ赤だと。俺の顔はいま赤いのか、そうなのか。
『いや、なんでもね』
あの子の笑った顔を思い出すと、ドキドキする、なんだこの気持ちは、初めてすぎてわからんぞ。
+
学園に入学してベルーガの相手を探しながら、一年間、あの子が入って来るのを待っていた。一年たちあの子が学園に入学してくる。公爵令嬢ルーチェ・ロジエ嬢。この国の第一王子の婚約者。
王子とルーチェ嬢の仲良く、いつも一緒でお似合いの二人だった。
(はぁ、胸がいてぇ。なんだこの気持ちは?)
来た目的を忘れるほどに、二人を見るのは辛かった。
――だが、とつじょ状況が変わる。
入学して一カ月たったある日の事だ。庭園が見渡せる学園の二階で、悲しい瞳をしたあの子を見つけた。
あの子の目線の先を追うと庭園のベンチで、王子はピンク色の髪の女性と仲良く語り合っていた。
(はぁ? なんだこれ?)
いきなり過ぎて、何が起きたのか俺にはわからなかった。
日に日に離れていく王子とあの子、二人の距離に違和感を覚えた。最初の一カ月はまるで幻のようだ。そしてピンク色の髪の女性の微かに感じる、気味悪い魔力。
あの子の悲しむ顔は見たくないとは思っても、しょせん俺は余所者だ。私情を挟み下手に動いて両国の友好関係を崩すわけにはいかない。踏みとどまれよ俺。
だけど俺の心配を他所に彼女は令嬢らしく戦っていた。毎日の身だしなみ。髪型、ドレスを変えて、お化粧も派手ではない――淑女の鏡のような彼女。
ピンク色の髪の子より、断然あの子の方が仕草に話し方は綺麗だ。それなのに王子は一つも、あの子を見ていない。
(俺だったら喜んで隣にいるのにな)
あの子から貰ったヘアピンを大事に胸に仕舞い。遠くからわからない様、眺めて、モヤモヤする日々を過ごしていた。
日々、王子に募る怒り。何も出来ない自分へのもどかしさ。落ち着くには一人になることだと、いつもは誰もこない魔導書などが置かれた第3書庫。俺は本を楽しみながら一人の時間を過ごしていた。
(近くに足音? 珍しい外に誰か来たのか?)
第3書庫の窓から見えるのは学園の裏だ。たまに、ただならぬ関係なのか逢引きをする貴族を見る程度。
今日は誰だと覗けばあの子だ。こんな所に何をするために来たんだ。
彼女はキョロキョロと辺りを見回していた。近くに誰もいない事を確認すると、手に持っていた袋をひっくり返した。その袋の中身は一人では食べきれない数、種類のパン。
(……ま、まさかな)
そのまさかと思った俺の勘は当たる。
裏に座りあの子は大きなため息をつくと、大量のパンを一つ一つ、ポロポロと涙をこぼしながら食べ始めた。
溢れる涙とその手は止まることなく、パンはあの子の口の中に消えていく。「もう無理かな?」「ううん、もう少しだけ、がんばってみよう」彼女の悲しい声も聞いた。
(あんな奴のために泣くなよ。あー俺まで泣きたくなった)
それから昼休み。第3書庫から裏庭に来るあの子を何度も見かけた。そして一年経ったある日。いつもの通り、大量のパンを食べ終えたあの子は「もうダメだね」ふっと寂しく笑った。
そして二年に上がった彼女は変わった。今までやってきた事を全て辞めてしまったんだ。髪型はお下げ髪、質素なドレス、化粧も薄化粧。そして髪には銀のヘアピンが一つ付いていた。
(前もいいが、こっちも可愛い)
それから数日後。第3書庫に彼女が現れた……正直嬉しかった。また、難しい魔導書をみてる――絶対に読めていないな。
話したくても、話せず。話しても慣れていなくて……ぶっきらぼうにか話せず、自分が嫌になったけど、ルーは新しい本を教えると笑った。シエル先輩と俺を呼んだ。
俺がルーと呼んでも嫌がらない。
『もう、シエル先輩の意地悪』
『なんだよ、意地悪なんてしてないだろう?』
『したわ、もう、知らないっ』
クソッ、可愛いなぁ。
ほんの数年まえ? いや今も俺は人が苦手で。自分の側には俺のことを分かり、心を許せれる人だけでいい。他なの者は要らぬ。女、恋人など論外だと思っていた。
そんな16歳の俺達に転機が訪れる――珍しく呼ばれた王の間で、国王陛下は俺達を見てこう告げた。
「二人に魔法国アンサンテ国へに行ってもらいたい」
どこだ、アンサンテ国とは? なぜ、国王陛下はそんな事を言い出したのだと、困惑した。
「陛下はどうして? その様なことを私達に言うのですか?」
「嫌です、僕は……よその国になど行きたくありません」
魔法使いとして、このストレーガ国に貢献できればいいと、国の為に努力してきた俺とラエル。もしかして俺達が要らなくなったのか。
「君達の友で、私の息子ベルーガの為だと言ったら嫌か?」
「ベルーガ王子の為ですか……」
それだと話は変わってくる、ベルーガは俺とラエルの大切な友だ。好きだったナタリー様と仲たがいをしてから落ち込んでいる――元気づけたい
「わかりました陛下、私達が何をするのか、詳しくお聞かせください」
国王陛下の話はこうだった。ベルーガの婚約者ナタリー様との婚約破棄が決まった。次の候補者を選ぶべく、舞踏会を開き候補者の令嬢を選んでは見たものの。皆、ベルーガと魔力の相性が悪い。
皆、魔力酔いを起こしてしまい、数分と足らずに気分を悪くする、中には倒れる者まで現れてしまった。
ベルーガもまた俺達と同じように膨大な魔力を持って生まれた。しかし俺達よりも不器用な、ベルーガは魔力を上手くコントロール出来ない。
一通りベルーガには遊びと言って、付き人になった頃からコントロールの特訓はしたからか。子供の頃より一応まともにはなったが、少しでも気持ちが高ぶるとコントロールを失う。
そうなるとベルーガよりも、魔力の低い姫では耐えれない。ナタリー様は選ばれた唯一の婚約者だった。
婚約破棄が決まった以上、次の候補者を見つけねばならない。陛下達は大陸を探し、俺達は外の国をと、話し合いで決まったらしい。
「これは私からの勅令である。お前達には友好のある魔法国の学園に入学をして、お前達の目でベルーガと釣り合う令嬢を見つけて来て欲しい」
その勅命を受けて、黙っていたラエルは「無理だ」と声を上げた――俺よりも酷い人嫌いの弟。慣れた相手としか話す事の出来ない。その弟――ラエルが真っ青な顔で嫌だと狼狽えている。
これはどうしたもんだろうか、ここは兄として一肌脱ぐしかないか。一週間後、互いの使い魔に乗り俺達はストレーガ国を出た。休み休み着いた先はアンサンテ王都から少し離れた、モール港街の裏路地の家。
国王陛下は弟のためにと、人気の無い所に住処を用意してくれた。
『兄貴、僕も頑張る』
学園には通えないけど、人が余り来ない店ならなんとか頑張ってみると言ったラエルと、魔導具を扱う魔法屋を開くことにした。
『しかし、国王陛下から許しが出てよかったな、少し羨ましい』
『ごめんね兄貴。僕は人や人との付き合いが得意ではない。それに兄貴ほど上手く気配を消せないから』
ずっと、ごめんねと謝り落ち込む弟を励ます。
『まあいいさ、すぐに見つけて仕舞えばいい。なんなら学園に入る前にアンサンテ王都で見つければいいよな』
『いい案だけど、簡単に見つかるかな?』
『見つけてやるぜ!』
ベルーガに似合う令嬢なんて、そう簡単に見つかるとは思っていない。しかし、学園には入学するまで時間もある、ダメ元でやってみるか。こんな勅命は早く終わらせて、弟とストレーガ国に帰りたい。
次の日、アンサンテ王都の広場。道化師の姿で素性を隠して広場に立ち、大声を上げた。
『素敵な魔法をお披露目いたしましょう』
お金なんていらない。ただ早く早く。ベルーガに合った令嬢、女性を見つけたい。始める時刻は俺の気が向いた時、お昼過ぎの一時間だけ。
王都でやってみると結構な人が集まった。この国も魔法が盛んな国で良かった。
前回の披露から何日か後に王都の広場に立つと、女の子がど真ん中を陣取った。
(なんだ、こいつド真ん前に座った)
魔法国で逆に珍しく、魔力をまったく感じない女の子。いつも身なりの良い服を身に付けているから、どこかの令嬢だろうな。
白銀の長い髪にサファイアの瞳をキラキラと輝かせて、汚れることにも気にせず地面にじかに座る。
(魔力ゼロのお前は用済みなんだよ)
だけど、この子はかなりの魔法好きらしい。しかし、あの子は追ってきたメイドに見つかり、馬車まで連れて行かれてしまった。
(くっく、ザマァみろ)
《ウルラ、あの子を追って何を話してるか教えてくれ》
《わかった》
使い魔を使い魔法を披露しながら、馬車の前で言い合う二人の会話を聞いた。
『ルーチェ様、王城にお戻りください。ダンスの練習が始まりますよ』
(ダンス? やはり、どこかの令嬢か)
『カーリー、ごめんなさい。噂に聞いた道化師の魔法が見たいの。お願いダンスの時間をずらしてもらって、見終わったらその何倍も練習を頑張るから』
その女性は必死にメイドに頭を下げていた。ほんとうに魔法が好きなんだな、少し嬉しい。
『ルーチェ様、明日になさってください。今日のダンスレッスンにカロール王子が見学に来ると、先ほど連絡がありました』
王子だと、あの子はアンサンテ国の王子の関係者。だとすると婚約者かな。
『そうですか、それは行かなくては。道化師さんまた来るかな? ねぇカーリー道化師さんの魔法は綺麗で周りが輝いて見えるの、そこに居るだけで私も幸せな気持ちになれるの』
フフとメイドに微笑んだ女の子……ヤベェ、可愛い。仕方がないな明日も来てやるか、別にお前のためじゃないぞベルーガのためだ。
昨日と同じ場所で待つと。来た、あの子だ。あんなに急いで走って来て、俺の真ん前に座る。おい、その綺麗なドレスは汚れてもいいのか。あー瞳がキラキラだ、気にして無いんだな。
俺は魔法を披露しながらその子を見ていた。どの魔法を見ても口を開けっぱなしで瞳はキラキラしっぱなし。何故だか、今日はあの子が可愛く見えた。
それから毎日来ると必ずあの子も来ていた。いつも楽しそうにキラキラした瞳で、俺が披露する魔法を見ていた。――でも、今日で終わり明日から学園が始まる。あの子に会えないと思うだけで、胸が痛んだ。
『これにてすべての魔法は終了、いままでありがとうございました』
最後の礼をしている途中。
『『ええーー! 今日で終わりなの! ……あっ』』
女の子が無意識に大声で叫んだのか、自分の声の大きさに驚き顔を真っ赤にしていた。俺はその女の子にお礼を言った。
『いつも見てくれてありがとうね、お嬢様』
声をかけると嬉しそうに、近くに寄ってきて俺の手を握った。うわっ、いい香り。この子近くで見れば見るほど、すごく可愛い。今日で終わりだと言ったことが悲しいのか、その子の瞳が悲しそうだった。
『ねえ、本当にこれで魔法は終わりなの?』
『うん、明日から学園が始まるからな。俺、勉強しないと』
この子に会えないのは残念だけど、学園でベルーガの婚約者探しをしないとな。面倒だが国王陛下の勅命だ、しっかりやるさ。
『学園? 王都にある魔法学園ですか? 私も来年になったらその学園に入学するんです。学年と学科は違うけど貴方に会えるのですね』
女の子は嬉しそうに微笑み、今ままでのお礼だと、自分の髪にさしていた銀のヘアピンの二本のうち一本を俺にくれた。
『いいの?』
『ええ、貴方はいま道化師の格好をしていて素顔はわかりませんわ。だから、そのヘアピンをどこかに付けておいてくださいね。必ず貴方を見つけますから』
おい、俺を見つけるって『あ、お迎えが来たみたい御機嫌よう』と女の子は微笑んで、名前を聞かず言わずに去って行った。俺の手にはその子から貰った、ヘアピンだけが残っていた。
『……また会えるか』
それから使い魔と弟が待つ魔法屋に帰り、店に入ってすぐ俺の顔を見た弟は瞳を大きくした。
『お帰り兄貴! ……どうしたの? その真赤な顔』
真っ赤だと。俺の顔はいま赤いのか、そうなのか。
『いや、なんでもね』
あの子の笑った顔を思い出すと、ドキドキする、なんだこの気持ちは、初めてすぎてわからんぞ。
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学園に入学してベルーガの相手を探しながら、一年間、あの子が入って来るのを待っていた。一年たちあの子が学園に入学してくる。公爵令嬢ルーチェ・ロジエ嬢。この国の第一王子の婚約者。
王子とルーチェ嬢の仲良く、いつも一緒でお似合いの二人だった。
(はぁ、胸がいてぇ。なんだこの気持ちは?)
来た目的を忘れるほどに、二人を見るのは辛かった。
――だが、とつじょ状況が変わる。
入学して一カ月たったある日の事だ。庭園が見渡せる学園の二階で、悲しい瞳をしたあの子を見つけた。
あの子の目線の先を追うと庭園のベンチで、王子はピンク色の髪の女性と仲良く語り合っていた。
(はぁ? なんだこれ?)
いきなり過ぎて、何が起きたのか俺にはわからなかった。
日に日に離れていく王子とあの子、二人の距離に違和感を覚えた。最初の一カ月はまるで幻のようだ。そしてピンク色の髪の女性の微かに感じる、気味悪い魔力。
あの子の悲しむ顔は見たくないとは思っても、しょせん俺は余所者だ。私情を挟み下手に動いて両国の友好関係を崩すわけにはいかない。踏みとどまれよ俺。
だけど俺の心配を他所に彼女は令嬢らしく戦っていた。毎日の身だしなみ。髪型、ドレスを変えて、お化粧も派手ではない――淑女の鏡のような彼女。
ピンク色の髪の子より、断然あの子の方が仕草に話し方は綺麗だ。それなのに王子は一つも、あの子を見ていない。
(俺だったら喜んで隣にいるのにな)
あの子から貰ったヘアピンを大事に胸に仕舞い。遠くからわからない様、眺めて、モヤモヤする日々を過ごしていた。
日々、王子に募る怒り。何も出来ない自分へのもどかしさ。落ち着くには一人になることだと、いつもは誰もこない魔導書などが置かれた第3書庫。俺は本を楽しみながら一人の時間を過ごしていた。
(近くに足音? 珍しい外に誰か来たのか?)
第3書庫の窓から見えるのは学園の裏だ。たまに、ただならぬ関係なのか逢引きをする貴族を見る程度。
今日は誰だと覗けばあの子だ。こんな所に何をするために来たんだ。
彼女はキョロキョロと辺りを見回していた。近くに誰もいない事を確認すると、手に持っていた袋をひっくり返した。その袋の中身は一人では食べきれない数、種類のパン。
(……ま、まさかな)
そのまさかと思った俺の勘は当たる。
裏に座りあの子は大きなため息をつくと、大量のパンを一つ一つ、ポロポロと涙をこぼしながら食べ始めた。
溢れる涙とその手は止まることなく、パンはあの子の口の中に消えていく。「もう無理かな?」「ううん、もう少しだけ、がんばってみよう」彼女の悲しい声も聞いた。
(あんな奴のために泣くなよ。あー俺まで泣きたくなった)
それから昼休み。第3書庫から裏庭に来るあの子を何度も見かけた。そして一年経ったある日。いつもの通り、大量のパンを食べ終えたあの子は「もうダメだね」ふっと寂しく笑った。
そして二年に上がった彼女は変わった。今までやってきた事を全て辞めてしまったんだ。髪型はお下げ髪、質素なドレス、化粧も薄化粧。そして髪には銀のヘアピンが一つ付いていた。
(前もいいが、こっちも可愛い)
それから数日後。第3書庫に彼女が現れた……正直嬉しかった。また、難しい魔導書をみてる――絶対に読めていないな。
話したくても、話せず。話しても慣れていなくて……ぶっきらぼうにか話せず、自分が嫌になったけど、ルーは新しい本を教えると笑った。シエル先輩と俺を呼んだ。
俺がルーと呼んでも嫌がらない。
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