記憶の中の彼女

益木 永

文字の大きさ
18 / 38

第18話

しおりを挟む

「母さん、幼稚園の時に使ってた入れ物ってどこにしまってたっけ?」
 和也は台所で朝ごはんの準備をしていた母を見つけて、探し物について聞いていた。
「入れ物? 確かあんたの部屋の押し入れだと思うけど急にどうしたの?」
「ああ、いや。別に……とりあえず俺の部屋だね、わかった」
 和也は母から大体の場所を聞くととりあえず部屋へと戻る。一応の確認ではあったが、やはり自分の部屋に置いてあった。この家にはずっと暮らしてはいて、あの部屋も十年くらい前から使っていたわけで。
 とはいっても、和也から見て十年前というと幼稚園児時代、と大分幼い頃の話になるので確証が無かったのだが、母の確認を聞いて探す場所は決まった。とりあえず家を出なければいけない時間まで、探してはおきたかった。
 とにかく急いで探したかったのが大きかった。あそこまではっきりと思い出すと、どうしても気になる。つまり、心残りを先に解消させておきたかったという想いが強かった。
 自分の部屋に着いた和也はまず母が言っていた押し入れの前に立つ。
 この押し入れはたまにしか開けないために、和也自身どこに何が入っているのかあまり把握できてはいないのだが……一度、開けてしっかり探さないといけない。あの記憶の中に出てきた封筒は、多分幼稚園の頃に使っていた入れ物のどれかに入っている筈だ。

 とりあえず目の前に広がる箱を少しずつ、中を見てチェックをするというしらみつぶしの作業をする事にした。事前に時間を確認したが、学校に行かなくてはいけない時間までは結構あるためまだ猶予はあった。
 けれど、そうして油断をしているとすぐに学校に行かなくてはいけない。和也は幼稚園の時に使っていた入れ物が入っているだろう押し入れの中身を少しずつ調べていた。けれど、これが中々見つからない。けれど、その理由はわからないわけではないだろう。
 押し入れには箱で区別して入れているから、時間がかかり過ぎる事もない一方で逆に当たりの箱を引かなければ絶対に入っていない。押し入れの中にあるものはなるべくスペースに入る限りに入っているため目的の物をピンポイントで探し当てるのは至難の技だった。
 そんなこんなの作業をしている内に、学校に行かなければいけない時間が近づいてくる。続きは帰ってから……と思った所で、和也は何かに気づく。
「……これって」
 押し入れから出した箱の中に何か、気づいた事があった和也はその箱をもう一回探ってみる。すると、中からひらがなで書かれた自分の名前が書かれた箱を見つける。間違いない、これは自分が幼稚園の時に使っていた入れ物だった。
「やっと見つけた……」
 中を確認するだけなら、すぐに出来るだろう。そう判断して和也はその入れ物の蓋を開ける。そこには、確かに記憶の中であの女性に渡されたあのパンダ柄の封筒が入っていた。

 記憶の中に出てきた封筒を見つけた。けれど、和也は時計を見て気づく。すぐに登校時間が来る。
「やばっ、行かないと」
 慌ててカバンを手に取った和也はそのまま家を出る。
 あの封筒の事は気がかりだが、一方で学校に行く事も大事だし、そこでやる事も大事だった。とりあえず、今日の所は帰ってからまた調べればいいだろう。

  *

 
 昼休み。和也は凛と共に家庭科室にいた。というのも、凛に呼ばれた事が理由だ。
 時折、凛に呼ばれて昼休みは家庭科室で過ごす事がある。二人きりではあるのだが、やっている事は文化祭の展示に関する相談が大半であり、今日も本当にその相談に関する話題だけだった。
 特に、先日手芸部の展示の方向性がまとまってから和也が監修として正式に部全員からお願いされてからは特にその機会が増えてきたと言っても良い。
『和……高野くんが嫌なら良いんだけど、この案を出してくれたのは高野くんだから是非、展示について意見が欲しくて」
 凛からそう、伝えられた。確かに、手芸部の展示の方向性をまとまるきっかけになった案は和也であるため、その後の調整に和也が参加する事は何ら変な事ではないと思う。和也自身も、何も問題が無かったら手芸部の手伝いには参加しようと考えていた。
 利害が一致した事もあり、こうして定期的に手伝いとして手芸部の展示に協力をしていて今日もこうして凛と一緒に意見のまとめをしているという形だ。
「なるべく時間を掛けずに、装飾を作っていきたくて……これはどうかな」
「もう少し量産できる様にはしたいよな」
「そうだね……それじゃあこうして……」
 話し合いを重ねていって、どの様な展示にしていくか少しずつ固まっていっていた。時間や使える材料を考慮して、展示の方向性に合致する内容にしていく作業は地道ながら目に見えて形化していくのはとても楽しい事ではあった。
「そうだ……一応、高野くんに伝えたい事があって」
 あの日以降、凛が名前呼びをする場面はなく、ずっと『高野くん』と呼ばれている。別に、取り立てておかしくないのだが何故か気になってしまう。呼び方に対する話題も全くないからこそ、そう思っていたのだろう。
「伝えたい事って?」
「実は、文化祭の前日は追い込みで結構遅くまで展示準備に取り掛かるかもしれないって話で」
「それって……」
 凛から伝えられた……所謂追い込み作業、というのはわからなくもない。やっと展示に関する事が進んだばかりだが、肝心の文化祭の開催から一カ月を切ってから進んだのだ。恐らく、通常のスケジュールでは間に合わないという事だろう。
「顧問の先生も見てくれるから、安全面とかも大丈夫だし皆親からその日は少し遅くなるって伝える様にしておいているけど……」
「そっか。それなら、まあ大丈夫なのかな」
 それを和也に話す理由とは、何だろうか。
「だからその日に高野くんが手伝いに参加するならこの事を事前に伝えておいた方が良いなって」
「ああ……なるほど」
 現状、かなり積極的に手伝いとして関与している以上この事を伝えるのはわからなくもない。事前にその事を話しておけば、どういった形で手伝いに参加しておけばいいのかが把握もできるから、大分ありがたい。
「まあ、少し考えてみるよ」
「ありがとう。でも、出来るならゆっくり休んでいて欲しいけどね」
 凛は、少し心配そうな様子でこちらを見ていた。
 確かに、龍との勉強会が終わって暇が増えたために手伝いとして関わる事も多くなってきた。けれど、部員ではない状態なのも確かだからその追い込み作業の日は出来れば休んでほしいのも本心なのだろう。
「……わかった。それなら、その日は来ないって方向が良いのかな」
「そう。それが、やっぱり良いと思うかな」
 だから、和也はその日は真っすぐ帰る事を考えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

カオルとカオリ

廣瀬純七
青春
一つの体に男女の双子の魂が混在する高校生の中田薫と中田香織の意外と壮大な話です。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...