婚約破棄された婚活オメガの憂鬱な日々

月歌(ツキウタ)

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婚活相手が病んでるかも!?

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◆◆◆◆◆

山崎さんに招かれて車に乗り込むと、高級車の匂いがした。金持ちに憧れる俺の頬は自然と緩み、車の匂いを肺に流し込んでいた。良き~、良き~。

「どうされましたか、優斗さん?」
「いえ、何でもありません」

‥‥車の匂いを嗅ぐ変態オメガと思われたかも。でも、金持ち臭が珍しいのだから仕方ない。俺はアルファを父に持ちながら、庶民なベータと同じ生活水準で暮らしてきた。

「‥‥そうですか。では、車を出しますね」
「はい、栄一さん」

車がゆっくりと走り出した。俺はふと車窓を眺めながら、アルファ父の事を思い出す。

俺のアルファ父は優秀な医師だったけど、家族を肥やすより海外の貧しい子供を肥やす事に全力を尽くした人だ。私財を投げ打ち貧しい国に病院を建てた事もある。

俺はそんなアルファ父を尊敬していた。

だが、理想高きそのアルファ父が、現地のオメガ女子と恋に落ちてしまう。そして、そのまま日本に帰ってこなかったのだ。『まじ、腹立つ!まじ、最悪のアルファ父め!』

「えっ!?」
「ヤバい、口に出てた」
「暁月さま~」

助手席の三日月がコチラを振り返ったので、御免と手で合図を送った。それから慌てて山崎に言い訳する。

「ごめんなさい、栄一さん。久々にアルファの気に当てたれ‥‥浮気性の父を思い出し悲しい気分になってしまって‥‥」

俺の言葉に反応して、山崎は僅かに眉を寄せた。そして、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「申し訳ない。アルファの気は抑えていたつもりでしたが、漏れてしまったようだ。優斗さんの父上に関する事は敢えて尋ねはしませんが、私も浮気性だと思われるのは不本意です。」

「もちろんです、栄一さん!俺は貴方を信じたい。でも、俺には浮気性アルファへのトラウマがあることを知ってください。」

俺は適当に言い訳した。だけど、山崎は俺の言葉を真剣に受け取り応じた。

「俺は番った相手を裏切ったりはしません。たとえ、『運命の番』が現れようとも」

うぉー。運命の番に婚約者を奪われた俺には、それは禁句ですー!

「山崎さま‥‥暁月さまに謝ってください。暁月さまが婚活をされているご事情は、事前に説明した筈です。何故、心の傷口をえぐる真似をするのですか。謝りなさい」

三日月アドバイザーが強気に出た!いや、気遣いは嬉しいけど、話がややこしくなるからベータは黙ってて。

「私は謝るつもりはない。私は『運命の番』自体に嫌悪を感じる。アルファの意思を捻じ曲げて心を縛られるくらいならば、『運命の番』を殺すまでだ。巧妙に捕まらないように屠れば‥‥問題ない。」

病んでたーーーー!
婚活相手が病んでたーーーー!
いや、ただの厨二病患者の可能性もあるが‥‥どちらにしてもヤバい。

俺の婚活が前途多難だぁー!


◆◆◆◆◆



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