愛を探しているんだ

飛鷹

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愛を探しているんだ

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『愛を探しているんだ』

俺はスマホの画面に表示された言葉をマジマジと見つめて、ふっと笑った。
今日は飼い猫のふぅちゃんが珍しくにゃーにゃー鳴くから、何を訴えてるんだろうなぁって猫語翻訳アプリを入れてみたんだ。

その結果が、コレ。

「そっか。お前も愛を探してんのか……。大変だな」

茶白のバイカラーのふぅちゃんの頭をそっと撫でてやると、嬉しそうにもう一度にゃーと鳴いた。

――――可愛い。
目を細めて猫を眺める。

「俺も次の愛を探しに行かなきゃだなぁ……」

フローリングに直座りしていた俺は、壁にもたれ掛かって天井を見上げた。一生懸命俺にアプローチしていたふぅちゃんが、ここぞとばかりに膝の上に乗り上げてゴロゴロ喉を鳴らす。

猫が鳴らす喉の音には癒やしの効果があるとか……。

お前、失恋した俺を慰めてくれてんの?

チラリと見ると、目を細めて口をパカっと開ける。所謂サイレントにゃーだ。人間には聞こえない周波で鳴いてるそれは、信頼している人間に向ける鳴き方だと何かに書いてあった。

グリグリと頭を撫でて、もう一度天井を見上げた。
俺は今日失恋した。

夏生なつきは、次の夏に結婚するらしい。

俺はもともとノンケで、恋愛対象は女性だけだった。だけど、たまたま入ったバーで知り合った夏生に口説かれて。
嫌悪感も浮かばなかったし、何より綺麗な顔のヤツに熱心に口説かれるのも悪い気もしなくて、付き合い始めたんだ。今から2年くらい前のことだった。
夏生はいつも優しくて、男同士の恋愛が分からない俺に丁寧に接してくれた。

俺は基本、自分が興味を引かれないものは放置する癖がある。俺にとって夏生自身には興味があったけど、夏生に付随するその他のもの……年齢だったり、出身だったり、仕事だったりには全く興味がなかった。
だから詳しく聞く事もなく、ただただ今を大事にして過ごしていた。まぁ俺にとってはそれでよくても、夏生にとっては物足りなかったんだろうな。

去年の夏くらいから、何か『あれ?』って思う場面が増えたように思う。俺への対応は変わらないけど、2人で会っている時に電話が増えたり、考え込む時が増えた様な気がしていた。
それでも俺は、その違和感に関して夏生に尋ねる事はしなかった。
だって、たまたま付き合い始めただけの2人だ。別に将来を約束してる訳でもないし、何も言わない夏生に敢えてプライバシーに踏み込んでまで聞いて良いのかも分からなかった。

そうやって時が過ぎて、2月に突入したある日。
職場の後輩が人目を憚らず号泣しているのを見てしまったんだ。

「か……柏木?どうしたんだ、そんなに泣いて……」

焦ってハンカチを渡しつつ尋ねると、そのハンカチを引ったくる様に奪い柏木は遠慮もなく鼻をかんだ。オイ………。


清白すずしろぜん”ばい~~~っ!!」

柏木は濁音付けまくりで叫ぶと、一層酷く泣き始めた。
えー……どうすりゃいいんだ……。
困惑して辺りを見渡すと、デスクに在席していた部長が俺を見て静かに首を横に振った。

ああ、はい。これは後輩のフォロー任せたよ……って事ですね。了解しました。

俺は柏木をカフェスペースにいざない、ホットコーヒーを手渡した。

「―――で?どうしたんだ、一体?」

ブラックコーヒーを一口啜り、柏木に尋ねる。柏木は1冊の雑誌を俺に手渡してきた。

「?」

「それ、今日発売の雑誌です」

ずびびっと鼻を啜り柏木は言う。

「NATSUKIが、け………結婚するってぇぇぇぇっ」

びゃぁぁあああ……っと激しく泣き出した彼女の声に、思わず指で耳栓をしてしまったけど……。

―――――NATSUKI……?
思わず雑誌を捲り記事を見てしまった。記事と共に載せられた写真は、紛れもなく夏生本人だった。

「……………え?」

「モデルのNATSUKIですぅ……。ハイブランドのモデルをやることが多いけど。偶にバラエティ番組にも出てて。すっごくカッコ良いんですよ。カリスマ性もあって、目が奪われるっていうか……」

「……………」

「私、彼がデビューした時からのファンなんです!好きなんです!!」

モデル………だったんだ。

「なのにぃ~~~…!!来年の夏、結婚するって!!モデルも芸能関係も引退するってぇぇぇっっ!!」
絶叫と言うに相応しい音量で叫ぶと、彼女は再び号泣し始めた。

「事務所の発表なら確実にマジじゃないですかっ!!彼の活躍を楽しみにしてたのに~~っ!うわぁぁぁあん!!」

彼女を横目に見て、再び記事に目を通す。


――――NATSUKIさん、ご結婚されるんですか?
はい、とても大切な人を見つけたんです。

――――どんな方ですか?きっと素敵な方なんでしょうね?
ははは…。可愛い人ですよ。俺だけを見てくれる、とても可愛い人。他人が評価する『俺』には興味がなくて、自分で見た『俺』そのものに惹かれてくれるんです。
凄くないですか?

――――もしかしてべた惚れ?ですか?
そうです。出会ってから今までずっと惹かれ続けています。その人の全てを手に入れたいと思ったから、今回決断したんですよ。



そっかぁ………。
俺はそっと雑誌を閉じた。夏生に感じたあの違和感は、このせいだったのか………。
生涯を共にしたいと願う相手をいつの間にか見つけていたんだな。
半年もの間、俺に言えなかったのは社会的影響が大きい方を先ず片付けてからと思ったのか……。
俺は短く息を吐くと、柏木の頭をポンポンと叩いてやった。

「キツかったんだな、柏木」

ずびん、と鼻をもう一度啜り柏木が顔を上げる。

「今日はもう帰っていいぞ。しっかりと泣いて、喚いて、気持ちを吐き出してスッキリしてこい。そして、また明日から頑張れ」

ふっと微笑むと、柏木はぴきん!と固まった。

「…………?どうした?」

首を傾げて問うと、高速で首を振る。ん?大丈夫か?
心配で眉を顰めると、柏木はテーブルに手を付き勢いよく立ち上がった。

「清白先輩、ありがとうごさいました!!新しい萌をほんっっとにありがとうです!!不肖柏木、本日は帰宅し、明日より新たな萌に頑張ります!」

「え……?も……萌?何だって?」

「気にしないでください!元気を貰ったって事です!じゃ!!」

スタタタタっ!!っと足早に去っていく彼女を見送り、俺はやれやれとため息をついた。
後輩は、よく分からないけど大丈夫そうだ。
あとは、大丈夫じゃない俺をどうにかしないと………。

ま、失恋したと言って仕事が減るわけじゃなし。俺は気を紛らわせるために、仕事に励んだ。無心で勤しんでいる内に、あっという間に終業時刻を過ぎて残業タイムとなっていた。
チラリと時計を見る。すでに時計の針は21時を示していた。机の上の書類はいつの間にか明後日までの仕事が片付き、小ざっぱりとしている。

俺は少し考えて、社内メールで部長へメッセージを送った。
―――急で申し訳ありませんが、一身上の都合で明日有給休暇を取らせて頂きます――――――
休みなく働いていた俺に、ついこの間も『いい加減、有給休暇を消費しろ』と注意という名の心配をしていた部長だ。
きっと何も言わずに受理してくれるだろう。

俺はスマホを操作して、夏生とのメッセージ画面を開いた。

――――今までありがとう。メッセージを送るのも今日が最後だ。君のこれからを応援しているよ

打ち込んだ文章を眺める。女々しくならないように、未練を感じさせないように……。考えた結果、シンプルで個性のない文章になったけど、まぁ良いだろう。
送信ボタンを押して、メッセージを送った。



そして猫と戯れる今に至る。
ふと目を向けると、スマホの猫語翻訳アプリが次々にふぅの鳴き声を変換していた。

へぇ……ゴロゴロ音も言葉に変換するんだな……。

感心して文字を追う。

『愛を探しているんだ』
『ここは私の幸せの場所』
『あなたの側が大好き』
『私はここ、私を愛して!』
『大好きだよ』
『私を愛して!』

「――――――『私を愛して』……………か」

スマホを放り出して、俺は目を瞑った。ゆったりとふぅちゃんを撫でる。明日まで猫とのんびり過ごそう。
そして明後日から、何事もなくいつもの様に淡々と毎日を過ごすんだ。
ゆっくりと這い上がる眠気。そして抗いようのない眠りの深淵に引きずり込まれていった。



「…………ふ…っ……ぁ……。っつ……。ん……っ」

何だろう。ふわふわとした心地よさが身を犯す。少し硬くて、丁度良い温かさの何かが俺を覆う。
何だろうなぁ……。
俺は薄っすらと目を開けた。

「―――――え……?」

「起きましたか………」

そこには俺に覆い被さる夏生の姿があった。

「――――な、に……?」

「会いに来たんですよ」

身体を弄る手を止めることなく呟く。

「あのメッセージ、どういう意味なのか聞きたくて。会いに来ました」

ついっと指が動いて、乳首に触れた。転がすようにキュッキュッと刺激されて、思わず首が反り返った。

「っぁ……ふぅ……ん…ッ」

かぷりと首を齧られ、噛み跡をベロリと舐める。寝起きの回らない頭のまま、俺を貪る夏生を見つめた。
キレイな顔に妖しく濡れる瞳。飢えた獣の様な光を宿す瞳に、俺は内心首を傾げた。

「夏生、何で……」

「どうしました?気持ち、良くない?好きですよね、乳首」

カリッと歯を立てられる。そして、じゅっと痛いくらいに吸い上げてきた。片方を口で嬲る間、指がもう片方をしつこいくらいに摘み上げ、くりくりと捏ねくり回してくる。

「ふぁっ…ぁあ…あ、」

「腰、揺れてますよ?俺の腹にそんなに擦り付けて……気持ちイイ?」

ふふふっと胸元で笑うその声には、明らかに嘲る響きがあった。

「な…つきぃ…ぁあ…。おま……な、んでここ…に……?」

柔らかな髪に指を絡ませて押し退けようとしても、びくともしない。

「おいたは駄目……ですよ?」

俺の手を取り、乳首から口を離した夏生は妖しく微笑んだ。滴るような壮絶な色気に、思わず息を飲む。
この2年の間、こんな顔をする夏生なんて見たことがない。

「何故来たのか、ですか?さっきも言いましたけど、あのメッセージの意味を伺いに来たんですよ?」

「あれ……は、その……」

「まさか、別れるって意味じゃないですよね?」

ふわりと蕾が綻ぶような微笑みを浮かべているのに、俺の背筋には悪寒が這い上がり冷や汗が浮かぶ。

「別れられると………離れていけると、本気で思ったんですか?」

すぅっと笑みが消え、彫刻のような冷たい表情の夏生が俺を捉えた。直視できなくて、俺は顔を背けた。
そんな俺に夏生はゆっくりと耳元に唇を寄せた。

「おいたをする悪いコは……俺が飼ってあげる」

かしゃん…と小さな金属音が聞こえて、手首にヒンヤリとしたモノが触れた。小さく目を開き夏生が掴んでいた手に視線を向けると、そこには鈍い銀に輝く手錠が掛けてあった。
両手を繋ぐ鎖がチリチリと音を立てて揺れる。拘束された俺の腕の中に、夏生は頭を潜らせてきた。必然的に夏生の首に手を回す形になる。

近距離で目を覗き込んできた夏生は、冷たい唇で口付けてきた。軽く唇を嫐り囁く。

「いつもは遠慮してたけど、今日は快感に喘ぐ貴方がじっくり見たいです」

「何言って……。手錠、外して…、夏生」

何されるのか不安で、カタカタと震え出す。そんな俺を宥めるように、優しげな手付きてそっと頬を撫でた。

「だ、め。」

ゆるり、と指が動き出す。散々嬲られて敏感になっていた胸を掠める様に撫でられ、俺は思わず息を止めた。

「ッッッ!!」

ソフトタッチで敏感な所を刺激したあと、這うように指が身体の線を辿る。胸から腹、そして臍。それより少し下を繊細な指が撫でる
「ここまで、俺のが入るんですよ?知ってます?」

くすくすと俺の瞳を見つめたまま、その部位を撫で回す。

「俺が初めての男ですよね。なのに、貴方のココ前から男の味を知っているかの様に、俺のを上手にしゃぶるんですよ」

そっと押されると、まだナニも入っていないソコがキュンと疼いた。

「素質、あったんでしょうね」

かぁぁあっと顔が赤くなるのが分かる。止めてほしい。囁かないで。動揺する俺をそんなに見ないで……っ!
顔を背けようにも、夏生のもう片方の腕が俺の顔の横に置かれて身動きが取れない。
ウロウロと視線を彷徨わせていると、夏生は再び指を動かし始めた。

「あぁ、こんなに濡らしてしまって……。なんて悪いコなんでしょう」

先走りの液でしとどに濡れたソレを優しく掴む。ゆるゆると強弱をつけて扱かれ、俺は留めようもなく声を漏らすしかなかった。

「はぁ、あ、あ、あ……。や……、な、つき。ぁあっ!んんん……っぁ!ふ…ぁ……」

敢えて敏感な所を避けて、ただただ刺激を与えてくる。イきたいのにイケなくて………。

「可愛い……ゆらゆら腰が動いてますね。足りない?もっと刺激が欲しい?」

涙が浮かぶ俺の目尻に唇を寄せ囁く。俺はコクコクと頷いた。

「ねぇ、強請って下さい、俺に。刺激が欲しいと。俺にイカせて欲しいと……言って?」

「っはぁ……ぁ、あ、あ……なつ…き。イかせて……ぇ。お願い……なつき……ぃ…ぁあ」

ギュッと夏生の首を引き寄せて、耳元で強請る。快楽に歪む浅ましい顔を見られたくなかった。

「お強請りは上手ですよ。でも………」

俺の弱い部分を集中して擦ってくる。

「ひゃぁ…、ぁあ、ぁあ、あっ、あっ」

「顔を隠すのは、ダメ。快感に喘ぐ貴方が見たいと言ったでしょう?」

優しく諭す様に言うと、腕の輪から抜け出て手錠の鎖を掴んだ。頭上に縫い留める形にすると、ふわりと微笑んだ。

「コレでよく見えます。ほら……啼いてごらん?」

ぐちぐちと淫靡な刺激を与えられ、俺には大人しく従うしか成すすべはなかった。

「っふっぁ…ぁあっ、あっ、クる……っ!やぁ…イ…く…っ!あ、なつきぃ………っっ!!」

ビクンっ!!と身体が強張り、夏生が見つめるなか俺は白濁を撒き散らした。

「っ…あ……。ふ、ぅん……」

深い快楽の余韻に、息が乱れたまま。口の端からたらりと唾液が流れた、情けない様を夏生の目に晒していた。

「俺の手で、こんなに乱れるなんて。なんて最高なんでしょうね。こんなの手放せる訳がありません」

夏生の腹にまで飛び散った俺の欲を、彼は指で掬い俺に見せつけるように舌を出して舐め取った。

「―――っっ!!何……して……」

「貴方の乱れる様に、俺ももう限界です」

スラックスの前を寛げ、自分の昂りを取り出す。2~3回擦ると、あっという間に臍に付きそうな程そそり勃った。
器用に片手でローションの蓋を開けると、たらりと俺のと夏生のに垂らす。
太腿を伝い流れ落ちるソレを指で掬って、夏生は後孔に擦り付けた。クチュクチュと淫猥な音が響く。

「すっかりトロトロですね。これなら直ぐにでも入りそうですよ」

グイッと脚を広げ、夏生は自分の昂りを後孔に押し付けた。くちゅん……と濡れた音と共に先端が潜り込む。

「―――は…っ!」

何度経験してもこの瞬間は慣れない。言いようのない感覚に、唇が戦慄いた。ゆっくりと腰を進めていきながら、それでも夏生の視線は俺の顔から離れない。じっくりと表情の変化を堪能するように、弱い部分を緩やかに何度も刺激してきた。

「な、つき……や……ぁ。それ、い…や、だ。」

「何がですか?」

浅く抜き差しする。揺するような生温い刺激に、俺は悲鳴を上げた。

「お…く…っ!奥が…イ、イ……っ!お……ねがい……」

「――――っ!!いつの間に、そんなお強請りが上手になったんでしょうね……」

掠れる夏生の声に、彼も堪らなく興奮しているのが分かった。キュウキュウと腹の奥が刺激を求めて切なく疼く。
その誘うような動きに気付いて、夏生はうっそりと笑んだ。瞳の奥に見え隠れする狂気に一瞬息を止めるが、快楽に懐柔され支配された俺にはその狂気すら甘美な褒美に感じた。

「本当に悪いコですね。こんなにイヤラシく誘い込むなんて」

ずちゅん!と音を立てて、奥の奥に夏生が到達する。ゾクリと這い上がる刺激に、もはや嬌声を止める術はない。
夏生の激しい律動に、俺は声が掠れてしまうまで啼き続けた。もう獣の交わりと言っても過言ではない行為は夜明けまで続き、俺は快楽に支配されたまま意識を手放してしまった。




「それで?一体どういう訳ですか?」

激しい交わりで疲労困憊だった俺は、昼過ぎまで爆睡してしまっていた。
目を覚ますと、目の前に夏生の美貌があって俺は心底ビビってしまった。
寝起きにイケメンの顔を拝むのって、心臓の負担か半端ない………。バクバク煩いくらいに打つ心臓を押さえて、夏生を見上げた。

「え……と、何が?」

「昨日のメッセージですよ。何であんな別れ話みたいなヤツ送ってきたんですか?繊細な俺の心臓を潰す気ですか?」

いや、繊細な心臓の持ち主は、先ず夜中に人ん家に突撃しないし、寝ている家主を襲わないと思う。

「だってお前、来年結婚するんだろ?」

俺がそう言うと、夏生は明らかに動揺してみせた。

「は……?え、それ……何で知ったんですか?」

「週刊誌」

「何でそんなモノ……今まで興味示してなかったクセに」

「職場の後輩がお前のファンなんだって。雑誌抱えて号泣してたから」

「―――――あ~…………」

しまった……とばかりに歪む顔に、俺はため息をついた。

「まぁ、夏生も折角の良縁に恵まれたんだ。近辺整理も必要だろうし、仕方がない。ここはきちんと別れ………」

「違います!」

食い気味に否定が入る。違うって何が?
キョトンと夏生を見ると、彼は真っ赤になって俯いていた。
はぇぇえ……?珍しい………。何時も涼し気な顔してるのに……。
マジマジと見ていると、夏生は自分の掌で顔を覆った。

「確かに俺、近辺整理しました。でもそれは貴方と別れるためじゃない」

「え……?」

「貴方と結婚するために、俺の周りを整理したんです」

「…………………………………………。は?」

意味が分からず、カチンと固まる俺に夏生は顔を上げて苦笑いをした。

「貴方は俺の周りに興味がないでしょう?でも俺の周りに居た奴らは、俺に関する事全てを暴こうとします。俺と貴方の関係も、何もかも全て」

そっと頬に触れてくる。

「所謂パパラッチ系の奴らは、エグい手段を取ることもある。俺はそんな悪意のある奴らに貴方を曝したくない。だから近辺整理して、奴らが近付かないようにしたんです」

「…………一つ聞いていい?」

「はい?」

「お前、誰と結婚するって?」

「清白 涼真。貴方とです」

「俺と結婚の『け』の字も話してないのに、何でメディアに公表しちゃってんの?」

「外堀埋めてからプロポーズした方が、貴方の逃げ道を塞げるかと思って。テレビも雑誌も見ない貴方だから大丈夫だと思ったのに、誤算でした」

「誤算でした…じゃねーよ。順番メチャクチャ過ぎてあきれるわ」

胡乱な視線を向けると、夏生はキレイな顔で微笑んだ。

「でも、涼真は俺と結婚してくれますよね?」

「え?」

「yes以外の返事は聞きたくありません。もしnoと言うなら………」

「………………。noと言うなら…?」

「監禁します」

怖っ!!いきなりのヤンデレ化っ!!

「じ……冗談………」

「――――と思いますか?」

奴の表情が消えたのと同時に、周囲の温度が下がった気がした。

「俺は貴方がいれば、それでいい。逃がすつもりも、離すつもりもないんです。貴方に許された返事は『yes』のみですよ」

俺の手を取り指先に口付ける。

「涼真、貴方を愛しています。俺と結婚してください」

真摯な瞳に、俺は言葉をなくした。
結局のところ、ノンケの俺がコイツに口説かれて嫌悪感もなく付き合えちゃった段階で、ある程度予測できた結末だよな……。

「涼真、返事は?」

瞳に浮かぶ一筋の狂気。
俺は大きなため息をついた。

「『yes』だよ、馬鹿。付き合ってやるよ、この人生が終わるその時まで……」

俺の返事に夏生は嬉しそうに笑った。
ま、こんな結末もアリか。

苦笑いを漏らした俺に、ふぅちゃんがグリグリと頭を押し付けて、にゃーと鳴いた。
ピコンと、猫語翻訳アプリが反応する。


『いつもあなたの近くにいたい!』

そのメッセージに、俺は誰にともなく呟いた。

「俺もだよ…………」

    
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