お一人様希望なので、その番認定は困ります〜愛されるのが怖い僕と、番が欲しい宰相閣下の話~

飛鷹

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sideウィリテ

10話

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『また来る』と言っていたのに、あの日からピタリとイリアスの足が途絶えてしまった。

僕は樹に守られて、うつらうつらと微睡みの中を揺蕩っているから、あれからどのくらいの時間が経っているのかは分からない。

時々、精霊が遊びに来た時に、とろりとした眠気を身に纏いながら意識が浮上して、『ああ、イリアスは来てないな』って感じていた。

ーーーーは諦めたのかな?

じわりと寂しさが心に滲む。でも子を成して血を繋がなければならないお貴族さまだから、結婚は大事だよね。

ーーーーねぇ、守りの樹。イリアスが来ないなら、僕はもう目醒める必要はないと思うんだ。

サワサワと枝が揺れ葉が鳴る。

ーーーーこんな風に起きちゃうと、僕は寂しくなるんだ。そして、そんな自分が嫌でたまらなくなる……。だから……。

『もう目醒めたくない』と願おうとした、その時。





『やぁ……私の愛しい君………』

少し掠れた、でも耳に心地良く響くイリアスの声が聞こえてきた。

ーーーー…………っ!

『随分と時間が経ってしまった……。ウィリテが寂しがっていなければ良いが……』

その言葉に、僕が何かを思うより早く守りの樹が枝を揺らす。その様子に、イリアスかふと雰囲気を和らげた。

『ふふ……、精霊は相変わらず私が嫌いだけど、この樹は私の味方みたいだ』

ーーーー『みたい』じゃなくて、正真正銘『味方』だよね。

眠りにつきたいと願ったのに、イリアスが来るたびに覚醒させるんだからさ。

『今日はね、一つ我が儘を言いに来たんだ』

そう言った彼が何かをゴソゴソ引っ張り出す気配がした。

何だろう?と首をかしげていると、守りの樹が全身を震わせて動揺したのが分かった。

『母の古い友人にね、情報を集めるのがとても上手い人がいるんだ。その人に、人を眠らせる樹の事を調べて貰った』

シュルっと布が擦れる音のあと、守りの樹が喜びの声なき声を上げた。

『寵愛する者に安らぎと癒やしを与える、通称「眠りの樹」。森の民の守り樹で、神木なんだってね』

僕はイリアスの眼の前で眠りを願ったから……。
調べたら直ぐに分かるだろうなと思っていたから、そんなに衝撃を受けずに済む。

『知ってた?この樹、雌雄異株だってこと』

ーーーー勿論、知ってる。だって……。

『君たち一族は、大切な誓いを立てる時に相手に雌株の枝を捧げるんだってね?』

ーーーー………。

『誓いを受け入れるなら森に枝を挿し木して、拒否するなら枝を燃やす』

ーーーーそう、燃やすんだ。燃え残りの炭は、毒草の毒抜きに使われる。そうやって、『貴方の気持ちは受け取れないけど、想いはムダじゃない』って表現する。

『ねぇウィリテ。君がどう思っていても、私はやっぱり君が愛おしい。だから、私が君への想いを告げる事を許して欲しい』

サクッと一歩近付く足音。そしてーーーー。

『私、イリアス・ダンカンは、ウィリテを生涯守り愛する事を眠りの樹に誓い………』

トス、と膝を着く気配。

『ただ一匹の獣として、君の愛をこいねがう。ウィリテ、私の愛しい君。君の愛の一欠片でもいい、この獣に与えてくれはしないだろうか……』

ひゅっと、幕が切って落とされたように、僕の周りが明るくなる。
視線を向けると、そこは真っ黒な壁じゃなくて硝子のように透けて向こう側の景色が見えるようになっていた。

そしてそこには、ボロボロになった旅装束を身に着け、まるで忠誠を誓う騎士のように片膝を着き、深く頭を垂れているイリアスの姿があったのだ。
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