解雇されたけど実は優秀だったという、よくあるお話。

シグマ

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#2-1 新しい仲間[バンピー]

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 長年のあいだ苦楽を共にした冒険者パーティー[ゴバスト]の、サポーター職から解雇されたのだが、くよくよしている訳にはいかない。自分で戦ってお金を稼ぐことが出来ない以上、このままでは生活費を稼ぐこともままならないのだ。
 しかし土地を持たない自分は畑を耕すことも出来ないし、手に職を持たない自分が物を作って商売を始める事も想像出来ない。サポーターになった当初は戸惑いしか無かったが、その職を失った今、自分には冒険者のサポーターという職が天職だと気付かされる。

 同じ街に留まり[ゴバスト]の元仲間達に出会うのは気まずいこともあり、新たな街に拠点を移し、新たな仲間を探すことにした。


──訪れた冒険者ギルドの受付嬢に話し掛ける。

「すみません、サポーターを募集しているパーティーを探しているのですが」

 そう伝えながらギルドカードを提出する。

「こちらのギルドを利用するのは初めてでしょうか?」
「はい、今日からこの街を拠点に活動しようと移ってきたばかりです」
「そうなのですね。困ったことがなかったれば相談に乗りますのでいつでも頼って下さい」
「はい、よろしくお願いします!」
「それではギルドカードを拝見させて頂きます…………Eランクですね。規定によりあまり上のランクのパーティーを紹介出来ませんが構いませんか?」

 ギルドが冒険者同士を引き合わせる場合、規定によりミスマッチを避ける為にランク差は一つまでという物があるのだ。

「はい、もちろんです。下のランクでも構いませんので、ベテラン冒険者のパーティーは避けてください」

 上を目指しているパーティーでは、また直ぐに解雇されてしまう可能性がある。かと言って夢を追うことを諦めた冒険者パーティーほど虚しいものは無いので、出来れば駆け出しの冒険者パーティーが良い。
 いずれは解雇される宿命だとしても、悲しい思いはなるべくしたくは無いのでランクが低いパーティーを支えるというのはむしろ本望だ。

「分かりました。これからマルコさんのこれまでの経歴を問い合わせた上で紹介させて頂きますので、後日こちらに来ていただけますか?」
「はい」
「それでは連絡先ですが、宿泊先はお決まりですか?」
「はい、『幽玄亭』という宿です」
「わかりました。準備が出来ましたらそちらに連絡を入れさせて頂きますね」

 こうして新しい仲間を見つける為にギルドでの手続きは終えたのだか、紹介出来るパーティーを探すのに時間が掛かるようなので、今日は新たな拠点のなるこの街を散策して時間を潰すことにした。



──マルコが街を散策している間、ギルドでは受付嬢による確認作業が行われている。

「さて、先ほどのサポーターさんの経歴はっと…………これは…………ふむふむ、なるほどそういうことですか」

 ギルドの資料ではこれまで携わった冒険者パーティーがAランクのパーティーである[ゴバスト]のみであるが、サポーターとしての能力はギルドとして極めて高い評価となっている。それなのに何故フリーとなったのかと調べると、戦いに関する能力値がすこぶる低い。
 ギルドとしてマルコの冒険者としての評価はまさしくEランクで、ぎりぎり冒険者として認定出来る程度なのだ。
 しかしサポーターとして優秀であることは間違い無いようで、手入れの行き届いた装備もそうだが、この街で一番評価の高い宿を探し当てていることでも分かる。『幽玄亭』は大通りではない裏路地を通らないとたどり着けないので、偶然に見つけられる宿ではないのだ。

 優秀なサポーターはなかなかフリーにならないので、規定は曲げることになるが引き合わせたいパーティーがある。なので受付嬢はギルド長の部屋に向かう。

「どうかしたのかねレイン君?」
「ギルド長、お疲れ様です。実は…………」
「ほう、そんな人物がこのギルドにやって来たのか。それで何故そんなに悩ましい表情をしているのかね?」
「私は彼を例のパーティーに紹介したいと思うのですが、どう思いますか?」
「ああ、例のパーティーか…………だがそんなに上手くいくかね?」
「経験が足りないだけで実力はあるパーティーですから、マルコさんはぴったりだと思います。でもランク差があるのでギルド長の許可が必要なのですが」
「分かった、君がそこまで推すのなら特別に許可しよう。どうなるかは様子を見てみよう」
「そうですね」

 ギルド長の許可を得て、受付嬢はさっそく両者に連絡を入れることにした。



──マルコは想定以上に早くギルドから呼び出され面を食らった。

 滞在先をギルドに伝えていたのだが、街を探索して戻るやいなやギルドからの呼び出しを伝えられたのだ。

「早かったというより、ちょっと早すぎませんか?」

 流石に一日は掛かると思っていたのに、半日と掛からなかったのだ。

「ちょうどサポーターを探しているパーティーがいて、ギルド長の許可も得たので直ぐに紹介したかったのですよ」
「ギルド長の許可ですか……」

 低ランクどうしがパーティーを組むのにギルド長の許可が必要な理由が分からない。

「マルコさんに紹介するパーティーですが、今こちらに向かっているそうなのですが……あっ来ましたよ! 彼らがそうです!」

 受付嬢が指差した方向にいたのはボロボロに傷付いた冒険者達だった。しかもギルドに帰って来てなお、先ほどまで戦っていた内容について言い合いをしている。
 ギルドの入口に入って直ぐの所なので、衆目を集めているのにも関わらず気に止める様子すらない。

「だから、さっきのはお前がな……」
「いやいや、邪魔をしたのは貴方でしょ!?」
「ちょっと、そろそろ止めなよ、どっちもどっちでしょ!」
「「はぁ!?」」
「まぁまぁ、いい加減その辺にしなよ」
「さっきまで一番文句を言ってたお前がそれを言うなよ!」

 ギャーギャー、ワーワーと仲が良いのはいいが、このままでは話し掛けられないので受付嬢に止めてもらおう。

「受付嬢さん、そろそろ」
「……ああ、私ですか。そう言えば名乗って無かったですね。私のことはレインとお呼び下さいマルコさん」
「はあ……それでレインさん、彼らを紹介してもらえませんか?」
「そうですね」

 レインは今なお言い合いを続けている彼らを呼びに行ってくれ、そしてお互いを紹介してくれる。

「はい、こちらが皆さんのパーティーに所属してくださるサポーターのマルコさんです」
「マルコです、宜しくお願いします」
「はい、そしてこちらが冒険者パーティー[バンピー]の皆さんです」
「「「「宜しく、お願いします」」」」

 息を揃えて挨拶してくれるのは良いが、まだ彼らがどういうパーティーなのかが分からない。装備から初心者パーティーでは無さそうなことは分かるのだが。

「えっと、貴方達はなぜサポーターを探しているのですか?」
「それは……」

 彼らが言い難い様なので、レインが代わりに説明をしてくれる。

「えっとですねマルコさん彼らはCランクの冒険者パーティーなのですが、見ての通りちぐはぐで、今までに何人ものサポーターについて貰ったのですが皆辞めていったのです」

 なるほどCランクの冒険者パーティーでランク差があるからギルド長の承認が必要だったのか……いやそうではなく、なぜそんなパーティーに自分を紹介したんだろうか?

「はあ……しかしなぜギルド長の承認を得てまで、自分がこのパーティーをサポートした方が良いと思ったのですか?」
「彼らの実力は疑いが無いと思っているのですが、ずっとCランクで燻っていて……ですが彼らは活かすだけの経験が無いだけなのです。なのでマルコさんの経験を彼らに叩き込んで欲しいのです!」

 経験以前の問題だと思うのだが、それは分かった上でのことなのだろう。

「分かりました……ですが彼らに自分のことも伝えた上で、それでも僕が必要と言うのであれば彼らのサポートに付きましょう」
「本当ですか! 良かった。断られたらどうしようかと思っていたんですよ」
「ええ!? だから彼らにも伝えた上で……」
「大丈夫ですよ、彼らに選択肢は無いのですから」

 話を聞くに、既に何人ものサポーターがこのパーティーに加わったものの、誰しもが長続きしなかったそうだ。まぁこれだけ連携が取れなさそうなのだから、サポーターを危険に晒しでもしたのだろう。

「ですが後で知って追い出されるより、先に知っておいて欲しいのです」
「そうですか……分かりました。それでは説明しましょう」

 自分で説明する方が良いのかも知れないが、それは自分で自分を貶すようで気が引ける。まだ[ゴバスト]を解雇されたばかりで、自らそれを説明する気にはなれない。

「……ということでマルコさんは、ここにいるのです」

 レインは簡潔に自分がここにやって来た経緯を話してくれた。多少、過大評価されている気もしたが概ね間違っていないだろう。

「そういうことです。僕は戦力にならないサポーターです。いずれ皆さんの足手まといになるかも知れません。それでも貴方達のパーティーに加えてくれますか?」

 ここが駄目なら駄目で構わない。Cランクではなく、もっと下のランクであれば自分も戦力になれるので就職先は困らないだろうし。

「Eランク……」
「そうです。それもこれ以上は上を目指せようもなさそうなね」

 そこら辺にいるEランクのサポーターよりは、遥かに良い仕事が出来るという自信はあるが、戦闘に関してはどうしようもない。未来を考えるのであれば、自分を選ばない選択をすることは何も間違っていないのだ。

「少しだけ皆で話をしても良いですか?」
「もちろんです。納得いくまで話し合って下さい」

 全員が納得せずに加えられて、後から軋轢が生まれるのは御免だ。いずれそうなる運命だとしても、なるべくはパーティーを解雇される経験なんてしたくない。

 しばらく話し合った[バンピー]の皆は答えを導きだしたようで、再びこちらに歩を進めてくる。

「マルコさん、僕たちは決めました」
「お、おう。それで?」
「「「「これから宜しくお願いします!」」」」
「え……本当に良いのか?」
「勿論です。俺達に足りないものをマルコさんが持っているのですから、お互い助け合えると思うのです。それに俺達からマルコさんを解雇したりしませんよ!」

 話を聞くに彼らは同じ村の孤児院出身で、何があっても誰も欠けること無くお金持ちになって孤児院に恩返しをすると誓いあっているそうだ。そこに加わってくれる仲間を自ら追い出す真似はしたくないらしい。それでも逆に、多くのサポーターに見捨てられはしているみたいだが。

「分かった。そういうことなら宜しくな。これから一緒に頑張ろう!」
「こちらこそ宜しくです」

──こうして[バンピー]の皆と握手をし、正式にパーティーに迎え入れて貰えたのであった。
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