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#2-2 新しい仲間[ゴバスト]
しおりを挟む──マルコが去り、新たに元Bランクのサポーターが[ゴバスト]に加わった。
サポーターの名前はフォールと言う。
かつて魔王討伐に挑んだSランク冒険者パーティーの一員で、その実力は折り紙付きだ。今は隠居状態でEランクと言えども、マルコとは天と地ほどの差がある。
「フォールさん、これから宜しくお願いしますね」
「ああ、宜しくな」
フォールの年齢は三十代半ばであるが、[ゴバスト]のメンバーは二十代前半であるので、幾ら立場の低いサポーターと言えども低姿勢になる。
「フォールさん、今日はこれから依頼を受けに行くのですが、何かアドバイスはありますか?」
「ん? サポーターがどの依頼を受けるのかに口出しをする訳がないだろう。常識だぞ?」
「え!? ああ、そうかいつもマルコが言ってきていたが、それがおかしかったんだな」
マルコの仕事は多岐に渡る。その中の一つは、その日に出回った依頼の中で自分達が何を受けるべきか精査することなのだが、これは本来はサポーターが行う仕事ではない。むしろサポーターがどの依頼を受けるのかに関して口を挟むことは許されないというのが常識だ。
長年の信頼があっても進言することは控えるサポーターがほとんどである。
一方のマルコはというと、そういった常識を何も知らずにサポーターを始めている。最初は冒険者になろうと考えてギルドにやって来たのだが、能力の低さからサポーターになることを進められて始めたのだ。なので自分に出来ることを全てやる、というスタンスで行動した結果がこれまでのマルコのサポーターとしての仕事内容である。
──その内容は一流と呼ばれる冒険者が行うレベルより遥かに手厚いものだったのだ。
それに慣れていたフォクスは困惑するも、切り替える。
「そうですか……まぁそうですよね。ではこの依頼なんかはどうですか?」
フォクスは適当に依頼を選びフォールにそれを見せる。
──────────
[エレメンタルウルフ討伐] ランクB
魔の森に住まうウルフの中に、色々な属性を持つウルフの個体数が増えてきた。
エレメンタルウルフの群れとして脅威になる前に倒してくれ。
※討伐数に合わせて報酬を支払います。
──────────
「だから俺は口を出さないと……まぁ君たちのランクはAなのだろ? それならば問題ないだろう」
「分かりました! それではこれにします」
フォクスはほとんどの依頼をマルコと一緒に決めていたので、一人で決めてしまうことは不安だったのだが、フォールの言葉で安堵する。
こうして新しい冒険者パーティー[ゴバスト]として初めての依頼を受けた。
──魔の森にてウルフ狩りは順調に進む。
エレメンタルウルフは一度、姿を見せたものの直ぐに逃げ出したので、まずはワイルドウルフを狩っていく。
「流石ですねフォールさん!」
「ハハハ、まだ腕が鈍っていますからね。最も勘を取り戻さないといけませんがね」
フォールはマルコとは違い、守りながら戦う必要が無いことはもとより、戦力としても計算出来るほどの実力があるのだ。
エレメンタルウルフはファイヤーウルフ、フェザーウルフ、アイスウルフ、サンダーウルフなど様々な属性を持つウルフがいるのだが、ここにいるのはフェザーウルフとサンダーウルフであった。
手強い相手ではあるが群れになる前であり、相応の実力があれば個々撃破はそう難しくないはずだ。
しかしこの様な依頼に不確定要素は付き物である。だからこそマルコだったらこの依頼は受注しようとしない。万が一にもその不確定要素があれば、この依頼は報酬の割にリスクが高すぎるのだ。
──しかしそれは現実の物となる。
『アウォーーーン』
順調に狩りが進んでいる中で、突如としてウルフの遠吠えが鳴り響く。
「な、なんだ!?」
「ちょっと、何よこれ!?」
「おいおいフォクス、これはやべぇよ」
遠吠えが止んだと思ったらいつの間にか、周囲はフェザーウルフとサンダーウルフに率いられたワイルドウルフの群れに囲まれている。
「くそ……皆、バラバラになるなよ! 俺達ならこれぐらい乗り切れる!!」
「「「お、おう!」」」
「あれ? フォールさんはどこに?」
フォールはフォクスの横にいたはずなのだが、いつの間に近くにある大きな岩の上に避難していた。
「フォールさん!?」
「ああ、これはサポーター職の俺には手に余る。お前達だけで何とか切り抜けてくれ」
「そんな!」
「俺はサポーターだぞ? あくまでも補助することが仕事だ。自分の身を守ることが最優先なのは当たり前だろ?」
サポーターはあくまでも依頼を補助する役割なので、危なくなったら避難することは当然なのである。
「そうでしたね……分かりました。それではそこで見ていて下さい!」
マルコであれば自分で自分の身を守れないということもあるが、側から離れることは無かったし、その中でポーションの供給などもしてくれていた。しかしそれを普通のサポーターに無理強いすることは出来ない。契約以外の仕事を強要したならば、それこそギルドから厳罰が下される可能性もある。
この窮地は自分達で乗り切らなければいけないのだ。
──フォクス達は必死に戦った。
それはかつてないほどの窮地に追い込まれたほどだ。そしてボロボロに傷付きながらも何とか切り抜けることに成功した。
「ハァ、ハァ、終わった……のか?」
「ハァ、ハァ、そのようね」
全てのウルフを倒せなかったが、多くのワイルドウルフを倒した所で、エレメンタルウルフを始め、残りのウルフは立ち去って行ったのだ。
倒されたワイルドウルフからフォールが素材を回収していく。しかし回収するのは魔石のみで、牙や爪、毛皮などは回収しない。
「フォールさん、なぜ魔石しか回収しないのですか?」
「は? 普通は価値の高い素材で無いなら、依頼された素材と魔石しか集めないだろ? まぁ、お前達が剥ぎ取りを行うのなら、運ぶことはするがな」
倒された魔物から素材を剥ぎ取る行為はかなりの重労働である。ランクの高い冒険者であれば、次々と魔物を倒して魔石を回収する方が効率が良い。だからこそ依頼の品で無いのなら、アンデット属に成らないよう燃やして破棄するのが一般的なのだ。
次々と魔物を倒すことが出来ないランクの低い冒険者であれば、お金の為に剥ぎ取りを行うがそれは一般的では無いのである。マルコにとっては、自分で倒せる訳では無いので貴重な物であり、持って帰るとギルドからは喜ばれ、さらにお金になるので剥ぎ取ることが当然だったのだが、それは少数派なのだ。
フォクス達は試しに自分達で剥ぎ取ろうとするも全く上手くいかないばかりか、フォールの言う通りかなりの重労働だったので直ぐに諦めた。
──街に戻った一向は、ギルドに報告をする。
「そうですか……ですがエレメンタルウルフを倒せなかったのであれば失敗ですね」
「そんな!」
確かにエレメンタルウルフは倒せなかったが、それは不測の事態があったからなので、フォクス達は納得がいかない。
「依頼がエレメンタルウルフの討伐な以上はワイルドウルフを討伐しただけでは……その代わりと言っては何ですが、ワイルドウルフの素材は高値で買い取りしますよ!」
ギルドの受付嬢は、いつも多くの素材を納める彼らのためと思って発言してのだが、今は逆効果である。彼らは売れる素材をほとんど持っていないのだ。
無い物は無いので、フォクスはフォールから受け取った魔石のみをカウンターの上に置く。
「えっと……これだけですか?」
「はい……これだけです」
「そうですか…………いえ分かりました。では直ぐに精算しますので少々お待ち下さい」
「はい」
毛皮などであれば素材の状態を確認しないといけないが、通常の魔物が持っている魔石だけであれば大きさを確認するだけで終わるので早いものだ。エレメンタルウルフの魔石であれば属性の確認などをするが、ワイルドウルフの魔石であればそれすら必要ない。
「お待たせしました。査定結果ですが、[魔石-小]が二十八個ですので、普通は一つ銀貨一枚で買い取って金貨二枚と銀貨八枚になります。ですが今回は色を付けて金貨三枚でいかがでしょうか?」
「それだけ…………いえそれで大丈夫です──有難うございました」
久しぶりに依頼を失敗したので、これだけ一日の稼ぎが少ないことは久し振りなのでフォクスは面を食らった。
金貨三枚だけではパーティーメンバー全員が満足する額には程遠い。五人で報酬を分けたなら、本当に微々たる収入になってしまうのだ。しかし無いものは分けられないので、金貨三枚を分けてそれぞれに銀貨六枚を渡す。
「ちょっと、これだけなの!?」
「ああ、依頼を失敗したんだから仕方ないだろ」
「そう……まぁいいわ。ではフォールさん、装備のメンテナンスはお願いするわよ」
「は? 一体何を言ってるんだ君は? 自分の装備は自分で管理するものだろ?」
装備のメンテナンスを鍛冶師に依頼するとかなり良い額の費用が掛かる。旅先ではメンテナンスを担ってくれる鍛冶師がいないこともあるので、それならばとマルコは武器のメンテナンスする技術を身に付けたのだが、サポーターは普通に出来る物ではない。
「あっそ……まぁいいわ。フォクス! 次の依頼は必ず成功出来るものにしなさいよ! こんな割に合わない依頼はもうこりごりよ!」
「ああ、分かった」
仲間達が怒りながら散り散りになっていくが、フォクスも同じ様に当然赤字なので泣きっ面に蜂である。
「すみませんフォールさん。次は最も良い結果を残して見せます」
「ハハハ、まぁ初めからそんなに上手く行くものではないですよ。それより今日は親睦を深めるためにも飲みに行きませんかな?」
「おっ、いいですねそれ! 是非とも色々とお話を聞かせてください!!」
お金を稼げないのであれば倹約をすべきなのだろうが、これまでの蓄えがあることで油断する。それに急には生活レベルを変えることは出来ないものだ。
──こうして冒険者パーティー[ゴバスト]は少し綻び始めるのであった。
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