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#3-1 変化[バンピー]
しおりを挟む冒険者パーティー[バンピー]に所属してから初めての依頼を受けたのだが、まずは[バンピー]の実力をみたいということもあり全てを任せ見守ることにした。元より戦いには加われないので、側で見守るしかないのだが、今回は見極めることこそが自分の役目だ。
冒険者パーティー[バンピー]は十代後半のメンバーで構成された四人組のパーティーである。
インジェ、ローザ、リタ、リューリクの四人は同じ孤児院出身で仲が良いのだが、仲が良くても連携はまるで取れていないので無駄が多い。
リーダーであるインジェはバランスを取ろうと頑張ってはいるが、実力を伴わない剣士が遅れて戦いに入っていくのでかえって邪魔をしている。
ローザは近接戦闘が得意な魔導師のようだが、味方との距離感が悪いので時折、味方を巻き込む攻撃を繰り出してはドタバタと慌ててしまう。
リタは弓使いであるが、弓の質が悪いのか威力が足らない。それなのに魔物に直接攻撃を与えようとするばかりなので、効果的な働きが出来ていないばかりか、射線に被った味方を撃たないようにするのに必死な様子だ。
リューリクは大きな盾を持った盾使いなのだが、体格に合わない盾のせいで動きが鈍り、むしろ邪魔となっている。
彼らは戦いを終えて意気揚々と引き返してくる。いつもよりランクの低い依頼を受けたと言っていたので、これでも普段と比べると余裕のある戦いだったのかもしれない。
「マルコさん、どうでしたか? 俺達も結構やるもんでしょ?」
「それは本気でそう思ってる? これで良いと思っているなら、僕がアドバイスすることは出来ないよ」
自覚が無いのなら口を出しても受け入れられるどころか、反発されるかもしれない。言う意味が無いのなら、わざわざ語る必要は無いのだ。
「うーん、いつもよりは良かったと思うんだけどな……」
「そんな訳無いでしょ! インジェはなんでいつも邪魔してくるのよ!!」
「それを言ったらローザも味方に攻撃するなよ!」
「まぁ、まぁ二人とも落ち着いて」
「そうだよ、まずはマルコさんの話を聞こうよ」
一通り話が終わってこちらの向き、意見を聞く体勢が整ったようなので、先ほど感じたことを詳しく伝える。
「……というのが、さっきの戦いを見た感想だ。戦えない自分が言うのもおかしな話なんだけどね」
話を聞き入っていて反応が無く、彼らがどう思ったのか分からないので不安になるが、話を終えると掛け寄って来て、喜ばれる。
「凄い、凄いよマルコさん! こんなに的確なアドバイスを貰えたのは初めてだよ!」
「そうね、ちゃんと指摘されて初めて腑に落ちたわ」
「状況に合わせて戦い方を変えるなんて考えたことなかった」
「自分に合う武器を探すべきか……てっきり自分の実力が上がれば扱えると思ってた」
どうやらそれぞれがしっかりとアドバイスを受け入れて貰えたみたいだ。
「分かってくれたみたいだね。でも今すぐに変わることは難しくないから、一度は街に戻って今後どうすべきかしっかりと話し合おう」
「「「「はい!」」」」
──街に戻り、ギルドに併設された酒場で話し合いを行う。
「今後、どうすべきかもそうなんだが、まずは皆の武器のメンテナンスを任せてくれないか?」
「え? それは流石に自分でやりますよ。わざわざマルコさんに鍛冶師へ持っていって貰うわけにもいかないですし」
「いやそうではなくて、僕が調整するから預けてくれないかということだよ」
「ええ!? マルコさん、武器のメンテナンスも行えるのですか?」
「まぁ、一応ね。嫌なら別にそれはそれで構わないけど、直すべき所を伝えるから鍛冶師に依頼してくれよ」
「いえ、マルコさんに任せます! お前らも構わないよな?」
インジェに促され、ローザ、リタ、リューリクの三人も頷きながら武器を取り出す。
「本当にいいのか? 武器は冒険者の命を守る重要な相棒なんだから、嫌ならちゃんと言ってくれよ?」
「嫌だなんてとんでもない──むしろ恥ずかしい話、全員が武器のメンテナンスまで頭が回っていませんでした。なのでマルコさんが、気に掛けてくれたことに感激しているぐらいです」
「そうか……まぁあくまでも自分が出来るのは調整までだから。壊れたりしたら、ちゃんと鍛冶師に持っていくんだぞ」
「「「「はい!」」」」
返事は良いが、今までろくに鍛冶師にメンテナンスを頼んだ形跡がないので、自分で持っていかなければいけないかもしれないな。
「じゃあ、メンテナンスは後でやっておくとして……」
「あのう、マルコさん」
「なんだ?」
「メンテナンスする様子を見せて貰うことは出来ませんか?」
確かに、出会って間もない人間に武器を預けるのだから、何をするのか確かめておきたいというのが普通だろう。
「そうだよな。いきなり預けるのは怖いもんな」
「いえ、そうではありません。単にメンテナンスはどのようなことをしているのか興味があるのです!」
インジェからの発案だが、残りの三人も頷き、同じ意見のようだ。
「分かったよ。別に見ていて楽しいものではないから、飽きたら言ってくれよ」
何を言っても無駄なくらい目を輝かせて見てくるので恥ずかしいが、別に難しいメンテナンスをするつもりはない。さすがにギルドにの中で本格的なメンテナンスを行うと迷惑だろう。
まずはインジェの剣から始めるのだが、研ぎ直すことをせず、持ち手を直すことにする。
インジェの戦いを見ていると、剣を滑り落としそうな場面が何度かあった。それならばと、滑り止めとして布で作った紐を巻いていく。
「インジェ、ちょっと握ってみてくれるか?」
「は、はい!」
インジェは剣を手に取ると、軽く振るう。
「どうだインジェ?」
「凄いですね。こんな簡単な事なのに凄い手に馴染みます」
「それは良かった。もっと太くするか細くするかは、使った感想を聞いてからにするけどいいよな?」
「はい!」
次にローザだが、彼女の魔道具をメンテナンスする技能は持ち合わせていない。しかし身に付けていた防具に無駄な金属が取り付けられているので、手持ちの革を組み合わせて改造する。
金属は確かに防御力が高いが、使いどころによっては革の方が強度を保てる。要は適材適所なのだ。
「どうだローザ?」
「軽いわね……これで身を守れるの?」
「当然! むしろ物によっては革のほうが強度があるんだよ。現にSランク冒険者のほとんどは革製品を愛用してるしね」
「へぇーそうなんだ……」
「気に入らなかったら元に戻すけど?」
「いえ、これで──いやこれがいいです」
ローザはよほど気に入ってくれたのか、防具を抱き締めている。まだ手入れが残っているのだが……まぁ後回しで良いだろう。
次にメンテナンスするのはリタの弓だ。しかし手に持って改めて分かったが、これはメンテナンス以前の問題である。
「うーん、やっぱりこれは弓自体を変えた方がいいね」
「なぜですか?」
「そうだね……しなり方が悪いと言ったら伝わるかな?」
「しなり方ですか……」
「そうしなり方。まったく引けないぐらいの物は駄目だけど、リタはまだまだ余裕があるでしょ?」
リタの弓は自分が軽く引っ張っても、いとも簡単にしなる。非力な自分でもこれだけしなるのだから、威力はそんなに出るはずがない。
「確かに、そうかも知れません。でも前に今使ってる弓より高い弓を使ってみたことがあるんですけど、固くて扱い難くて皆に迷惑をかけちゃったから……」
「確かに、中途半端な市販の弓は品質がばらつくからね。だからこそ自分に合ったものを選ばないといけないし、調整もしないといけないんだよ」
「そうなんだ……売っているものならどれも同じだと思っていました」
「今度、一緒に選んであげるから自分にあった弓に変えるべきだね」
「本当ですか! それはよろしくお願いします!」
若い女の子にここまで喜ばれると嬉しいものだが、今は浮かれている場合ではない。
次にリューリクの盾と片手剣だが、何と言っても問題は盾だろう。戦いを見ている限り、大きい盾を扱い切れてはなかった。
「リューリクは何でこの盾を使ってるんだ?」
「この盾は孤児院出身のSランク冒険者が残した物だから。自分も同じようになりたいなと思って」
Sランクの冒険者が使っていた物をいきなり操れるようになる訳がないのだが、そんな考えは持っていないのだろう。
「これはリューリクも買い直した方が良いかもな。まずは他の盾で強くなってから、この盾を使えば良いよ」
「分かった。確かに今の自分は実力不足だ」
一通り簡単なメンテナンスは終わったのだが、まだ何かを期待してこちらを見てくるので終わりを告げる。
「とりあえずこれで終わりだけど、まだやることはあるから預かるけど問題ないよな?」
「「「「はい」」」」
「それは良かった。なら本題に入ろうか」
ここにやって来たのは武器のメンテナンスではなく、今後の話し合いをするためだ。
「所で今まではどうやって受ける依頼を決めていたんだ?」
「多数決です」
「はい?」
「えっとですね、自分達がそれぞれどの依頼を受けたいか決めてから多数決で決めていました」
「…………ちなみに皆が依頼を選ぶ基準は何なの?」
「ランク」「報酬」「簡単そうなの」「勘」
最後の一人は論外だとしても、要は依頼内容から自分達に適した物を選んでいるわけでは無いみたいだ。
「はあ……本当に悪いことは言わないから、その日に受ける依頼選びを自分に任せてみてくれないか?」
「それは構わないのですが、依頼を選ぶ基準を教えてくれませんか?」
「いいよ、それぐらい。簡単なことだけどね──」
ということで自分の依頼の選び方を説明した。
貼り出された依頼を確認してからパーティーの実力に適した依頼を身繕い、その上で依頼者に確認を取れるなら依頼者から、それが無理ならギルドから詳細を聞く。それでも懸念が残る依頼は直ぐには受けず、他の冒険者や商人から噂を調査するのだ。
初めは商人から話を聞くのは苦労したが、情報通の彼らの話は信憑性が高い。魔物の素材を取引するなかで勝ち得た信頼で、今では商人の知り合いも多く、普通は知り得ない情報も教えてくれたりするので非常に助かっている。
「な? 商人から聞くことは特殊かも知れないけど、調べてるだけだから簡単なものだろ?」
「いやいやいや、調べるだけって──そんな大変なことをタダで行って貰うなんて申し訳ないですよ!」
「そうか? でも自分の身を守るのに無理な依頼を受けられたら困るのは自分だからな。自分のためだから気にしないでくれ」
「そうですか……分かりました。マルコさんがそれで良いなら」
気にする必要は無いと伝えたのに、まだ引っ掛かっているみたいなので、一つ提案をすることにする。
「それなら依頼中に依頼とは関係無い素材を自分で回収したら、それは自分の物にしていいか? それだけでかなりの利益になるし、君たちも別に困らないだろ?」
彼らは同伴した初めての依頼の中で、倒した魔物の素材を焼き捨てていたのだ。いらないのであれば自分で回収しても問題ないだろう。
「そんなことなら、勿論構いませんよ! 必要なら手も貸しますし」
「いやそれはいいよ。自分でやった方が早いし綺麗に出来るからな」
「そ、そうですか」
下手くそな剥ぎ取りでは素材の価値は半減する。それに慣れていない人が行うと無駄な体力を使うので、魔物との戦いに影響が出ては本末転倒だ。
「まぁ大体の方向性は決まったし、後は君たちの頑張り次第だよ。僕は戦力にならないから、手助けは出来ないからね」
「そんなこと言わないで下さい、マルコさんのその知識は十分に戦力ですよ。本当に自分達でなんかにはもったいないぐらいです」
「ハハハ、そう言ってくれると有難いね。それならSランクにたどり着くまで見捨てないでくれよ」
「勿論です! いえ絶対、マルコさんと一緒にSランクにたどり着いて見せます!!」
──こうして冒険者パーティー[バンピー]は新たな船出を迎えたのであった。
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