解雇されたけど実は優秀だったという、よくあるお話。

シグマ

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#4 結末

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──マルコが冒険者パーティー[ゴバスト]を去り、[バンピー]に加入してから三年の月日が経った。

 新しい街にも慣れ、今では名実共にとバンピーの一員になることが出来たと思う。
 バンピーの仲間達は順調に成長し、インジェ、ローザ、リタ、リューリクの四人はAランクになったので、晴れてAランクパーティーとなったが、僕はゴバストの時のように解雇されることは無かった。彼らは彼らの出来ることを、僕は僕が出来ることを果たすことでパーティーは上手く回るのだ。
 お互いが信頼しあい、お互いに足らない面を補い合うことが出来る今の関係は素晴らしいと思う。

「マルコさん、いよいよSランク昇格試験ですね!」
「ああそうだな……君たちに出会ってから長かったようであっという間だった気がするな」
「そうですね。こうしてここまでこれたのはマルコさんのお陰です。本当にありがとうございます!」

 インジェの言葉に合わせてローザ、リタ、リューリクも感謝の言葉を述べてくれ、えもいわれぬ感情が込み上がってくる。本当にここまで来るのに色々と苦労があったのだ。
 しかし先日、オークジェネラルによって壊滅の危機に晒された町を救ったことで、Sランク昇給試験へ推薦されるに至り、全てが報われようとしている。

 Sランクは冒険者にとって最高位のランクであり、他の冒険者にとって模範となるべき存在だ。その為にSランクへ昇格する為には討伐成果だけではなれず、Aランクとなった冒険者が、拠点としている冒険者ギルドから推薦を受けた上で、王都にあるギルド本部にて試験を受けないといけない。その為に王都のギルド本部まで足を運び、今は受付を済ませ待機している所だ。

──そして遂に試験の時を迎える。

「バンピーの皆様、大変長らくお待たせしました。総ギルド長がお待ちです。案内しますので一緒に付いてきてください」

 いきなり総ギルド長が出てくるだと!? てっきり試験官と戦って実力を示す必要があると思っていたのだが、どうやら違うようだ。

「失礼します。ユリス様、バンピーの皆様をお連れしました」
「おお、君たちが噂のバンピーかね。インジェ君に、ローザ君、それにリタ君と、リューリク君か。君たちの活躍は私の耳までしっかりと届いておるよ」

 バンピーのメンバーを全員知っているのは凄いと思うが、サポート職の自分だけ覚えられていないと思うと悲しくなっていると、インジェがすかさずフォローしてくれる。

「お褒めの言葉、有難うございます。ですが、私たちは彼、マルコさんをふくめてバンピーです。彼の助けが無ければ我々がここまでたどり着くことは無かったでしょう」
「ほう……Aランクの冒険者にそこまで言わせるか。だが君は格好を見るにサポーターだな?」

 いきなり見定められるような眼差しを向けられるも、いつもの事なので冷静に返答する。

「そうでございます、ユリス様。インジェはあの様なことを言ってくれますが、私はあくまでもサポートしたまでで、彼らは努力と才能でAランクになれたのです。インジェは些か過大評価が過ぎるのですよ」
「そんなことはないよマルコ! 君がいなければ未だにCランクで燻っていただろうさ」
「そんなことないさ。君たちには戦う才能があって、僕は少しだけ道筋を示しただけだよ」
「君はまた自分を卑下する……その少しが冒険者にとってどれほど大切なのか教えてくれたのは君だろ?」
「だがな……」

 自分達の成果の押し付け合いを見ていた総ギルド長ユリスは笑いだす。

「ハッハッハ! 君たちは本当に良い仲間なのだな。そしてマルコ殿よ、先程は失礼した。サポート職の待遇改善はギルドとしても課題の一つなのだが、私もまだまだ認識を改めなければいけないようだ」
「そう言っていただけると、他のサポーターも喜びます」

 解雇されることが当たり前の現状のままでは、良いサポーターはなかなか増えない。サポーターが単なる下働きであるという認識が改善されるならこれほど良いことはないだろう。

「ユリス様、それで私たちはどのような試験を受けるのでしょうか?」
「そうか、君たちはSランクに成りたいのだったな。だが今さら実力を試さなくとも、これまでの功績が証明しておる。後はSランクとしての立ち居振舞いを確認するだけだったのだが、それも問題無かろう」
「それでは?」
「うむ、皆、今日からSランクパーティーを名乗るが良い」
「本当ですか!?」
「ああ、本当だ」

 まさか総ギルド長ユリスの一声でSランク昇格が決まるとは思っても見なかったので、皆が驚く。しかし、自分の扱いはどうなるのだろうか?
 通常、冒険者パーティーのランクはサポーターに依存しない。たとえFランクのサポーターが居たとしても、冒険者パーティーの評価は変わらないのだ。なのでバンピーの皆がSランクに昇格し、自分だけ変わらなくても問題はないのだが、せっかくなので聞いておきたい。

「ユリス様、一つお尋ねしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「構わん、申してみよ」
「私はバンピーの皆に助けられて、ようやく冒険者としてCランクに昇格になれたに過ぎませんが、自分は昇格できたりしないのでしょうか?」
「冒険者としてのランクと評価は元より厳格に下されておる。他の彼らは既にSランクに相応しい評価があるから、私が昇格を認めるだけで良いが、君は別だ」

 確かに冒険者としてはギリギリ及第点の自分が、あっさりとSランクに昇格することはかなりの問題だろう。

「それもそうですよね」
「だが、サポーターとしての能力を評価するとしたら話は変わってくるやもしれん」
「それはどういうことでしょうか?」
「先程も述べたが、私はサポート職の待遇改善を考えている。だからこそ、冒険者としての評価の一つに、君たちサポーターとしての能力評価を加えてみてはと検討しているのだ」

 つまり戦闘能力が低くとも、サポーターとしての技能でランクを上げることが出来るかも知れないということだろう。

「それは是非ともお願いします」
「そこで物は相談なのだが、君がその評価対象の第一弾となってくれまいか?」
「勿論ですとも! 自分で良ければ、喜んで協力します!!」
「有り難う。それでは、後程に試験を行うから宜しく頼む」
「はい!」



──晴れて冒険者パーティー[バンピー]はSランクに昇格したのだが、新たに設けられる審査基準を受ける為に、マルコは後日に再び、一人で総ギルド本部を訪れた。

 試験官は既存のSランクパーティーのサポーターやギルドの職員で、いずれもその道のプロである。そして試験は実技、筆記、面接と様々な事が行われ、サポーターとしての能力を確かめられていく。
 そしてその結果は想像を遥かに越えるものであり、頭を抱えた試験官は総ギルド長ユリスに進言する。

「ユリス様、彼は私たちたちの手に負えません」
「どういうことだ?」
「彼は……優秀すぎるのです。我々では彼の実力を推し測ることが出来ません」

 知識は元より、魔物から素材の剥ぎ取り、武具の取り扱いなど実務に渡り最高の評価が与えられたのだ。しかしそれも試験官が知る方法よりも良い方法を行うから、仕方なく満点という決められた点数を付けたに過ぎない。試験官を越える能力を推し測る試験ではないのだ。

「つまり、ここにいる誰よりもサポーターとして優秀な能力を持っているということか?」
「はい……彼を基準にサポート職の評価基準を決めては他の人が可哀想です」
「そんなに凄いのか……」
「ええ、彼が基準だと我々でもA評価を得ることは難しいでしょう」
「そうか……しかしそれでは彼の評価は決まりだな」
「はい、彼の能力は十分に評価するに値します」
「分かった。後は彼の素性に問題が無いかだけ確認しておいてくれ」

 指示を受けて試験官達は、総ギルド長の部屋を後にする。


──後日、評価が定まったことでマルコは再び呼び出された。

「さて、評価を伝える前に聞いておきたいことがある」
「はい、何でしょうか?」
「君が以前に所属していた冒険者パーティーから解雇された理由だ」
「解雇された理由ですか?」
「そうだ。失礼だが君のことを色々と調べさせて貰ったが、一向に悪い面が見えてこない。それなのになぜ解雇されるに至ったのかが分からないのだ」

 解雇されたことは思い出したくない出来事だが、自分を見つめ直す切っ掛けにもなった出来事だ。戦う才能が無いと諦めていた戦闘も、インジェ達の後押しで随分とマシになったと思うが。

「理由ですか……そうですね、ユリス様がサポーターに求めている物はなんでしょうか?」
「私がか? そうだな……冒険者が依頼を達成する為に、適切なフォローが出来ることかな」
「その適切なフォローとは具体的に何になりますでしょうか?」
「例えばアイテムの輸送や戦闘の補助などか? だがそれが一体どうしたというのだ?」
「はい、その戦闘の補助が問題だったのです。かつて所属していた冒険者パーティーのゴバストはランクが上がったことで私に戦闘能力を求めるようになりました。しかし私は戦いに関してはからきし駄目で、Aランクパーティーには相応しくないと解雇されました」

 サポーターには良くある話なのだが、総ギルド長ユリスは怒りを露にする。

「そんな馬鹿な真似を……君の能力はAランクパーティーにも勿体無いぐらいだぞ!」
「お言葉ですがユリス様、それがサポート職の現状なのです。幾らサポーターとしての能力があっても冒険者としての能力が低い以上、真の仲間と認められないのです」
「それは分かっている! 分かっているが君ほどの才能の持ち主を見抜けぬとは何とも情けないのだ」

 総ギルド長ユリスにそこまで言ってもらえるとは思っても見なかった。しかしそうまで言ってくれるということは。

「これまでの査定では、それも仕方がないでしょう。ですから今回の新たな査定は本当に嬉しいのですよ」
「そうだったな。もう言わなくても分かると思うが君も仲間と同じSランクを名乗るが良い」
「本当ですか!?」

 昇格してもらえると思っていたが、まさかCランクからSランクに一気に上がるとは思っていなかった。

「ああ本当だ。冒険者パーティーのバンピーがこれまでに残した功績において、君が果たした功績も大きかったという判断でもある。それに君ほどのサポーターが正当に評価されなければ、他のサポーターを評価出来なくなってしまうのでな。なんだ嬉しくないのか?」
「いえ……なんと言って良いか。正直、今は戸惑っています」

 これまで悔しい思いをたくさんしてきたのだ。こうもあっさりと報われても実感が湧かない。

「そうか……だが君には報告したい人たちがいるのではないのかね? 早く伝えてあげると良い」
「そうか……いえ、そうですね。有り難うございます!」

 総ギルド長ユリスに言われ、今の自分には喜びを共有したい仲間がいることを思いだし、急ぎ仲間が待つ場所に向かうと皆が声を揃えて迎えてくれる。

『マルコさん!!』

 笑顔で帰って来た自分を見たバンピーの皆は結果を悟り、駆け寄ってきて幸せに包まれる。
 お互いを信頼しあえる関係である喜びを感じ、これからも彼らをサポーターとして支えていこうと心に誓うのであった。


──晴れて全員がSランクになった冒険者パーティー[バンピー]が、歴史に名前を残す偉業を果たすのもそう遠くない未来なのかもしれない。
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