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後日談
中編
しおりを挟む──マルコがSランク冒険者になり半年が経過した頃。マルコはバンピーの一員として、かつて拠点にしていた街へと戻ってきていた。
この街に戻ってくることはもう無いと思っていたが、総ギルド長から直々に頼まれたとあっては断ることが出来なかったのだ。
何でもこの街は今、優秀なサポーターを育成しようとしているらしいのだが、その為の指導者が不足しており、是が非でも自分を派遣して欲しいという要望がこの街のギルドからあったらしい。
単に町長や、一ギルド長からの要望であれば総ギルド長が断ることが出来たのだろうが、ギルドに多額の支援をしている商会が噛んでいるとあらば無下に扱うことが出来ない。なのでバンピーに依頼が回ってきたのだ。
こうしてゴバストを解雇されて以来はじめて懐かしのギルドに帰って来て、その扉を開ける。
「お待ちしておりましたぞマルコ殿!」
ギルドの扉を開けるやいなや、到着を待ちきれずに待機していたギルド長が出迎えてくれた。顔は知っていたものの、話したことが無かったので面を食らう。
思わぬ展開にバンピーの皆と顔を見合わせるも、指名された以上自分が挨拶するしか無いだろう。
「ど、どうも……えっと、はじめましてですよね?」
「いえいえ、マルコ殿のことは何度もこのギルドでお見掛けしておりますから、むしろ旧知の仲ではないですかな!」
「は、はぁ……」
無駄にギルド長のテンションが高く、どうしたものかと思っていると、当時と同じ受付嬢が話しかけてくる。
「ハインツさん、落ち着いて下さい。そしてマルコさん、お久しぶりです。この度はSランクへの昇進、おめでとうございます!」
「お久しぶりです、メルラさん!」
ギルドの受付嬢はいわゆる綺麗所が務める仕事だ。血気盛んな男冒険者に落ち着いて話を聞かせる為に必要不可欠な存在であるのだが、それゆえに入れ替わりも早い。
女性に年齢の話をするものではないが、メルラが変わらず綺麗と言っても、まだ現役で受付嬢をやっているとは思わなかったので驚いた。
立ち話も何だということでギルド長の部屋に案内された後は、色々な話を聞かされた。褒め言葉はさておき、自分が去ってからのこの街のことやこれから何をするのかについてだ。しかし聞きたいようで聞きたくないことをギルド長は口に出さないので、こちらから尋ねることにする。
「僕がこれからやるべき仕事は分かりました。ですがその前に一つ教えて下さい──ゴバストの皆は今、何をしているのですか?」
順調にSランクへたどり着いたのであれば嫌でも耳に入ってくるはずなのだが、この街を出てからというものゴバストの噂が聞こえてくることは無かった。だからこそ上手くいっていないことは想像できるが、実際問題どうなのか気になるのだ。
「彼らですか…………マルコ殿はそれを聞いてどうするのですかな?」
「どうもしないですよ。ただ何も情報が入ってこなかったので少しだけ気になるのです」
「…………そうですか。分かりました、それではお教えしましょう」
そう言ってギルド長が話してくれた内容は、想像以上に酷いものだった。
自分が抜けてからゴバストが凋落していくのに大して時間は掛からなかったそうだ。そして今ではかつての姿は消え失せ、借金生活から抜け出せずにいるらしい。
あくまでも話を聞いた感想だが、自分の後釜に座ったフォールという男は、確かにサポーターにしては戦えるし間違いなく優秀な部類に入るだろう。しかし優秀なSランクの冒険者に囲まれていた時ならいざ知らず、自分としてはいささか非協力的だったのでは無いかと思う。お金が無いなら無いなりに出来ることがあったはずだ。
「そんな……でも彼らは腕は立つ冒険者だったのですから、きちんと仕事をしていればそんなことにはならないはずでは?」
「達成率が下がった彼らに、以前と同じ報酬の依頼を回すことは出来ません。サポーターも失った彼らに出来ることは限られているのですよ」
「ですが……」
どうにかフォクス達を擁護しようと考えるも、言葉に詰まる。
助ける為に一番確実なのは自分がサポーターとして手を貸すことなのだろうが、それでは元の木阿弥になる可能性もある。それに今はバンピーという、かけがえのない仲間が出来た。その彼らを放ってゴバストに戻ることは出来ない。
だがゴバストの皆とは、長いあいだ苦楽を共にし、悪い思い出もあれば当然良い思い出もある。なので出来ることであれば彼らを救う手助けをしたい。
「マルコさん、他に無ければ話を戻しましょう。どうやって優秀なサポーターを育成していくかですが……」
ギルド長が話を変えて話し出した所で良い案を思い付き、話を断ち切る。
「ハインツさん、その事にも関わるのですが、お願いがあります」
「なんでしょうかな?」
「サポーター職を育成する為には、それを率いる冒険者も当然必要になってきますよね? その冒険者をゴバストの皆に担わせてあげてはくれませんか?」
「…………それはなぜですかな?」
ギルド長は眉を潜め質問をしてくる。
ギルド長にとって優秀なサポーターの育成はこの街の再興する上で大事な物だ。その仕事に落ちぶれた冒険者を使うのは気が引けるのだろう。
「サポーターの育成には時間が掛かるので、色々な街を移動する普通の冒険者に、常時手伝って貰うには限度があるでしょう? ですが彼らはCランクに落ちてしまったのかも知れませんがその腕は確かな上、この街を離れられないので専任させることが出来ます」
冒険者の、それもランクが高い人になると、より上を目指す為に高難易度の依頼を受ける。そうなると街を数日、長ければ一月近く離れることも珍しくは無い。
一方でゴバストは借金がある以上、行動が制限されているので、この街を離れることは無いのだ。
「理屈は分からないこともないですが、借金を抱えている冒険者を起用することは難しいでしょう」
「問題は借金だけですか? それなら僕がそのお金を肩代わりしましょう」
「何故そこまでするのですか? マルコさんは彼らに解雇された身なので、むしろ恨んでいてもおかしくないでしょうに」
「……確かに悪い思い出もありますが、それ以上に感謝もしているんです。ゴバストは僕の原点ですから」
「……そうですか。それならば私は止めはしません。貴殿方が去った後には、彼らに仕事を回してみましょう」
「はい、宜しくお願いします」
それからも話は続き、これから何をするべきか、じっくりと話し合った。
そして一週間に渡って、サポーターに教えることになるギルド職員に技術指導をしていく。バンピーの皆で魔物を倒し、実際に実演しながらの指導なのだが、元より技能を持った人を商会経由で雇っていたらしく、技術の習得は早かった。ただ自分の技術は多岐に渡るので、技術を習得する担当を複数に分けた上でだが。
一週間という期間があればゴバストの皆に遭遇する可能性は高いのだが、ギルド長が手を回してくれて会わずに済んだ。
自分がここにいることが知られ、さらに借金の返済を行ったことを知られれば、素直にギルドからの仕事を引き受けてくれるか分からない。なので形式上は借金の肩代わりをギルドが行うことにし、その代わりにゴバストが仕事をするという呈をとることにしたのだ。
こうしてマルコは、ゴバストの皆が再起し頑張ってくれることを願いながら、再び街から去っていくのであった。
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