解雇されたけど実は優秀だったという、よくあるお話。

シグマ

文字の大きさ
8 / 9
後日談

中編

しおりを挟む

──マルコがSランク冒険者になり半年が経過した頃。マルコはバンピーの一員として、かつて拠点にしていた街へと戻ってきていた。

 この街に戻ってくることはもう無いと思っていたが、総ギルド長ユリスから直々に頼まれたとあっては断ることが出来なかったのだ。
 何でもこの街は今、優秀なサポーターを育成しようとしているらしいのだが、その為の指導者が不足しており、是が非でも自分を派遣して欲しいという要望がこの街のギルドからあったらしい。
 単に町長や、一ギルド長からの要望であれば総ギルド長ユリスが断ることが出来たのだろうが、ギルドに多額の支援をしている商会が噛んでいるとあらば無下に扱うことが出来ない。なのでバンピーに依頼が回ってきたのだ。

 こうしてゴバストを解雇されて以来はじめて懐かしのギルドに帰って来て、その扉を開ける。

「お待ちしておりましたぞマルコ殿!」

 ギルドの扉を開けるやいなや、到着を待ちきれずに待機していたギルド長が出迎えてくれた。顔は知っていたものの、話したことが無かったので面を食らう。
 思わぬ展開にバンピーの皆と顔を見合わせるも、指名された以上自分が挨拶するしか無いだろう。

「ど、どうも……えっと、はじめましてですよね?」
「いえいえ、マルコ殿のことは何度もこのギルドでお見掛けしておりますから、むしろ旧知の仲ではないですかな!」
「は、はぁ……」

 無駄にギルド長のテンションが高く、どうしたものかと思っていると、当時と同じ受付嬢が話しかけてくる。

「ハインツさん、落ち着いて下さい。そしてマルコさん、お久しぶりです。この度はSランクへの昇進、おめでとうございます!」
「お久しぶりです、メルラさん!」

 ギルドの受付嬢はいわゆる綺麗所が務める仕事だ。血気盛んな男冒険者に落ち着いて話を聞かせる為に必要不可欠な存在であるのだが、それゆえに入れ替わりも早い。
 女性に年齢の話をするものではないが、メルラが変わらず綺麗と言っても、まだ現役で受付嬢をやっているとは思わなかったので驚いた。

 立ち話も何だということでギルド長ハインツの部屋に案内された後は、色々な話を聞かされた。褒め言葉はさておき、自分が去ってからのこの街のことやこれから何をするのかについてだ。しかし聞きたいようで聞きたくないことをギルド長ハインツは口に出さないので、こちらから尋ねることにする。

「僕がこれからやるべき仕事は分かりました。ですがその前に一つ教えて下さい──ゴバストの皆は今、何をしているのですか?」

 順調にSランクへたどり着いたのであれば嫌でも耳に入ってくるはずなのだが、この街を出てからというものゴバストの噂が聞こえてくることは無かった。だからこそ上手くいっていないことは想像できるが、実際問題どうなのか気になるのだ。

「彼らですか…………マルコ殿はそれを聞いてどうするのですかな?」
「どうもしないですよ。ただ何も情報が入ってこなかったので少しだけ気になるのです」
「…………そうですか。分かりました、それではお教えしましょう」

 そう言ってギルド長ハインツが話してくれた内容は、想像以上に酷いものだった。
 自分が抜けてからゴバストが凋落していくのに大して時間は掛からなかったそうだ。そして今ではかつての姿は消え失せ、借金生活から抜け出せずにいるらしい。
 あくまでも話を聞いた感想だが、自分の後釜に座ったフォールという男は、確かにサポーターにしては戦えるし間違いなく優秀な部類に入るだろう。しかし優秀なSランクの冒険者に囲まれていた時ならいざ知らず、自分としてはいささか非協力的だったのでは無いかと思う。お金が無いなら無いなりに出来ることがあったはずだ。

「そんな……でも彼らは腕は立つ冒険者だったのですから、きちんと仕事をしていればそんなことにはならないはずでは?」
「達成率が下がった彼らに、以前と同じ報酬の依頼を回すことは出来ません。サポーターも失った彼らに出来ることは限られているのですよ」
「ですが……」

 どうにかフォクス達を擁護しようと考えるも、言葉に詰まる。
 助ける為に一番確実なのは自分がサポーターとして手を貸すことなのだろうが、それでは元の木阿弥になる可能性もある。それに今はバンピーという、かけがえのない仲間が出来た。その彼らを放ってゴバストに戻ることは出来ない。
 だがゴバストの皆とは、長いあいだ苦楽を共にし、悪い思い出もあれば当然良い思い出もある。なので出来ることであれば彼らを救う手助けをしたい。

「マルコさん、他に無ければ話を戻しましょう。どうやって優秀なサポーターを育成していくかですが……」

 ギルド長ハインツが話を変えて話し出した所で良い案を思い付き、話を断ち切る。

「ハインツさん、その事にも関わるのですが、お願いがあります」
「なんでしょうかな?」
「サポーター職を育成する為には、それを率いる冒険者も当然必要になってきますよね? その冒険者をゴバストの皆に担わせてあげてはくれませんか?」
「…………それはなぜですかな?」

 ギルド長ハインツは眉を潜め質問をしてくる。
 ギルド長ハインツにとって優秀なサポーターの育成はこの街の再興する上で大事な物だ。その仕事に落ちぶれた冒険者を使うのは気が引けるのだろう。

「サポーターの育成には時間が掛かるので、色々な街を移動する普通の冒険者に、常時手伝って貰うには限度があるでしょう? ですが彼らはCランクに落ちてしまったのかも知れませんがその腕は確かな上、この街を離れられないので専任させることが出来ます」

 冒険者の、それもランクが高い人になると、より上を目指す為に高難易度の依頼を受ける。そうなると街を数日、長ければ一月近く離れることも珍しくは無い。
 一方でゴバストは借金がある以上、行動が制限されているので、この街を離れることは無いのだ。

「理屈は分からないこともないですが、借金を抱えている冒険者を起用することは難しいでしょう」
「問題は借金だけですか? それなら僕がそのお金を肩代わりしましょう」
「何故そこまでするのですか? マルコさんは彼らに解雇された身なので、むしろ恨んでいてもおかしくないでしょうに」
「……確かに悪い思い出もありますが、それ以上に感謝もしているんです。ゴバストは僕の原点ですから」
「……そうですか。それならば私は止めはしません。貴殿方が去った後には、彼らに仕事を回してみましょう」
「はい、宜しくお願いします」

 それからも話は続き、これから何をするべきか、じっくりと話し合った。

 そして一週間に渡って、サポーターに教えることになるギルド職員に技術指導をしていく。バンピーの皆で魔物を倒し、実際に実演しながらの指導なのだが、元より技能を持った人を商会経由で雇っていたらしく、技術の習得は早かった。ただ自分の技術は多岐に渡るので、技術を習得する担当を複数に分けた上でだが。

 一週間という期間があればゴバストの皆に遭遇する可能性は高いのだが、ギルド長ハインツが手を回してくれて会わずに済んだ。
 自分がここにいることが知られ、さらに借金の返済を行ったことを知られれば、素直にギルドからの仕事を引き受けてくれるか分からない。なので形式上は借金の肩代わりをギルドが行うことにし、その代わりにゴバストが仕事をするという呈をとることにしたのだ。


 こうしてマルコは、ゴバストの皆が再起し頑張ってくれることを願いながら、再び街から去っていくのであった。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

魔法使いクラウディア

緑谷めい
ファンタジー
「お前みたいなブスが、この俺の婚約者だと? 俺はこの国の王太子だぞ!」   綺麗な顔をした金髪碧眼の、いかにも生意気そうな少年は、クラウディアの顔を見るなり、そうほざいた。  初対面の婚約者――それも公爵家令嬢であるクラウディアに対して、よくもそんな失礼な事が言えたものだ。  言っておくが、クラウディアは自分の美しさに絶対の自信を持っている。  ※ 全8話完結予定 ※ ボーイズラブのタグは保険です。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

金喰い虫ですって!? 婚約破棄&追放された用済み聖女は、実は妖精の愛し子でした ~田舎に帰って妖精さんたちと幸せに暮らします~

アトハ
ファンタジー
「貴様はもう用済みだ。『聖女』などという迷信に踊らされて大損だった。どこへでも行くが良い」  突然の宣告で、国外追放。国のため、必死で毎日祈りを捧げたのに、その仕打ちはあんまりでではありませんか!  魔法技術が進んだ今、妖精への祈りという不確かな力を行使する聖女は国にとっての『金喰い虫』とのことですが。 「これから大災厄が来るのにね~」 「ばかな国だね~。自ら聖女様を手放そうなんて~」  妖精の声が聞こえる私は、知っています。  この国には、間もなく前代未聞の災厄が訪れるということを。  もう国のことなんて知りません。  追放したのはそっちです!  故郷に戻ってゆっくりさせてもらいますからね! ※ 他の小説サイト様にも投稿しています

1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました

竹桜
ファンタジー
 誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。  その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。  男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。   自らの憧れを叶える為に。

魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。

imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。 今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。 あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。 「—っ⁉︎」 私の体は、眩い光に包まれた。 次に目覚めた時、そこは、 「どこ…、ここ……。」 何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。

ありふれた聖女のざまぁ

雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。 異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが… 「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」 「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」 ※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。

処理中です...