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後日談
後編
しおりを挟むマルコが街から去った後、ギルド長は直ぐにフォクス率いる冒険者パーティー[ゴバスト]を呼び寄せた。
「お前たちに仕事を頼みたい」
「はい…………って、え?」
一冒険者がギルド長に呼び出されることは普通のことでは無い。だからこそフォクス達は身構えていたのだが、まさか仕事をくれるとは思ってもみなかったので驚きの表情を隠せないでいる。だがそんなことは気にもとめずにギルド長は説明を続ける。
「仕事の内容は、サポーターの護衛と魔物を狩ることだ。契約は一年毎に更新だが、嫌なら引き受けなくても良いぞ」
ギルド長はマルコと約束をしているのでゴバストに仕事を依頼するが、断られた場合は別の話だ。あくまでも彼らの意識を尊重した上で、合意に至らなければ話は無かったことにして良いことになっている。
「や、やります! やらせてください!!」
降って湧いたような話であり一度だけ皆で顔を見合わせるも、ギルドから直接くる依頼は割が良い依頼ばかりなので即答する。長期間ということは引っ掛かるが、ゴバストのメンバーにとって断る理由が無いのだ。
「そうか……そうであれば君たちと雇用関係になる。仕事に専念して貰うためにも、君たちの借金は我々が引き受け、債権を買い取った」
「えっ、えっ!?」
「喜ぶのは構わないが、君たちが問題を起こせば即刻ギルドからの追放もあり得る。気を引き締めて仕事に取り組んでくれたまえ」
「は、はい!」
債権の買い取りに掛かった金額は想像よりも遥かに高い金額だった。Aランクという信頼があったからこそ借りれたのだろうが、普通の仕事をしていたら人生を何度も繰り返さなければ返済出来ない額だ。
それを個人で支払えるSランク冒険者の凄さもそうだが、そこまでの額を借金していたことを知ってギルドの誰しもが驚いたぐらいである。
そして実際に債権を買い取ったのはマルコであるが、その権利はギルドに移譲されているので、ギルドがお金を請求することが出来る。ただしそのお金は、サポーターの育成の為に使う契約になっているが。
「そうと決まれば、まずは身なりを整えて来なさい。今のままではとてもじゃないが頼り無さすぎる。それと君たちには学んでもらわなくてはいけないことが山積みだから、まずは君たちに色々と学んで貰わなくてはいけない。明日から始めるが問題無いな?」
「分かりました」
ギルド長の部屋をあとにしたフォクス達は、未だに現実感の無い話を飲み込めずにいる。いきなりギルド長に呼ばれたと思ったら、割の良い仕事を与えられ、更にギルドの為に働く限り借金からも解放されるのだ。
「嬉しいんだけど、こんなことってあるのか? 騙されてるんじゃないだろうな……」
「本当に一体、何があったのかしら……」
「ギルドが俺たちの実力を認めているからじゃないか?」
「たぶん違う。それならとっくに動きがあるはず。きっと何か切っ掛けがあったんだと思う」
ギルドの酒場で口々に話し合うが、やはり理由が分からないでいると、一人の女性が近づいてくる。
「少し話をしたいのだけれどもいいかな?」
「メルラさん! はい、問題ないです。一体何でしょうか?」
話し掛けてきたのはギルドの受付嬢であるメルラだった。歴の長い受付嬢は多くの冒険者からも一目を置かれている存在であり、変わらぬ美貌からファンも多い。そんな彼女が仕事以外で話し掛けてくることなど滅多にないので、フォクスは身構える。
「ギルド長から話を聞いて、貴女たちは仕事を引き受けたのですか?」
「確かに仕事を引き受けましたが、なぜそれを……まさか、自分たちに仕事を推薦してくれたのはメルラさんなのですか?」
受付嬢は頭を振るい否定する。
「それは違います。ですが誰が推薦したのかは知っていますし、その方を貴殿方は良く知っているはずです」
フォクスたちは顔を見合わせるが、やはり誰なのかが思い付かない。しかし間違いなく恩人に値する人なので、出来ることならば会ってお礼を言いたいので、皆で頭を下げて教えてもらえるように頼み込む。
「メルラさん、教えて下さい、その人が一体誰なのか」
受付嬢は少し考えるような表情を見せるも、口を開く。
「分かりました。本当は口止めをされているのですが、私は貴殿方が知るべきだと思うのです。今となってはその方に簡単に会える立場にありませんが、貴殿方はここで再起しその方に会ってお礼を言うと誓えますか?」
偉い立場にある人の知り合いに心当たりが無いフォクス達は困惑する。しかし受付嬢の発言を読み解くとAランクに返り咲くことが出来ると思っているということ他ならない。
そしてマルコが去って以降は日に日に人から期待されることが無くなっており、久し振りの感覚に嬉しくなる。
「はい、もちろんです──あれ、おかしいな。何で涙が……」
人々に冷たくされ、閉ざされ荒んだ心が洗われるような感覚によって涙が溢れだしたのだろう。
「分かりました。今の涙に嘘は無さそうですし、お教えしましょう。彼の名前は──」
それからゴバストの皆は、ギルド長に従い必死に学び、そして働いた。そして幾度と契約を更新し、借金を返済するに至る。そしてその頃にはサポーターの育成も順調に進み、ここで学んだサポーターは一種のブランドとなった。
ギルド長に縛られることが無くなってからは、再び冒険者として活動を始める。ブランクはあったものの、指導する中で出会ったサポーターと共に上を目指し、順調にランクの昇格条件を満たしていく。
そして遂に王都のギルド本部に召集されるに至った。
「長かったな……だけど、これでようやく約束を果たせるな」
「そうね。彼には本当に悪いことをしてしまったし謝っても許されないかもしれないけど……」
「俺たちは借りた恩は返さないといけないんだ。彼が手を差しのべてくれなければ、今も借金に苦しんでいただろう」
「そうね。彼は恩人。必要ないかもだけど、手助けしたい」
そうして意気込み、総ギルド長にお目通りする。
「遂にやってきたか……待ちくたびれぞ」
「ユリス様は我々のことをご存知なのですか?」
「勿論だとも。こちらは魔王討伐に向けて戦力を補強させたいのに、君たちを待つと聞かないものだから困ったものだよ。だが君たちは本当にここに来るに値するだけの結果を残してきた」
「そうだったのですか。ですが私たちもその人物に恩返しをする為にここまで来ました」
「そうか……だが君たちは一度過ちを犯している。だから簡単にSランクに昇格することを認めるわけにはいかない。だからこそ、君たちには彼らに付いて実力を示してほしい」
「はい、それぐらいは当然だと思います。それだけ色々な人に迷惑を掛けましたから」
「うむ。なら隣の部屋で待っているから、早く会ってくるが良い」
フォクスたちは総ギルド長に言われ、隣の部屋に入っていく。そしてずっと再会したいと思っていたマルコを見つけ駆け寄る。
そしてずっと言いたかったことを皆で口に出す。
「ごめんなさい!!」
こうして謝罪を笑顔で受け入れてくれたマルコに、ありったけの感謝を伝え仲直りを果たした。
──強い絆に結ばれた彼らが、魔王討伐に討って出る日はそう遠くない話なのかも知れない。
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よくあるお話と思っていましたが
後日談まで楽しく読ませていただきました。
心がほっこりしました。こういうお話、読みたかったのです。
努力が報われて、過ちさえ、頑張れば、笑い合える…そんなすてきなお話をありがとうございます😊
追放した側はとことん地に堕ちて悲惨な最期を迎える作品が多いけど、この作品はしっかり反省してその後改善してる処が良いですね
宝箱要員の盗賊や忍者や鑑定要員のビショップ抜きでウィズを攻略なんて無理ゲーだからな