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3話
しおりを挟む俺が風呂場で8年ぶりに意味のある言葉を発してから、ハイセンは俺の体に触れなくなった。代わりにメイドたちが俺の世話をして、ハイセンはそれを見守っているだけだ。
メイドが世話を終えて退室すると、彼はベッドに寝かされた俺のそばに跪いてこう言う。
「坊っちゃん、もし、もう正気を取り戻されているのなら、おっしゃってください。私はあなたの体を弄んだ罰として死を選びます」
ハイセンがガン決まった目でそんなことを言うもんだから、俺は自分が正気であることをやっぱり言い出せなかった。
俺が無気力な声で「あー」と言うと、彼はほっとしたような、絶望したような顔をするのだった。
俺の日常にちょっとだけ変化があってから3日後、その時はやってきた。
「坊っちゃん……」
俺のちんが上を向いて、ハイセンに快楽を与えてもらおうと待っている。
ハイセンは困った顔でこちらを見ている。俺は早くあの快楽が欲しくて早くも腰が浮いている。
それだけではない。まだ触られてもないのに、もう先走りが溢れて、尻の穴はじくじくと熱を孕んでいる。
ーーああ、こっちの世界に取り込まれちゃった。
でも仕方ない。あんな快楽を脳髄に叩き込まれたら、もう後には戻れない。
「ああー」
俺がだらしない声をあげて、舌をつきだすと、ハイセンは一歩俺に近づいた。彼の目がうるみ、俺の誘いにひかれているのがわかる。
しかし、彼は腕を組んだままで、俺に触れようとしない。彼の目が俺の枕元に滑る。そこにはメイドを呼ぶ鈴が置かれている。
――いやだ!
それはひどくずるいことのように思えた。俺の体をこんなんにしておいて、俺が求めたら逃げるのか。
ひどい。それはあんまりだ。
ここまで考えて、ようやく思い至る。
――俺、求めたことなかった。
ここにきてようやく、俺はハイセンの心を理解した。俺はずっと黙ったままだから、やさしい彼は揺れているのだ。
俺は口を開いた。
自分の意思で、理性が残ったままで言葉を発するのは8年ぶりだ。
「ちょうだい……」
言葉は波になってあふれた。
「ハイセンの太いのちょうだいっ…! 俺に、ちょうだい……!」
ハイセンは、それこそ狂ったように俺の尻に腰を叩きつけた。
「ああ! あっあっ! あ、あぁあ!!」
俺も狂ったようによがった。
俺の体は素直にハイセンに拓かれて、もうどうにもならないほどとろとろだ。
「ハイセンっ!」
「坊ちゃん、あなた、いったいいつから……」
言いながら、乳首を摘ままれて俺の腰が跳ねる。
「あああ! 乳首! だめ!」
「坊ちゃんが、私を感じてくれている……ああ、なんというしあわせ……」
言いながら、彼は俺の乳首を捻り上げていく。俺は甲高い声をあげて、白いものを吐きだした。
「ーーっ!! あ、あああーっ!!」
「こんなに、ああ、こんな感じて……もっと、もっと感じてください」
「まって、まってぇ……!」
「坊ちゃん、坊ちゃん、坊ちゃん!!」
ベッドが壊れるのではないかと思うほどに揺さぶられる。ぎしぎしという音が耳を叩いて、彼の興奮が俺に感染する。
「ハイセン、お、俺、俺もうっ……」
「ええ、ええ! いっしょに、いっしょに果てましょうね」
「あ、あああ!」
「あああ!!!」
「ああーっ!!!!」
*
ことが済んだあと、ハイセンは俺のベッドから飛びのいて、床に平伏した。
「ハイセン……」
俺は気だるい体を起こして彼の背中を見た。逞しくて、大きい背中だ。ずっと守ってきてもらった。
彼は矢継ぎ早に言った。
「はい。なんなりと罰をお与えください。首を切りましょうか? それとも腹を?」
「いいってば!」
俺は制す。そして、8年の間、伝えたかった言葉をようやく言えた。
「か、感謝してるんだ……ありがとう」
ハイセンははじかれたように顔を上げた。
「許してくださりますか」
「もちろんだよ……いまさら、俺を見捨てるの?」
「…坊っちゃんがお望みとあらば、地獄まででもお供します」
俺たちは噛み付くようなキスを交わした。
*
それからの日々はあっという間だった。
俺が狂った演技を続けている8年の間に、王子と主人公は無事に即位して国王と王妃になったらしいけど、うまくいかずにわずか3ヶ月で離婚したらしい。
悪役令息を主人公とした物語の場合はざまあ的展開なのだろうけど、そもそも俺は学園に登校したことがないから、主人公と会ったこともなくてよくわからなかった。
俺の両親はとっくに隠居していて、家は家令でもあるハイセンが管理していたらしい。彼の手腕で家の事業は拡大し、田舎にいる両親にも、俺にも十分な金があった。
「ハイセンのおかげだね」
書斎で、事業の収支報告をハイセンから受けたあと、俺はしみじみとつぶやいた。
しかし、俺の言葉をハイセンは強く否定した。
「いえ、坊ちゃんのお力です」
「そこまでいくと謙虚っていうか、卑屈だぞ」
俺は口を尖らせた。ハイセンはメガネをあげて、俺のそばに膝をついた。
「いえ、本当のことなのです。坊っちゃんが私に首輪をつけてくださったからこそ成し遂げられたのです」
「首輪って……」
そんなのつけていない、と睨むと、ハイセンはとろけるような笑みを浮かべた。
「ではいまつけてください」
首筋を俺の口元に差し出す。俺はごくりと唾を飲む。そしてゆっくりと彼の首に歯を当てて、俺の刻印を刻み込んだのだった。
「私」
指先で俺がつけた歯形をなぞりながら、ハイセンが口を開く。
「少し重いので、覚悟なさってください」
全て知っている、と思って混ぜ返そうと思ったが、彼の狡猾な笑みを見て、俺は思わずのけぞった。
彼の愛を、俺はまだ理解していないらしい。
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