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第二章「天河聖星屑(あまのがわひじりほしくず)」
【魂魄・弐】『胡蝶は南柯の夢を見る』17話「焦土島」
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彼らは海原が見える美しい高台の丘に皆神と三輪の亡骸を葬った。
朝日に照らされたこの島は、先の大戦で戦場となった孤島だったが、今では風車が心地よい風に吹かれ、オリーブが生い茂る長閑な場所になっている。
生前の二人の意向を汲んだ皆神水軍の人々が、二人の墓をこの島にしてほしいと懇願したのだ。
皆神はその名が示す通り、「生きとし生けるものは皆、神である」という信念のもと、大明日こそ唯一絶対の神であるという異人に異を示し、日ノ本を支配する国皇を嫌っていた。
そんな皆神は三輪ともども……多くの弱き人々から愛されていたのだ。
「なるほど……結ばれなかった二人、織姫と彦星が同じ恋人同士の三輪さんと皆神の魂を得て、ようやく不死の獄から解き放たれたのね」
「うむ。あくまで想像の話ではあるがな……彦星と皆神は同じ鹿の半獣同士、それに織姫と三輪も同じ織女……縁とはかくも不思議なものじゃ」
「……」
そよ風が一同を優しく包む。野分は納得したようにウンウンと頷いたが滄溟は力なく俯いている。
「それにしても不思議じゃ。入鹿はなぜ魂を奪われ滅しないどころか、織姫と彦星の魄を奪えたのか」
「それよね。光阿弥さんは、織姫彦星の魄に入鹿の魂を奪わせようとしたんでしょう。白鹿の血が関係しているのかしら」
「うむ……それは関係なさそうじゃが……」
「……」
「滄溟殿は狂都に行かれるか」
「……はい」
「お父様……国皇陛下に日ノ本の置かれている状況を知らせなきゃいけないものね」
「そうか。ここから陸路だと美蝉に向かえばよいだろう。遠距離馬車が出ているはずじゃ」
「ありがとうございます」
「それと……この折紙を持って行きなさい」
「折紙?」
「死國の光阿弥が砥ぎ、悪を打ち滅ぼした名刀青江下坂の保証書じゃ。しかし、扱いには気を付けられよ。織姫彦星、それに皆神たちの血を浴びたことで妖……」
「……」
光阿弥は野分の視線に気が付き、言葉を途中で終わらせる。それは止む終えない状況だったとはいえ……自らの手で三輪と皆神を殺めてしまった滄溟を気遣ってのことだった。
「コホン……野分殿、あなたも鳩州へ行かれるのか」
「はい。許嫁ですから」
野分は力強い眼差しで光阿弥を見た。彼はそんな彼女にやはり力強く頷き返し、最後に橘を見た。
「お前さんはどうする?」
「私は兄のした事に対して……妹として責任があります。鳩州にはもう戻れません」
「そうか」
「ここに置いてください。なんでもします」
「姫であったお主に刀砥の修業は辛いぞ。私は勲火陛下にも追われる身だしな」
「覚悟の上です。兄の罪を……償いたいのです」
橘姫もまた力強い眼差しで老匠を見つめた。
「あなたが責任を感じる事は……」
「……滄溟」
野分は滄溟の裾を引いて首を横に振った。主君を欺いた宰相の妹として彼女が鳩州で生きる道は無い。それは例え一国の主としても覆すことはできない。彼女はそれをよく理解していた。
「それでは達者でな」
「橘……お元気で」
「あ、これ……」
別れ際に滄溟は橘から傷だらけの人形を受け取った。それは窮地を幾度となく助けてくれた赤い傀儡人形だった。
「鳩州の少年達から奪ってしまったのです。いつかお返し頂けたら……」
「えっ、それって……」
「一人は背の高い男性で、もう一人はクリッとした瞳の少年……二人とも孤児のようでした」
「ヨイチとサロクだ……」
「それでは、またいずれどこかで」
そう言うと刀鍛冶道具を背中にしょって橘姫は光阿弥のあとを必死に追いかけていった。慣れない履きものでヒョコヒョコと歩いていたが、その一歩は彼女にとってかけがえのないものだった。
滄溟と野分はどことなく誇らしげに彼女の後ろ姿が見えなくなるまで見送る。
「そろそろ僕たちも行こうか」
「目指すは美蝉ね」
オリーブが実り平和の象徴である鳩が飛び交う絶景の孤島で、二人は互いに目と目を合わせて力強く頷いた。
彼らの持つ青江下坂が怪しげな光を発している事に気付かぬまま――。
朝日に照らされたこの島は、先の大戦で戦場となった孤島だったが、今では風車が心地よい風に吹かれ、オリーブが生い茂る長閑な場所になっている。
生前の二人の意向を汲んだ皆神水軍の人々が、二人の墓をこの島にしてほしいと懇願したのだ。
皆神はその名が示す通り、「生きとし生けるものは皆、神である」という信念のもと、大明日こそ唯一絶対の神であるという異人に異を示し、日ノ本を支配する国皇を嫌っていた。
そんな皆神は三輪ともども……多くの弱き人々から愛されていたのだ。
「なるほど……結ばれなかった二人、織姫と彦星が同じ恋人同士の三輪さんと皆神の魂を得て、ようやく不死の獄から解き放たれたのね」
「うむ。あくまで想像の話ではあるがな……彦星と皆神は同じ鹿の半獣同士、それに織姫と三輪も同じ織女……縁とはかくも不思議なものじゃ」
「……」
そよ風が一同を優しく包む。野分は納得したようにウンウンと頷いたが滄溟は力なく俯いている。
「それにしても不思議じゃ。入鹿はなぜ魂を奪われ滅しないどころか、織姫と彦星の魄を奪えたのか」
「それよね。光阿弥さんは、織姫彦星の魄に入鹿の魂を奪わせようとしたんでしょう。白鹿の血が関係しているのかしら」
「うむ……それは関係なさそうじゃが……」
「……」
「滄溟殿は狂都に行かれるか」
「……はい」
「お父様……国皇陛下に日ノ本の置かれている状況を知らせなきゃいけないものね」
「そうか。ここから陸路だと美蝉に向かえばよいだろう。遠距離馬車が出ているはずじゃ」
「ありがとうございます」
「それと……この折紙を持って行きなさい」
「折紙?」
「死國の光阿弥が砥ぎ、悪を打ち滅ぼした名刀青江下坂の保証書じゃ。しかし、扱いには気を付けられよ。織姫彦星、それに皆神たちの血を浴びたことで妖……」
「……」
光阿弥は野分の視線に気が付き、言葉を途中で終わらせる。それは止む終えない状況だったとはいえ……自らの手で三輪と皆神を殺めてしまった滄溟を気遣ってのことだった。
「コホン……野分殿、あなたも鳩州へ行かれるのか」
「はい。許嫁ですから」
野分は力強い眼差しで光阿弥を見た。彼はそんな彼女にやはり力強く頷き返し、最後に橘を見た。
「お前さんはどうする?」
「私は兄のした事に対して……妹として責任があります。鳩州にはもう戻れません」
「そうか」
「ここに置いてください。なんでもします」
「姫であったお主に刀砥の修業は辛いぞ。私は勲火陛下にも追われる身だしな」
「覚悟の上です。兄の罪を……償いたいのです」
橘姫もまた力強い眼差しで老匠を見つめた。
「あなたが責任を感じる事は……」
「……滄溟」
野分は滄溟の裾を引いて首を横に振った。主君を欺いた宰相の妹として彼女が鳩州で生きる道は無い。それは例え一国の主としても覆すことはできない。彼女はそれをよく理解していた。
「それでは達者でな」
「橘……お元気で」
「あ、これ……」
別れ際に滄溟は橘から傷だらけの人形を受け取った。それは窮地を幾度となく助けてくれた赤い傀儡人形だった。
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「えっ、それって……」
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「それでは、またいずれどこかで」
そう言うと刀鍛冶道具を背中にしょって橘姫は光阿弥のあとを必死に追いかけていった。慣れない履きものでヒョコヒョコと歩いていたが、その一歩は彼女にとってかけがえのないものだった。
滄溟と野分はどことなく誇らしげに彼女の後ろ姿が見えなくなるまで見送る。
「そろそろ僕たちも行こうか」
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