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第三章「誰心空蝉聲(たがこころうつせみのなきごえ)」
【魂魄・弐】『胡蝶は南柯の夢を見る』20話「作戦変更」
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そう言うとクミは気を失っている少女を揺する。権八は不服そうに見ていたが、肉婆の視線を感じるとサッといつも通りのヘラヘラとした態度に戻り、部屋を出ていった。
背中越しに聞こえたのは「ここは……どこ?」と目を覚ました少女の声だった。
「おかしい……クミがくる気配がない」
「もう丑三つ時を過ぎてだいぶ経つ。何かあったんじゃ……」
「このままだと婀國さん達が騒ぎを起こしちゃう。とめてくるよ」
滄溟は計画の中止を伝えに正面に周った。婀國と貢が今にも騒ぎを起こしてしまう直前だったが、滄溟はクミが出てこないと伝えた。
「……くそッ、なにか事故があったんだね」
「このままじゃ計画が……」
「クミが出てこないことにはどうすることもできないね……うん?」
腕を組み苛々とする婀國だが、正面から出てきた男を見てニヤリと笑い、彼に近付くと背後から両手で目隠しをした。
「だーれだっ」
「う……その声、もしや……婀國か」
「ピンポーン、昔の恋人を覚えてるとはアンタ、まだ私に未練があるのかい」
「ねぇよッ……って、さっきのボウズじゃねぇかっ」
「あっ、あなたは」
「オヤ? 二人とも顔見知りかい……それより、アンタ脂屋で何してんのサ」
権八は関係ないだろと婀國を無視して狂輪を出て行こうとしたが「アンタがお訊ね者だって叫んじゃおうかしら。ここには賞金稼ぎが沢山いるしねぇ……」と、悪戯っぽく笑う婀國に抵抗できず渋々と話し始めた。
「ある医者に頼まれて、脂屋の肉婆にブツを運んでんだ」
「ブツ?」
「……」
「皆さぁーん、聞いて下さいますぅー、ここにいる男は賞き……」
「わーたわーた。なんか危険な白い粉よ。打たれた女の子はなんかヤバい感じだったぜ」
「もしかして……野分ッ」
「いや、確かクミとか言ってたな」
「クミがッ」
「滄溟……それはアヒンだ。鴎州の宣教師が日ノ本に持ち込んだ異国製の危険な粉だよ」
「僕たちの目の前でクミはそれを海賊に嗅がされたんだ」
「……ヨイチ、サロクッ!」
二人は計画の中止を判断し正門に合流しにきた。ヨイチ達は海賊に捕らえられた際にクミがアヒンを吸わされたこと、サロクは鴎州がそれを用い日ノ本を骨抜きにしていることを話した。
「アンタ、そんな危険な代物に手を出すなんてッ」
「なんかヤバそうなブツだったが、そこまで危険な代物だとは……」
「それより、今はどうやって野分達を助け出すかの方が重要だよ」
「中に入れるのは大人だけ。しかも男性客に紛れることができるのは権八だけだ」
「俺は目立っちまうし、女の子三人連れ出すのは不可能だ。それに小紫に危険が及びかねねぇ」
「アンタ馬鹿かい? 肉婆は粉を使って遊女を操るつもりだ。どうして小紫だけ例外になると思うんだ」
「でも……肉婆は小紫には使わねぇって……もうじき身請けも」
「冷静に考えてごらん。その約束は守られるのかい? 相手はあの肉婆だ。騙されてるんじゃないのかい?」
「なんだとっ」
「なにはともあれ……悔しいが、今夜は作戦中止だ。茶屋に戻ろうぜ」
「うん、ここで騒いでいたら怪しまれる。ね、戻ろう」
ヨイチとサロクが二人を引き離して宥めた。いくら眠らない街とはいえ長居をすれば目立つ。一同は一旦茶屋に戻り作戦を練り直すことにした。
――翌日
お茶屋と言うのは脂屋に行くまで飲み明かす場所だ。
客は高級な料理と共に夕刻から飲み始め、三味線や囃子で芸者の舞いを楽しみ、心地良くなった頃合いに彼女達に見送られ脂屋へと向かう。
余興を楽しみ愈々……本番の遊女を楽しみに行こうというわけだ。
この高級な遊びは金持ちしかできず、ほとんどの客は茶屋を用いず狂輪に向かいナケナシの銭を払う。
逆に言えば茶屋側としては店を利用できる客は上客と判断し、あらゆる要望を聞き秘密を固く守る。この営業形態は、滄溟達が潜伏するのには好条件だった。
「気操術を使うのはどうだろう?」
「滄溟、お前も使えるようになったのか」
「ヨイチこそ」
彼らは自分達の特殊能力を話し合った。この能力を巧みに使えばクミたち四人を助け出せるかもしれない。
四人と言うのはクミ、紺、野分、そして小紫だ。朝起きると開口一番に権八が「肉婆は信用できないから協力する、その代わりに小紫も救出したい」と言った。
婀國は舞いで敵の目を引きつけ、ヨイチは雷神で気を放つことが出来ると言う。まだ、ルドラを見慣れていない門番たちは武器だと判断しなかったので狂輪に雷神を持ち込むことが出来たのだった。
そして、滄溟はまだ自由自在とまではいかないが気を操れることを話した。
「とりあえず気操術が使えるのは三人ね。これで何とかならないかしら」
「あと俺が潜入できることもな」
「ええ。他には情報ある?」
「俺にアヒンを運ぶように依頼した医者と今日会う予定だ。金を渡す予定になってる」
「もしかして、その医者って……」
「長庵ってヤツだ。滄溟、知っているのか」
「鳩州のかかりつけ医だよっ。どうしてここに……」
「かかりつけ医って、お前そんなボンボンなのか」
「エッヘン、何を隠そう滄溟は鳩州の君主さまなのだよっ」
「サロク……お前が胸を張って言うことでもないだろう」
「てへへっ」
ヨイチはサロクにポコッと頭を叩かれ、舌を出して恥ずかしそうに笑った。滄溟はこんな状況でも仲の良い彼らを見て微笑んだが、急にハッとして何かを思い付くと、口をあんぐりと開けて驚いている権八の肩を両手で掴み興奮した様子で話した。
「その会う約束……僕も行くよッ」
「な、何か妙案があるのか」
「長庵がいれば、鳩州の爺と連絡が取れるッ……お金を送って貰うことが出来るんだよっ」
「四人分の身請け金だぞ? いくら君主様だからってそんな大金……」
「大丈夫っ、いま鳩州は商売で物凄く儲かっている。それに野分は鳩州御三家と言われる豪商の一人娘……青江公も協力してくれるハズだッ」
「そうと決まればいくぞ。約束の時間は正午だッ」
「うんッ」
強く頷く滄溟は権八と共に合流場所に向かった。
背中越しに聞こえたのは「ここは……どこ?」と目を覚ました少女の声だった。
「おかしい……クミがくる気配がない」
「もう丑三つ時を過ぎてだいぶ経つ。何かあったんじゃ……」
「このままだと婀國さん達が騒ぎを起こしちゃう。とめてくるよ」
滄溟は計画の中止を伝えに正面に周った。婀國と貢が今にも騒ぎを起こしてしまう直前だったが、滄溟はクミが出てこないと伝えた。
「……くそッ、なにか事故があったんだね」
「このままじゃ計画が……」
「クミが出てこないことにはどうすることもできないね……うん?」
腕を組み苛々とする婀國だが、正面から出てきた男を見てニヤリと笑い、彼に近付くと背後から両手で目隠しをした。
「だーれだっ」
「う……その声、もしや……婀國か」
「ピンポーン、昔の恋人を覚えてるとはアンタ、まだ私に未練があるのかい」
「ねぇよッ……って、さっきのボウズじゃねぇかっ」
「あっ、あなたは」
「オヤ? 二人とも顔見知りかい……それより、アンタ脂屋で何してんのサ」
権八は関係ないだろと婀國を無視して狂輪を出て行こうとしたが「アンタがお訊ね者だって叫んじゃおうかしら。ここには賞金稼ぎが沢山いるしねぇ……」と、悪戯っぽく笑う婀國に抵抗できず渋々と話し始めた。
「ある医者に頼まれて、脂屋の肉婆にブツを運んでんだ」
「ブツ?」
「……」
「皆さぁーん、聞いて下さいますぅー、ここにいる男は賞き……」
「わーたわーた。なんか危険な白い粉よ。打たれた女の子はなんかヤバい感じだったぜ」
「もしかして……野分ッ」
「いや、確かクミとか言ってたな」
「クミがッ」
「滄溟……それはアヒンだ。鴎州の宣教師が日ノ本に持ち込んだ異国製の危険な粉だよ」
「僕たちの目の前でクミはそれを海賊に嗅がされたんだ」
「……ヨイチ、サロクッ!」
二人は計画の中止を判断し正門に合流しにきた。ヨイチ達は海賊に捕らえられた際にクミがアヒンを吸わされたこと、サロクは鴎州がそれを用い日ノ本を骨抜きにしていることを話した。
「アンタ、そんな危険な代物に手を出すなんてッ」
「なんかヤバそうなブツだったが、そこまで危険な代物だとは……」
「それより、今はどうやって野分達を助け出すかの方が重要だよ」
「中に入れるのは大人だけ。しかも男性客に紛れることができるのは権八だけだ」
「俺は目立っちまうし、女の子三人連れ出すのは不可能だ。それに小紫に危険が及びかねねぇ」
「アンタ馬鹿かい? 肉婆は粉を使って遊女を操るつもりだ。どうして小紫だけ例外になると思うんだ」
「でも……肉婆は小紫には使わねぇって……もうじき身請けも」
「冷静に考えてごらん。その約束は守られるのかい? 相手はあの肉婆だ。騙されてるんじゃないのかい?」
「なんだとっ」
「なにはともあれ……悔しいが、今夜は作戦中止だ。茶屋に戻ろうぜ」
「うん、ここで騒いでいたら怪しまれる。ね、戻ろう」
ヨイチとサロクが二人を引き離して宥めた。いくら眠らない街とはいえ長居をすれば目立つ。一同は一旦茶屋に戻り作戦を練り直すことにした。
――翌日
お茶屋と言うのは脂屋に行くまで飲み明かす場所だ。
客は高級な料理と共に夕刻から飲み始め、三味線や囃子で芸者の舞いを楽しみ、心地良くなった頃合いに彼女達に見送られ脂屋へと向かう。
余興を楽しみ愈々……本番の遊女を楽しみに行こうというわけだ。
この高級な遊びは金持ちしかできず、ほとんどの客は茶屋を用いず狂輪に向かいナケナシの銭を払う。
逆に言えば茶屋側としては店を利用できる客は上客と判断し、あらゆる要望を聞き秘密を固く守る。この営業形態は、滄溟達が潜伏するのには好条件だった。
「気操術を使うのはどうだろう?」
「滄溟、お前も使えるようになったのか」
「ヨイチこそ」
彼らは自分達の特殊能力を話し合った。この能力を巧みに使えばクミたち四人を助け出せるかもしれない。
四人と言うのはクミ、紺、野分、そして小紫だ。朝起きると開口一番に権八が「肉婆は信用できないから協力する、その代わりに小紫も救出したい」と言った。
婀國は舞いで敵の目を引きつけ、ヨイチは雷神で気を放つことが出来ると言う。まだ、ルドラを見慣れていない門番たちは武器だと判断しなかったので狂輪に雷神を持ち込むことが出来たのだった。
そして、滄溟はまだ自由自在とまではいかないが気を操れることを話した。
「とりあえず気操術が使えるのは三人ね。これで何とかならないかしら」
「あと俺が潜入できることもな」
「ええ。他には情報ある?」
「俺にアヒンを運ぶように依頼した医者と今日会う予定だ。金を渡す予定になってる」
「もしかして、その医者って……」
「長庵ってヤツだ。滄溟、知っているのか」
「鳩州のかかりつけ医だよっ。どうしてここに……」
「かかりつけ医って、お前そんなボンボンなのか」
「エッヘン、何を隠そう滄溟は鳩州の君主さまなのだよっ」
「サロク……お前が胸を張って言うことでもないだろう」
「てへへっ」
ヨイチはサロクにポコッと頭を叩かれ、舌を出して恥ずかしそうに笑った。滄溟はこんな状況でも仲の良い彼らを見て微笑んだが、急にハッとして何かを思い付くと、口をあんぐりと開けて驚いている権八の肩を両手で掴み興奮した様子で話した。
「その会う約束……僕も行くよッ」
「な、何か妙案があるのか」
「長庵がいれば、鳩州の爺と連絡が取れるッ……お金を送って貰うことが出来るんだよっ」
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「大丈夫っ、いま鳩州は商売で物凄く儲かっている。それに野分は鳩州御三家と言われる豪商の一人娘……青江公も協力してくれるハズだッ」
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