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21~30話
赤に染まる【上】
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ひとしきり運動を終えて帰路につく。
私はポケットの縁から顔を覗かせて、行き同様に辺りを見渡していた。
木剣を置き場に返却するため、クロは訓練中の騎士たちの方へと歩を進める。私もそろそろ隠れたほうがいいだろうとクロを振り返った、そのとき。
見上げた視界の端で、何かがギラリと光った。
「クロ――!」
私が声を発するより早く、クロは動いていた。
私の入ったポケットを庇うように向きを変え、自身目掛けて飛来する物体を木剣で薙ぎ払う。
「っ――」
ガランと音を立てて地面に叩きつけられたのは、金属刃のついた真剣だった。
クロの振り下ろした木剣は剣身の半分が削ぎ落とされたかのように失われ、木剣を握った腕はだらりと下がったまま動かない。
突然のできごとに脳の理解が追いつかず、ただ鼓動だけが事態を飲み込んだかのようにバクバクと騒ぎ立てる。
耳鳴りのような鼓動を頭の中に聞きながら、僅かな刺激を与えることさえ恐れて慎重に、そろりそろりと視線を這わせてクロを仰いだ。
「――――血が!」
右の肩口。この位置からでは傷口は見えないけれど、裂けた服の周りが恐ろしい速さで赤に染まっていく。
「どうしよう! 誰か! クロが死んじゃう……!!」
「大丈夫、大した傷ではない。――人が来る。ヒナ、隠れていてくれ」
頭を撫でた指先にそっと押し込まれ、ポケットの中でうずくまる。
外はにわかに騒がしくなり、集まった人々が医者だ犯人だなんだと指示を出しているようだったけれど、今の私には何一つ意味をなして届かなかった。
血が、たくさん出ていた。
たくさん、血が……。
大した傷ではないとクロは言ったけれど、本当に?
私に心配をかけまいと、優しい嘘をついたのでは?
平然と自己犠牲を選択するクロの『大丈夫』は、当てになりそうにないから……。
首の近くだ。もし動脈が傷ついていたらどうしよう。
もしも、クロが………………。
私はポケットの縁から顔を覗かせて、行き同様に辺りを見渡していた。
木剣を置き場に返却するため、クロは訓練中の騎士たちの方へと歩を進める。私もそろそろ隠れたほうがいいだろうとクロを振り返った、そのとき。
見上げた視界の端で、何かがギラリと光った。
「クロ――!」
私が声を発するより早く、クロは動いていた。
私の入ったポケットを庇うように向きを変え、自身目掛けて飛来する物体を木剣で薙ぎ払う。
「っ――」
ガランと音を立てて地面に叩きつけられたのは、金属刃のついた真剣だった。
クロの振り下ろした木剣は剣身の半分が削ぎ落とされたかのように失われ、木剣を握った腕はだらりと下がったまま動かない。
突然のできごとに脳の理解が追いつかず、ただ鼓動だけが事態を飲み込んだかのようにバクバクと騒ぎ立てる。
耳鳴りのような鼓動を頭の中に聞きながら、僅かな刺激を与えることさえ恐れて慎重に、そろりそろりと視線を這わせてクロを仰いだ。
「――――血が!」
右の肩口。この位置からでは傷口は見えないけれど、裂けた服の周りが恐ろしい速さで赤に染まっていく。
「どうしよう! 誰か! クロが死んじゃう……!!」
「大丈夫、大した傷ではない。――人が来る。ヒナ、隠れていてくれ」
頭を撫でた指先にそっと押し込まれ、ポケットの中でうずくまる。
外はにわかに騒がしくなり、集まった人々が医者だ犯人だなんだと指示を出しているようだったけれど、今の私には何一つ意味をなして届かなかった。
血が、たくさん出ていた。
たくさん、血が……。
大した傷ではないとクロは言ったけれど、本当に?
私に心配をかけまいと、優しい嘘をついたのでは?
平然と自己犠牲を選択するクロの『大丈夫』は、当てになりそうにないから……。
首の近くだ。もし動脈が傷ついていたらどうしよう。
もしも、クロが………………。
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