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21~30話
知らぬは私ばかりなり【下】
しおりを挟む「……ヒナ、ヒナ。そう拗ねないでくれ。隠していたつもりはないんだ」
「だって、そんな大事なこと……! それに私、絶対失礼なことしました……っ!」
お菓子の城に立て籠って叫ぶ。
具体的にはあれだ。
酔ってぐでんぐでんな姿を見せたこととか、シャボン玉作りに付き合わせたこととか、毎晩紐パンを穿く手伝いをしてもらっていることとか……! うわぁぁーーーーー!!!
「無礼だと感じたことなどない。ヒナはもっと自由に振る舞ってくれていいくらいだ」
「で、でもっ! 名前だって『クロ』なんて失礼な呼び方……! ク、クローヴェル様って呼ばなきゃ……。それか、殿下――」
「やめてくれ!」
突然の大声に、ビクリと首をすくめる。
「やめてくれ……。今まで通り『クロ』と、そう呼んでほしい。ヒナに距離を置かれるのは辛い……」
悲痛な声音に、クロが泣いているのではと心配になって扉を開ける。
お菓子の城を出れば、迎えにきた優しい手のひらにすっぽりと捕らわれてしまった。
「ヒナ、いつものように呼んでくれ」
至近距離からアイスブルーの瞳が覗き込む。
今だって眉間にシワを寄せて怒ったような顔をしているくせに、そんな捨てられた子犬みたいな目をするのはずるいと思う。
重要な事実を伝えられていなかったことに対する不満だってあるのに、これじゃあ私がクロを虐めているみたいではないか。
「…………クロ」
嬉しそうに細められた目からこちらにまで喜びが伝播してきたのか、ドキドキと鼓動が騒ぐ。
「俺のことを、嫌いには?」
「別に、こんなことで嫌ったりはしませんけど……」
拗ねた気持ちの引っ込みがつかないまま、むぅと唇を尖らせて答えれば、すっかり慣れた動作でクロの口付けが頬に落ちた。
――微かに唇の先端を掠めて。
「〰〰! いっ、今、口に――!」
「うん?」
クロは何かに気付いた風もなく、頬に額に口付けの雨を降らせる。
それがあまりにも嬉しそうなものだから――。
ファーストキスを奪われたことへの抗議の言葉は、ぐっと喉の奥へと押し込めるのだった。
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