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3d、思い出話と魔獣の森
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「!? っですが、あの森の魔獣は騎士が十人がかりでやっと倒せるかどうかの——」
「このまま追いつかれたって、どうせ命懸けの戦いになるのでしょう!? いいから入って! 私の考えが正しければ、たぶん大丈夫だから!」
「——っはは、わかりましたよ! システィーナ様の『たぶん』を信じるとしましょう!」
グイと手綱を引いて進路を変えると、そのまま真っ直ぐに森へと突っ込んだ。
鬱蒼と生い茂る草木。枝葉に遮られた空は遠く、ときおり不気味な獣の鳴き声が聞こえてくる。
「……どう? 追ってきてる?」
歩調を緩めた馬の上で、ダーナンにしがみついて後方へと目を凝らす。
「いんや、追っ手は森の入口で馬を止めたようです」
「よかったぁ……」
へにゃりと力の抜けた身体を、ダーナンががっちりと抱きとめてくれた。
「残る問題は魔獣ですね。今のところ、いやに静かですが……」
「ダン、あなた熊は倒せる?」
「熊? ええ、普通の熊であれば問題なく」
「なら大丈夫ね! 狩猟大会を見学したときに気付いたのだけど、魔獣は私の周りに近づけないみたいなの。聖女の力が関係してるんじゃないかと思うのだけど」
「えっ……、そんならこの森で、魔獣に襲われる心配は……?」
「私と一緒にいる限り、襲われることはないわ。——あっ、でも野生動物は遠ざけられないのよ!? だから、猪や熊にはばっちり襲われるわ!」
「そいつは俺と一緒にいる限り心配無用です」
「じゃあ、二人一緒にいれば怖いものなしね!」
しっかりと集中して祈りを捧げられれば、魔獣も動物も入れない『結界』を張ることはできるけれど……こう揺れる馬上では難しい芸当だ。
結界を張るのなら、どこかで腰を据えてかからないと。
ダーナンは一人馬を降り、手綱を引いて道なき道を行く。
自分だけ馬上にいるのは申し訳ないのだけれど、運動神経の悪い私では木の根や小石につまずいて三歩に一度は転ぶだろうことが容易に想像できるので、大人しく馬の上で揺られている。
「このまま追いつかれたって、どうせ命懸けの戦いになるのでしょう!? いいから入って! 私の考えが正しければ、たぶん大丈夫だから!」
「——っはは、わかりましたよ! システィーナ様の『たぶん』を信じるとしましょう!」
グイと手綱を引いて進路を変えると、そのまま真っ直ぐに森へと突っ込んだ。
鬱蒼と生い茂る草木。枝葉に遮られた空は遠く、ときおり不気味な獣の鳴き声が聞こえてくる。
「……どう? 追ってきてる?」
歩調を緩めた馬の上で、ダーナンにしがみついて後方へと目を凝らす。
「いんや、追っ手は森の入口で馬を止めたようです」
「よかったぁ……」
へにゃりと力の抜けた身体を、ダーナンががっちりと抱きとめてくれた。
「残る問題は魔獣ですね。今のところ、いやに静かですが……」
「ダン、あなた熊は倒せる?」
「熊? ええ、普通の熊であれば問題なく」
「なら大丈夫ね! 狩猟大会を見学したときに気付いたのだけど、魔獣は私の周りに近づけないみたいなの。聖女の力が関係してるんじゃないかと思うのだけど」
「えっ……、そんならこの森で、魔獣に襲われる心配は……?」
「私と一緒にいる限り、襲われることはないわ。——あっ、でも野生動物は遠ざけられないのよ!? だから、猪や熊にはばっちり襲われるわ!」
「そいつは俺と一緒にいる限り心配無用です」
「じゃあ、二人一緒にいれば怖いものなしね!」
しっかりと集中して祈りを捧げられれば、魔獣も動物も入れない『結界』を張ることはできるけれど……こう揺れる馬上では難しい芸当だ。
結界を張るのなら、どこかで腰を据えてかからないと。
ダーナンは一人馬を降り、手綱を引いて道なき道を行く。
自分だけ馬上にいるのは申し訳ないのだけれど、運動神経の悪い私では木の根や小石につまずいて三歩に一度は転ぶだろうことが容易に想像できるので、大人しく馬の上で揺られている。
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