ワナビスト龍

理乃碧王

文字の大きさ
46 / 76

第四十六筆 本当の答えとは!

しおりを挟む
「アヤットサー! アヤットヤット!」

 夜、踊る!
 龍は踊っていた! それなるは阿波踊りだ!
 孤独なワナビストは部屋で舞っていたのだ!

「エエんかこれで? エエんかこれで!?」

 ヤケクソだ! ヤケクソのギアドラゴン式阿波踊りだ!
 えらいこっちゃ! えらいこっちゃ! ヨイヨイヨイ!
 書くアホウに! 読むアホウ! 今は書かなきゃ損損!

「ヤットサー! ヤット! ヤット!」

 そう、龍は参加することなっちまった!
 読物マルシェという同人誌即売会に『売り子』として導かれたのだ!
 導いたのは古田島梓、龍が働くヤマネコ運輸の上司だ、メガネだ!

「飛龍ダンシング英雄ヒーロー!」

 おおっと!
 ここから阿波踊りから現代的なダンスにスイッチだ!
 今夜だけでも、シンデレラワナビだ!

「なんでこーなるのっ!」

 ああっと!
 お次は古代のコメディアンの一発ギャグだ!
 古すぎて若者はついていけないぞ!

「ウオオオオオオオオオオッ!」

 吼えます! 吼えます!
 バーサーカーのように雄叫びをあげます!
 何だか流されるまま、古田島の同人サークルに参加することになったのだ!

 ――ドンッ!

 壁ドンが鳴り響いた。
 それはお隣さんからの『ダンスと雄叫びはストップ』の合図だ。
 龍は「すいません」と謝りながら、床に敷いている座布団に鎮座する。
 ここは茶の間、テレビと本棚とベッド。
 そして、ちゃぶ台の上にパソコンが置かれているだけの素朴な執筆場所だ。

「クリスティーナよ」

 パソコン画面に映るのは、アンチストギル梁山泊の雄『内モンゴル自治区マン』にもらったファンアート。
 龍が執筆するライオン令嬢道の主人公、クリスティーナ・ジェリーコの二次元絵である。

「俺は浮気をするわけではないのだ、許してクレオパトラ。色々と忙しいんだ、君を忘れてしまったわけではない」

 クリスティーナに深々と頭を下げる龍。
 最新話更新という執筆活動を忘れて放置プレイしている状態だ。
 というか、第一話以降全く書いていない状態。
 一応の構想はあるのだが、仕事や合コン、鬼丸まるぐりっとの呼び出しで止まっていた。

「しかし、古田島のヤツは何を考えているんだ?」

 そして、龍は思い出す。
 アレッサンドロでの読物マルシェ参加承諾後の古田島を――。

 これより! Web小説家が大嫌いな回想シーンに入るぞ!

***

 ほぼ強制イベントであった。
 龍は古田島達の創作者チームに参加することになってしまった。

「本当に助かったわ、阿久津川くん」
「え、ええ……」

 アレッサンドロの集まりは終わり、街中をぶらぶらと歩く二人。
 古田島は鼻歌を歌いながらルンルンと歩いている。
 龍は上目遣いで「こいつ、キャラが完全に壊れてやがる」と心の中で述べる。
 何故だかわからんが、古田島が嬉しそうなのは間違いない。

「私、学生時代は小説家志望だったのよね」
「はあ……」

 唐突に自分語りが始まりやがった。
 古田島は学生時代、龍と同じくして小説家志望だったというのだ。

「小学生の頃から小説を読むのが大好きでね。特に雲井沙羅先生の『蝶の鏡界シリーズ』が大好きだった」
(誰やねん)
「私、先生のような作品を書きたくて小説家になろうと決めたの。だから、高校生の頃から作品を書いて色んな公募に出し続けた」
(マジかよ、高校生の時からって凄いな)
「でもね、現実は甘くなくて書いては落ちて、書いては落ちての繰り返し。そして、高校を卒業して大学に進学してからも書くのは止めずに、公募に作品は出し続けた」
(……不屈の精神だな)
「でも、やっぱり公募には落ちる。それから、ただやみくもに書いてもダメだと思って文芸部に所属したわ。色んな人に自分の作品を読んでもらって感想や意見をもらって腕を磨くためにね――時には有名な先生の小説講座も受けたりもしたわ」
(……努力したんだな)
「時には辛辣な意見も貰ったけど頑張ったわ。兎に角、夢に向かって走り続けた。そして、遂にある公募の最終選考に進んだけど――」

 小説家になろうと努力し続けた古田島。
 たゆまぬ努力を続けた彼女は遂に最終選考に進んだようだ。
 しかし、その結果は何となく龍にはわかった。

「――落ちた」
「正解」

 古田島は悲しそうな笑みを浮かべた。

「それからね、私は作家になるのを諦めた。人間は夢ばかり見ていたら生きられない……学業や就職活動、仕事と現実の連続に直面していったらね」

 夢破れた古田島の話を聞き、龍は立ち止まり尋ねた。

「代替え手段ですか」
「代替え?」
「読物マルシェに参加することですよ。同人誌を作って、出して、人に売って、人気作家気分を味わいたいんですか」
「阿久津川くん……」
「もし、ただのごっこ遊びなら自分は何か違うような気がします」

 正直、龍の言葉は辛辣なものがあった。
 何故、龍はこのような言葉を出してしまったのかわからない。
 龍も随分と身勝手でひどいことを言っていることは自覚していた。

 何かを目標にして懸命に努力し続けることは素晴らしい、
 しかし、いつか理想と現実の合致しているかどうか見つめ、諦めるものは諦めなければならないときがある。
 古田島は日常の現実に押し流されながらも、夢に向かってひた走り、その結果として違う道を選択したに過ぎない。
 だが、龍は古田島に『捨てきれない何か』を本能的に感じ取ってしまった。
 もし、それが同人誌即売会で作家ごっこをしたいのであれば違うのではないかと思ったのだ。

「本当に諦めたんですか。だったら、何で読物マルシェに作品を出そうと思ったんですか」

 古田島は地面を見つめ、足取りはゆっくりとしていた。
 何かを言おうと懸命に言葉という形に出して考えているようだった。

「なんだろう……自分でもわからないや」

 ゆっくりと古田島は空を見上げる。

「アレッサンドロは偶々立ち寄ったお店でね。そこには創作を楽しむ人達が集まってて、みんな見返りを求めないで活動をしていたの。小説家になりたいとか、誰かに褒められたいとか、そういうものじゃなくってさ……」

 言いにくそうにする古田島。
 彼女のその姿を見て、龍には何が言いたいのか理解した。

「羨ましく見えたのでは?」

 そう、羨ましく見えたのだろう。
 古田島は小説家になろうと目指すまではよかったが、それがいつしかコンテスト等受賞するという通過点だけが目標になっていた。

「それに『自分は何故小説を書いていたのか、本当の答えを出したい』と思っている。古田島さん、自分にはそう見えました」

 小説を書きたいではなく、小説家になりたいというものになっていた。
 何故、自分は小説家になろうと思ったのだろうか。
 ただの憧れと好きから始まった書き初め。
 何故、自分は小説を書いていたのか、その答えが見つからないままでいたのだ。
 その答えを出すために古田島は読物マルシェに参加するのだろう、龍はそう思った。

「阿久津川くん、言葉にしてくれてありがとう」

 古田島は振り向き、静かに龍の手を握った。

「い、いえ……」

 それは古田島だけではなく、龍自身もそうだった。
 自分は何故小説を書いていたのか――。

***

「チクッ! チクッ! ちっく生姜焼き!」

 龍は畳の上でエアバッティングしていた。(一本足打法で)
 女性に手を握られるなど生まれて初めてだった。
 あの古田島に「ドキッ!」としてしまったのだ。
 これは――これはひょっとして恋なの!?

「そんなことがあってたまるか! ちくしょうめえッ!」

 龍はクリスティーナのイラストを見つめる。
 こんなことがあってたまるか、俺はクリスティーナ一筋だ、という危ない思いだ。

「…………」(顔がレッドになる龍)

 しかし、あの時の古田島は綺麗だった。
 普段はガミガミうるさい委員長キャラのような古田島が『美しい女神』に見えちまった。
 いかん、このままでは脳内が古田島でいっぱいになるぞ。
 追い詰められた龍は、ここで脳内から古田島を消し去る方法を思いついた。

「ウラアアアアア!」(顔がキマイラになる龍)

 急いで「飛龍クリック!」と叫びならパソコンを操作する。
 開く画面はPC版DXのギアドラゴンアカウントだ。

「そうだ! 今日は黒鳥達のサイバーラウンジじゃい!」

 時刻は八時半。
 古田島で上書き保存されかけたが、今日は黒鳥、まうざりっと、色帯寸止め達の音声会話。
 お題は『書籍化するためのコツ』が始まる。

「ドラグナーリスニング!」

 黒鳥のアカウントから、龍は神妙な面持ちで音声会話を聞き始めた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は賑やかになった。

処理中です...