ワナビスト龍

理乃碧王

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第五十四筆 古田島、ほの字の理由!

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 ――開眼!
 龍、開眼す!

「そ、そうか……そうだったのか!」

 龍は箸を置き、一人納得した。
 これまで、自分は『書籍化』というものに拘るあまり迷走していた。
 だが『真に心に残る作品を生み出すには時間をかけて練り上げることが必要』ではないかと気づいたのだ。
 何故こんな簡単なことに気づかなかったのか。

 ファンタジーを選んだのも『受けそうだったから』。
 異世界恋愛に手を出したのも『受けそうだったから』。
 プロットを無視し、その場の勢いとノリだけで進めてきた創作活動――。

 龍は創作の面白さを『一発芸エンタメ』だけに全振りしていたのだ。
 これまで自分は三流お笑い芸人のように『受けるもの』ばかりを求めていた。
 要するに『受けるを主体に動いた執筆』は、全て『読者の顔を伺う受動的な執筆』だったのだ。
 そうだ、全てが受け身の姿勢で創作活動をしてしまっていたのである。
 どげんかせんといかん、龍は深くそう思った。
 受けという防御だけでは戦いには勝てない、勝てないのだ。

「阿久津川くん、どうしたの? 何だか急に考え込んでるようだけど」

 優しいメガネの古田島が心配そうに声をかけてくる。
 龍はハッとして顔を上げ、古田島を見つめる。

「感謝する!」
「あ……ぁぁ……ぁ……」

 声にならない声を出す古田島。
 煩悩の塊のような人が聞いたら勘違いするかもしれない声だ。
 そんな声を出すのにはワケがある。
 何故ならば、何故ならば、何故ならば!

(ちょ、ちょっと……!)

 龍が牛! いや「ギュッ」と!
 白魚のような古田島のおててを『ガッシリ握っていた』からだ!

「誠に感謝感謝の創作の素ッ!」

 清き一票をよろしくお願いします!
 そう言わんばかりの両手でのクラッチ!
 かの伝説的な政治家!『田中角栄』はこう言った!

 ――握手した数しか票は出ない。

 と!
 即ち! この龍のガッチリ握手は!

(あ、阿久津川くん……)

 完全なる心の掌握を図ったのは言うまでもないだろう!
 よっしゃ、よっしゃ!
 この都合のいいキモい展開であるが、古田島の心は完全に――。

(計画通り!)

 あれ? ちょっと待った!
 古田島が表情には出さないが、心の中で極悪な顔をしているぞ。
 どういうこったい! マルガリータ!

(作戦成功!)

 作戦成功!?
 これは一体どういうこったい、チェルベンカ!

(やはり、男は『女の手料理』に弱いものね)

 左様!
 この『キャラ弁』を龍に与えたのは『古田島の罠』である。
 ここまで色々あったから、読者諸君もお気づきであろう。

(彼、全然気づいてないようだけど……)

 というよりも――。
 もうまどろっこしい説明は不要であろう。

(やっと、私の想いに気づいてくれたようね)

 古田島はどうやら『龍にほの字』のようだ。
 こんなアイタタな男のどこがいいかはわからない。
 でも、意外とダメな男が好きな女性がこの世にいるのは確かだ。
 守って上げたくなるタイプという男は存在するのだ。
 即ち『母性本能がくすぐられた』のかもしれない。

 しかし、他にも理由があるのだろう。
 諸君『第三十筆 その名は不破、生ける屍作家!』のお話を思い出して欲しい。
 古田島は龍にこう言った「私の好きな人の『目力』に似てる」と。
 その好きな人とは『芥川龍之介』だ。あの蜘蛛の糸などで有名な文豪だ。

 こう見えて、古田島はプロの小説家を目指していた時代があった。
 作品に活かすために様々な古典作品を読んだに違いない。
 その中に芥川龍之介が含まれていても不思議ではない。
 それに国語の教科書に、顔写真つきで絶対載ってる小説家の筆頭である。
 然らば、古田島は本を読む中で芥川龍之介を好きになったのだろうか。

(阿久津川くん……その力強い目は『芥川龍之介』にソックリよ)

 真相を確かめるべく!
 これより! ほんの少しだけ古田島の回想シーンに入る!

***

 これは今から十八年前のお話である。
 古田島梓、十歳と五カ月。
 彼女はクラスに一人はいる委員長タイプの女の子。
 クラスの端の席で国語の教科書をパラパラとめくっていた。
 クソがつくほど真面目な彼女はお勉強していたのだ。
 次の国語の授業では、芥川龍之介の『羅生門』を題材に授業を行う。
 その予習をしていたというわけさ。

「芥川……龍之介……」

 古田島の可愛いお目目にとまったのは『芥川龍之介の顔写真』。
 細身の体ながら、その鋭い鷹のような目。
 豊かな知性を感じさせる『顎に手を置くポーズ』――。
 それらの全てが古田島の『何かを目覚めさせた』。

(かっこいい!)

 つまり、古田島の『初恋』を生み出してしまったのだ。

「梓ちゃん、ずっと何を見ているの?」

 地味目のモブ女の子が話しかけてきた。
 彼女は同じクラスメイトの島内みお。
 古田島の良き友人で、現在は地元の信用金庫で働いている適当な設定の女の子だ。

「この写真の人、かっこよくない」
「えっ……ソルビくんの方がかっこいいよ!」

 ソルビくんとは、当時の人気韓流アイドルグループ『Crystal Dawnクリスタルドゥーン』のメンバーの一人だ。
 なお現在はグループは解散し、ソルビくんは母国韓国で焼き肉屋のオーナーになって財を築いてる。

「いいえ、この写真の人の方が断然かっこいいわ!」
「あ、梓ちゃん……」(普段はクールでかっこいいけど、どこか変わってるのよね)

 そう、古田島梓という女の子はちょっぴり変わっていた。
 表向きは上手く取り繕っているが、それは今でも変わらない――。

***

 以上回想終了!
 どうやら、昔から芥川龍之介に恋する変わった女の子だったようだ!
 そして、時は現代に戻る!

「古田島マネージャー! 俺はまさに開眼した! きっと『天秤打法』を編み出したプロ野球選手も『こんな気持ち』だったのだろう!」

 何故かお鼻を触る龍。
 禅智内供ぜんちないぐの鼻と云えば、池の尾で知らない者はないと言わんばかりだ。

「よ、よくわからないけど、そんなにお礼を言われるとは思わなかったわ」
「それじゃあ、これ全部食べますよ!」
「ええ、もちろんよ」
「では遠慮なく! 全ての食材と創作に感謝!」

 龍は再び手を合わせ「いただきます」のポーズ。
 そして、箸を再び手に取るとガッツリガッツに古田島の弁当を食い続ける。
 その光景を古田島は気持ち悪いくらいの笑顔で見続けるのであった。

「あの二人、まさか付き合ってるのか?」
「ま、まさか……古田島マネージャーの面倒見がいいだけじゃないの」
「昔から『蓼食う虫も好き好き』という言葉があるからなあ」
「明日は天変地異が起こるんじゃないか……」

 今はお昼休み。
 ここまで、龍と古田島の一連の三流ラブコメ展開が続いた。
 ヤマネコ運輸のゆかいな仲間達は信じられない様子で見ていたのであった。
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