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第五十六筆 創作物の小さな祭典!
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カレンダーの月は変わり、日付は重なる。
そして、季節は『秋』と呼ばれるものとなった。
秋は古来より、十一種類の秋があるという。
有名なもので言えば『食欲の秋』『スポーツの秋』『読書の秋』の三つだ。
その中でも、読書の秋を少し深堀りしておこう。
その切っ掛けは文豪・夏目漱石の『三四郎』と呼ばれる作品に起因と言われる。
三四郎の作中で韓愈という文人が「灯火親しむべし」と詠んだ詩があった。
これは「秋は過ごしやすい季節だから、夜には明かりを灯して読書をするのに最適だ」という意味がある。
この詩を夏目漱石が取り上げたことで『読書の秋』と言われるようになったのだ。
「そこの箱から製品した本を出した」
「はいはい」
「はいは一回! もっと真剣にしてよ」
「はい……」
時は朝の九時、場所はH市から離れた東京がD区。
龍は古田島にこき使われていた。
段ボール箱を運び、椅子を組み立て、値札を出し、製本した本を並べていた。
そう、ここ『風紬交流館』ではイベントが始まっていた。
その名も『読物マルシェ』と呼ばれる同人誌即売会である。
この読物マルシェは昭和五十二年に東京で始まった。
当初は各大学の文芸サークルが集まり開催され、元々は文学作品がメインだったが時代とともに創作の多様性が広がっていった。
現在では文芸作品のみならず、ライトノベルやビジュアルアート、エッセイなど文字やビジュアルで表現されるジャンルが並んでいる。
毎年秋に開催され、会場となる『風紬交流館』に訪れる参加者は様々な作品に触れることが出来る。
並ぶ作品群は温かみのある手作り感とプロフェッショナルな作品が混在し、人々を楽しませる。
イベントしては中規模で知名度はあまりないが『知る人ぞ知る』同人誌即売会として愛好家達に知られている。
(瑞鳳書房刊『見て良し、買って良し、読んで良しの同人誌即売会』より)
「準備完了ね」
古田島はニッコリと微笑む。
ブースには自作である商品が並んでおりご満悦の様子だ。
(まさかファンタジーか?)
龍は古田島が出品する本をマジマジと眺める。
タイトルは『月夜の竜と光の湖』と書いてあった。
表紙には美しい白い龍と幼い兄妹らしきイラストが描かれてあった。
だが、イラストは漫画やアニメっぽくない。
内容的には、ライトノベルのファンタジーではなく児童文学的な要素を感じられた。
「意外だと思ってない?」
そんな龍の気持ちを読んだか、古田島が話しかけた。
龍は少し身を屈めながら、頭をかいた。
「ま、まあ……そのメルヘンチックだなって」
古田島は笑いながら答えた。
「昔に読んだ児童文学作品に影響されて書いたものですからね」
「……蝶の鏡界シリーズってヤツですか」
龍のその言葉に古田島の動きは止まった。
メガネの奥にある瞳は龍の顔が映っている。
「阿久津川くん、よく覚えていたわね」
「あらすじとか内容はわかりませんが……」
「大した記憶力でびっくりしちゃった。一度読むといいわよ、損はしないから」
「は、はあ……」
そんなこんなで出店の準備を進める二人。
そこに見慣れた男が寄ってきた。
「おはようございまっス! お二人さん!」
「た、泰ちゃん!」
久々にまともに登場した坂崎泰助こと泰ちゃんだ。
龍の職場の後輩であり、古田島が所属する創作グループのメンバーの一人でもある。
頭を金髪に染め、耳にはピアス、顔も整っているイケメン。
まるで韓流アイドルのような泰ちゃんだが今日は一風変わっていた。
「本当に髪を黒く染めてきたんだ」
「は、はい……まあ……」
泰ちゃんは照れた表情で頭をかいた。
金髪だった髪は黒く染まり、耳にはピアスはしていなかった。
「ど、どうしたの急に?」
驚く龍に泰ちゃんは答えた。
「今回の読物マルシェ参戦を機会に『真面目』になろうと思いまして」
「ど、どういうこと?」
「自分、フリーターは卒業して正社員になるんスよ」
「え!?」
なんと、泰ちゃんはフリーターを卒業して正社員になるという。
それは即ち、ヤマネコ運輸を辞めることを意味していた。
「阿久津川くん、実は坂崎君は今月いっぱいでヤマネコ運輸を退職して違う場所で働くのよ」
「ち、違うところ?」
龍はチラリと泰ちゃんを見た。
泰ちゃんといえば、少し気まずそうな表情をしている。
「自分、実は大学卒業しても小説家目指してたんスよ」
「た、泰ちゃんも小説家を目指していたのか」
「こう見えても大学は文芸部だったんスよ? プロになろうと作品を公募に出したこともあるくらいには」
泰ちゃん、お前もか。
そんな台詞が龍の脳内に浮かぶ。
どうやら、泰ちゃんも古田島と同じように大学は文芸部でプロの小説家を目指していたようだ。
「小説家を目指していたんスけど、なかなか上手くいかなくて。まともな就職活動をせず、適当に就職した会社もすぐに辞めちゃいましてね。俺、やっぱり小説家になるって夢を捨てきれなかったんスよね――それで自由が利くフリーターになったわけです」
「そ、そうだったのか」
「オヤジには『バカな夢を追わずに定職につけ』と怒られるんスけどね」
「た、大変だな」
「正論っス、自由と聞こえはいいが無責任で不安定。だから、俺も腹をくくって定職につくことを決めたわけで――」
「後悔はしないのか?」
その言葉に泰ちゃんは力強く答えた。
「龍さん、誰かを不安にさせてまで書く作品に意味なんてありますかね」
「だ、誰かを不安?」
泰ちゃんは両目を閉じた。
何か強い想いを秘めているようだった。
「おふくろっス、最近体を壊しちゃいまして」
「泰ちゃんのお母さんが……」
「不器用なオヤジだけでは大変なんで、俺がちゃんと面倒を見ようと思いまして。それに安心させてやりたいのもありますしね」
「……大人だな、泰ちゃんは」
「照れるっスよパイセン、自分なんてまだまだ……」
謙遜する泰ちゃん。
龍はそんな後輩を見て恥ずかしくなった。
泰ちゃんは自分の夢を諦めながらも、絶望も腐りもせず、次に向けてのステップを考えている。
そこには確かな大人の姿があった。
(お、俺は恥ずかしい!)
自分はいい歳こいて仕事に打ち込まず、Web小説に情熱を燃やし続けている。
作品が書籍化して、アニメ化して、夢の印税生活。
そして、あわよくば声優と――全ては龍の妄想なのは十分わかっていた。
泰ちゃんの話を聞き、龍は自分を「未だに夢を追う子供ではないか」と強く思ったのだ。
「おーい! 坂崎くーんっ!」
龍がそう思っていると遠くから声が聞こえた。
泰ちゃんの後方に目をやると――。
「な、なんじゃありゃ!」
そこには禿げたおじさんがいた。
メガネをかけており、顔つきはキリっとしている。
昔の銀行員風のおじさんであるが、その格好が実に変わっていた。
頭には青いガラス玉が埋め込まれたはちがねを巻き、焦げ茶色の革の鎧を着ている。
更に赤いマントを羽織り、背中には剣らしきものをしょっていた。
それはRPGに登場する勇者のコスプレであるといえよう。
「おはようございます!」
泰ちゃんが勢いよく挨拶する。
龍は泰ちゃんにそっと尋ねた。
「だ、誰だ、この怪しげなおっさんは?」
「俺のサークルのメンバーですよ」
龍がおじさんを見つめる。
おじさんは斜め45度に頭を下げてから、小さなカードを差し出した。
その小さなカードとは名刺のことである。
「介護老人保健施設『世界樹の里』の施設長をしております。私、村井宗一と申します」
「こ、こりゃご丁寧に」(介護老人保健施設だと?)
手渡された名刺を見つめる龍。
何故、介護老人保健施設の施設長が来たのだろうと思った。
傍にいる古田島は、龍が困惑している様子なので補足説明をする。
「坂崎君、そこでお世話になることになったのよ」
「た、泰ちゃんが!?」
なんと、泰ちゃんは介護老人保健施設で働くというのだ。
泰ちゃんは笑って述べた。
「最初はパートタイムで働いてたんですけど、レクで利用者さん達が詩とか俳句とかやるんですけど、付き合ってるうちに施設長に気に入られちゃいましてね。俺も仕事をするうちにやりがいを感じて働くことにしたんですよ」
「だ、大丈夫なのか?」
龍は知っていた。
介護職は薄給かつ激務で有名だ。
それに利用者の家族や職員同士でのトラブルが多いことがSNSを通じて流れてくる。
そんな世界に飛び込もうとしている後輩を龍は心配したのだ。
「心配ご無用です。こんな俺でも『誰かの役に立ちたい気持ち』が先にあるんで!」
泰ちゃんの後ろにいる村井はメガネをキラリと光らせる。
「うちはきちんと働く職員はお給料も払うし、研修もしっかりしております。坂崎君なら『世界樹の里』いや『社会福祉業界に希望を見出す〝勇者〟』になれる逸材であると確信しております。それなりの待遇とフォローをするので心配ご無用でございます」
(お、おっさん、服装のせいで真面目なことを言ってるのに説得力ないぞ)
古田島は希望に胸を膨らませる泰ちゃんに尋ねた。
「そちらの『世界樹の里』は何を出品するの?」
「利用者さん達が書いた詩や俳句です。もちろん本人や家族には許可はとってますよ? ちなみに売り上げは、おやつや備品に使う予定です」
「素敵じゃない。売れるといいわね」
「ええ! 俺の合コンで鍛えたコミュ力で営業をガンガンかけてやりますから!」
拳を突き出す泰ちゃん、やる気十分に見える。
一方の龍、ずっと無表情で立っている村井におそるおそる尋ねた。
「そ、そちらは?」
「――TRPGのリプレイです」
TRPGとはテーブルゲームの一つで、紙や鉛筆、サイコロを用いながら遊ぶ。
人間同士の会話や各ゲームのそったルールで話を進めていく。
リプレイとはTRPGで遊んだ記録を紙などに記録に残したものだ。
日本や欧米諸国では、そのプレイ結果を小説に書き下ろすのが一般的である。
なお、有名な作品には『某島』があるがここでは割愛する。
「私ども世界樹の里のスタッフが繰り広げた冒険を記した『闇のダイスロールと銀の英雄達』。是非ともお買い求めくださいませ」
「は、はあ」
出す作品、彩るジャンルは様々。
それが読物マルシェという創作フェスティバルである。
そして、季節は『秋』と呼ばれるものとなった。
秋は古来より、十一種類の秋があるという。
有名なもので言えば『食欲の秋』『スポーツの秋』『読書の秋』の三つだ。
その中でも、読書の秋を少し深堀りしておこう。
その切っ掛けは文豪・夏目漱石の『三四郎』と呼ばれる作品に起因と言われる。
三四郎の作中で韓愈という文人が「灯火親しむべし」と詠んだ詩があった。
これは「秋は過ごしやすい季節だから、夜には明かりを灯して読書をするのに最適だ」という意味がある。
この詩を夏目漱石が取り上げたことで『読書の秋』と言われるようになったのだ。
「そこの箱から製品した本を出した」
「はいはい」
「はいは一回! もっと真剣にしてよ」
「はい……」
時は朝の九時、場所はH市から離れた東京がD区。
龍は古田島にこき使われていた。
段ボール箱を運び、椅子を組み立て、値札を出し、製本した本を並べていた。
そう、ここ『風紬交流館』ではイベントが始まっていた。
その名も『読物マルシェ』と呼ばれる同人誌即売会である。
この読物マルシェは昭和五十二年に東京で始まった。
当初は各大学の文芸サークルが集まり開催され、元々は文学作品がメインだったが時代とともに創作の多様性が広がっていった。
現在では文芸作品のみならず、ライトノベルやビジュアルアート、エッセイなど文字やビジュアルで表現されるジャンルが並んでいる。
毎年秋に開催され、会場となる『風紬交流館』に訪れる参加者は様々な作品に触れることが出来る。
並ぶ作品群は温かみのある手作り感とプロフェッショナルな作品が混在し、人々を楽しませる。
イベントしては中規模で知名度はあまりないが『知る人ぞ知る』同人誌即売会として愛好家達に知られている。
(瑞鳳書房刊『見て良し、買って良し、読んで良しの同人誌即売会』より)
「準備完了ね」
古田島はニッコリと微笑む。
ブースには自作である商品が並んでおりご満悦の様子だ。
(まさかファンタジーか?)
龍は古田島が出品する本をマジマジと眺める。
タイトルは『月夜の竜と光の湖』と書いてあった。
表紙には美しい白い龍と幼い兄妹らしきイラストが描かれてあった。
だが、イラストは漫画やアニメっぽくない。
内容的には、ライトノベルのファンタジーではなく児童文学的な要素を感じられた。
「意外だと思ってない?」
そんな龍の気持ちを読んだか、古田島が話しかけた。
龍は少し身を屈めながら、頭をかいた。
「ま、まあ……そのメルヘンチックだなって」
古田島は笑いながら答えた。
「昔に読んだ児童文学作品に影響されて書いたものですからね」
「……蝶の鏡界シリーズってヤツですか」
龍のその言葉に古田島の動きは止まった。
メガネの奥にある瞳は龍の顔が映っている。
「阿久津川くん、よく覚えていたわね」
「あらすじとか内容はわかりませんが……」
「大した記憶力でびっくりしちゃった。一度読むといいわよ、損はしないから」
「は、はあ……」
そんなこんなで出店の準備を進める二人。
そこに見慣れた男が寄ってきた。
「おはようございまっス! お二人さん!」
「た、泰ちゃん!」
久々にまともに登場した坂崎泰助こと泰ちゃんだ。
龍の職場の後輩であり、古田島が所属する創作グループのメンバーの一人でもある。
頭を金髪に染め、耳にはピアス、顔も整っているイケメン。
まるで韓流アイドルのような泰ちゃんだが今日は一風変わっていた。
「本当に髪を黒く染めてきたんだ」
「は、はい……まあ……」
泰ちゃんは照れた表情で頭をかいた。
金髪だった髪は黒く染まり、耳にはピアスはしていなかった。
「ど、どうしたの急に?」
驚く龍に泰ちゃんは答えた。
「今回の読物マルシェ参戦を機会に『真面目』になろうと思いまして」
「ど、どういうこと?」
「自分、フリーターは卒業して正社員になるんスよ」
「え!?」
なんと、泰ちゃんはフリーターを卒業して正社員になるという。
それは即ち、ヤマネコ運輸を辞めることを意味していた。
「阿久津川くん、実は坂崎君は今月いっぱいでヤマネコ運輸を退職して違う場所で働くのよ」
「ち、違うところ?」
龍はチラリと泰ちゃんを見た。
泰ちゃんといえば、少し気まずそうな表情をしている。
「自分、実は大学卒業しても小説家目指してたんスよ」
「た、泰ちゃんも小説家を目指していたのか」
「こう見えても大学は文芸部だったんスよ? プロになろうと作品を公募に出したこともあるくらいには」
泰ちゃん、お前もか。
そんな台詞が龍の脳内に浮かぶ。
どうやら、泰ちゃんも古田島と同じように大学は文芸部でプロの小説家を目指していたようだ。
「小説家を目指していたんスけど、なかなか上手くいかなくて。まともな就職活動をせず、適当に就職した会社もすぐに辞めちゃいましてね。俺、やっぱり小説家になるって夢を捨てきれなかったんスよね――それで自由が利くフリーターになったわけです」
「そ、そうだったのか」
「オヤジには『バカな夢を追わずに定職につけ』と怒られるんスけどね」
「た、大変だな」
「正論っス、自由と聞こえはいいが無責任で不安定。だから、俺も腹をくくって定職につくことを決めたわけで――」
「後悔はしないのか?」
その言葉に泰ちゃんは力強く答えた。
「龍さん、誰かを不安にさせてまで書く作品に意味なんてありますかね」
「だ、誰かを不安?」
泰ちゃんは両目を閉じた。
何か強い想いを秘めているようだった。
「おふくろっス、最近体を壊しちゃいまして」
「泰ちゃんのお母さんが……」
「不器用なオヤジだけでは大変なんで、俺がちゃんと面倒を見ようと思いまして。それに安心させてやりたいのもありますしね」
「……大人だな、泰ちゃんは」
「照れるっスよパイセン、自分なんてまだまだ……」
謙遜する泰ちゃん。
龍はそんな後輩を見て恥ずかしくなった。
泰ちゃんは自分の夢を諦めながらも、絶望も腐りもせず、次に向けてのステップを考えている。
そこには確かな大人の姿があった。
(お、俺は恥ずかしい!)
自分はいい歳こいて仕事に打ち込まず、Web小説に情熱を燃やし続けている。
作品が書籍化して、アニメ化して、夢の印税生活。
そして、あわよくば声優と――全ては龍の妄想なのは十分わかっていた。
泰ちゃんの話を聞き、龍は自分を「未だに夢を追う子供ではないか」と強く思ったのだ。
「おーい! 坂崎くーんっ!」
龍がそう思っていると遠くから声が聞こえた。
泰ちゃんの後方に目をやると――。
「な、なんじゃありゃ!」
そこには禿げたおじさんがいた。
メガネをかけており、顔つきはキリっとしている。
昔の銀行員風のおじさんであるが、その格好が実に変わっていた。
頭には青いガラス玉が埋め込まれたはちがねを巻き、焦げ茶色の革の鎧を着ている。
更に赤いマントを羽織り、背中には剣らしきものをしょっていた。
それはRPGに登場する勇者のコスプレであるといえよう。
「おはようございます!」
泰ちゃんが勢いよく挨拶する。
龍は泰ちゃんにそっと尋ねた。
「だ、誰だ、この怪しげなおっさんは?」
「俺のサークルのメンバーですよ」
龍がおじさんを見つめる。
おじさんは斜め45度に頭を下げてから、小さなカードを差し出した。
その小さなカードとは名刺のことである。
「介護老人保健施設『世界樹の里』の施設長をしております。私、村井宗一と申します」
「こ、こりゃご丁寧に」(介護老人保健施設だと?)
手渡された名刺を見つめる龍。
何故、介護老人保健施設の施設長が来たのだろうと思った。
傍にいる古田島は、龍が困惑している様子なので補足説明をする。
「坂崎君、そこでお世話になることになったのよ」
「た、泰ちゃんが!?」
なんと、泰ちゃんは介護老人保健施設で働くというのだ。
泰ちゃんは笑って述べた。
「最初はパートタイムで働いてたんですけど、レクで利用者さん達が詩とか俳句とかやるんですけど、付き合ってるうちに施設長に気に入られちゃいましてね。俺も仕事をするうちにやりがいを感じて働くことにしたんですよ」
「だ、大丈夫なのか?」
龍は知っていた。
介護職は薄給かつ激務で有名だ。
それに利用者の家族や職員同士でのトラブルが多いことがSNSを通じて流れてくる。
そんな世界に飛び込もうとしている後輩を龍は心配したのだ。
「心配ご無用です。こんな俺でも『誰かの役に立ちたい気持ち』が先にあるんで!」
泰ちゃんの後ろにいる村井はメガネをキラリと光らせる。
「うちはきちんと働く職員はお給料も払うし、研修もしっかりしております。坂崎君なら『世界樹の里』いや『社会福祉業界に希望を見出す〝勇者〟』になれる逸材であると確信しております。それなりの待遇とフォローをするので心配ご無用でございます」
(お、おっさん、服装のせいで真面目なことを言ってるのに説得力ないぞ)
古田島は希望に胸を膨らませる泰ちゃんに尋ねた。
「そちらの『世界樹の里』は何を出品するの?」
「利用者さん達が書いた詩や俳句です。もちろん本人や家族には許可はとってますよ? ちなみに売り上げは、おやつや備品に使う予定です」
「素敵じゃない。売れるといいわね」
「ええ! 俺の合コンで鍛えたコミュ力で営業をガンガンかけてやりますから!」
拳を突き出す泰ちゃん、やる気十分に見える。
一方の龍、ずっと無表情で立っている村井におそるおそる尋ねた。
「そ、そちらは?」
「――TRPGのリプレイです」
TRPGとはテーブルゲームの一つで、紙や鉛筆、サイコロを用いながら遊ぶ。
人間同士の会話や各ゲームのそったルールで話を進めていく。
リプレイとはTRPGで遊んだ記録を紙などに記録に残したものだ。
日本や欧米諸国では、そのプレイ結果を小説に書き下ろすのが一般的である。
なお、有名な作品には『某島』があるがここでは割愛する。
「私ども世界樹の里のスタッフが繰り広げた冒険を記した『闇のダイスロールと銀の英雄達』。是非ともお買い求めくださいませ」
「は、はあ」
出す作品、彩るジャンルは様々。
それが読物マルシェという創作フェスティバルである。
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