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第五十七筆 彩り豊かな読物マルシェ!
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準備を終え、いよいよ読物マルシェが開幕した。
午前十時に開催され、この彩り豊かな同人誌即売会を訪れた人々は様々。
若い男女もいれば、親子連れ、中年のおじさんやおばさん、杖を突きながら歩くご高齢の方と幅広い。
出品作品も鮮やかなら、訪れる人々も鮮やかであった。
「ありがとうございました」
古田島は笑顔で感謝を述べる。
書いた作品である『月夜の竜と光の湖』が売れたのである。
時刻は既にお昼を過ぎ、午後の一時を周っていた。
椅子に売り子として座る龍は少し疲れていた。
古田島がお昼休憩にと席を離れときがあり、売り子として店番を任されたからである。
(つ、疲れた)
彼女がいない間に色々なことが起こった。
本をチラ見する客への「いらっしゃいませ」とRPGの店員みたいなテンプレな挨拶。
立ち読みしようとする不躾な客には「お客さん、見本なら別のところで見れるぜ」とニヒルな台詞。
古田島の本を買った「押忍! 買ってくれてまいどおおきに!」と手を十字に斬りながらの感謝。
様々なアイタタな接客サービスで少々疲れた。そもそも、接客自体が学生の時にやったコンビニでのバイト依頼。
馴れない仕事はやはり疲れるものだ。
(くっ……古田島が戻ってきた瞬間に売れ始めてやがる)
一時間ほどで古田島は戻ってきたが、彼女のいない間に売れた本はたった一冊のみ。
これがガチな仕事だったら「きちんと営業をかけたの?」と古田島に詰められたことだろう。
龍は思った「古田島の顔で本が売れてやがる」と。それはビジュアルだけの問題ではない。
来る客は古田島の知り合いや、ネットを通じて彼女の作品を知り購入する固定ファンだった。
実は古田島は個人サイトを開設しており、そこで自分の作品を掲載。SNSなどは作品内容を紹介しているらしい。
聞くところによると小説投稿サイトは全く利用していないとのことで独自路線を貫き、少ないながらもファンを獲得しているようだった。
「阿久津川くん、休憩に入ってもいいわよ」
古田島が龍に話しかけた。
なんと、休憩に入ってもよいとのことである。
「え?」
「お昼をまだ食べてないでしょう? 一時間くらい席を外してもいいわ」
「で、ではお言葉に甘えて」
その台詞の通り、古田島の言葉に甘えることにした。
龍は席を立ち、そそくさと移動。
その手には近所のパン屋で買ってきた『焼きそばパン』と『コーヒー牛乳』がある。
古田島には「言ったら作ってきてあげたのに」と言われたが、どうにも遠慮してしまう。
そんな遠足に行く子供のようなことは出来なかったのだ。
「食った、食った、飲んだ、飲んだ」
風紬交流館の休憩室で昼食を完了。
パン屋で買ってきた焼きそばパンであったが、職場で食するカップ麺よりうまかった。
パン職人として長年働いている人が作った手作りのパンであるからして、その味は上手かったのであろうと龍は思った。
長い年月をかければいいとは限らないが、少なくとも何かを時間をかけてやることは大切だ。
童話三匹のこぶたでも、最終的にはレンガの家を作ったこぶたが生き残った。
(今のWeb小説はインスタントなのかもしれないな)
ふと龍はそう思った。
Web小説の投稿サイトの書き手の多くは流行りだから参加し、あわよくば書籍化すればよいと思ってはいないだろうか。
龍自身もそうだったからだ。
もし『書籍化』という目標を達成したところで、毎年毎月のようにデビューする作家作品群に埋もれてしまうのが関の山。
SNSのポストを眺めても一人の作家として、その先をどうしたいか、何をしたいかがあまり見えないことが多い。
自分の作品を書籍化させて世に出し続けるのもそれはそれでよい。正しい商業作家の在り方であろう。
しかし、それだけでは物を工場で生産して出しているだけと一緒ではないか――。
「……折角来たんだ。ちょっと見回って見るか」
ここで考えてもしょうがない。
軽食を済ませた龍は読物マルシェを見回ることにした。
「ちょいと! ちょいと! あんた、梓ちゃんと一緒にいたお兄さんよね!」
(あ、あのときのおばさんだ)
龍が最初に来た場所はオーソドックスな小説のコーナー。
そのブースには、アレッサンドロに集まっていた創作者チームのメンバーであろうおばさんがいた。
出品する本のタイトルは『浮気は蜜の味、だけどカロリー高め』と書かれている。
タイトルから察するに不倫を描いた小説なのだろう。
「阿久津川さんでしたっけ? 僕とまーたんとの『愛の結晶』見ていきませんか」(まーたんの手にソフトタッチ)
「もう! ナオッキーったら! 照れるじゃない!」(ナオッキーの手にソフトタッチ)
(ちっ……こいつらもいたのか)
おばさんのブースの隣には、同じ創作者チームのナオッキーとまーたんがいる。
駒鳥学園大学の文芸サークル所属するが、ブースには二人しかいない。
後で聞いた話では『方向性の違い』ということで、他の部員達は大学の文芸部を代表して他のブースにいるらしい。
たぶんこの二人はあまりにもバカップルが過ぎて、サークル内で浮くために体よく追放されていると推測される。
二人の出品するタイトルは『愛欲の檻に囚われて』というものである。
「世間を知らない二人の本より、こっちを見ていきなよ。真実の愛はここに隠されているよ」
おばさんが不気味な笑顔で手招きする。
対するナオッキーとまーたんの二人、若干呆れたような顔になった。
「おばさんの不倫小説より、こっちの作品を見た方がいいですよ」
「私達の作品は『男女がイチャラブしながら囚われた屋敷から脱出する』お話なんですよ。面白そうでしょう?」
「は、はあ」(イチャラブってそれはお前ら二人のことだろ)
作品を薦めるナオッキーとまーたん。
おばさんは二人を小馬鹿にしたような顔で言った。
「はいはい、私も旦那と若い時はそんなお熱い時期がありましたよ。でもね、男は女に飽きるし、女は男に飽きるもんなんだよ。あんたらの愛とやらもいつまで続くことやら」
「な、なんだとっ! 僕とまーたんの愛は永遠だ!」
「大学を卒業したら結婚するって決めてるんですからねっ!」
案山子のように突っ立ってる龍を尻目に、おばさんと若者達のリアルレスバが始まった。
「お子様は幸せだね。あんたらのがんもどきよりも劣る恋愛もどきより、私の経験に基づいた作品の方が『愛』をリアルに描いているさね」
「ただの不倫本じゃないか!」
「どうせ、おかしなドラマを見過ぎて書いただけでしょう!」
「な、なんだって! 私の作品は昔にあった――」
龍は「そこで一生やってろ」と小さく呟いてその場を後にした。
SNSでのレスバも、リアルでやるとあんなに見苦しいものなのか、龍はそう思った。
なお、この二つのサークルは読物マルシェが終わる頃には仲直りしたらしい。
(本以外にもあるんだな)
次にやってきたのは、写真集や画集を出品するブースだ。
そこには古田島の表紙イラストを描いた、漫画家の騎士田浪漫がいた。
「ほう……君は古田島さんといた人だね」
龍に先に話しかけたのは騎士田の方だった。
ブースには彼の作品であろう漫画などは一切なかった。
優しいタッチの鉛筆で描かれた妖精や龍などのファンタジックな作品だ。
「ま、漫画はおかないんですか?」
「出版社や原作者の許可なく作品は置けないからね」
それもそうだと龍は思った。
騎士田はストギル小説のコミカライズ作品を描いているが、その権利は出版社や原作者にあるからだ。
しかし、理由はそれだけではないようだ。
「僕は元々絵本作家になりたくてね」
「え、絵本作家!?」
意外であった。
漫画家・騎士田浪漫は『本当は絵本作家になりたかった』というのだ。
「でも、自分でストーリーを考えると納得できないものばかりになってね。まずは絵本に使うイラストの画力だけを磨いていこうと、頑張っているうちに気づくと漫画家になってしまっていたのだ」
(どういう理屈だよ)
と心の中で突っ込む龍。
騎士田は、サンプルとしてイラスト作品をいくつかテーブルに並べている。
どれもが出している漫画作品の絵柄とは違っていた。そのどれもが美しく幻想的であった。
「そろそろ、漫画家は見切りをつけて絵本作家になるために始動しないとな」
騎士田は椅子に背もたれながら小さく呟いた。
龍はその言葉が気になり尋ねた。
「漫画家に見切り?」
「どうにも、担当する原作者がいい加減でね。作品の更新は止まって続きを描けないんだ」
「そ、そういえばそんなこと言ってましたね」
「あれは最初に担当した作家だ。今度は違う作家さんだね」
「え?」
「Webで作品を書いてる作家はプロフェッショナルなのかね? 口だけで約束は守らないし、SNSで愚痴っぽいポストばかりするし、こちらが未公開を頼んだのに平気でラフ画を出したヤツもいたっけな。中には問題発言をして連載が取り止めになったパターンもあったね」
龍は何も言えなかった。
自分は書籍化もコミカライズもしていないが『そういう話』はよく聞く。
「Web小説家とやらは『プロ面はするが仕事をしない人ばかり』で参っちゃうよ」
Web小説家の全員ではないが、作品を投稿する作家の母数が多い分、こうした関係者とのトラブルが絶えない。
そういう一部のWeb小説家のやらかしで、外野の一部から偏見の目で持って見られていたのは確かであった。
「と、ところで騎士田先生」
「なんだい?」
「あそこに並んでいるのは?」
「あれか……」
騎士田のブース近くには行列が並んでいた。
そこには「うーん、グランダム」と述べながら作品を渡す男がいた。
古田島の創作者チームにいたブロンソンなおっさんだ。
「オライリーの写真集が目当ての客だな」
「お、おらいりー?」
「おっさんが飼っているスコティッシュフォールドの名前さ。SNSでの投稿から発端に、その愛くるしいオライリーの姿が人気を集めている」
「そ、そうなんですか」
「ふむ、世の中は広いものだよ。実際に見て驚いたが、飼いネコの写真集があんなにも人気が出るだなんてね」
二人が会話していると、ブロンソンなおっさんがこちらを見た。
「これが……ネコの世界……」
ブロンソンなおっさんはそう述べながら、龍達にウインクを飛ばす。
龍が来ていることを気付いたらしい。
しかし、騎士田ではないが『世の中は広いもの』である。
「ネコ、最強ですね」
龍は感嘆の声を漏らし、騎士田も深く頷いた。
ネコの可愛さは、どんな小説やラノベにも負けない力を持っていたからだ。
午前十時に開催され、この彩り豊かな同人誌即売会を訪れた人々は様々。
若い男女もいれば、親子連れ、中年のおじさんやおばさん、杖を突きながら歩くご高齢の方と幅広い。
出品作品も鮮やかなら、訪れる人々も鮮やかであった。
「ありがとうございました」
古田島は笑顔で感謝を述べる。
書いた作品である『月夜の竜と光の湖』が売れたのである。
時刻は既にお昼を過ぎ、午後の一時を周っていた。
椅子に売り子として座る龍は少し疲れていた。
古田島がお昼休憩にと席を離れときがあり、売り子として店番を任されたからである。
(つ、疲れた)
彼女がいない間に色々なことが起こった。
本をチラ見する客への「いらっしゃいませ」とRPGの店員みたいなテンプレな挨拶。
立ち読みしようとする不躾な客には「お客さん、見本なら別のところで見れるぜ」とニヒルな台詞。
古田島の本を買った「押忍! 買ってくれてまいどおおきに!」と手を十字に斬りながらの感謝。
様々なアイタタな接客サービスで少々疲れた。そもそも、接客自体が学生の時にやったコンビニでのバイト依頼。
馴れない仕事はやはり疲れるものだ。
(くっ……古田島が戻ってきた瞬間に売れ始めてやがる)
一時間ほどで古田島は戻ってきたが、彼女のいない間に売れた本はたった一冊のみ。
これがガチな仕事だったら「きちんと営業をかけたの?」と古田島に詰められたことだろう。
龍は思った「古田島の顔で本が売れてやがる」と。それはビジュアルだけの問題ではない。
来る客は古田島の知り合いや、ネットを通じて彼女の作品を知り購入する固定ファンだった。
実は古田島は個人サイトを開設しており、そこで自分の作品を掲載。SNSなどは作品内容を紹介しているらしい。
聞くところによると小説投稿サイトは全く利用していないとのことで独自路線を貫き、少ないながらもファンを獲得しているようだった。
「阿久津川くん、休憩に入ってもいいわよ」
古田島が龍に話しかけた。
なんと、休憩に入ってもよいとのことである。
「え?」
「お昼をまだ食べてないでしょう? 一時間くらい席を外してもいいわ」
「で、ではお言葉に甘えて」
その台詞の通り、古田島の言葉に甘えることにした。
龍は席を立ち、そそくさと移動。
その手には近所のパン屋で買ってきた『焼きそばパン』と『コーヒー牛乳』がある。
古田島には「言ったら作ってきてあげたのに」と言われたが、どうにも遠慮してしまう。
そんな遠足に行く子供のようなことは出来なかったのだ。
「食った、食った、飲んだ、飲んだ」
風紬交流館の休憩室で昼食を完了。
パン屋で買ってきた焼きそばパンであったが、職場で食するカップ麺よりうまかった。
パン職人として長年働いている人が作った手作りのパンであるからして、その味は上手かったのであろうと龍は思った。
長い年月をかければいいとは限らないが、少なくとも何かを時間をかけてやることは大切だ。
童話三匹のこぶたでも、最終的にはレンガの家を作ったこぶたが生き残った。
(今のWeb小説はインスタントなのかもしれないな)
ふと龍はそう思った。
Web小説の投稿サイトの書き手の多くは流行りだから参加し、あわよくば書籍化すればよいと思ってはいないだろうか。
龍自身もそうだったからだ。
もし『書籍化』という目標を達成したところで、毎年毎月のようにデビューする作家作品群に埋もれてしまうのが関の山。
SNSのポストを眺めても一人の作家として、その先をどうしたいか、何をしたいかがあまり見えないことが多い。
自分の作品を書籍化させて世に出し続けるのもそれはそれでよい。正しい商業作家の在り方であろう。
しかし、それだけでは物を工場で生産して出しているだけと一緒ではないか――。
「……折角来たんだ。ちょっと見回って見るか」
ここで考えてもしょうがない。
軽食を済ませた龍は読物マルシェを見回ることにした。
「ちょいと! ちょいと! あんた、梓ちゃんと一緒にいたお兄さんよね!」
(あ、あのときのおばさんだ)
龍が最初に来た場所はオーソドックスな小説のコーナー。
そのブースには、アレッサンドロに集まっていた創作者チームのメンバーであろうおばさんがいた。
出品する本のタイトルは『浮気は蜜の味、だけどカロリー高め』と書かれている。
タイトルから察するに不倫を描いた小説なのだろう。
「阿久津川さんでしたっけ? 僕とまーたんとの『愛の結晶』見ていきませんか」(まーたんの手にソフトタッチ)
「もう! ナオッキーったら! 照れるじゃない!」(ナオッキーの手にソフトタッチ)
(ちっ……こいつらもいたのか)
おばさんのブースの隣には、同じ創作者チームのナオッキーとまーたんがいる。
駒鳥学園大学の文芸サークル所属するが、ブースには二人しかいない。
後で聞いた話では『方向性の違い』ということで、他の部員達は大学の文芸部を代表して他のブースにいるらしい。
たぶんこの二人はあまりにもバカップルが過ぎて、サークル内で浮くために体よく追放されていると推測される。
二人の出品するタイトルは『愛欲の檻に囚われて』というものである。
「世間を知らない二人の本より、こっちを見ていきなよ。真実の愛はここに隠されているよ」
おばさんが不気味な笑顔で手招きする。
対するナオッキーとまーたんの二人、若干呆れたような顔になった。
「おばさんの不倫小説より、こっちの作品を見た方がいいですよ」
「私達の作品は『男女がイチャラブしながら囚われた屋敷から脱出する』お話なんですよ。面白そうでしょう?」
「は、はあ」(イチャラブってそれはお前ら二人のことだろ)
作品を薦めるナオッキーとまーたん。
おばさんは二人を小馬鹿にしたような顔で言った。
「はいはい、私も旦那と若い時はそんなお熱い時期がありましたよ。でもね、男は女に飽きるし、女は男に飽きるもんなんだよ。あんたらの愛とやらもいつまで続くことやら」
「な、なんだとっ! 僕とまーたんの愛は永遠だ!」
「大学を卒業したら結婚するって決めてるんですからねっ!」
案山子のように突っ立ってる龍を尻目に、おばさんと若者達のリアルレスバが始まった。
「お子様は幸せだね。あんたらのがんもどきよりも劣る恋愛もどきより、私の経験に基づいた作品の方が『愛』をリアルに描いているさね」
「ただの不倫本じゃないか!」
「どうせ、おかしなドラマを見過ぎて書いただけでしょう!」
「な、なんだって! 私の作品は昔にあった――」
龍は「そこで一生やってろ」と小さく呟いてその場を後にした。
SNSでのレスバも、リアルでやるとあんなに見苦しいものなのか、龍はそう思った。
なお、この二つのサークルは読物マルシェが終わる頃には仲直りしたらしい。
(本以外にもあるんだな)
次にやってきたのは、写真集や画集を出品するブースだ。
そこには古田島の表紙イラストを描いた、漫画家の騎士田浪漫がいた。
「ほう……君は古田島さんといた人だね」
龍に先に話しかけたのは騎士田の方だった。
ブースには彼の作品であろう漫画などは一切なかった。
優しいタッチの鉛筆で描かれた妖精や龍などのファンタジックな作品だ。
「ま、漫画はおかないんですか?」
「出版社や原作者の許可なく作品は置けないからね」
それもそうだと龍は思った。
騎士田はストギル小説のコミカライズ作品を描いているが、その権利は出版社や原作者にあるからだ。
しかし、理由はそれだけではないようだ。
「僕は元々絵本作家になりたくてね」
「え、絵本作家!?」
意外であった。
漫画家・騎士田浪漫は『本当は絵本作家になりたかった』というのだ。
「でも、自分でストーリーを考えると納得できないものばかりになってね。まずは絵本に使うイラストの画力だけを磨いていこうと、頑張っているうちに気づくと漫画家になってしまっていたのだ」
(どういう理屈だよ)
と心の中で突っ込む龍。
騎士田は、サンプルとしてイラスト作品をいくつかテーブルに並べている。
どれもが出している漫画作品の絵柄とは違っていた。そのどれもが美しく幻想的であった。
「そろそろ、漫画家は見切りをつけて絵本作家になるために始動しないとな」
騎士田は椅子に背もたれながら小さく呟いた。
龍はその言葉が気になり尋ねた。
「漫画家に見切り?」
「どうにも、担当する原作者がいい加減でね。作品の更新は止まって続きを描けないんだ」
「そ、そういえばそんなこと言ってましたね」
「あれは最初に担当した作家だ。今度は違う作家さんだね」
「え?」
「Webで作品を書いてる作家はプロフェッショナルなのかね? 口だけで約束は守らないし、SNSで愚痴っぽいポストばかりするし、こちらが未公開を頼んだのに平気でラフ画を出したヤツもいたっけな。中には問題発言をして連載が取り止めになったパターンもあったね」
龍は何も言えなかった。
自分は書籍化もコミカライズもしていないが『そういう話』はよく聞く。
「Web小説家とやらは『プロ面はするが仕事をしない人ばかり』で参っちゃうよ」
Web小説家の全員ではないが、作品を投稿する作家の母数が多い分、こうした関係者とのトラブルが絶えない。
そういう一部のWeb小説家のやらかしで、外野の一部から偏見の目で持って見られていたのは確かであった。
「と、ところで騎士田先生」
「なんだい?」
「あそこに並んでいるのは?」
「あれか……」
騎士田のブース近くには行列が並んでいた。
そこには「うーん、グランダム」と述べながら作品を渡す男がいた。
古田島の創作者チームにいたブロンソンなおっさんだ。
「オライリーの写真集が目当ての客だな」
「お、おらいりー?」
「おっさんが飼っているスコティッシュフォールドの名前さ。SNSでの投稿から発端に、その愛くるしいオライリーの姿が人気を集めている」
「そ、そうなんですか」
「ふむ、世の中は広いものだよ。実際に見て驚いたが、飼いネコの写真集があんなにも人気が出るだなんてね」
二人が会話していると、ブロンソンなおっさんがこちらを見た。
「これが……ネコの世界……」
ブロンソンなおっさんはそう述べながら、龍達にウインクを飛ばす。
龍が来ていることを気付いたらしい。
しかし、騎士田ではないが『世の中は広いもの』である。
「ネコ、最強ですね」
龍は感嘆の声を漏らし、騎士田も深く頷いた。
ネコの可愛さは、どんな小説やラノベにも負けない力を持っていたからだ。
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