ワナビスト龍

理乃碧王

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第七十筆 やれ、ギアドラゴン!

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 魂の檄。
 龍は一人の創作者としてドラゴンソウルを放った。
 黒鳥のあまりにもマルチなやり方に怒りを覚えたからだ。

「え……あ……え……」
「だ、誰、あの人?」

 その声はダークワナビスト達の熱狂を打ち消し、たちまちに静寂をもたらした。
 今、全員の注目は黒鳥ではなく無名のWeb小説家、阿久津川龍太郎に集まっていた。

「ふっ……ふふっ……お、驚いたな……急に大声を出してさ」

 黒鳥は己の額からじんわりと汗が噴き出ることを覚える。
 突然のことに驚くも、ここはエサであるダークワナビスト達の前である。
 この黒きラノベ作家、黒鳥響士郎は冷静さを取り繕いながら龍を指差した。

「まだ質問コーナーには移っていないが?」
「あんたのやり方は創作を侮辱する行為だ」

 毅然と答える龍に対し、黒鳥はメガネをクイッと上げて尋ねた。

「無礼者の名前を聞いておこうか」
「俺は――」

 龍は深呼吸してから力強く答えた。

「ドラゴン……俺の名はギアドラゴン!」

 ――ドギャアアアアアン!

 という擬音が鳴り響いたかはともかく、衝撃が走った。
 龍が『ギアドラゴン』のペンネームを聞き、

「こ、この男が!」
「ギアドラゴンですってーっ!?」

 先に反応したのはカーミラとサクリンのグラトニーズ。
 続いて!

「ギアドラゴンさ……ん……?」

 かつての強筆敵とも! 紅蓮まうざりっと!

「ギアドラゴン?」
「どっかで聞いたでやんすね」
「アンチだ! アンチストギル梁山泊だったヤツだべ!」
「ほえ? そうだっけ? 普通にレイヴンクラブにいたような気もするけど」

 ギアドラゴンを知っている者も、そうでない者も、この突如として熱い激を飛ばした男に注目していた。

「誰なんだこいつは!」

 ――この男は何者ぞ!
 ――怒れるドラゴンの正体は!
 ――彼はワナビスト!
 ――物書きの三軍で燻り続けるWeb小説家!
 ――その名もギアドラゴン!

「ギアドラゴン……君があのまるぐりっとが認めた男か……」

 黒鳥は眼球をカメレオンのように回していた。
 次の行動パターン、言葉の返しをどうするのか考えているのだろう。
 荒れそうな講演会、このままでは炎上間違いなし。
 この講演の秩序を守るべき司会進行役の星ヶ丘は、

「おいっ☆」(指パッチンしながら)

 指を鳴らしながら注意する。

「ちょっ☆ おまっ☆ いきなり失礼だぜィ☆」(指パッチン左右で強く二回)

 星ヶ丘がいつもより指を強く鳴らすと――。

「うひょーい!」
「ケッケケーッ!」

 中央からやや後ろ、最右翼から最左翼から黒いカンフー着の男が立ち上がった。
 最右翼の男は坊主頭でつり目、最左翼の男はスキンヘッドのナマズひげだ。

「ご紹介するぜェ☆ そいつらはWeb小説家のドンとジャラ☆ 二人とも中国拳法の使い手だぜィ☆」(指パッチン連打)

 ドヤ顔の星ヶ丘。
 現れたのはドンとジャラ、両雄共にWeb小説家で最強黒鳥塾の塾生。
 ドンは太極拳の使い手、一方のジャラは蟷螂拳の使い手の手練れ。
 二人ともストギルのランキング外で燻っているダークワナビストだ。
 なお、どちらも異世界チーレムものを専門に書いている。

「ドン☆ ジャラ☆ その不届きものをつまみ出すんだぜ☆」(左右同時に指パッチン)

 二人はモンスタークレーマー用に雇われていた用心棒である。

「私は一向に構わん!」
「中国拳法でございます!」

 お得意の中国拳法で、龍を力づくでご退場させようとしたが――。

「まくがふっ!」

 太極拳使いのドンが倒れた。
 独古と呼ばれる両耳の後部にある急所を強かに突かれたのである。
 ※独古の打撃効果:即倒、鼓膜強劇、神経錯擾、平衡聴覚神経麻痺。

「お前がギアドラゴンだったとは驚いたぞ」
「ふ、不破さん!」

 ドンを倒したのは生ける屍作家、不破冬馬。
 彼は『実践中国拳法』なる胡散臭いマーシャルアーツの使い手。
 体力はスタミナFだが、点穴と呼ばれる急所突きを得意としている。
 そして、ネクロマン・レッドで活動していた元書籍化作家であるが、

「我が真名は『腐ったみかんスミス』! アンチストギル梁山泊の一角なり!」
「え、ええーっ! 不破さんが『腐ったリンゴかずや』だって!?」
「腐ったみかんスミスだ!」

 なんと! 腐ったみかんスミスの正体は不破冬馬だった!
 まだまだサプライズは終わらないぞーっ!

「~~~~ッ!」

 声にならない声が会場に響き渡る。
 サイレントな悲鳴の主は蟷螂拳の使い手ジャラだ。
 ジャラの禿げ頭は太い腕によりヘッドロックを極められている。
 シンプルにして強力なプロレス技はかなりの苦しみを伴うだろう。

「ギ、ギバー! ギブアップ! ギブアップ!」

 懸命に声を張り上げ降参のタップを叩くが、

「悪いが本業じゃあ『ヒールレスラー』でな!」

 ルチャリブレな白覆面の男はジャラを離さない。
 恵まれた体格とスタイルから、この男は捕まえたら離さないレスラーのようだ。

「オラアアアアア!」

 締め付けを強くする白覆面。

「わげすぱっ! くっ!」

 やがてジャラは気絶し、ぐったりと動かなくなった。

「ギアドラゴン、あんたがここにいるとはよく出来た台本ブックだな」

 白覆面の映画俳優の吹き替えのようなボイス。
 龍はその声に聞き覚えがあった。

「ま、まさか……その声はシュートが強いうまむすこさん!?」
「ふっ! 俺がここを荒そうと思ったのに先にやられるとは思わなかったぜ! ウィー!」

 白覆面の正体はシュートが強いうまむすこ。
 アンチストギル梁山泊の首領であり、プリティレスバダービーの二つ名を持つレスバトラーである。

「う、うひゃー! あの男はオレンジプロレスの『パワフルクラフト』だーっ!」

 龍の傍にいるガリメガネは体を小刻みに震わせている。
 ガリメガネはプヲタ (プロレスオタクの略)で、この白覆面のことを知っていた。

「だ、誰?」

 ガリメガネに尋ねる龍。
 そのガリメガネはオタク特有の早口で説明した。

「知る人ぞ知る! 地域密着型インディーズプロレス団体『オレンジプロレス』! そこに所属している技巧派ヒールレスラーだ! 俺達プヲタの間では確かなレスリングテクニックを持つレスラーで知られているんだぜ! 週刊レッスルのインタビューでは『俺はアニオタ』を公言! こっそりWeb小説を書いて投稿していることを発表していた! ま、まさか……まさかのパワフルクラフトが……! アンチストギルの首領とは思わなかったぜーっ! うひひひひひィ!」

 高速での早口のガリメガネに龍は思った。

(ごめん、早口すぎて何を言っているのかわからない)

 残念! 聞きとれなかった!
 ともかく、シュートが強いうまむすこの正体は『その界隈では著名人』であることは理解出来た。

「君の創作道を見せつけるときぞ!」

 不破はそう述べ、指ぬきグラブで髪をかき分ける。

「お前さんは訊きたいンだろ! 言ってやりたいンだろ!」

 続いて、パワフルクラフトはそう熱く伝える。

「「やっちまいな! ギアドラゴン!」」

 ハモる『シュートが強いうまむすこパワフルクラフト』と『腐ったみかんスミス不破冬馬』。
 まさに漢のミュージカル。
 何だか一昔前の週刊少年漫画的な熱い展開だ。

「俺は……俺は……」

 しかし、龍は戸惑っていた。
 ハッキリいって、ノリと勢いに任せて言っちゃった部分がある。
 思わず吼えちゃったが、次の台詞が全然浮かばない。
 龍はフリーズして立ち止まってしまう。

「狼狽えるな!」
「ッ!」

 どこからともなく不思議な声が聞こえた。

「話がまとまらずとも、君は君の考えを述べるべきだ」
「き、騎士田浪漫先生!」

 龍と同じく講演に参加する騎士田浪漫、漫画家のアドバイスだ。

「あの読物マルシェで何かを掴んだのではないのか」
「え?」
「あの日の打ち上げで、古田島さんが嬉しそうな顔で言っていたぞ。君の表情がどこか頼もしくなったと」
「……古田島さん」
「誰かの受け売りではない、自分の想いをぶつけてやれ」

 緑のナップザックを見つめる龍。
 この中には彼にとって、大切なものが入っている。

「そうだった! 俺は黒鳥だけでない、全員に訊きたいんだ! 創作とは何かを!」

 龍はナップザックから本を取り出す。
 その本のタイトルの名は『世界樹の記憶』――。
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