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ダスクフェザー文庫からのお知らせだぜ☆
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ワナビスト龍の物語は完結するも――。
どこからともなくマッチョマンな音楽が流れる。
ヘイ☆ ヘイ☆ ヘイヘイヘイ☆(トンファーを振り回しながら)
お前ら息してるゥ☆ (指パッチンしながら)
オイラはダスクフェザー文庫の編集、星ヶ丘墨染だぜ☆(指パッチンしながら)
小説は面白かっただろ☆(指パッチンしながら)
龍の勇気が創作の未来を救うと信じてだぜ☆(指パッチンしながら)
ワナビスト龍のご愛読ありがとうございましただぜ☆(左右で指パッチンしながら)
ここでオイラから新刊の紹介として『サンプル』を送るぜ☆ ワイルドだろゥ☆(連打で指パッチンしながら)
――――――
「くっ……この僕が二次選考で落選だと!」
暗い部屋に一人の若者がいた。
彼の名前は荒川亜鐘、キラキラネームの19歳である。
なお、漢字にフリガナを打つのが面倒なので以降アベルで統一する。
「自信作の追放ものだったのに……何がいけなかったんだ」
アベルは四五六小説大賞の二次選考通過のお知らせを見ていた。
これは所謂一つのWeb小説のコンテスト。
そこに投稿した自身の作品がなかったのである。
「バカな、この天才高校ラノベ作家と言われた僕が」
アベルは書籍化作家である。
彼はペンネーム『アラン・クロニクル』で『電脳小説大賞』に入賞した過去を持つ。
作品名は『戦力外野球戦士のストレート無双 ~ストレートゴリラの俺はニンフに惚れられて~』というクソ長タイトル。
追放ものの作品でゴールド賞に輝いた。
当時、高校二年生だった彼はネット上でもてはやされ『天才高校ラノベ作家』と呼ばれた。
しかし、それは束の間の栄光であった。
「僕は天才なのに!」
書籍化したはいいが「面白くない」ので爆死したのである。
ネット上では「審査員、テメェの目は節穴か、レンコンか、腐り果てたのか?」と何故か審査員側が責められてしまった。
以降、彼は「とんだ一杯食わせ作家」と呼ばれてしまうことになる。
野球で例えると鳴り物入りで入団した超高校級が、全くの期待外れだったのと一緒だった。
「ノホホホ! 二次選考で落ちるとは片腹痛いでおじゃるな!」
「ぬっ!」
アベルの耳にはヘッドフォンが当てられている。
ボイスチャットで悪筆敵と会話しながら、四五六小説大賞の選考を一緒に眺めていたのである。
「う、うるさいぞ! 魔鷹野! よく見たら君だって落選しているじゃあないか!」
「な、何と! ウソでおじゃろう!?」
「よく見ろ! 君の名前を何度探してもない、一緒に落選したのさ!」
「ま、まことでおじゃる……麿の作品がない! いとくやし!」
会話するのは同じ書籍化作家、魔鷹野モヤ時貞。
ラノベ作家のオフ会で出会い、彼らは意気投合して悪筆敵となった。
「ふん! ザコめ、これで偉そうに創作論をSNSで語れなくなったな」
「な、何を! 一発屋に言われたくないわ! 麿はまだ二作品の書籍化! 一作品のコミカライズをしておじゃる!」
「数を誇るなんて恥ずかしいぞ魔鷹野! 僕はまだ若く未来がある! これからさ! これからやってやる!」
売り言葉に買い言葉。
二人とも結局爆死したラノベ作家なのには変わらない。
「やめようぞ……アラン……ここで言い争っても仕方ない」
「そ、そうだね……」
しんみりする二人。
二人は専業作家であるが、出版社からの執筆依頼はない状態。
派遣やアルバイトの仕事をしながら食いつないでいた。
特にアベルは受賞してしまったことで調子に乗り、進学も就職も全く考えなかった。
今からでも受験勉強や就職活動すればいいのだが、彼はラノベにしがみついていたのだ。
「それよりも明日はコミケぞ。楽しみでおじゃるな」
「うん! 僕なんか気合を入れてコスプレしちゃってるよ!」
「ノホ! コミケは明日であるぞ? 全くおかしな男でおじゃる」
アベルはアホな格好をしていた。
頭は金髪に染め、目はブルーのカラーコンタクト。
身につけるのは、どこで買ったか知らない青に染めたプラスチック製の鎧だ。
まるでRPGゲームの勇者のような姿――。
これは人気VRMMO『ドーン・オブ・レガリア』に登場するアデルガッドのコスプレである。
苗字の荒川、名前のアベル、ペンネームのアラン、コスプレはアデルガッド。
ああああ――。
何ともアベルは「あ」と縁がある男だった。
「買うぞグッズ、撮るぞコスプレイヤー! アハハハ!」
明日はコミケ。
元々アニメや漫画が好きなアベルは楽しみにしていた。
電脳小説大賞の結果は忘れ、思う存分オタクグッズを買ったり、可愛いコスプレイヤーの女の子と話すことが出来るからだ。
妄想にふけるアベル、このままではダメ人間まっしぐらだ。
「ドララ! 一人で何を喋っとんねん!」
アベルの部屋に元気な声が木霊した。
何者かが侵入してきたのである。
「お、お姉ちゃん!」
「うわっ! 亜鐘、あんたなんちゅー恰好をしとるんや!」
「か、勝手に入ってくるなよ!」
「勝手もクソもあるかい、頭の悪そうな服装をしよってからに!」
「こ、これはアデルガッドと言って……」
「知るかいな、そんなハズレ外国人みたいな名前」
彼女はアベルの姉、月夢杏。
ワナビスト龍の本編に登場した水差しポニーテール女子だ。
こちらも、漢字にフリガナを打つのが面倒なので以降ルノアで統一する。
「全く、部屋からブツブツと独り言が聞こえてきたので来てみると――」
「ど、どうしたでおじゃるかアラン! 女のアニメ声が聞こえたでおじゃる! まさか彼女でおじゃるか!?」
「ちっ……またこの公家野郎かいな」
ルノアはずんずんと迫ると、
「ドラア!」
電源ボタンを長押し。
アベルのパソコンを強制終了させた。
「う、うわっ! 何をするんだよ! 無理矢理そんなことしたら、パソコンが壊れちゃうじゃないか!」
「やかましい! うちはお前を護るためにやったんや! それとエエ加減に知らん人間と話をするな! 絶対に亜鐘を闇バイトの仲間にはさせへんで!」
「や、闇バイトって……僕はラノベ作家なんだからするわけないじゃないか」
ラノベ作家。
その言葉を聞いたルノアは般若のような顔をする。
「ああん? 何がラノベ作家や。雀の涙のような収入で何が出来るねんな」
「う、うるさいな! そんなの僕の勝手だろ! これから売れっ子作家になるんだ! ざまあするんだ!」
弟の言葉を聞いたルノアは小馬鹿にしたような顔をした。
「ほーん……ほなら、いつお前は売れるんや。家に金も入れんと偉そうな口を叩きよってからに」
姉のルノアは地元企業の食品会社『仁王ハム』に勤めている。
少ない給料を家に入れ、家計を助けていた。
一方のアベルはラノベ作家といえど、ほぼ無職。転生のない無職。肩書だけある無職だ。
「う、うぐっ……」
「高校を卒業してからまる一年。頼みの小説も売れず、あんたはこれからどうすんねんな」
「そ、それは……」
暗い顔をするアベル。
実のところ、彼は本気でラノベ作家になりたかったわけではなかった。
彼は小さい頃から野球をしており、中学生のとき地元ではそれなりに有名な投手だった。
運命に狂い始めたのは中学生の夏、彼は肘を故障して断念。
強豪校からのスカウトの話もなくなり、虚無の生活が続いた。
そんな生活が続いたアベルは好きだったアニメや漫画に逃げ込み、その過程でラノベやWeb小説のことを知る。
試しに書いた作品は最初は全く評価されなかったが、取り組むうちに受けるコツを見つけ、試しにコンテストに出した作品が受賞したに過ぎない。
「お父ちゃんも、お母ちゃんも心配しとる。それにうちも……頼むから正規の仕事についてくれ! 一生のお願いや!」
涙ぐむ姉のルノア。
これには流石のアベルも「はい」と返事をするしかない。
自分でもこのままではダメだと薄々感じていたからだ。
「わ、わかったよ……」
とりあえず返事をするアベル。
でも、真剣にどうこうする気はない。
適当に返事をして、ここは何とか乗り切ろうとした。
本当にダメなやつやな、お前は。
「よっしゃ! よっしゃ!」
ルノアは満面の笑みを浮かべる。
「今からお姉ちゃんが働く、仁王ハムの面接に行くで」
「は?」
面接。
姉のルノアは確かにそう述べた。
「はよ、スーツに着替えるんや。頭も黒染めして欲しいところやが、時間がないのでそのままでいくで」
「な、何を言っているんだよ……超展開過ぎて何を言ってるのかわからないよ!」
「言葉の通りよ、亜鐘はコネで仁王ハムに就職するんや。最初は給料が低いけど、そこは我慢するんやで」
嵐のような急展開。
アベルはこれからお姉ちゃんが働く『仁王ハム』の面接を受けなければならない。
つまり、急遽トライアウトが行われることになるのだ。
「ぼ、僕が働くというのか! そんな急に……それにコネってどういうことだよ」
「仁王ハムで野球チームが作られることになってな。そこで弟のあんたに手伝って欲しいんや」
な、なんと!
仁王ハムの野球チームの選手としての勧誘! スカウトだ!
敗北ラノベ作家の新たな道が開いた!
しかし、思い出して欲しい――。
「バカなことを言わないでくれ! 僕の右肘は壊れているんだ!」
そう、アベルのゴールデンアームは壊れている。
だが、幼いときから弟を見守るルノア姉ちゃんは知っています。
「亜鐘、あんた実は左利きや! お父ちゃんに矯正されて右利きになってただけや!」
「な、何だって……」
「お父ちゃん本当はバスケが好きで息子にやらせたかったが、近所に少年野球のチームしかなかったから野球をやらせただけや。つまり野球の知識が乏しく、サウスポーがレアものであることを知らんで亜鐘の野球の才能を右腕に消費させとったというワケや」
「つまり、父さんは僕が肉体強化型なのに物質創造型や操縦型のスキルを修行をさせていたと……」
「例え話がオタク過ぎてわからんけど、とりあえずそういうこっちゃな」
アベルは首を横に振る。
まだ現実を飲み込めていなかった。
「そんなの後付けだよ! いきなり『お前は左利きでした』とかご都合主義だ! 理屈がない! 理論がない!」
「ええーいっ! 細かいことをいちいち突っ込むなーっ! 男は度胸や! どんといけや!」
むんずとアベルの首根っこを掴むルノア。
小柄ながらその力は百万馬力である。
アベルをグイと引っ張り部屋から連れ出した。
「征くで! 夢はプロ野球選手や!」
「な、何でそうなるんだ! 僕はラノベ作家だぞ!」
「そんな銭にならん商売より! プロ野球選手の方が儲かるでーっ!」
「おい! 何で僕がプロ野球選手にならなくちゃならないんだ! こんな超展開は昭和の代で終わりにしろーっ!」
強制的イベントの発生。
ラノベ作家アベルは、これより仁王ハムの面接を受けることになった。
彼が待ち受ける運命は果たして――。
※サンプルはここまです。
――――――
質実剛健のライトノベルがここに解禁!
ここにアベルの『ラノベ作家』と『野球選手』の『二刀流伝説』が始まる!
ルノアお姉ちゃんの闘将指導! コンプライアンスがなんぼのもんじゃい!
ちょこちょこ稼いでますか? 夢はメジャーと契約金50億ドルや!
――新刊『投げるラノベ作家アベル!』第一巻。
ダスクフェザー文庫より、甲子園で熱い夏頃に発売しない!
人の数だけ物語はある――。
どこからともなくマッチョマンな音楽が流れる。
ヘイ☆ ヘイ☆ ヘイヘイヘイ☆(トンファーを振り回しながら)
お前ら息してるゥ☆ (指パッチンしながら)
オイラはダスクフェザー文庫の編集、星ヶ丘墨染だぜ☆(指パッチンしながら)
小説は面白かっただろ☆(指パッチンしながら)
龍の勇気が創作の未来を救うと信じてだぜ☆(指パッチンしながら)
ワナビスト龍のご愛読ありがとうございましただぜ☆(左右で指パッチンしながら)
ここでオイラから新刊の紹介として『サンプル』を送るぜ☆ ワイルドだろゥ☆(連打で指パッチンしながら)
――――――
「くっ……この僕が二次選考で落選だと!」
暗い部屋に一人の若者がいた。
彼の名前は荒川亜鐘、キラキラネームの19歳である。
なお、漢字にフリガナを打つのが面倒なので以降アベルで統一する。
「自信作の追放ものだったのに……何がいけなかったんだ」
アベルは四五六小説大賞の二次選考通過のお知らせを見ていた。
これは所謂一つのWeb小説のコンテスト。
そこに投稿した自身の作品がなかったのである。
「バカな、この天才高校ラノベ作家と言われた僕が」
アベルは書籍化作家である。
彼はペンネーム『アラン・クロニクル』で『電脳小説大賞』に入賞した過去を持つ。
作品名は『戦力外野球戦士のストレート無双 ~ストレートゴリラの俺はニンフに惚れられて~』というクソ長タイトル。
追放ものの作品でゴールド賞に輝いた。
当時、高校二年生だった彼はネット上でもてはやされ『天才高校ラノベ作家』と呼ばれた。
しかし、それは束の間の栄光であった。
「僕は天才なのに!」
書籍化したはいいが「面白くない」ので爆死したのである。
ネット上では「審査員、テメェの目は節穴か、レンコンか、腐り果てたのか?」と何故か審査員側が責められてしまった。
以降、彼は「とんだ一杯食わせ作家」と呼ばれてしまうことになる。
野球で例えると鳴り物入りで入団した超高校級が、全くの期待外れだったのと一緒だった。
「ノホホホ! 二次選考で落ちるとは片腹痛いでおじゃるな!」
「ぬっ!」
アベルの耳にはヘッドフォンが当てられている。
ボイスチャットで悪筆敵と会話しながら、四五六小説大賞の選考を一緒に眺めていたのである。
「う、うるさいぞ! 魔鷹野! よく見たら君だって落選しているじゃあないか!」
「な、何と! ウソでおじゃろう!?」
「よく見ろ! 君の名前を何度探してもない、一緒に落選したのさ!」
「ま、まことでおじゃる……麿の作品がない! いとくやし!」
会話するのは同じ書籍化作家、魔鷹野モヤ時貞。
ラノベ作家のオフ会で出会い、彼らは意気投合して悪筆敵となった。
「ふん! ザコめ、これで偉そうに創作論をSNSで語れなくなったな」
「な、何を! 一発屋に言われたくないわ! 麿はまだ二作品の書籍化! 一作品のコミカライズをしておじゃる!」
「数を誇るなんて恥ずかしいぞ魔鷹野! 僕はまだ若く未来がある! これからさ! これからやってやる!」
売り言葉に買い言葉。
二人とも結局爆死したラノベ作家なのには変わらない。
「やめようぞ……アラン……ここで言い争っても仕方ない」
「そ、そうだね……」
しんみりする二人。
二人は専業作家であるが、出版社からの執筆依頼はない状態。
派遣やアルバイトの仕事をしながら食いつないでいた。
特にアベルは受賞してしまったことで調子に乗り、進学も就職も全く考えなかった。
今からでも受験勉強や就職活動すればいいのだが、彼はラノベにしがみついていたのだ。
「それよりも明日はコミケぞ。楽しみでおじゃるな」
「うん! 僕なんか気合を入れてコスプレしちゃってるよ!」
「ノホ! コミケは明日であるぞ? 全くおかしな男でおじゃる」
アベルはアホな格好をしていた。
頭は金髪に染め、目はブルーのカラーコンタクト。
身につけるのは、どこで買ったか知らない青に染めたプラスチック製の鎧だ。
まるでRPGゲームの勇者のような姿――。
これは人気VRMMO『ドーン・オブ・レガリア』に登場するアデルガッドのコスプレである。
苗字の荒川、名前のアベル、ペンネームのアラン、コスプレはアデルガッド。
ああああ――。
何ともアベルは「あ」と縁がある男だった。
「買うぞグッズ、撮るぞコスプレイヤー! アハハハ!」
明日はコミケ。
元々アニメや漫画が好きなアベルは楽しみにしていた。
電脳小説大賞の結果は忘れ、思う存分オタクグッズを買ったり、可愛いコスプレイヤーの女の子と話すことが出来るからだ。
妄想にふけるアベル、このままではダメ人間まっしぐらだ。
「ドララ! 一人で何を喋っとんねん!」
アベルの部屋に元気な声が木霊した。
何者かが侵入してきたのである。
「お、お姉ちゃん!」
「うわっ! 亜鐘、あんたなんちゅー恰好をしとるんや!」
「か、勝手に入ってくるなよ!」
「勝手もクソもあるかい、頭の悪そうな服装をしよってからに!」
「こ、これはアデルガッドと言って……」
「知るかいな、そんなハズレ外国人みたいな名前」
彼女はアベルの姉、月夢杏。
ワナビスト龍の本編に登場した水差しポニーテール女子だ。
こちらも、漢字にフリガナを打つのが面倒なので以降ルノアで統一する。
「全く、部屋からブツブツと独り言が聞こえてきたので来てみると――」
「ど、どうしたでおじゃるかアラン! 女のアニメ声が聞こえたでおじゃる! まさか彼女でおじゃるか!?」
「ちっ……またこの公家野郎かいな」
ルノアはずんずんと迫ると、
「ドラア!」
電源ボタンを長押し。
アベルのパソコンを強制終了させた。
「う、うわっ! 何をするんだよ! 無理矢理そんなことしたら、パソコンが壊れちゃうじゃないか!」
「やかましい! うちはお前を護るためにやったんや! それとエエ加減に知らん人間と話をするな! 絶対に亜鐘を闇バイトの仲間にはさせへんで!」
「や、闇バイトって……僕はラノベ作家なんだからするわけないじゃないか」
ラノベ作家。
その言葉を聞いたルノアは般若のような顔をする。
「ああん? 何がラノベ作家や。雀の涙のような収入で何が出来るねんな」
「う、うるさいな! そんなの僕の勝手だろ! これから売れっ子作家になるんだ! ざまあするんだ!」
弟の言葉を聞いたルノアは小馬鹿にしたような顔をした。
「ほーん……ほなら、いつお前は売れるんや。家に金も入れんと偉そうな口を叩きよってからに」
姉のルノアは地元企業の食品会社『仁王ハム』に勤めている。
少ない給料を家に入れ、家計を助けていた。
一方のアベルはラノベ作家といえど、ほぼ無職。転生のない無職。肩書だけある無職だ。
「う、うぐっ……」
「高校を卒業してからまる一年。頼みの小説も売れず、あんたはこれからどうすんねんな」
「そ、それは……」
暗い顔をするアベル。
実のところ、彼は本気でラノベ作家になりたかったわけではなかった。
彼は小さい頃から野球をしており、中学生のとき地元ではそれなりに有名な投手だった。
運命に狂い始めたのは中学生の夏、彼は肘を故障して断念。
強豪校からのスカウトの話もなくなり、虚無の生活が続いた。
そんな生活が続いたアベルは好きだったアニメや漫画に逃げ込み、その過程でラノベやWeb小説のことを知る。
試しに書いた作品は最初は全く評価されなかったが、取り組むうちに受けるコツを見つけ、試しにコンテストに出した作品が受賞したに過ぎない。
「お父ちゃんも、お母ちゃんも心配しとる。それにうちも……頼むから正規の仕事についてくれ! 一生のお願いや!」
涙ぐむ姉のルノア。
これには流石のアベルも「はい」と返事をするしかない。
自分でもこのままではダメだと薄々感じていたからだ。
「わ、わかったよ……」
とりあえず返事をするアベル。
でも、真剣にどうこうする気はない。
適当に返事をして、ここは何とか乗り切ろうとした。
本当にダメなやつやな、お前は。
「よっしゃ! よっしゃ!」
ルノアは満面の笑みを浮かべる。
「今からお姉ちゃんが働く、仁王ハムの面接に行くで」
「は?」
面接。
姉のルノアは確かにそう述べた。
「はよ、スーツに着替えるんや。頭も黒染めして欲しいところやが、時間がないのでそのままでいくで」
「な、何を言っているんだよ……超展開過ぎて何を言ってるのかわからないよ!」
「言葉の通りよ、亜鐘はコネで仁王ハムに就職するんや。最初は給料が低いけど、そこは我慢するんやで」
嵐のような急展開。
アベルはこれからお姉ちゃんが働く『仁王ハム』の面接を受けなければならない。
つまり、急遽トライアウトが行われることになるのだ。
「ぼ、僕が働くというのか! そんな急に……それにコネってどういうことだよ」
「仁王ハムで野球チームが作られることになってな。そこで弟のあんたに手伝って欲しいんや」
な、なんと!
仁王ハムの野球チームの選手としての勧誘! スカウトだ!
敗北ラノベ作家の新たな道が開いた!
しかし、思い出して欲しい――。
「バカなことを言わないでくれ! 僕の右肘は壊れているんだ!」
そう、アベルのゴールデンアームは壊れている。
だが、幼いときから弟を見守るルノア姉ちゃんは知っています。
「亜鐘、あんた実は左利きや! お父ちゃんに矯正されて右利きになってただけや!」
「な、何だって……」
「お父ちゃん本当はバスケが好きで息子にやらせたかったが、近所に少年野球のチームしかなかったから野球をやらせただけや。つまり野球の知識が乏しく、サウスポーがレアものであることを知らんで亜鐘の野球の才能を右腕に消費させとったというワケや」
「つまり、父さんは僕が肉体強化型なのに物質創造型や操縦型のスキルを修行をさせていたと……」
「例え話がオタク過ぎてわからんけど、とりあえずそういうこっちゃな」
アベルは首を横に振る。
まだ現実を飲み込めていなかった。
「そんなの後付けだよ! いきなり『お前は左利きでした』とかご都合主義だ! 理屈がない! 理論がない!」
「ええーいっ! 細かいことをいちいち突っ込むなーっ! 男は度胸や! どんといけや!」
むんずとアベルの首根っこを掴むルノア。
小柄ながらその力は百万馬力である。
アベルをグイと引っ張り部屋から連れ出した。
「征くで! 夢はプロ野球選手や!」
「な、何でそうなるんだ! 僕はラノベ作家だぞ!」
「そんな銭にならん商売より! プロ野球選手の方が儲かるでーっ!」
「おい! 何で僕がプロ野球選手にならなくちゃならないんだ! こんな超展開は昭和の代で終わりにしろーっ!」
強制的イベントの発生。
ラノベ作家アベルは、これより仁王ハムの面接を受けることになった。
彼が待ち受ける運命は果たして――。
※サンプルはここまです。
――――――
質実剛健のライトノベルがここに解禁!
ここにアベルの『ラノベ作家』と『野球選手』の『二刀流伝説』が始まる!
ルノアお姉ちゃんの闘将指導! コンプライアンスがなんぼのもんじゃい!
ちょこちょこ稼いでますか? 夢はメジャーと契約金50億ドルや!
――新刊『投げるラノベ作家アベル!』第一巻。
ダスクフェザー文庫より、甲子園で熱い夏頃に発売しない!
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※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
教科書のように読んでいます、作中も笑いどころが隙なく描かれていて、楽しく学べます。
自分は荒木先生から始まった執筆です。
需要が無いこと、それでも書きたいことを、龍と一緒に手探りしてる気持ちです。
いまじゃがいもを過ぎて龍は電撃大賞一次通過の落選にいます。さらに読みます、腑に落ちる面白いものを探していました。
もっと早く龍に出会ってWeb小説を学べば良かった、と、深いため息が出たり、また、こちらの作品が面白かったから、一話の文字数はこれくらいがいいのか、とか、スっと染みます。納得です。
納得はすべてに優先するぜッ!!
と、7部の鉄球使いも言ってます。
今後も楽しく読ませていただきますね。
燎 空綺羅様ッッ!
熱い、熱い感想を言葉ではなく心で理解できたッ!
正直、私や龍ごときが語れることはありませんがッ!
心に響いてよかった!ディ・モールト・ベネッ!
まだ3話までしか読んではないですが、3話で一旦止めることができた自分を褒めたいくらいです
予想以上に面白くて、自分の執筆時間を削ってしまう……
「幸田露伴は動かない3」と「荒木飛呂彦の漫画術」を昨日、楽天ブックスで注文したばかりの私には冒頭からいろいろ刺さりまくりでした!!
今日の分の執筆終わったら続き読みに伺います!!
ヤバい作品を見つけてしまった感があります
瀬崎由美様ッ!
コメントありがとうございますッッ!
今作品は「Web小説あるある」だけに終わらないよう努めてたりッ!
今後とも、よろしくお願いいたしますッ!
楽しく読ませていただいてます
あるあるって思ってたらドモン出て来てつい感想書いてしまいましたwww
最後まで読むつもりです
やまだごんた様ッッ!
感想、誠にありがとうッございますッッ!
テンションは高いけどッ!後半は多少落ち着くぜッ!
最後まで楽しんで頂ければッ!幸いですッッ!