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第一話
しおりを挟む「アチスオキエサフンークオユシアケシ! ウレラウクサヒアケセデロク」
「イアズンーバクンエディシアツオ!」
華火の耳に届いたのは、聞いたことのない不思議な響きを持つ声だった。呆然としながら、何故こんなことになったのだろうと、途方に暮れる。
どうすることも出来ず、サンダルの下の真っ赤な絨毯に視線を向けていると、背後から妹の―――と言っても、親の再婚で妹になった義理の妹―――声が聞こえ、そちらに視線を向けていた。
「異世界召喚? どういうこと? 世界が救われる?」
義理の妹である、山田恭子は、帰宅してから未だに制服から着替えていなかったようで、制服のリボンを手でいじりながらそう口にしていたのだ。
恭子は、明るく染めた茶色の髪と明るいメイクの今どきの女子高生と言った姿をしていた。
一方、華火は帰宅後、すぐにシャワーを浴びて、ゆったりとしたシャツとハーフパンツ姿となっていた。
ただし、普段からメイクなどしていない華火は、すっぴんなど気にもしていないが、その顔はとても美しいものだった。
全体的に線が細く、小柄な華火だったが、丸く大きな榛色の瞳と、さらさらと揺れる黒髪、白く柔らかい肌は陶器のような美しさがあった。
不安に揺れる瞳は見る者の庇護欲をそそった。
ただし、それは平常時であればだ。
今この瞬間、華火を取り囲む環境はカオスだった。
謎の言葉を喋る見慣れない服を着た人々、西洋の城のような場所。
極めつけは、謎の言葉を喋る人々が興奮した様子で、恭子に熱い視線を送っている状況に華火は気が遠くなりそうになっていた。
それだけではなく、恭子だけがこの状況を理解していて、自分だけが何も分かっていない状況に華火は、不安で胸が押し潰されそうになり、視界がグラグラと揺れていた。
「へえぇ……。それじゃあ、あたしは、貴方たちにとってとぉぉっても大切なお客様ってことなのね?」
「ウセドゥオス。ウサミエチストハヘラウェラヲウコユルオユコナタガマサタナ」
「ふーん。へー。それって、あたしに特別な力があるから?」
「ウサミアゾゲドゥオヤス」
恭子は、黒いローブを着た学者らしき男と何やら話していたが、華火には男が何を言っているのか全く理解することができなかった。
しかし、恭子は会話の途中何度も華火をチラチラと横目で見ながら、にやにやとした顔で話を続けていた。
「ふふふ。それじゃあ、力がない人ってどういう扱いになるのかな?」
「イアッチアヘロス?」
「とっても残念なことなのだけれど、あそこにいる子、貴方たちの言葉が分からないみたいなのよね……。それって、この世界に歓迎されていない証拠だと思うのよ」
「エッツセヅンアン?! アンノス……。オツラクザソヲガキニアソンナクオユサヘヅンークンウブ……」
「本当よ。試しにあの子に何か言ってみたらわかるわよ」
「アチサミラカウ。ウサミスオモツスヴェンオニスオハムオッチハヒサタウ。アクオユセディーソロヨメッタガクオウェアマノーナマサタナ?」
恭子に華火を試すように言われた男は、華火の方を向き、膝を折った姿で何かを問いかける。
しかし、華火には、男の言葉が全く理解できなかった。一見、優しい微笑みに見えるが、全く理解できない謎の言葉を放つ男に華火は恐怖しか感じなかったのだ。
両手を胸元で握りしめた華火は、恐怖で頭がおかしくなってしまいそうだった。
「な……なに? 分からない……。なんて言っているの? 怖い……。恭子? ねえ、この人はなんて言っているの?」
涙目で恭子に向かってそう言葉を放つ華火を見た男は、驚いた表情をした後に小さく何かを言ったのだ。
「アドトケツンアン……」
その言葉に、恭子は華火にだけ見えるような位置で顔を歪める。
それは、華火を心の底から嘲笑うような、そんな歪んだ表情だった。
それを見た華火は、手足がしびれ、全身がガタガタと震えてしまっていた。
華火は、恭子のその表情で理解したのだ。
(恭子のあの目……。わたし、恭子から見放されたんだ……。恭子は言葉も状況も分かっているみたいだけど、わたしに教える気はないってことだけは分かった。分かったけど……、どうしたらいいの? 怖い怖い怖い怖い! 誰か、誰か教えて、わたしはどうしたらいいの!)
意味の分からない言葉を耳にするたびに華火の呼吸は早くなっていく。そして、華火の意識は真っ黒に塗りつぶられたのだった。
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