わたしを嫌う妹の企みで追放されそうになりました。だけど、保護してくれた公爵様から溺愛されて、すごく幸せです。

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
73 / 111
翻訳版

第十七話

しおりを挟む
 華火の日々に少しだけ変化が起こっていた。
 それは、ウェインとマリア以外の公爵邸の人間と過ごす時間がほんの少し増えたということだった。
 ウェインが仕事に行っている間の過ごし方が変わっていたのだ。
 庭園で花の水やりや、時には花の苗を植えるのを手伝ったりもしたのだ。
 そして時には、調理場で野菜の皮を剥いたり、ウェインの為のお菓子や軽食を作ったりというものだ。
 
 庭園で過ごす際は、庭師のジンが華火の世話を焼くようになっていた。
 元々ジンは、口数の少ない人間だったが、華火と過ごすときは、耳に心地がいい低音でぽつぽつと話すようになっていた。
 ジンの仕事を手伝っている時、マリアも当然一緒だったが、普段の彼女よりもほんの少しだけ緊張していたような気がして、華火はもしやと頬を染めていた。
 
 そんなある日、ウェインがいつもよりも早い時間に屋敷に帰っていたのだ。
 ウェインを玄関先で出迎えた華火は、最近の習慣となりつつある、とあることに頬を染めていた。
 それは、ウェインからのただいまのハグと頬へのキスだった。
 慣れない行動に恥ずかしさはあっても、ウェインに抱きしめられると、それまでに感じていた体の重さや疲れが吹き飛んでしまったように体が軽くなったのだ。
 ただ、こちらの世界に来てから、ウェインの傍にいる方が体の調子がいいことは確かなので、体が軽くなるのは気のせいではないと華火は思っていた。
 ただ、それが何故なのかは分からないままではあったが。
 だから華火は恥ずかしそうにしながらも、こう言い訳をしながらウェインからのハグやキスを受け入れていたのだ。
 
「うぇいんさんからぎゅーってされるとすごく癒されるから、これはそう言うあれじゃないの……。うん、これは、うぇいんさんを補充しているだけで、変なあれじゃないの……。あれ? なんか違うような……?」

 そんな華火に対して、ウェインの過保護具合はエスカレートしていた。
 華火は気が付いていないが、華火の為だけの衣裳部屋が出来上がっていたのだ。
 半分は、マリアの仕業ではあったが、確実に華火に似合うワンピースやドレス、小物類が増えていっていたのだ。
 そして、日々の華火の様子から花が好きだと察したウェインは、庭師のジンに密かに命じて、華火が好きそうな東屋を建てる計画もしていた。
 そこには、華火が好きそうな花だけではなく、可愛らしいテーブルセットなどが置かれる予定になっていた。
 
 昼過ぎに帰ってきたウェインは、お茶と菓子を用意するように命じた後、抱きしめていた華火を横抱きにして自室に向かっていた。
 自室のソファーで、華火を足の間に座らせたウェインは、華火のために用意した塗り薬を取り出していた。
 楽しそうに、花の世話や調理場の手伝いをしていることを知っているウェインは、それを断腸の思いで黙認していた。
 本当は、そんな事せずに、好きなように過ごしてほしいと思っていたが、言葉も分からず、字も読めない状況で過ごす日々に苦痛を感じさせたくないウェインは、華火の好きなように過ごしてもらうことに決めたのだ。
 そのことで華火の細い指が荒れてしまうことがあっても、止めることは出来なかった。
 だから、手荒れによく効く薬を用意して、それを華火の華奢な指に塗るのがウェインの日課となったのだ。
 本来は、回復魔法でも荒れた手を治すことは出来たが、敢えて良く効く塗り薬にしていたのだ。
 回復魔法が華火の負担にならないようにと言うのは建前で、ただ華火に触れたかった……訳ではない。とウェインは、言い訳をしながら丁寧に華火の指先に薬を塗るのだ。

 ウェインの大きく硬い手によって、指先に薬を塗られるくすぐったさに華火はくすくすと笑ってしまっていた。
 
「くすっ。ふふふ……、くすぐったいです。でも、指先がすごくぽかぽかします」

『ハナビ嬢の手は小さくて可愛いな……。はぁ……、最近、ジンと仲良くしていると報告を受けたが……。だめだ……、これからはもっと早く帰れるように調整しなければ……』

 薬を塗り終わったウェインは、指を絡めるようにしながら、何かを呟きながら、溜息を吐く。
 華火には、そのため息がひどく色っぽいものに感じてしまい、耳を赤くさせながら狼狽してしまう。
 
「何を言っているのかは分からないけど、指をそんな風に絡めながら、耳元でささやかれたら……。はうぅ~~。ドキドキが聞こえちゃう~~」

 ウェインの行動に胸を高鳴らせてしまっていた華火は、赤くなった顔を見られないようにと下を向いたがそれは逆効果になっていたことを知らない。
 首まで真っ赤にさせた華火の、細いうなじにウェインもまた胸を高鳴らせてしまっていたのだ。
 細く頼りないうなじを真っ赤に染めて、小さくなっている華火を見たウェインは、困ったような表情で口元を押さえてなるべく視線を逸らしながらぽつりと呟くのだ。
 
『反則だ。行動の一つ一つが、どうしてこんなにも可愛いんだ……。ああ、くそっ!』
 
 そう呟きながら、視線を逸らしていたウェインだったが、堪らないといった様子で華火の小さな体を後ろからぎゅっと抱きしめる。
 
『すきだ……。ごめん……』

 苦しそうにそう呟いたウェインは、いまだに指を絡めていた華火の細く頼りない指先に唇を寄せていた。
 ウェインから、指先に触れるだけのキスをされた華火は、心臓が破裂してしまいそうになっていた。
 ウェインの唇が触れた場所が激しく脈打ち、何かが溢れてしまいそうだと混乱する頭で華火は思ったのだ。
 
(恥ずかしい……。恥ずかしい……!! 指が熱い……、全身が心臓になったみたい……。やだ……。どうしよう、ウェインさんにドキドキが聞こえちゃう……。そんなの恥ずかしい……。まるで……。わたしが、ウェインさんをす―――)

 華火が感じたドキドキが最高潮に達したときだった。
 まるで、オーバーヒートしたかのように、華火はへなへなとウェインの腕の中で意識を飛ばしてしまっていた。
 
 突然気を失った華火にウェインは、大慌てで医師を呼ぼうとしたが、それはマリアによって止められていた。
 あの時、全てを見ていたマリアは、ウェインが原因で、恥ずかしさのあまり華火が意識を飛ばしたと見抜いていたのだ。
 そんなマリアは、ウェインに言うのだ。
 
『ムッツリスケベ閣下。おっと、失礼しました。公爵閣下。何事もやりすぎはいけません。ハナビお嬢様が好きすぎなことは分かります。ですが、セーブしてくださいね? よろしくおねがいしますよ?』

『っ……。分かっている……。これからは、極力控える……と思う……』

 マリアの言葉に弱々しく返したウェイン。
 そんなウェインを見たマリアは、ヤレヤレといったように頭を横に振るのだった。

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思うので、第二の人生を始めたい! P.S.逆ハーがついてきました。

三月べに
恋愛
 聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思う。だって、高校時代まで若返っているのだもの。  帰れないだって? じゃあ、このまま第二の人生スタートしよう!  衣食住を確保してもらっている城で、魔法の勉強をしていたら、あらら?  何故、逆ハーが出来上がったの?

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

処理中です...