わたしを嫌う妹の企みで追放されそうになりました。だけど、保護してくれた公爵様から溺愛されて、すごく幸せです。

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
31 / 111

第三十一話

しおりを挟む
 ウェインが屋敷を出てから、一週間が経っても彼は帰ってこなかった。
 時折、手紙らしきものを持った騎士らしき人間が屋敷を出入りしていたが、言葉も文字も分からない華火には、ウェインが現在どういう状況に置かれているのか一切情報が入ってこなかった。
 華火に気を使って、屋敷の人間は普段と同じようにしていたが、それが分からない華火ではなかった。
 それでも、ウェインと言い争いのようになってしまったことが華火の心を塞いでいた。
 こちらに来て、初めてこんなに長い時間をウェインと離れて過ごした華火は、寂しさで心が苦しくてたまらなかった。
 マリアもジンも、屋敷で働く人たちが近くに居ても、華火は寂しくて堪らなかった。
 向こうにいた時でさえ、亡くなった父親を恋しく思うことはあったが、今の華火が感じる、心にぽっかりと穴が空いてしまったかのような、そんな思いをすることはなかったのだ。
 
 ただウェインに会いたくて、恋しくて、声が聴きたかった。
 ウェインと離れてみて、華火は確信したのだ。
 この想いが嘘でも幻でもなく、本当の恋心なのだと。
 
「うぇいんさん。わたし、わかりましたよ。この想いがまやかしなんかじゃないって。この想いはわたしのものです。だから、うぇいんさんにだって、否定なんてさせません。だから……」

 口にすることで覚悟を決めようとしていた華火は、一つ深呼吸をしていた。
 
「だらか、わたしは、わたしのしたいようにします。怖いけど、うぇいんさんと離れてしまうことの方がもっと怖いって、わたしは思うから」

 華火は、鏡に映る自分にそう言ってきたせた後、苦笑いを浮かべる。
 鏡に映った自分の、なんて不細工なことかと。
 毎日泣いてたから仕方ないとしても、赤く腫れた瞳と、充血した瞳。
 髪はぼさぼさで、唇もカサカサになってしまっていた。
 こんな姿をウェインに見られるのは、恥ずかしいと心から思った華火は、くすりと笑っていた。
 
「ふふ。見た目を身にする余裕があるだけ、元気が出て来たってことかな? うん。そうだね。まずは、お風呂に入って、身だしなみを整えて……。会いに行こう。うぇいんさんに。それで、わたしの力が何かに役立てるのなら、うぇいんさんのお手伝いをしたい」

 ウェインから、この世界の状況を聞いた時、華火には思うところがあったのだ。
 恐らく、自分にしか見えていない黒い靄。
 きっとあれが結界を超えてきた瘴気の一部なのだと。
 今のところ、屋敷周辺にはったバリアは機能していることと、サイコキネシスで瘴気を散らすことは出来たことから、何か出来るはずだと華火は考えていたのだ。
 今まで、極力超能力を使わないようにしてきたため、自分がどれほど力を使えるのかは分からないし、体にどの程度のダメージが来るのかもわからないが、何かしたかったのだ。
 ウェインの為にという気持ちもあったが、自分の為という思いもあった。
 大好きな父親が受け入れてくれた華火の個性だ。
 父親が亡くなってから、ずっと疎ましく思う様になっていた力だったが、華火はふと思ったのだ。
 
 もしかすると、この力はこの時のために与えられたのかもしれないと。
 都合のいい妄想でもよかった。
 ただ、理由が欲しかったのかもしれない。
 自分勝手な思いで、ウェインの元に向かおうとする言い訳に、超能力を使おうとしているのだ。
 それに気が付いた華火は、そんな事を考えている自分がおかしくて仕方なかった。
 だってそうだろう。今まで、散々疎んでいた力を自分の都合のいい言い訳に使おうとしているのだから。
 今まで、散々悩んでいたのが馬鹿らしいと思えてきた華火の瞳は、キラキラと星のような輝きを取り戻していた。
 それは、父親を失った時に、華火から零れ落ちてしまっていた輝きだった。
 華火は、鏡に映る自分に手を伸ばしていた。
 
「うん。わたし、がんばる。がんばれ、わたし」

 自分に気合を入れなおした華火は、こちらに来て初めて一人で入浴をしようとして大失敗をしてしまうのだ。
 
 浴室でマリアが華火の入浴を手伝ってくれる時、蛇口のすぐ上の宝石のような石に手をかざしてから、蛇口を捻ると簡単にお湯が出ていたのだ。
 それをいつも見ていた華火は、これなら一人で大丈夫だと軽く考えていたのだ。
 だからこその油断だった。
 宝石のような石に手をかざしてシャワーの蛇口を捻ってから、華火は悲鳴をあげていたのだ。
 
「きゃーーーーーーーー!! っぅう……、つめたいぃ!!」

 氷のように冷たい冷水を無防備な状態で被った華火の悲鳴を聞いたマリアが、秒で浴室に飛び込んできたのだ。
 
「アマスオジョハナビ!!」

 そう言って、浴室に飛び込んできたマリアは、華火の姿を見て、手に持っていた、武器をとっさに隠した後に、優しい笑顔で言うのだ。
 
「アラーラ、アヒナマスオジョハナビイラプタユ、エヌセディアチムオユチフオィスチアゲクサデトニサタウ。ウフフフフフ♪」 

 そう言ったマリアは、それはそれは嬉しそうに華火をお湯で温めた後に、全身をピカピカに磨き上げたのだった。

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思うので、第二の人生を始めたい! P.S.逆ハーがついてきました。

三月べに
恋愛
 聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思う。だって、高校時代まで若返っているのだもの。  帰れないだって? じゃあ、このまま第二の人生スタートしよう!  衣食住を確保してもらっている城で、魔法の勉強をしていたら、あらら?  何故、逆ハーが出来上がったの?

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...