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第一章 聖女召喚(2)
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事件が起きたのは、異世界に召喚される半年ほど前のことだった。
所謂ブラック企業の社畜として生きていた志乃は、上司や同僚、さらには後輩にまでありとあらゆる仕事を押し付けられる日々を送っていた。
上司には、会議の資料作りを命じられ、同僚にはプロジェクトの企画を立てる仕事を押し付けられ、後輩には、そんな仕事時間内に仕上げるなんて無理ですと泣き付かれた挙句、手伝うだけのはずが、いつの間にか後輩だけが退社していて、残りの仕事を一人で片づける。
そんな、人の仕事ばかりを負わされる毎日を送っていた。
資料の出来が良く、他の部署の上役に褒められるのは資料を作った志乃ではなく、押し付けた上司。
プロジェクトが成功すれば、企画を練って資料を揃えた志乃ではなく、仕事を押し付けた同僚が褒められ昇進していく。
仕事が早いと褒められる後輩のその仕事を実際に片づけたのは他の誰でもない、志乃だった。
同じ部署の人間は、誰も志乃を助けない。
助けようともしない。
そして志乃も、仕事を押し付けられることに慣れてしまって、助けを求めることもしなくなっていたのだ。
ただ、人には限界というものがあった。
そして、志乃の限界もとうに超えたいたのだが、物事に鈍くなっていた志乃はそれに気が付いていなかったのだ。
志乃は、もともと小柄で童顔だったが、仕事に追われる毎日に疲れ切って、げっそりと痩せていた。
目の下には濃い隈ができていて、ただでさえ落ちていた視力は悪くなり、トレードマークになりつつある黒縁メガネのレンズは分厚くなる一方だった。
ある日、荒れ放題の肌とくっきりと残る目の下の隈を見た志乃は、自分がとても老けて見えることに愕然としたのだ。
そう思うと、急に泣けてきた。
たった一人、真っ暗な部屋でパソコンと向かい合う。
その日もアパートに帰ることは難しそうで、持ち込んでいた毛布に包まって、デスクの下に潜り込んで寝る自分を思うと馬鹿らしくなってきたのだ。
会社のトイレでひとしきり泣くと、思いのほか気分は晴れていた。
そうと決まれば、今抱えている仕事を早急に終わらせて、こんな会社辞めてやる。
そう決意した志乃は、新たに振られる仕事をきっぱりと断っていた。
どんなに嫌な顔をされても、怒鳴りつけられても、今持っている仕事だけを片づけることだけに集中した。
どうせ押し付けられた仕事なのだから放り投げてしまえばいいものを、根っからのお人よしの志乃は、放り投げるという考えすら持っていなかった。
そうして、押し付けられた仕事をすべて片づけた時には、深夜を超えていた。ただ、いつもの毛布にくるまって眠る前にやることがあった。
それは、辞表を書くことだ。
一気に辞表を書くと、急に気持ちが楽になった。
久々に心が軽くなった志乃は、久しぶりに熟睡していた。
翌朝、アラームの音で目を覚ました志乃は、顔を洗った後に、近くのコンビニで朝食を買った。
そのコンビニは、毎日のように通っていて、バイトの女の子とは挨拶をするようになっていた。
いつもは、死んだ魚のような目をして、心底疲れ切った様子でおにぎりを買いに来る志乃しか見ていないバイトの女の子は、すっきりした表情の志乃を見て驚いていた。
流石に、女の子のお驚きを理解した志乃は、これでこのこともお別れかと思うと、つい無駄口を叩いてしまっていた。
「おはよう。今日はとてもいい日になりそうなの。ふふ」
「よかったですね。お姉さん、いつも疲れた顔をしてたから……」
「とうとうあの糞会社を辞めてやることにしたのよ。なので、ここに来るのも今日が最後。バイトちゃん、今までありがとう」
「そっか……。寂しくなりますね。でも、お姉さんが元気なのが一番です。お元気で」
「うん。バイトちゃんも元気でね」
そんな軽い口調のやり取りをした志乃の足は軽いものだった。
そして、始業時間の少し前に来た上司に辞表を叩きつけた志乃は、すでにまとめていた私物の入った段ボール箱を抱えて、歩き出したのだった。
しかし、そんな志乃を追いかける人物がいた。
それは、志乃に散々仕事を押し付けてきていた後輩だった。
所謂ブラック企業の社畜として生きていた志乃は、上司や同僚、さらには後輩にまでありとあらゆる仕事を押し付けられる日々を送っていた。
上司には、会議の資料作りを命じられ、同僚にはプロジェクトの企画を立てる仕事を押し付けられ、後輩には、そんな仕事時間内に仕上げるなんて無理ですと泣き付かれた挙句、手伝うだけのはずが、いつの間にか後輩だけが退社していて、残りの仕事を一人で片づける。
そんな、人の仕事ばかりを負わされる毎日を送っていた。
資料の出来が良く、他の部署の上役に褒められるのは資料を作った志乃ではなく、押し付けた上司。
プロジェクトが成功すれば、企画を練って資料を揃えた志乃ではなく、仕事を押し付けた同僚が褒められ昇進していく。
仕事が早いと褒められる後輩のその仕事を実際に片づけたのは他の誰でもない、志乃だった。
同じ部署の人間は、誰も志乃を助けない。
助けようともしない。
そして志乃も、仕事を押し付けられることに慣れてしまって、助けを求めることもしなくなっていたのだ。
ただ、人には限界というものがあった。
そして、志乃の限界もとうに超えたいたのだが、物事に鈍くなっていた志乃はそれに気が付いていなかったのだ。
志乃は、もともと小柄で童顔だったが、仕事に追われる毎日に疲れ切って、げっそりと痩せていた。
目の下には濃い隈ができていて、ただでさえ落ちていた視力は悪くなり、トレードマークになりつつある黒縁メガネのレンズは分厚くなる一方だった。
ある日、荒れ放題の肌とくっきりと残る目の下の隈を見た志乃は、自分がとても老けて見えることに愕然としたのだ。
そう思うと、急に泣けてきた。
たった一人、真っ暗な部屋でパソコンと向かい合う。
その日もアパートに帰ることは難しそうで、持ち込んでいた毛布に包まって、デスクの下に潜り込んで寝る自分を思うと馬鹿らしくなってきたのだ。
会社のトイレでひとしきり泣くと、思いのほか気分は晴れていた。
そうと決まれば、今抱えている仕事を早急に終わらせて、こんな会社辞めてやる。
そう決意した志乃は、新たに振られる仕事をきっぱりと断っていた。
どんなに嫌な顔をされても、怒鳴りつけられても、今持っている仕事だけを片づけることだけに集中した。
どうせ押し付けられた仕事なのだから放り投げてしまえばいいものを、根っからのお人よしの志乃は、放り投げるという考えすら持っていなかった。
そうして、押し付けられた仕事をすべて片づけた時には、深夜を超えていた。ただ、いつもの毛布にくるまって眠る前にやることがあった。
それは、辞表を書くことだ。
一気に辞表を書くと、急に気持ちが楽になった。
久々に心が軽くなった志乃は、久しぶりに熟睡していた。
翌朝、アラームの音で目を覚ました志乃は、顔を洗った後に、近くのコンビニで朝食を買った。
そのコンビニは、毎日のように通っていて、バイトの女の子とは挨拶をするようになっていた。
いつもは、死んだ魚のような目をして、心底疲れ切った様子でおにぎりを買いに来る志乃しか見ていないバイトの女の子は、すっきりした表情の志乃を見て驚いていた。
流石に、女の子のお驚きを理解した志乃は、これでこのこともお別れかと思うと、つい無駄口を叩いてしまっていた。
「おはよう。今日はとてもいい日になりそうなの。ふふ」
「よかったですね。お姉さん、いつも疲れた顔をしてたから……」
「とうとうあの糞会社を辞めてやることにしたのよ。なので、ここに来るのも今日が最後。バイトちゃん、今までありがとう」
「そっか……。寂しくなりますね。でも、お姉さんが元気なのが一番です。お元気で」
「うん。バイトちゃんも元気でね」
そんな軽い口調のやり取りをした志乃の足は軽いものだった。
そして、始業時間の少し前に来た上司に辞表を叩きつけた志乃は、すでにまとめていた私物の入った段ボール箱を抱えて、歩き出したのだった。
しかし、そんな志乃を追いかける人物がいた。
それは、志乃に散々仕事を押し付けてきていた後輩だった。
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