26 / 31
第四章 新しい生活と揺れる心(4)
しおりを挟む
志乃がデュセンバーグ王国のジークリンデの屋敷に住むようになって一週間ほどが経過していた。
その間、ジークリンデは、毎日忙しい合間を縫って志乃をこれでもかと構い倒していた。
志乃も、その頃にはなんとなくジークリンデの過保護なほどの甘やかしを受け入れつつあった。
しかし、ジークリンデは、この国の第三王子という肩書以外に、この国最高峰の冒険者という肩書も持っていたことが問題でもあった。
志乃は、毎日ご飯を食べさせてもらうだけでは申し訳ないと考え、屋敷の仕事を何かさせて欲しいとお願いしたのだ。しかし、それはジークリンデに丁重に断られるということを繰り返していた。
元々仕事に追われるように生きていた志乃にとって、何もせずにいることが心苦しくなってきたのだ。
仕事を辞めた後、当分はニート生活を楽しもうと思っていたが、今の何もしないでいる状況は志乃の考えていた生活とは程遠いものだった。
ジークリンデの屋敷に来て志乃がしたことは、ご飯を食べて、寝て、起きて、ジークリンデに構われることだけだったのだ。
だからこそ志乃は、ジークリンデにお願いしていたのだ。何か仕事をさせて欲しいと。
しかし、ジークリンデは、頑ななまでに志乃のお願いを聞き入れなかったのだ。
日々、何もせずに生活することが申し訳なさ過ぎて、志乃の元気はなくなっていく。
そんなある日、ジークリンデは、志乃を屋敷の外に連れ出したのだ。
初めての外出に志乃は、少しだけ元気を取り戻す。
新しいワンピースに袖を通した志乃をエスコートするジークリンデは、とても上機嫌だった。
ゆっくりとした歩調で王都を案内するジークリンデは、常に志乃を気遣っていた。
改めて、日本ではない異世界の風景に志乃は驚きの連続だった。
だが、志乃を本当の意味で驚かせたのはジークリンデが最後に案内した場所だった。
その場所は、王城から近い居住区だった。そこは、近くに騎士団の本部もある場所で、王都内でも特に治安のいい場所として人気のある場所でもあった。
生活必需品を売っている店も近い、ある一軒の家にジークリンデは、志乃を連れて行ったのだ。
その一軒家は、赤い屋根の可愛らしい家だった。
小さいながらも庭もあり、日当たりも良かった。
可愛らしい家を前に、志乃が首を傾げているとジークリンデが志乃の瞳を覗き込んで言うのだ。
「シノ、今日からここで俺と二人で暮らそう」
「え?」
驚く志乃の腰を抱き寄せたジークリンデは、そのまま志乃を抱き上げて目の前の門を開いて赤い屋根の家の中に入る。
家の中は、真新しい家具が並べられており、とても可愛らしいものだった。
ジークリンデは、慣れた様子で家の中を進み、リビングルームに設置されているソファーに志乃をそっと下ろす。
困惑顔の志乃の頭をそっと撫でたジークリンデは、申し訳なさそうな表情を浮かべて言うのだ。
「シノが屋敷で居心地が悪い思いをしていることは分かっていた。でも、俺の我儘で、シノをあの屋敷で働かせたくなかったんだ」
ジークリンデの言葉に目を丸くさせた志乃にジークリンデは、詫びの言葉を口にする。
「きっと、元の世界とは全く違う暮らしだったのだろう。何もしないでいることが辛いって、シノの顔に書いてあった。でも、俺に仕える使用人と同じような仕事を大切な人にさせたくなかったんだ。でも、だんだんシノの元気が無くなって行くのが分かって……。これでも、いろいろ考えたんだぞ? それで、俺は一つの心理に到達したんだ」
そう言ったジークリンデは、志乃を抱き寄せてその耳に甘く言葉を囁く。
「二人だけの小さな家で、二人で力を合わせて生活すればいいってね。ちゅっ。ちゅっ。ねえ、俺の可愛い人。だから、君が好きそうな家を探して、家具を揃えて、準備したんだ。シノの驚く顔が見たくて。なあ、びっくりしたか?」
まさか、志乃のことを考えた結果の二人暮らし宣言に志乃は、呆気に取られる。
そして、心の底からの笑顔になったのだ。
「くすくす。ジーク……、貴方って人は……。でも、ありがとう。私のことをいろいろ考えてくれたこと凄く嬉しいよ。えっと、それじゃ、私はジークのところに永久就職ってことになるのかな? なんて……」
その間、ジークリンデは、毎日忙しい合間を縫って志乃をこれでもかと構い倒していた。
志乃も、その頃にはなんとなくジークリンデの過保護なほどの甘やかしを受け入れつつあった。
しかし、ジークリンデは、この国の第三王子という肩書以外に、この国最高峰の冒険者という肩書も持っていたことが問題でもあった。
志乃は、毎日ご飯を食べさせてもらうだけでは申し訳ないと考え、屋敷の仕事を何かさせて欲しいとお願いしたのだ。しかし、それはジークリンデに丁重に断られるということを繰り返していた。
元々仕事に追われるように生きていた志乃にとって、何もせずにいることが心苦しくなってきたのだ。
仕事を辞めた後、当分はニート生活を楽しもうと思っていたが、今の何もしないでいる状況は志乃の考えていた生活とは程遠いものだった。
ジークリンデの屋敷に来て志乃がしたことは、ご飯を食べて、寝て、起きて、ジークリンデに構われることだけだったのだ。
だからこそ志乃は、ジークリンデにお願いしていたのだ。何か仕事をさせて欲しいと。
しかし、ジークリンデは、頑ななまでに志乃のお願いを聞き入れなかったのだ。
日々、何もせずに生活することが申し訳なさ過ぎて、志乃の元気はなくなっていく。
そんなある日、ジークリンデは、志乃を屋敷の外に連れ出したのだ。
初めての外出に志乃は、少しだけ元気を取り戻す。
新しいワンピースに袖を通した志乃をエスコートするジークリンデは、とても上機嫌だった。
ゆっくりとした歩調で王都を案内するジークリンデは、常に志乃を気遣っていた。
改めて、日本ではない異世界の風景に志乃は驚きの連続だった。
だが、志乃を本当の意味で驚かせたのはジークリンデが最後に案内した場所だった。
その場所は、王城から近い居住区だった。そこは、近くに騎士団の本部もある場所で、王都内でも特に治安のいい場所として人気のある場所でもあった。
生活必需品を売っている店も近い、ある一軒の家にジークリンデは、志乃を連れて行ったのだ。
その一軒家は、赤い屋根の可愛らしい家だった。
小さいながらも庭もあり、日当たりも良かった。
可愛らしい家を前に、志乃が首を傾げているとジークリンデが志乃の瞳を覗き込んで言うのだ。
「シノ、今日からここで俺と二人で暮らそう」
「え?」
驚く志乃の腰を抱き寄せたジークリンデは、そのまま志乃を抱き上げて目の前の門を開いて赤い屋根の家の中に入る。
家の中は、真新しい家具が並べられており、とても可愛らしいものだった。
ジークリンデは、慣れた様子で家の中を進み、リビングルームに設置されているソファーに志乃をそっと下ろす。
困惑顔の志乃の頭をそっと撫でたジークリンデは、申し訳なさそうな表情を浮かべて言うのだ。
「シノが屋敷で居心地が悪い思いをしていることは分かっていた。でも、俺の我儘で、シノをあの屋敷で働かせたくなかったんだ」
ジークリンデの言葉に目を丸くさせた志乃にジークリンデは、詫びの言葉を口にする。
「きっと、元の世界とは全く違う暮らしだったのだろう。何もしないでいることが辛いって、シノの顔に書いてあった。でも、俺に仕える使用人と同じような仕事を大切な人にさせたくなかったんだ。でも、だんだんシノの元気が無くなって行くのが分かって……。これでも、いろいろ考えたんだぞ? それで、俺は一つの心理に到達したんだ」
そう言ったジークリンデは、志乃を抱き寄せてその耳に甘く言葉を囁く。
「二人だけの小さな家で、二人で力を合わせて生活すればいいってね。ちゅっ。ちゅっ。ねえ、俺の可愛い人。だから、君が好きそうな家を探して、家具を揃えて、準備したんだ。シノの驚く顔が見たくて。なあ、びっくりしたか?」
まさか、志乃のことを考えた結果の二人暮らし宣言に志乃は、呆気に取られる。
そして、心の底からの笑顔になったのだ。
「くすくす。ジーク……、貴方って人は……。でも、ありがとう。私のことをいろいろ考えてくれたこと凄く嬉しいよ。えっと、それじゃ、私はジークのところに永久就職ってことになるのかな? なんて……」
182
あなたにおすすめの小説
妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~
サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――
【完結】経費削減でリストラされた社畜聖女は、隣国でスローライフを送る〜隣国で祈ったら国王に溺愛され幸せを掴んだ上に国自体が明るくなりました〜
よどら文鳥
恋愛
「聖女イデアよ、もう祈らなくとも良くなった」
ブラークメリル王国の新米国王ロブリーは、節約と経費削減に力を入れる国王である。
どこの国でも、聖女が作る結界の加護によって危険なモンスターから国を守ってきた。
国として大事な機能も経費削減のために不要だと決断したのである。
そのとばっちりを受けたのが聖女イデア。
国のために、毎日限界まで聖なる力を放出してきた。
本来は何人もの聖女がひとつの国の結界を作るのに、たった一人で国全体を守っていたほどだ。
しかも、食事だけで生きていくのが精一杯なくらい少ない給料で。
だがその生活もロブリーの政策のためにリストラされ、社畜生活は解放される。
と、思っていたら、今度はイデア自身が他国から高値で取引されていたことを知り、渋々その国へ御者アメリと共に移動する。
目的のホワイトラブリー王国へ到着し、クラフト国王に聖女だと話すが、意図が通じず戸惑いを隠せないイデアとアメリ。
しかし、実はそもそもの取引が……。
幸いにも、ホワイトラブリー王国での生活が認められ、イデアはこの国で聖なる力を発揮していく。
今までの過労が嘘だったかのように、楽しく無理なく力を発揮できていて仕事に誇りを持ち始めるイデア。
しかも、周りにも聖なる力の影響は凄まじかったようで、ホワイトラブリー王国は激的な変化が起こる。
一方、聖女のいなくなったブラークメリル王国では、結界もなくなった上、無茶苦茶な経費削減政策が次々と起こって……?
※政策などに関してはご都合主義な部分があります。
罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~
上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」
触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。
しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。
「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。
だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。
一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。
伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった
本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である
※※小説家になろうでも連載中※※
追放された元聖女は、イケメン騎士団の寮母になる
腐ったバナナ
恋愛
聖女として完璧な人生を送っていたリーリアは、無実の罪で「はぐれ者騎士団」の寮へ追放される。
荒れ果てた場所で、彼女は無愛想な寮長ゼノンをはじめとするイケメン騎士たちと出会う。最初は反発する彼らだが、リーリアは聖女の力と料理で、次第に彼らの心を解きほぐしていく。
聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。
『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!
aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。
そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。
それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。
淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。
古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。
知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。
これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる