妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
58 / 113
第三部

第五章 好きという気持ち 3

しおりを挟む
 突然イシュタルに押し倒されて、首筋を舐められたシーナは、囁かれた言葉に背筋が凍りついた。
 
(えっ、今……。まって、まって……。そんな、わかるの?私がイシュミールの生まれ変わりだって……?)

 混乱し、身動きが取れなくなったシーナの首筋を舐め回していたイシュタルは、それだけでは足りないと言わんばかりに、今度はその華奢な首筋に噛み付いたのだ。
 痛みから我に返ったシーナは、イシュタルから逃れようと藻掻いた。
 しかし、何処からそんな力が出てくるのか、シーナの抵抗を物ともしないイシュタルは、血が出るほど強く噛みつき、皮膚を引き裂き抗うシーナの血を啜った。
 あまりの痛みにシーナは悲痛な声を上げた。
 
「いや!痛い!!いや、やめて!!」

 何が起こっているのか、まったく状況が理解できていなかったカインとミュルエナは、シーナの上げた叫び声から、シーナが危害を加えられているという事実に遅まきながら気が付き二人を引き剥がすべく行動を起こした。
 
 カインは、痛がりながらも涙ながらに助けを求めて手をのばすシーナの姿が目に入り頭に血が昇った。
 感情のまま、初めてイシュタルに暴力を揮った。
 今まで、憎い相手だと思っていても、どうしても手を上げることは出来ないでいた。
 しかし、この瞬間シーナを傷つけるイシュタルを見たカインは、真っ赤に染まった頭でたった一つの考えだけが体を突き動かしていた。
 
 シーナを傷つける者は、誰であっても許すことは出来ないという感情に従い初めてその固く握った拳でイシュタルを殴りつけたのだった。
 
 まさかだった。
 カインのとった行動は、ミュルエナにとってまさかの行動だったのだ。
 
 イシュタルを足で蹴り上げて、シーナから離れた瞬間に胸ぐらをつかみ上げたのだ。
 さらに、その顔面を固く握った拳で殴るとは、思ってもいなかったのだ。
 
 拳で殴りつけられたイシュタルは、そのまま硬い床に転がった。
 カインは、感情が爆発したかのように転がったままのイシュタルを仰向けにさせてから馬乗りになった。
 そして、今まで抑えていた感情を吐き出すかのように何度も何度もその顔面を殴りつけた。
 その場には、カインの拳がイシュタルの顔を殴る音だけが鳴り響いていた。
 最初は、硬いものどうしがぶつかるような音がしていたが、次第に「グチャッ!」「グチュッ!」っという音に変わっていった。


 馬乗りになられて、上から容赦なく殴りつけられていたイシュタルは、嗚咽混じりの悲鳴を上げていた。

「ぐっ!!がっ!!がはっ!!あ゙あ゙!!ぼう……や゙め゙で……。がはっ!!」
 
 ミュルエナは、イシュタルが殴られて顔から血を流しながら許しを請う姿を見て、少しだけ溜飲が下がる思いだったが、溜まりに溜まった黒い感情はこれだけでは満足できないことも分かっていたが、もっと殴ってやれと心のなかでカインにエールを送っていた。
 
 だが、カインが激しく暴力を奮っている姿に呆然としていたシーナは違った。
 イシュタルが、血と涙と鼻水でグチャグチャになっている姿が目に入ると同時に、カインの拳もまた皮膚がめくれて血が出ていることが分かったシーナは小さく悲鳴を上げた。
 そして、カインを止めるべく身を起こしたのだった。
 怒りのまま、憎しみのままイシュタルを殴りつけるカインの背に周り羽交い締めにした。
 しかし、大人の男と小柄な少女では力の差は明確だった。それだけでは、暴走するカインを止めることは出来なかった。
 
 シーナは、カインを止めるため声を掛け続けた。
 
「カイン様!もうやめて、その人もカイン様も血が出てる!!もうやめて、やめて!!その人が死んじゃう!!カイン様が人殺しになっちゃうよ!!そんなの駄目!!」

 シーナの声はカインには届いていないようで、一向にイシュタルを殴りつける事をやめなかった。
 シーナは、そんなカインの行動に悲しくなった。
 カインの抱える心の傷を垣間見たような気がしたのだ。
 イシュミールではない、今のシーナではその傷を癒やすことは出来ないのだと言われたようだった。
 しかし、ここで諦めるわけにはいかなかった。
 カインに対するこの想いを、好きという感情を手放さないと決めたのだ。
 カインを辛いものから守り、優しく包み込んで癒やしたいと強く思ったシーナはカインを止めるべく、思いっきりビンタ・・・したのだ。
 
 その場には、「パーン!!」という、乾いた音が鳴り響いた。
 
 突然の頬を襲う衝撃に殴ることをやめたカインは、痛みは無かったが何故叩かれたのか分からないといった表情で、叩かれた頬を片手で押さえて何度も瞬きした。
 
 そして、平手打ちをした本人でもあり、カインが暴走した原因でもあるシーナを「なんで?」といった表情で見つめた。
 
 平手打ちしたシーナは、仁王立ちの状態で腰に手を当てて「ふんすっ!!」といったように思いっきり息を吐いたのだった。
しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

公爵令嬢が婚約破棄され、弟の天才魔導師が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

処理中です...