緋色の小刀-ナイフ-

八雲 銀次郎

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廃洋館

#33

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 大谷が一体、何を言っているのかが、全く持って、分からなかった。
 彼が今持っている本と似た様な物が父親の部屋にもあった。だから、その本を読んで、何となく内容を理解できていたのなら、まだ分かる。だが、彼のその父親は、ナツミさんのお兄さんに当たる人物…。
 急な展開に、付いていけていないのは、私だけでなく、寺井さんもだった。
 「つまり、大谷の父親は、そこに居る、ナツミさんを、召喚した人物ってことで、間違いないんだな?」
 『その様ね…。この人からは、兄さんの匂いが随分濃く感じる。でも、姿形は、全然…。』
 ナツミさんが、そう答えた。
 「それと、もう一つ。何故、“この世にはいない”ってのが、分かるんだ?」
 『この手枷の所為です。』
 彼女は、手に着いている、手枷を見せてきた。
 「それは、“縛封の鎖錠”と言って、雇い主が、一生分の寿命を掛けて施す、最初で最後の呪術です。」
 大谷が、本を捲り、そう答えた。
 「最初で最後…。」
 『先ほど言った通り、私を扱う為には、段階に合わせて、それに似あった、“寿命”を賭ける事が大前提。その残りの寿命全てを掛けて施す、最高の呪術が、縛封の鎖錠。私たちを、この土地や空間に、無理矢理縛り付け、完全なる支配権を与える。その支配力は、自然の摂理すらも、退ける程の凄まじい物。
 だから、さっきのもう一人の私が、貴方方に、時間を遡らせ、色々な場面を、面白おかしく、見せつけることができた。
 兄さんが遺した置土産…。この館を…この土地を、護ってほしい。それが、私たちに課せられた、最後の命令。』
 ナツミさんはそう言うと、大谷を撫でている手を止め、近くにあった、本棚を指さした。
 見に行くと、ノートが数十冊、並べられている。どれも、おなじメーカーのノートだが、物によっては、かなりくたびれていたり、古くなってしまったものもある…。
 私は、その内の一冊を手に取り、一ページ目を開いた。
 そこには、日記と思われる文が記されていた。
 『昔から、日記を付けるのが好きで、色々書いてる。兄さんや、弟と遊んだこととか、父さんに怒られた事とか、私が、殺されかけた日の事とか…。』
 パラパラと捲っていくと、1ページだけ、血が滲んでいるページに目が行った。


 8月5日 晴れ
  私は母さんに殺されかけた…。いや、本当は、死んでしまったのかもしれない…。兄さんが、見つけてくれて、何とか、地下室に運んでくれたのだが、身体はもう、痛みで限界だった。そんな中、兄さんは呪術を使い、私の命を、延命した代わりに、先ずは死ぬことはないだろうと、兄さんが言っていた。
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