1 / 1
悲しいほど君を愛している
しおりを挟む
俺と美月は幼なじみだ。
産まれた時から一番、身近な存在だったのはお互いの母親が親友だったからだ。
「この二人は本当に仲がいいわね!」
「そうね。大きくなったら悠人君と結婚するって美月はいつも言っているのよ」
「悠人も美月ちゃんが大好きよ。相思相愛ね」
俺と美月の母親たちが、そんな会話をしているのを気恥ずかしく聞いていた。
☆
俺が10歳になった頃、母が妊娠し琴音という妹ができた。
生まれつき心臓疾患を抱える琴音は外で遊ぶこともままならない。
「琴音、俺が医者になって病気を治してあげるから待っていて」
病室から出られない琴音は、信じきった瞳でうなづいた。
「うん、お兄ちゃん大好きよ!背が高くてかっこいいお兄ちゃんは看護婦さんに大人気なんだよ?」
おませなことを言って俺たちを笑わせた。
「お姉ちゃんも、また会いに来てくれる?」
綺麗な大きな瞳を美月に向けた琴音は可愛い声でそう聞いた。
「もちろんよ」
琴音は美月にとても懐いていた。
美月お姉ちゃんのように綺麗なお姉さんになりたい、と言う琴音に美月は恥ずかしそうに照れている。
琴音は俺の妹であり、美月にとっても妹のような存在だった。
☆
俺が医学部に入った時に真っ先に声をかけてくれたのが大和だった。
大和は男にしては小柄で見た目は小猿のような陽気な奴だった。
気さくな大和は俺の家によく来るようになり、そこで美月と会った。
「すごく綺麗な人だね!悠人の恋人なの?」
「うーーん、美月の家は隣なんだよ。ずっと一緒に育った家族のようなもんだよ」
俺は照れ隠しにそう言ってごまかしたんだ。
「ふーーん。そう」
俺は大和が顔を赤らめて目を輝かせていたことに少しも気がつかなかった。
☆
「悠人、ごめんなさい!私、大和君と付き合うことになった‥‥」
まさか、美月が俺を裏切るなんて思わなかった。
俺とあれだけ一緒に過ごした歳月をすぐに捨て去れる美月が信じられなかった。
俺は自分で言うのもなんだが、女にはもてるタイプだったけれど美月ひとすじだったのに。
女って、そんなに切り替えができるものなのか?
俺は夜はよく眠れないし、当然食欲もなくなっていった。
それ以来、どんなに日の光が輝いている日であろうと、俺の世界の天気はいつも灰色の厚い雲で覆われている。
「悠人、美月ちゃんと巡り合わせてくれてありがとう!僕にとってすごく大事な子だ。」
「そうか、良かったな」
俺は、それしか大和には言えなかった。
大事な子、俺にとってはそんな言葉じゃもの足りないさ。
俺の分身みたいな存在だった美月を失ったこの胸の痛みは決して消えない‥‥
☆
「婚約、おめでとう!」
「婚約、おめでとーー大和!美月さん」
共通の友人たちが祝福の声をあげているけれど、俺だけが海の底に沈んでいる。
その海は寒い冬の夜の海‥‥
「‥‥悠人の妹の琴音ちゃんは美月の妹みたいなものなんだって?安心して!僕の父が手術の執刀医になる」
大和に話しかけられたことにも気がつかなかった俺は、琴音の名前を聞いてはじめて大和の顔を見た。
「大和の父親?」
「あぁ、言わなかったっけ?心臓外科医の榊原匠だよ」
あの「神の手をもつ」といわれる榊原匠?
大金を積んでも、有名人でも、なかなか執刀医にはならない世界的に有名な名医‥‥
俺は大和の隣に寄り添う美月を見つめる。
美月は柔らかく微笑んでいるが、その瞳の奥には悲しみと俺への愛が溢れていた。
俺も同じような瞳で見つめ返し、お互いが小さく頷くと俺はできるだけ明るい声で言ったんだ。
「ありがとう!感謝しているよ。俺はいい親友と、そしてとても大事な幼なじみをもてた。ずっと、ずっと愛しているよ」
「ははは、愛しているなんて気持ち悪いぞ!!俺たちはずっと親友だよ、死ぬまでな」
あぁ、そうだ、死ぬまでお前とは親友でいるとも。
そして、美月、俺は悲しいほど君を愛している‥‥
産まれた時から一番、身近な存在だったのはお互いの母親が親友だったからだ。
「この二人は本当に仲がいいわね!」
「そうね。大きくなったら悠人君と結婚するって美月はいつも言っているのよ」
「悠人も美月ちゃんが大好きよ。相思相愛ね」
俺と美月の母親たちが、そんな会話をしているのを気恥ずかしく聞いていた。
☆
俺が10歳になった頃、母が妊娠し琴音という妹ができた。
生まれつき心臓疾患を抱える琴音は外で遊ぶこともままならない。
「琴音、俺が医者になって病気を治してあげるから待っていて」
病室から出られない琴音は、信じきった瞳でうなづいた。
「うん、お兄ちゃん大好きよ!背が高くてかっこいいお兄ちゃんは看護婦さんに大人気なんだよ?」
おませなことを言って俺たちを笑わせた。
「お姉ちゃんも、また会いに来てくれる?」
綺麗な大きな瞳を美月に向けた琴音は可愛い声でそう聞いた。
「もちろんよ」
琴音は美月にとても懐いていた。
美月お姉ちゃんのように綺麗なお姉さんになりたい、と言う琴音に美月は恥ずかしそうに照れている。
琴音は俺の妹であり、美月にとっても妹のような存在だった。
☆
俺が医学部に入った時に真っ先に声をかけてくれたのが大和だった。
大和は男にしては小柄で見た目は小猿のような陽気な奴だった。
気さくな大和は俺の家によく来るようになり、そこで美月と会った。
「すごく綺麗な人だね!悠人の恋人なの?」
「うーーん、美月の家は隣なんだよ。ずっと一緒に育った家族のようなもんだよ」
俺は照れ隠しにそう言ってごまかしたんだ。
「ふーーん。そう」
俺は大和が顔を赤らめて目を輝かせていたことに少しも気がつかなかった。
☆
「悠人、ごめんなさい!私、大和君と付き合うことになった‥‥」
まさか、美月が俺を裏切るなんて思わなかった。
俺とあれだけ一緒に過ごした歳月をすぐに捨て去れる美月が信じられなかった。
俺は自分で言うのもなんだが、女にはもてるタイプだったけれど美月ひとすじだったのに。
女って、そんなに切り替えができるものなのか?
俺は夜はよく眠れないし、当然食欲もなくなっていった。
それ以来、どんなに日の光が輝いている日であろうと、俺の世界の天気はいつも灰色の厚い雲で覆われている。
「悠人、美月ちゃんと巡り合わせてくれてありがとう!僕にとってすごく大事な子だ。」
「そうか、良かったな」
俺は、それしか大和には言えなかった。
大事な子、俺にとってはそんな言葉じゃもの足りないさ。
俺の分身みたいな存在だった美月を失ったこの胸の痛みは決して消えない‥‥
☆
「婚約、おめでとう!」
「婚約、おめでとーー大和!美月さん」
共通の友人たちが祝福の声をあげているけれど、俺だけが海の底に沈んでいる。
その海は寒い冬の夜の海‥‥
「‥‥悠人の妹の琴音ちゃんは美月の妹みたいなものなんだって?安心して!僕の父が手術の執刀医になる」
大和に話しかけられたことにも気がつかなかった俺は、琴音の名前を聞いてはじめて大和の顔を見た。
「大和の父親?」
「あぁ、言わなかったっけ?心臓外科医の榊原匠だよ」
あの「神の手をもつ」といわれる榊原匠?
大金を積んでも、有名人でも、なかなか執刀医にはならない世界的に有名な名医‥‥
俺は大和の隣に寄り添う美月を見つめる。
美月は柔らかく微笑んでいるが、その瞳の奥には悲しみと俺への愛が溢れていた。
俺も同じような瞳で見つめ返し、お互いが小さく頷くと俺はできるだけ明るい声で言ったんだ。
「ありがとう!感謝しているよ。俺はいい親友と、そしてとても大事な幼なじみをもてた。ずっと、ずっと愛しているよ」
「ははは、愛しているなんて気持ち悪いぞ!!俺たちはずっと親友だよ、死ぬまでな」
あぁ、そうだ、死ぬまでお前とは親友でいるとも。
そして、美月、俺は悲しいほど君を愛している‥‥
13
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
貴方の幸せの為ならば
缶詰め精霊王
恋愛
主人公たちは幸せだった……あんなことが起きるまでは。
いつも通りに待ち合わせ場所にしていた所に行かなければ……彼を迎えに行ってれば。
後悔しても遅い。だって、もう過ぎたこと……
もう好きと思えない? ならおしまいにしましょう。あ、一応言っておきますけど。後からやり直したいとか言っても……無駄ですからね?
四季
恋愛
もう好きと思えない? ならおしまいにしましょう。あ、一応言っておきますけど。後からやり直したいとか言っても……無駄ですからね?
あんなにわかりやすく魅了にかかってる人初めて見た
しがついつか
恋愛
ミクシー・ラヴィ―が学園に入学してからたった一か月で、彼女の周囲には常に男子生徒が侍るようになっていた。
学年問わず、多くの男子生徒が彼女の虜となっていた。
彼女の周りを男子生徒が侍ることも、女子生徒達が冷ややかな目で遠巻きに見ていることも、最近では日常の風景となっていた。
そんな中、ナンシーの恋人であるレオナルドが、2か月の短期留学を終えて帰ってきた。
悪役令嬢の大きな勘違い
神々廻
恋愛
この手紙を読んでらっしゃるという事は私は処刑されたと言う事でしょう。
もし......処刑されて居ないのなら、今はまだ見ないで下さいまし
封筒にそう書かれていた手紙は先日、処刑された悪女が書いたものだった。
お気に入り、感想お願いします!
真実の愛の祝福
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
皇太子フェルナンドは自らの恋人を苛める婚約者ティアラリーゼに辟易していた。
だが彼と彼女は、女神より『真実の愛の祝福』を賜っていた。
それでも強硬に婚約解消を願った彼は……。
カクヨム、小説家になろうにも掲載。
筆者は体調不良なことも多く、コメントなどを受け取らない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
退会済ユーザのコメントです
Maro様
感想、ありがとうございまぁす😆
思いつきで書いただけで、なんかそのへんに転がってるような話に
感想いただいて恐縮です!