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1 プロポーズ?
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それからしばらくして、ギルベルトがこんなことを言ってきた。
「ポーション、もう少し作ってもらえないかなぁ? あれ、すごく効くんだよ。疲れがすっと抜けるし、仲間にも飲ませてやりたくてさ。自分だけ飲むって……なんか気が引けるし」
「うん。だったら、多めに作ってあげるね」
「ありがとな、リーナ。助かるよ」
頼られるのが嬉しくて、私は素直に頷いた。ギルベルトのためなら、いくらでも作れる。喜んでくれる顔を見るだけで、疲れなんて吹き飛んでしまうから。
彼のためのポーション作りは楽しい。“剣技がうまくなりますように”、“怪我をしませんように”、“今日も無事で帰ってきて”――そんな気持ちを込めながら、薬草を煮詰めるたびに、胸の奥がほんのりと温かくなっていく。
――好きな人のために役に立てるって、こんなに幸せなことなんだ。
私はただ、それだけで十分だった。
それからしばらくして、ギルベルトのお母さんが足を悪くし、だんだんと歩くのも辛そうになってきた。私は彼女を連れて、街の診療所へ向かう。
「これは加齢による膝の摩耗だね。薬で治せるものじゃない。自然の流れさ」
そんな診断だった。
――私は、奇跡を起こせるわけじゃないから。私の作った薬やポーションでは治せないだろうな。
それでも、何かできることはあるはずだと思った。だから私はそれから毎日のように、彼のお母さんの家を訪ねるようになった。ギルベルトの実家は、没落した準男爵家だった。
騎士見習いの彼の給金では、弟の学費まではとても賄えない。これまでは、彼のお母さんが貴族の屋敷で下働きをして家計を支えていたが、その足では、もうそれすら続けられない。気づけば私は、ごく自然にその学費を肩代わりするようになっていた。
◆◇◆
いつものように私はギルベルトのお母さんを訪ねていた。
「……面倒をかけて、本当にごめんなさい」
弱々しい声に、私は笑って首を振った。
「いいえ。ギルのお母さんは、私にとっても“家族”ですから。自分の母だと思っています。だから、ずっと元気でいてくださいね」
私は本気でそう思っていた。婚約者の母親なら、もう家族も同然。ギルベルトが仕事で遅くなる日も、忙しくて来られない日も、代わりに私が通った。
足が不自由になったギルベルトのお母さんは、杖を使えばゆっくり歩けるけれど、長い距離は移動できない。家事も自分でこなすことは難しい。だから私が、毎日のように食材を買い出し、火を入れれば食べられるように料理を作り置きし、掃除も洗濯もして、おしゃべり相手にもなった。
――だってもうすぐ家族になるのだから、当然だと思っていた。
誰に言われたわけでもなく、見返りを求めたこともない。
彼が忙しいなら、私が代わりにやればいい。
それが、婚約者として当たり前のことだと思っていたから。
結婚後は、彼のお母さんや弟と同居する予定だったけれど、今は私が借りた部屋に一緒に住んでいる。彼と知り合う前に借りた部屋はかなり広かったし、ここから騎士団本部はとても近いから、自然と彼が住み着くようになった。
その日の夕方、帰ってきた彼は、嬉しそうにこう言った。
「聞いてくれよ。俺の才能が認められて、騎士に昇格が決まったよ」
「本当に? すごいわ! おめでとう!」
「ありがとう。それで、明日ちょっと話があるんだ。何時ごろ帰れそう?」
「明日? なるべく早く帰るわ!」
――ギルが私に“話”? きっと、結婚式のことだわ。
指輪をもらえて、正式にプロポーズしてくれるのかもしれない。
明日はご馳走を作らなきゃ。仕事帰りに市場へ寄って、食材を買って帰ろう!
◆◇◆
翌日、帰り支度をしていると、ナナさんとリゼさんが声をかけてきた。
「やけに急いでるわね。何かあったの?」
「ギルが、騎士に昇格することになったんです。今日はそのお祝いをしようと思って……それに、折り入って話があるって言われました」
「まぁ! きっと正式なプロポーズね。指輪、楽しみじゃない?」
ふたりの言葉に背中を押されて、私は上気した頬のまま市場へ向かった。野菜に肉に果物に、あれもこれも……両手いっぱいに食材を抱えて、胸がどんどん膨らんでいく。
でも、家に帰ると――
「ポーション、もう少し作ってもらえないかなぁ? あれ、すごく効くんだよ。疲れがすっと抜けるし、仲間にも飲ませてやりたくてさ。自分だけ飲むって……なんか気が引けるし」
「うん。だったら、多めに作ってあげるね」
「ありがとな、リーナ。助かるよ」
頼られるのが嬉しくて、私は素直に頷いた。ギルベルトのためなら、いくらでも作れる。喜んでくれる顔を見るだけで、疲れなんて吹き飛んでしまうから。
彼のためのポーション作りは楽しい。“剣技がうまくなりますように”、“怪我をしませんように”、“今日も無事で帰ってきて”――そんな気持ちを込めながら、薬草を煮詰めるたびに、胸の奥がほんのりと温かくなっていく。
――好きな人のために役に立てるって、こんなに幸せなことなんだ。
私はただ、それだけで十分だった。
それからしばらくして、ギルベルトのお母さんが足を悪くし、だんだんと歩くのも辛そうになってきた。私は彼女を連れて、街の診療所へ向かう。
「これは加齢による膝の摩耗だね。薬で治せるものじゃない。自然の流れさ」
そんな診断だった。
――私は、奇跡を起こせるわけじゃないから。私の作った薬やポーションでは治せないだろうな。
それでも、何かできることはあるはずだと思った。だから私はそれから毎日のように、彼のお母さんの家を訪ねるようになった。ギルベルトの実家は、没落した準男爵家だった。
騎士見習いの彼の給金では、弟の学費まではとても賄えない。これまでは、彼のお母さんが貴族の屋敷で下働きをして家計を支えていたが、その足では、もうそれすら続けられない。気づけば私は、ごく自然にその学費を肩代わりするようになっていた。
◆◇◆
いつものように私はギルベルトのお母さんを訪ねていた。
「……面倒をかけて、本当にごめんなさい」
弱々しい声に、私は笑って首を振った。
「いいえ。ギルのお母さんは、私にとっても“家族”ですから。自分の母だと思っています。だから、ずっと元気でいてくださいね」
私は本気でそう思っていた。婚約者の母親なら、もう家族も同然。ギルベルトが仕事で遅くなる日も、忙しくて来られない日も、代わりに私が通った。
足が不自由になったギルベルトのお母さんは、杖を使えばゆっくり歩けるけれど、長い距離は移動できない。家事も自分でこなすことは難しい。だから私が、毎日のように食材を買い出し、火を入れれば食べられるように料理を作り置きし、掃除も洗濯もして、おしゃべり相手にもなった。
――だってもうすぐ家族になるのだから、当然だと思っていた。
誰に言われたわけでもなく、見返りを求めたこともない。
彼が忙しいなら、私が代わりにやればいい。
それが、婚約者として当たり前のことだと思っていたから。
結婚後は、彼のお母さんや弟と同居する予定だったけれど、今は私が借りた部屋に一緒に住んでいる。彼と知り合う前に借りた部屋はかなり広かったし、ここから騎士団本部はとても近いから、自然と彼が住み着くようになった。
その日の夕方、帰ってきた彼は、嬉しそうにこう言った。
「聞いてくれよ。俺の才能が認められて、騎士に昇格が決まったよ」
「本当に? すごいわ! おめでとう!」
「ありがとう。それで、明日ちょっと話があるんだ。何時ごろ帰れそう?」
「明日? なるべく早く帰るわ!」
――ギルが私に“話”? きっと、結婚式のことだわ。
指輪をもらえて、正式にプロポーズしてくれるのかもしれない。
明日はご馳走を作らなきゃ。仕事帰りに市場へ寄って、食材を買って帰ろう!
◆◇◆
翌日、帰り支度をしていると、ナナさんとリゼさんが声をかけてきた。
「やけに急いでるわね。何かあったの?」
「ギルが、騎士に昇格することになったんです。今日はそのお祝いをしようと思って……それに、折り入って話があるって言われました」
「まぁ! きっと正式なプロポーズね。指輪、楽しみじゃない?」
ふたりの言葉に背中を押されて、私は上気した頬のまま市場へ向かった。野菜に肉に果物に、あれもこれも……両手いっぱいに食材を抱えて、胸がどんどん膨らんでいく。
でも、家に帰ると――
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