[完結]だってあなたが望んだことでしょう?

青空一夏

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1 甘やかされた妹

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「家庭教師がいくらお姉様を優秀だって褒めても、そんな本の虫じゃ、頭でっかちで生意気な女性になるだけよ。私は男性が守ってあげたくなるような可愛い女性を目指しているの。お姉様みたいに地味なドレスを着て理屈ばかりこねていたら、絶対に男性にはもてないと思うわ」

 フリルとレースをふんだんに使ったピンクのドレスが小柄な少女にぴったりで、天使のような笑顔を浮かべている。鼻にかかった甘ったるい声で、私をけなしているのは実の妹マデリーンだ。

「別に私は男性にもてなくても構わないわ」

 ここはオルグレーン公爵家のサロン。私たちは並んで紅茶を飲んでいた。言いがかりをつけてくるのはいつも妹のほうで、大抵マデリーンは私の返事に満足せず、わざとティーカップの中身を私のドレスにこぼす。

「あらっ、ごめんなさい、お姉様。手が滑っちゃったの。決してわざとじゃないわ。でも、そんな地味な色のドレスだもの。シミにもなりにくいでしょう?」

 今日の私のドレスはモスグリーン。マデリーンはこの色を地味で、ぱっとしない色だと笑った。彼女は赤やオレンジ、ピンクなどの目立つ色が好きで、くすんだ色や淡い色を嫌っていた。

「わざとしたことはわかっているわ。マデリーンは、自分の思い通りにならないと、こういうことをするのよ。でも、こんなことばかりしていたらだめよ。生きていれば、自分の思い通りにならないことは、たくさんあるのよ」

「あぁ、うるさいわね! お姉様ってほんと、意地悪ばかり言うのね! 偉そうに私に説教するのはやめてよ! ……お父様とお母様にいいつけてやるんだから!」

 マデリーンは泣く真似をしながら、両親がいる庭園のガゼボへと走っていった。午後の紅茶を楽しみながら花を眺めているお父様とお母様の姿は、サロンからも見えていた。

「お姉様ったら、私が手を滑らせて紅茶をこぼしただけなのに、わざとしたって怒るのよ。それに私を、なんでも思い通りにならないと気がすまない性悪女だって言ったの!」
「そんなことは言ってません! なぜ、いつもそんな嘘ばかりつくの?」

 お父様は私に向かってこう言った。
「アンジェリーナは姉なんだから、妹を泣かせるようなことを言うんじゃない! こんな可愛いマデリーンがわざとアンジェリーナのドレスを汚すわけがないだろう? 二人っきりの姉妹なのだから仲良くしなさい!」

 お母様も、もちろんお父様と同意見だった。
「アンジェリーナはお利口さんだし、しっかり者の優しい子よね? マデリーンの面倒をちゃんとみてあげないといけませんよ。可愛い妹ではありませんか? 意地悪を言ったりしてはいけません!」

 結局叱られるのはいつも私で、マデリーンはお父様の膝の上で舌をだしている。

「お父様、お母様、ありがとう! 大好きよ。私、お姉様を許してあげるからそれ以上叱らないであげて。お姉様、うっかりドレスを汚してしまってごめんなさいね」
「まぁ、上手に謝れてマデリーンはとても偉いわ」
「そうだな。うちの天使はいつも可愛いし素直だ」

 両親はもう私を見ていない。マデリーンは嘘がうまくて、天使のような無邪気な笑みを浮かべるのが得意だ。どうしたら大人たちが自分の味方になってくれるのかを熟知していた。実際意地悪をされているのは私なのだけれど、オルグレーン公爵家では私が意地悪な姉にされていた。

 。゚☆: *.☽ .* :☆゚

 やがて、私たちが年頃になった頃、王家から姉妹のいずれかを王太子妃として迎えたいという知らせが届いた。私たち一家はサロンに集まり、話し合いをする。

「私こそ王太子妃にふさわしいわ! お茶会も舞踏会も、私の方が上手にこなせるもの!」
 マデリーンが叫んだ。
「マデリーン。王太子妃の仕事は華やかな場に出席するだけじゃないのよ……」
 私が説明しようとしても、妹は聞く耳を持たない。
「絶対に私がなるの! お姉様なんか引っ込んでいてよ! お父様、お母様、お願いよ。私を王太子妃にするって王家に申し出てよ」
 もちろん、マデリーンを溺愛している両親は承諾した。

「うふふ、お姉様も本当は王太子妃になりたかったでしょう? ごめんなさいね。私のほうが身分が上になっちゃって。でも、お姉様とはこれからも仲良くしてあげるから安心して」
「いいのよ。でも、自分で望んだのだから途中で放り出さないようにね」
「え? 当たり前じゃない! そんな無責任なこと、しないわよ。お姉様っていつも意地悪ばっかり言うのね!」

 こうしてマデリーンは、マールバラ王国の王太子シオドリック・マールバラと婚約を結んだ。シオドリック様は国王夫妻のただ一人の子として生まれ、王国の未来を託された唯一の後継者である。



 それから二週間が経った頃のこと。私は突然、マデリーンに泣きつかれた。

「お姉様、お願い! もう王太子妃なんてなりたくないわ。だから……お姉様が代わりになってよ」

 その願いを裏付けるように、お母様も私に命じてきた。
「アンジェリーナ。マデリーンの代わりに、おまえが王太子妃となりなさい」
 
「マデリーン。これは自分で望んだことよ? 途中で投げ出さないよう、あれほど注意したでしょう?」
 私がそうたしなめると、お母様はすぐさま私を叱りつけた。
「アンジェリーナ、マデリーンは王太子妃教育の最中にひどい頭痛に襲われ、倒れそうになるのですって。教育係も容赦なくて、少しでも誤れば細い鞭でふくらはぎを打つそうよ。妹が可哀想だと思わないの?」
「教育係の鞭は形ばかりのものです。軽く打つだけで跡も残りませんし、痛みよりも音に怯えるくらいのものでしょう。それに、真面目に学んでいれば叩かれることなど滅多にありませんわ」
「とにかく、マデリーンはもう通いたくないと言っているのです。それなら、あなたが代わりに行くしかないでしょう。王家からは『姉妹のどちらでもよい』と仰せがあったのだから」

 両親はマデリーンにはひたすら甘く、結局のところ私はいつも妹のわがままに振り回される役目を押しつけられるのだった。


 
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