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7-1 自業自得
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まだ王太子妃教育は終わっていなかったけれど、シオドリック王太子殿下は「そんなものは少しずつ覚えればいい」と言い、予定よりずっと早く結婚式を挙げることになった。場所は王城に隣接している大聖堂だ。
魔法の言葉を口にして以来、王太子殿下はいつも私のそばを離れようとしない。王太子妃教育の教育係も変わり、課題を出さなくても叱られることはなくなった。
(あぁ、得したわ。結局、あの退屈で厳しい王太子妃教育なんて、本当は必要なかったのね。お姉様は必死に勉強していたけれど……本当に馬鹿だったわよねぇ。寝不足でボロボロになりながら、明け方まで課題を仕上げていたのに、報われなかったお姉様、かわいそ――♪ まぁ寝不足になったのは、いつも私が邪魔して勉強の時間を奪っていたからだけどね)
私は胸が躍る気分で、結婚式当日を迎えた。和平条約を結んだバントック帝国からは、皇太子夫妻であるお姉様たちが正式に招かれている。お姉様が怪我をしたとか寝込んでいるという噂は聞かない。つまり、残忍なアレクサンダー皇太子殿下から目立った暴力は受けていないのだろう。
(でも、ドレスの下には青あざがたくさん隠されているに違いないわ……哀れなお姉様。敵国だった帝国に嫁いだんだもの。きっと誰からも粗末に扱われ、毎日泣いて暮らしているはずよ)
お姉様たちの結婚式は、内輪だけのこぢんまりしたものだったと聞く。それに比べて、私の結婚式はマールバラ王国を挙げての盛大なもの。他国の王族や貴族も参列し、きらびやかな祝宴が催される。
(ふふっ、格の違いがはっきり出たわね。私はお姉様に勝ったのよ! あぁ、それにしても、皇太子殿下は醜悪って噂だけれど……実際はどうなのかしら? 想像するだけで笑えてしまうわ。きっと不幸な結婚でお姉様はやつれ果て、顔には皺が深く刻まれているはずよ。いつも険しい顔をしていれば眉間の縦皺がくっきり、常に泣いていたら口角も下がっているわね。つまり、一気に老けた印象になっているはずなのよ。そんな姿をこの目で見られるなんて、ワクワクするわ!)
ところが……。
大聖堂の前の人だかりにざわめきが広がった。
雪のように白い馬に引かれた豪奢な馬車がゆっくりと停まる。
馬車の扉が開き、水色の髪と瞳を持つ美青年が降り立った。彼は馬車に向かって優雅に手を差し伸べる。その端正な顔立ち、涼しげな目元、整った鼻筋、柔らかな笑みをたたえる唇――陽光を浴びて、まるで彫刻のように美しい。
(あんなきれいな男性、初めて見たわ……)
馬車から降りてくる女性が、その美青年に支えられて石畳に立った。宝石のように輝くドレスをまとった女性は、驚いたことに紛れもなくお姉様だった。
お姉様はやつれるどころか肌は艶めき、頬はほんのりピンクに染まっている。皺なんてどこにもない。以前よりもずっと美しさが増していたのだ。傍らの美青年に微笑むその姿は、誰よりも幸福そうで――参列客の視線は一瞬で釘付けになった。
(え? あれが皇太子殿下なの? いやだ、そんなはずないわよね。あんな麗しい男性が皇太子殿下のはずがないもの!)
私は王太子殿下の手を引っ張り、お姉様のほうへ駆け寄った。
「お姉様! 遠路はるばるようこそ……でも、どうして皇太子殿下と一緒じゃないの? そちらの男性は、どう見ても舞台俳優でしょう? わかった! きっと、バントック帝国の宮廷劇で主役を演じる俳優さんよね? やっぱり、醜悪だと噂の皇太子殿下は、自分の姿を晒すのが恥ずかしかったのね」
お姉様は呆れた顔で私を見つめながら、落ち着いた声でたしなめた。
「マデリーン、お久しぶりね。あなたは相変わらず失言が多いのね。思ったことをそのまま口にする前に、言っていい言葉かどうか、いったん頭の中で吟味したほうがいいわ」
「まだ私にお説教めいたことを言うの? お姉様こそ、そんな皇太子殿下以外の男性にエスコートされて大丈夫なの? まさか皇太子殿下と参列するのが嫌で、自分の愛人を連れてきたとかじゃないわよね? ふふっ、きっと皇太子殿下からひどい罰を受けるわよ」
思いっきり高笑いしていると、お姉様に寄り添うように立っていた男性が、穏やかな笑みを浮かべてこう言った。
「いや、私は妻を愛しすぎているから、たとえ俳優に夢中になっていたとしても、罰は与えないよ。悲しみに沈んで、政務が手につかなくなるかもしれないが……」
「嫌ですわ。私が他の男性に興味を持つなんてあるわけないです。こんなに素敵な優しいアレクサンダー様に愛されておりますのに……」
「あぁ、それを聞いてホッとしたよ。アンジェリーナは私の唯一無二だからね。愛しているよ、私だけの女神」
(はぁ? なんなのよ、この甘ったるい雰囲気は? イライラするわね! でも、ちょっと待って。この男性はお姉様のことを妻とよんだわね――ということは、まさかこの男性は……)
「あぁ、つい妻の愛らしさに見とれて自分の名前を名乗るのを忘れていたな。申し遅れたが、私がバントック帝国の皇太子、アレクサンダー・バントックだ。マデリーン嬢にはとても感謝している。あなたがシオドリック王太子と婚約してくれたお陰で、私は理想の女性を妃に迎えられた。シオドリック王太子に礼を言おう。アンジェリーナを手放してくれてありがとう!」
(なっ、なによ、それ? 嫌みなの? むかつく! これじゃぁ、私よりもよっぽどお姉様のほうが幸せになっちゃったじゃない! くっ、悔しいぃーー!)
❀┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈❀
※7-1話は少しコミカルなざまぁ展開でしたね。次話はダーク寄りのざまぁになります。もともとは7-1と7-2を一話にまとめて投稿するつもりでしたが、改稿しているうちに長くなってしまったため二話に分けました。すみません。悔しがるマデリーンの様子が面白いと思った方は、ハートをぽっちりしてくださいね! さて、あの秘密の言葉の意味、次のお話でわかります。引っ張ってごめんなさいデス💦わ、わざとじゃないんですよーー😅
魔法の言葉を口にして以来、王太子殿下はいつも私のそばを離れようとしない。王太子妃教育の教育係も変わり、課題を出さなくても叱られることはなくなった。
(あぁ、得したわ。結局、あの退屈で厳しい王太子妃教育なんて、本当は必要なかったのね。お姉様は必死に勉強していたけれど……本当に馬鹿だったわよねぇ。寝不足でボロボロになりながら、明け方まで課題を仕上げていたのに、報われなかったお姉様、かわいそ――♪ まぁ寝不足になったのは、いつも私が邪魔して勉強の時間を奪っていたからだけどね)
私は胸が躍る気分で、結婚式当日を迎えた。和平条約を結んだバントック帝国からは、皇太子夫妻であるお姉様たちが正式に招かれている。お姉様が怪我をしたとか寝込んでいるという噂は聞かない。つまり、残忍なアレクサンダー皇太子殿下から目立った暴力は受けていないのだろう。
(でも、ドレスの下には青あざがたくさん隠されているに違いないわ……哀れなお姉様。敵国だった帝国に嫁いだんだもの。きっと誰からも粗末に扱われ、毎日泣いて暮らしているはずよ)
お姉様たちの結婚式は、内輪だけのこぢんまりしたものだったと聞く。それに比べて、私の結婚式はマールバラ王国を挙げての盛大なもの。他国の王族や貴族も参列し、きらびやかな祝宴が催される。
(ふふっ、格の違いがはっきり出たわね。私はお姉様に勝ったのよ! あぁ、それにしても、皇太子殿下は醜悪って噂だけれど……実際はどうなのかしら? 想像するだけで笑えてしまうわ。きっと不幸な結婚でお姉様はやつれ果て、顔には皺が深く刻まれているはずよ。いつも険しい顔をしていれば眉間の縦皺がくっきり、常に泣いていたら口角も下がっているわね。つまり、一気に老けた印象になっているはずなのよ。そんな姿をこの目で見られるなんて、ワクワクするわ!)
ところが……。
大聖堂の前の人だかりにざわめきが広がった。
雪のように白い馬に引かれた豪奢な馬車がゆっくりと停まる。
馬車の扉が開き、水色の髪と瞳を持つ美青年が降り立った。彼は馬車に向かって優雅に手を差し伸べる。その端正な顔立ち、涼しげな目元、整った鼻筋、柔らかな笑みをたたえる唇――陽光を浴びて、まるで彫刻のように美しい。
(あんなきれいな男性、初めて見たわ……)
馬車から降りてくる女性が、その美青年に支えられて石畳に立った。宝石のように輝くドレスをまとった女性は、驚いたことに紛れもなくお姉様だった。
お姉様はやつれるどころか肌は艶めき、頬はほんのりピンクに染まっている。皺なんてどこにもない。以前よりもずっと美しさが増していたのだ。傍らの美青年に微笑むその姿は、誰よりも幸福そうで――参列客の視線は一瞬で釘付けになった。
(え? あれが皇太子殿下なの? いやだ、そんなはずないわよね。あんな麗しい男性が皇太子殿下のはずがないもの!)
私は王太子殿下の手を引っ張り、お姉様のほうへ駆け寄った。
「お姉様! 遠路はるばるようこそ……でも、どうして皇太子殿下と一緒じゃないの? そちらの男性は、どう見ても舞台俳優でしょう? わかった! きっと、バントック帝国の宮廷劇で主役を演じる俳優さんよね? やっぱり、醜悪だと噂の皇太子殿下は、自分の姿を晒すのが恥ずかしかったのね」
お姉様は呆れた顔で私を見つめながら、落ち着いた声でたしなめた。
「マデリーン、お久しぶりね。あなたは相変わらず失言が多いのね。思ったことをそのまま口にする前に、言っていい言葉かどうか、いったん頭の中で吟味したほうがいいわ」
「まだ私にお説教めいたことを言うの? お姉様こそ、そんな皇太子殿下以外の男性にエスコートされて大丈夫なの? まさか皇太子殿下と参列するのが嫌で、自分の愛人を連れてきたとかじゃないわよね? ふふっ、きっと皇太子殿下からひどい罰を受けるわよ」
思いっきり高笑いしていると、お姉様に寄り添うように立っていた男性が、穏やかな笑みを浮かべてこう言った。
「いや、私は妻を愛しすぎているから、たとえ俳優に夢中になっていたとしても、罰は与えないよ。悲しみに沈んで、政務が手につかなくなるかもしれないが……」
「嫌ですわ。私が他の男性に興味を持つなんてあるわけないです。こんなに素敵な優しいアレクサンダー様に愛されておりますのに……」
「あぁ、それを聞いてホッとしたよ。アンジェリーナは私の唯一無二だからね。愛しているよ、私だけの女神」
(はぁ? なんなのよ、この甘ったるい雰囲気は? イライラするわね! でも、ちょっと待って。この男性はお姉様のことを妻とよんだわね――ということは、まさかこの男性は……)
「あぁ、つい妻の愛らしさに見とれて自分の名前を名乗るのを忘れていたな。申し遅れたが、私がバントック帝国の皇太子、アレクサンダー・バントックだ。マデリーン嬢にはとても感謝している。あなたがシオドリック王太子と婚約してくれたお陰で、私は理想の女性を妃に迎えられた。シオドリック王太子に礼を言おう。アンジェリーナを手放してくれてありがとう!」
(なっ、なによ、それ? 嫌みなの? むかつく! これじゃぁ、私よりもよっぽどお姉様のほうが幸せになっちゃったじゃない! くっ、悔しいぃーー!)
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※7-1話は少しコミカルなざまぁ展開でしたね。次話はダーク寄りのざまぁになります。もともとは7-1と7-2を一話にまとめて投稿するつもりでしたが、改稿しているうちに長くなってしまったため二話に分けました。すみません。悔しがるマデリーンの様子が面白いと思った方は、ハートをぽっちりしてくださいね! さて、あの秘密の言葉の意味、次のお話でわかります。引っ張ってごめんなさいデス💦わ、わざとじゃないんですよーー😅
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