6 / 11
5 愚かな長男と賢い次男 ワイアット視点/バーノン視点
しおりを挟む
(ワイアット視点)
ウォーク公爵家には毎日のように通っているが、カトレア嬢からはなんの返事もいただけないでいた。時間だけが過ぎていき、焦り始めている僕だ。
思い悩みながらも父上の執務室の前を通りかかる。
「え! なぜエルズバー伯爵家との取引から手を引くとおっしゃるのですか? 長年、持ちつ持たれつやってきた仲ではありませんか?」
執務室から漏れてくる父上の悲痛な声にただならぬ雰囲気を感じ、僕は慌てて聞き耳を立てる。立ち聞きは行儀の良いことではないが、たまたま聞こえてきてしまったのだ。やむを得まい。
お次は母上の声がサロンの方から響いてきた。
「なんですって? エジンバラ公爵家の夜会の招待状が皆様にもう届いておりますの? そんな・・・・・・私はまだ頂いておりませんわ・・・・・・エジンバラ公爵家は筆頭公爵家で社交界での影響が大きいのに・・・・・・去年はお招きいただいたのになぜ・・・・・・え? お帰りになるのですか? 皆様、お待ちになって。まだお茶会は始まったばかりでしてよ?」
母上の切羽詰まる困り果てた声が僕を動揺させた。
内容からして我が家はエジンバラ公爵家から嫌われたらしい。それを察知した今日のお茶会にお呼びした客人達は早々と退散したのだろう。権力者から疎まれている家の者と仲良くしていても何のメリットもないからだ。
(なぜいきなりこのようにエルズバー伯爵家に打撃を与えることばかりが起こるのだろうか?)
しかも、ぐっすり眠っているはずなのに頭が痛く身体もだるい。最近は頻繁に倒れることがあって、お抱えの医者に診せたら貧血だと言われた。
「兄上はもっと空気の良いのどかな場所に静養に向かわれた方がよろしいかと思います。父上もこの機会に引退なさってゆっくりしたらいかがですか? このエルズバー伯爵家の存続の為です」
ある日、弟のバーノンがきっぱりとした口調でそう言った。
「お前は次男だぞ! まだ僕が家督を継がないと決めたわけではない。カトレア様からまだお返事がない今、あの妹の方を妻に迎えるしかなさそうだ」
「は? ティベリア嬢よりカトレア嬢が良いなどと失礼なことを言っておいて、相手にされなかったからティベリア嬢で我慢する、とでもおっしゃるつもりですか? さらに怒りを買うだけです」
「これは家同士の結びつきだろう? お互いにメリットがあるからあちらは縁を結ぼうとエルズバー伯爵家に縁談を持ち込んできたと思う。対等な関係だ。なんなら、あちらが最初に打診してきたのだから、こちらが優位だと思っている。姉がダメなら妹にしたって全く問題ないはずだ」
「バカなのですか? エルズバー伯爵家の事業の取引先を全部書き出して見ると良いです。全てウォーク公爵家の息のかかった貴族達や子飼いの大商人に繋がります。つまり、我がエルズバー伯爵家はウォーク公爵家の恩恵の下で繁栄している。あちらの不興を買ったら生き残れません。明らかにこちらは格下、養われている身なのですよ」
「ウォーク公爵家は怒っているのか? なぜ?」
「鈍いですね! カトレア様を激怒させたのでしょう? あの方は妹のティベリア嬢を溺愛しています」
(まさか、そんな感じには見えなかったけど。少しも怒っているようには見えなかったぞ)
僕はバーノンの言葉を全く信じていなかった。
(バーノン視点)
兄上に縁談が来たけれどその相手に驚愕した。相手は筆頭公爵家に引けを取らない権勢を誇るウォーク公爵家の次女ティベリア嬢だという。
わたしは徹底的にウォーク公爵家を調べた。多岐にわたる事業は諸外国でも展開されており、その資産は莫大なものであろうことが予想された。しかも大商人として活躍しているほとんどの者達が、子飼いの部下だということもわかる。なんてことだ、筆頭公爵家よりも力があるじゃないか。
これなら王家よりもずっと影響力があるのに、なぜあの立場のままでいるのか? 能ある鷹は爪を隠す、か。多分、そうなのだろう。だから想像できた。あの方達は感情を他人の前では露わにしない。
だから兄上達がした愚かな申し込みにも声を荒げなかったのだ。しかし、ウォーク公爵家に出入りしている商人達に聞けばすぐにわかる。姉妹仲の良さと家族愛に溢れている一族だということが。
つまり、きっと我が家は報復される。あちらはただ小バエにいちいち声をかけないだけだ。ただ黙って潰す。きっとそういうことなのだ。
だからわたしはこれから謝りに行こうと思う。どうにか話しだけでも聞いてくれることを願うだけだ。失礼なことをした両親と兄上の非礼を詫びて頭を下げよう。
とりあえずはティベリア嬢が好きだというデイジー(ひなぎく)の花束を持って行こう。
ウォーク公爵家には毎日のように通っているが、カトレア嬢からはなんの返事もいただけないでいた。時間だけが過ぎていき、焦り始めている僕だ。
思い悩みながらも父上の執務室の前を通りかかる。
「え! なぜエルズバー伯爵家との取引から手を引くとおっしゃるのですか? 長年、持ちつ持たれつやってきた仲ではありませんか?」
執務室から漏れてくる父上の悲痛な声にただならぬ雰囲気を感じ、僕は慌てて聞き耳を立てる。立ち聞きは行儀の良いことではないが、たまたま聞こえてきてしまったのだ。やむを得まい。
お次は母上の声がサロンの方から響いてきた。
「なんですって? エジンバラ公爵家の夜会の招待状が皆様にもう届いておりますの? そんな・・・・・・私はまだ頂いておりませんわ・・・・・・エジンバラ公爵家は筆頭公爵家で社交界での影響が大きいのに・・・・・・去年はお招きいただいたのになぜ・・・・・・え? お帰りになるのですか? 皆様、お待ちになって。まだお茶会は始まったばかりでしてよ?」
母上の切羽詰まる困り果てた声が僕を動揺させた。
内容からして我が家はエジンバラ公爵家から嫌われたらしい。それを察知した今日のお茶会にお呼びした客人達は早々と退散したのだろう。権力者から疎まれている家の者と仲良くしていても何のメリットもないからだ。
(なぜいきなりこのようにエルズバー伯爵家に打撃を与えることばかりが起こるのだろうか?)
しかも、ぐっすり眠っているはずなのに頭が痛く身体もだるい。最近は頻繁に倒れることがあって、お抱えの医者に診せたら貧血だと言われた。
「兄上はもっと空気の良いのどかな場所に静養に向かわれた方がよろしいかと思います。父上もこの機会に引退なさってゆっくりしたらいかがですか? このエルズバー伯爵家の存続の為です」
ある日、弟のバーノンがきっぱりとした口調でそう言った。
「お前は次男だぞ! まだ僕が家督を継がないと決めたわけではない。カトレア様からまだお返事がない今、あの妹の方を妻に迎えるしかなさそうだ」
「は? ティベリア嬢よりカトレア嬢が良いなどと失礼なことを言っておいて、相手にされなかったからティベリア嬢で我慢する、とでもおっしゃるつもりですか? さらに怒りを買うだけです」
「これは家同士の結びつきだろう? お互いにメリットがあるからあちらは縁を結ぼうとエルズバー伯爵家に縁談を持ち込んできたと思う。対等な関係だ。なんなら、あちらが最初に打診してきたのだから、こちらが優位だと思っている。姉がダメなら妹にしたって全く問題ないはずだ」
「バカなのですか? エルズバー伯爵家の事業の取引先を全部書き出して見ると良いです。全てウォーク公爵家の息のかかった貴族達や子飼いの大商人に繋がります。つまり、我がエルズバー伯爵家はウォーク公爵家の恩恵の下で繁栄している。あちらの不興を買ったら生き残れません。明らかにこちらは格下、養われている身なのですよ」
「ウォーク公爵家は怒っているのか? なぜ?」
「鈍いですね! カトレア様を激怒させたのでしょう? あの方は妹のティベリア嬢を溺愛しています」
(まさか、そんな感じには見えなかったけど。少しも怒っているようには見えなかったぞ)
僕はバーノンの言葉を全く信じていなかった。
(バーノン視点)
兄上に縁談が来たけれどその相手に驚愕した。相手は筆頭公爵家に引けを取らない権勢を誇るウォーク公爵家の次女ティベリア嬢だという。
わたしは徹底的にウォーク公爵家を調べた。多岐にわたる事業は諸外国でも展開されており、その資産は莫大なものであろうことが予想された。しかも大商人として活躍しているほとんどの者達が、子飼いの部下だということもわかる。なんてことだ、筆頭公爵家よりも力があるじゃないか。
これなら王家よりもずっと影響力があるのに、なぜあの立場のままでいるのか? 能ある鷹は爪を隠す、か。多分、そうなのだろう。だから想像できた。あの方達は感情を他人の前では露わにしない。
だから兄上達がした愚かな申し込みにも声を荒げなかったのだ。しかし、ウォーク公爵家に出入りしている商人達に聞けばすぐにわかる。姉妹仲の良さと家族愛に溢れている一族だということが。
つまり、きっと我が家は報復される。あちらはただ小バエにいちいち声をかけないだけだ。ただ黙って潰す。きっとそういうことなのだ。
だからわたしはこれから謝りに行こうと思う。どうにか話しだけでも聞いてくれることを願うだけだ。失礼なことをした両親と兄上の非礼を詫びて頭を下げよう。
とりあえずはティベリア嬢が好きだというデイジー(ひなぎく)の花束を持って行こう。
82
あなたにおすすめの小説
【完結済み】妹の婚約者に、恋をした
鈴蘭
恋愛
妹を溺愛する母親と、仕事ばかりしている父親。
刺繍やレース編みが好きなマーガレットは、両親にプレゼントしようとするが、何時も妹に横取りされてしまう。
可愛がって貰えず、愛情に飢えていたマーガレットは、気遣ってくれた妹の婚約者に恋をしてしまった。
無事完結しました。
とある侯爵令息の婚約と結婚
ふじよし
恋愛
ノーリッシュ侯爵の令息ダニエルはリグリー伯爵の令嬢アイリスと婚約していた。けれど彼は婚約から半年、アイリスの義妹カレンと婚約することに。社交界では格好の噂になっている。
今回のノーリッシュ侯爵とリグリー伯爵の縁を結ぶための結婚だった。政略としては婚約者が姉妹で入れ替わることに問題はないだろうけれど……
妹は病弱アピールで全てを奪い去っていく
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢マチルダには妹がいる。
妹のビヨネッタは幼い頃に病気で何度か生死の境を彷徨った事実がある。
そのために両親は過保護になりビヨネッタばかり可愛がった。
それは成長した今も変わらない。
今はもう健康なくせに病弱アピールで周囲を思い通り操るビヨネッタ。
その魔の手はマチルダに求婚したレオポルドにまで伸びていく。
犠牲になるのは、妹である私
木山楽斗
恋愛
男爵家の令嬢であるソフィーナは、父親から冷遇されていた。彼女は溺愛されている双子の姉の陰とみなされており、個人として認められていなかったのだ。
ソフィーナはある時、姉に代わって悪名高きボルガン公爵の元に嫁ぐことになった。
好色家として有名な彼は、離婚を繰り返しており隠し子もいる。そんな彼の元に嫁げば幸せなどないとわかっていつつも、彼女は家のために犠牲になると決めたのだった。
婚約者となってボルガン公爵家の屋敷に赴いたソフィーナだったが、彼女はそこでとある騒ぎに巻き込まれることになった。
ボルガン公爵の子供達は、彼の横暴な振る舞いに耐えかねて、公爵家の改革に取り掛かっていたのである。
結果として、ボルガン公爵はその力を失った。ソフィーナは彼に弄ばれることなく、彼の子供達と良好な関係を築くことに成功したのである。
さらにソフィーナの実家でも、同じように改革が起こっていた。彼女を冷遇する父親が、その力を失っていたのである。
婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~
tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。
ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。
【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。
五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」
オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。
シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。
ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。
彼女には前世の記憶があった。
(どうなってるのよ?!)
ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。
(貧乏女王に転生するなんて、、、。)
婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。
(ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。)
幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。
最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。
(もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)
永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~
畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる