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映画に一緒に行く前にクレメント様からプレゼントされたワンピースはレモン色だった。前髪は短くして目が見える位置まで切ってくるように言われる。
「マライア様の可愛い目が隠れるのが勿体ないでしょう? 前髪をもう少し切って、口紅はオレンジが似合いそうです」
こんなにも私のことを考えてくださっているなんて感激したわ。だから言われた通りに前髪を切り、レモン色のワンピースを着る。
初めてのデートはとても楽しかった。映画は観劇と違って俳優さんの細かな表情が大画面に映し出され、演技の上手い下手が手に取るようにわかる。今までの大袈裟な舞台女優の演技は通じない。細やかな息づかいまで画面を通して伝わるそんな世界だった。
それからの私は、クレメント様と学食で一緒にランチを食べるようになった。彼は私がパンや芋類を食べようとすると私の手を軽くたたく。
「ねぇ、そのパンは半分にした方がいいよ。それから付け合わせの芋を食べるなら、パンは食べちゃダメだよ」
「え? どうして?」
「それはマライアがもっと可愛くなるためだよ」
いつのまにか私は呼び捨てになっている。でも、それも恋人らしくて嬉しかった。
「うん、わかったわ」
私はクレメント様にもっと好かれたくて、パンを半分残し芋は一切食べなかった。
クレメント様とお付き合いするようになってから3キロほど減った。
「どこか具合が悪いの?」
お姉様には心配された。
「病気ではないわよね? 大丈夫?」
お母様からもお医者様を呼ばれそうになる。
それでもクレメント様に褒められれば嬉しくて、髪型も服も靴もクレメント様の言うように替えていく。
「すっごい綺麗になったね?」
学園で同じクラスの男子に言われて顔が赤くなる。かなり嬉しい。
「さすがレイチェル様の妹よね? やっぱり似ているもの」
でも、そんな女子の声には愕然とした。
「お姉様に似ている? 嘘でしょう? こんな私が似ているわけがないわ」
「でも似ている、と言われたいのでしょう? だってその髪型や口紅、この前のファッションショーの時のレイチェル様とそっくりだもの。顔は姉妹だけあって、ちょっと似ているわよ。今は痩せたし、だいぶレイチェル様に近づいた感じだわ。頑張ったのね!」
私はお姉様のファッションショーには滅多に行かない。お姉様の着る服は私には似合わないとわかっているから。
でも屋敷に帰って、お姉様のショーが掲載された雑誌を見ると、まさしくクレメント様から送られたそっくりのワンピースが写っている。髪型も同じで口紅はオレンジだった。
私は鏡の前に立つ。お姉様の方が身長は5センチ高いし胸は4センチ大きい。でも、お姉様の格好をパクった私の顔はそれなりにお姉様に似ていた。やはり姉妹だな、と思う。
お姉様をほんの少し冴えなくした顔、それが私よ。あちらが本物で私は偽物。クレメント様が私を見ていないことがわかった。
あの方が見ていたのは・・・・・・お姉様だった。
「マライア様の可愛い目が隠れるのが勿体ないでしょう? 前髪をもう少し切って、口紅はオレンジが似合いそうです」
こんなにも私のことを考えてくださっているなんて感激したわ。だから言われた通りに前髪を切り、レモン色のワンピースを着る。
初めてのデートはとても楽しかった。映画は観劇と違って俳優さんの細かな表情が大画面に映し出され、演技の上手い下手が手に取るようにわかる。今までの大袈裟な舞台女優の演技は通じない。細やかな息づかいまで画面を通して伝わるそんな世界だった。
それからの私は、クレメント様と学食で一緒にランチを食べるようになった。彼は私がパンや芋類を食べようとすると私の手を軽くたたく。
「ねぇ、そのパンは半分にした方がいいよ。それから付け合わせの芋を食べるなら、パンは食べちゃダメだよ」
「え? どうして?」
「それはマライアがもっと可愛くなるためだよ」
いつのまにか私は呼び捨てになっている。でも、それも恋人らしくて嬉しかった。
「うん、わかったわ」
私はクレメント様にもっと好かれたくて、パンを半分残し芋は一切食べなかった。
クレメント様とお付き合いするようになってから3キロほど減った。
「どこか具合が悪いの?」
お姉様には心配された。
「病気ではないわよね? 大丈夫?」
お母様からもお医者様を呼ばれそうになる。
それでもクレメント様に褒められれば嬉しくて、髪型も服も靴もクレメント様の言うように替えていく。
「すっごい綺麗になったね?」
学園で同じクラスの男子に言われて顔が赤くなる。かなり嬉しい。
「さすがレイチェル様の妹よね? やっぱり似ているもの」
でも、そんな女子の声には愕然とした。
「お姉様に似ている? 嘘でしょう? こんな私が似ているわけがないわ」
「でも似ている、と言われたいのでしょう? だってその髪型や口紅、この前のファッションショーの時のレイチェル様とそっくりだもの。顔は姉妹だけあって、ちょっと似ているわよ。今は痩せたし、だいぶレイチェル様に近づいた感じだわ。頑張ったのね!」
私はお姉様のファッションショーには滅多に行かない。お姉様の着る服は私には似合わないとわかっているから。
でも屋敷に帰って、お姉様のショーが掲載された雑誌を見ると、まさしくクレメント様から送られたそっくりのワンピースが写っている。髪型も同じで口紅はオレンジだった。
私は鏡の前に立つ。お姉様の方が身長は5センチ高いし胸は4センチ大きい。でも、お姉様の格好をパクった私の顔はそれなりにお姉様に似ていた。やはり姉妹だな、と思う。
お姉様をほんの少し冴えなくした顔、それが私よ。あちらが本物で私は偽物。クレメント様が私を見ていないことがわかった。
あの方が見ていたのは・・・・・・お姉様だった。
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