(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏

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5 ハミルトン様はずっとキープよ(クロエ視点)

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 その昔、魅了の魔法を使って王子や高位貴族をたぶらかす身分の低い女性たちが、ボウフラのように湧いた時期があった。そのため、ここイングルス王国では魅了の魔法を使える子供を発見したら、大魔道士様を招いてその能力を消し去ってもらうことを法律化した。

 大魔道士様はこの世界に数人しかおられず、魅了の魔法を使う者からその能力を奪い、消し去る特異な能力を持っていた。もちろん、大魔道士様はそのほかにもさまざまな偉大な魔法を使え、王族さえもひれ伏すという存在だった。

 私が魅了の魔法によく似た『幻惑の術』が使えると気がついたのは七歳くらいのときだったと思う。『幻惑の術』は幻想的で惑わしのある魔法を指す。対象者の知覚を操作し、魅了や幻覚を引き起こすことができる。 『この人に好かれたい』と思うと、あちらから不思議と好かれずいぶん得をしたわ。

 それは不思議な感覚で、操り人形のように相手の気持ちをコントロールするのが楽しかった。ただ、本来の魅了の魔法は強力でかからないほうが少数なのだけれど、私の魔法はかけられる人数がわずかだった。その数、およそ五人。だから、十歳の頃に行われた魔力鑑定でもばれなかったのよ。魔力量が少ないのでしょうね。



 この世界は火・水・風・土魔法が主流で、生活魔法程度しか使えない者がほとんどだった。身分によって魔力量が決まるわけでもなく、平民に膨大な魔力を持つ者もいれば、高位貴族でも魔力がない者もいた。

 私の婚約者のハミルトン・パリノ侯爵は風魔法が少し使える程度。でも、容姿だけは抜群で紫水晶の瞳と髪をもつ絶世の美男子だった。私は彼に会ったその日に、『幻惑の術』をかけた。

 だから、ハミルトン様の瞳には彼の理想の女性が見えているはずだった。私が何をしても彼には愛らしく好ましく映るはずなのよ。おかげで、彼はすっかり私に夢中になってくれた。あんなに麗しい男性が私の言いなりになることに、有頂天になっていた。

 お陰でつい調子に乗りすぎたわね。一緒に遊び回りすぎて、彼に執務室にいる時間を与えなかったのよ。でも、まさか家令に全財産を盗まれるなんてあり得ない。

(ハミルトン様の管理が怠慢だっただけだわ。私のせいじゃない。かわいそうだけれど、破産して平民になる男性なんかと結婚はできない。でも、あれだけの美貌の男性の心は独占しておきたい。他の女のものにはさせないわ)

 私は、ハミルトン様に婚約破棄の証書を送り付けたその日の夕方、他の女性が魅力的に見えない魔法もかけてあげた。『美変醜化の術』よ。『幻惑の術』の一種だ。

「貴方を永遠に愛しますわ」

 そう言いながら、心のなかでは別な言葉をつぶやく。

(どんな美女も『冴えない、地味な魅力のない女性』に見えますように。この私、クロエが一番可愛く見えればいいのよ)

 これで、ハミルトン様の心は『幻惑の術』と『美変醜化の術』を解かないかぎり私のもとにある。さて、これから高位貴族の中からまた婚約者を探さなければならないわ。はっきり言って、高位貴族の中には、綺麗な男は少ない。

(ハミルトン様は優良物件だったのに、破産だなんてバカみたいだわ)

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