(完)婚約破棄ですか? なぜ関係のない貴女がそれを言うのですか? それからそこの貴方は私の婚約者ではありません。

青空一夏

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1 なぜこの方が私にこのようなことをいうのでしょうか? 不思議ですわ(グレイス・リッチモンドside)

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グレイス・リッチモンドside


バラノ侯爵家、それは筆頭侯爵家で王家の血筋でさえ数代遡れば混じっているというような名門貴族である。お父様の目の前に座っているアシュリー・バラノ侯爵は30代前半、熊のように大きな体に顎髭が風格を添えており、泣く子も黙る騎士団長なのである。

アシュリー・バラノ侯爵領は3年前から作物の不作続きで農民はすっかり疲弊していた。領民思いのアシュリー・バラノ侯爵の為にお金を融通したのが大商人リッチモンド家だ。つまり私のお父様が用立てて差し上げたのよ。

今日はその返済日。満額には到底満たない金額しか用意できずにアシュリー・バラノ侯爵は恐縮して額に汗をかいていた。
「申し訳ない。今季もそれほど領地では利益が出なくて……今、私の屋敷を売却する手続きを進めているところだ。先祖代々からの城だがそれが売れればなんとか全額返せると思う。申し訳ないがもう少し待ってもらって良いだろうか……」

大きな体を本当に申し訳なさそうに縮こまるようにしている様子が可愛いな、私はついそう思ってしまった。もちろん私よりこのアシュリー・バラノ侯爵のほうがずっと年上なのだけれど。

「そこまでなさらなくても大丈夫ですよ。今すぐに全額返して欲しいなどとは言いません。なんなら残りは返済頂かなくてもいい方法もございます」
お父様はにっこりと笑ってアシュリー・バラノ侯爵に言うと、私にサロンから自室に戻るように促す。

「私はこれにて失礼いたしますわ」
大人の会話を私に聞かれたくないのだと悟った私は、家族が揃っているサロンから私のお部屋に戻ったのだった。




バラノ侯爵が帰った途端、私はお父様から「おめでとう!」と言われた。
「なにがですの?」
私にはわけがわからない。でもお父様は結論から言うことが多いからさほど驚きはしなかった。

「グレイスはバラノ侯爵夫人になるのだよ! 私の可愛い愛すべき娘にはぴったりの地位だろう? グレイスを私の持てる限りの力で絶対的に幸せにするつもりだ!」
「まぁーー! 素敵。お父様の愛を感じますわ。私、バラノ侯爵夫人の名に恥じぬようにがんばります」
このように私はお父様が選んでくださった最高の相手との婚約が決まったのだった。



ところがその三日後のこと、一人の女性が我が家に乗り込んで来たのだった。
「あなたね? 私の愛おしい殿方を横からさらっていったのは! 酷い女ね! 初心うぶなルーカス様をたらし込むなんて! ルーカス様よりあなたの方が年上じゃないよ」

(ルーカス様ってどなた?)

「なんのお話でしょう? 突然リッチモンド家に押しかけてきて意味のわからないことを・・・・・・あ、わかったわ。お可哀想に……どうぞこちらにお座りくださいね。今、お茶とお菓子を用意させましょう。施設の方には連絡します。お迎えに来てもらいますからね」
私は合点がいって、そしてこの方をとても気の毒に思った。

「へ? なんのお迎えよ? 可哀想って、なんで私が可哀想なのよ?」

「だから、最近できた病院に入院している方でしょう? 週に一回は付き添いを伴って外を散歩させると聞いています。怖かったでしょう? きっと付き添いの方とはぐれてしまったのね?」

私はこのような方を見るにつけ、神様は酷いことをすると思ってしまうわ。だって、このように普通に見える可愛い女の子がそうでないなんて涙がでてきてしまう。

(この世は不公平に満ちているのですわ! 私はこのような方のお力にならなければっ!!)

「ちょ、ちょっと! なにバカ言ってんのよ! 私はまともよ! なんて失礼なの! 病院って……まさかここから3ブロック先の精神病院のこと言ってるの? わ、私は正常だってばぁーー!!」

「いいから、いいから。わかっておりますわ。頭が少しアレな方って自分では皆まともって思っているものですわ。自分でおかしいとわかっていたら、そもそもあのような場所には入っていませんものね。お可哀想に……」

「くっ……。違うって言ってんのよ! 私はルーカス・バラノ侯爵令息と結婚を誓い合ったエミリー・エズラ伯爵令嬢ですわ。私はここにルーカス・バラノ侯爵令息とあなたとの婚約破棄を宣言しますわ。そうよ、あなたとは婚約破棄です!」

(ルーカス・バラノ侯爵令息? 婚約破棄? アシュリー・バラノ侯爵様は独身のはずですけれど……)


ファザコン、ブラコンが拗れてすっごく年上の男性しか恋愛対象に見えない私は、自分より年下だというルーカス・バラノ様には全く興味を感じないのだった。
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