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13 拉致 sideスチュアート
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sideスチュアート
スカーレット嬢を見つけられた安堵と喜びを抱え、私は屋敷へ戻った。しかしベッドに身を横たえても、なかなか眠ることができない。彼女が語った過去を思い返すたびに、妹メルバと継母アメリの卑劣さに怒りが募る。愚かしい父親にも呆れるばかりで、そんな連中に囲まれて育ってきた、スカーレット嬢の境遇を思うと胸が痛んだ。
(クズどもは、彼女をこのまま、そっとしておいてくれるのだろうか?)
アメリやメルバの性格を考えれば、これで手を引くはずがない気がした。なぜなら、街ではすでにスカーレット嬢の噂が広がっている。『奇跡を起こす美少女』――彼女の名は人々の口の端にのぼり、称賛と共に好奇の目にもさらされている。ならば、悪意ある者が彼女を狙わないはずがない。
「……しまった。なぜもっと早く気づかなかったのだろう。彼女には護衛をつけるべきだった」
ゴールドバーグ王国の王太子である私には、常に多くの近衛騎士が身辺を守っている。そのうち数名をスカーレット嬢の宿に泊まらせ、彼女を警護させるべきだった――そう気づいた時には胸騒ぎが収まらず、もうじっとしていられなかった。気がつけば馬に飛び乗り、宿へ向かっていた。もちろん、私の近衛騎士たちも後を追ってきていた。
宿に着いた瞬間、裏口から大きな麻袋を抱えた男が、飛び出してくるのが見えた。どう見ても怪しい。私はその男を追跡することに決め、同行していた近衛騎士に命じて、2階の角部屋を確認するよう指示を出す。スカーレット嬢がそこに無事にいるかどうかを確かめるためだ。
麻袋を抱えた男は、待たせてあった馬車に飛び乗り、そのまま魔獣の多い森へと走り出した。
(……手際が良すぎる)
私もすぐさま馬に跨り、一定の距離を保ちながらその馬車を追う。気づかれぬよう慎重に。森に入って間もなく馬車は急に止まり、先ほどの男が麻袋を地面に放り投げた。袋がナイフで切り裂かれると、中から現れたのはスカーレット嬢。だが彼女はぐったりとしている。眠り薬でもかがされたに違いない。
「悪く思うなよ。これはあんたの妹からの命令なんだ。――あんたがいると自分が霞むから、だとさ。宿屋で少しばかり目立ちすぎたのが運の尽きだな。恨むなら俺らじゃなく、継母と妹を恨むんだな。もっとも、このまま魔獣の腹に収めちまうのは、いささか惜しい気もするなぁ」
その卑劣な言葉を耳にした途端、怒りでどす黒い感情が胸に渦巻く。
(どこまでクズなんだ……スカーレット嬢は復讐を望んでいなかった。だが私は違う。愛する女性にここまでのことをするなら、継母もメルバも、そして こいつらも容赦はしない)
その時だった。地面に横たわっていたスカーレット嬢が、かすかに身じろぎをし、縛られた手足を必死に動かし始める。か細い声がもれ、怯えた瞳がうっすらと開かれた。二人の男が彼女に覆いかぶさろうとした瞬間、私は躊躇なく飛び込んだ。
片方の顎を蹴り上げると、鈍い音と共に男の身体がのけぞり、呻き声を上げて床に転がる。もう一人のみぞおちに拳を叩き込めば、息を詰まらせて膝をつき、そのまま崩れ落ちた。
「ぐっ……誰だ……っ!」
「お前らのような下衆に名乗る名などない。いいか、私の未来の妃を傷つけようとした罪は極刑だ。命乞いなど通じないぞ」
逃げようと身をよじる男の腕を押さえ込む。やがて、近衛騎士たちが駆けつけ縄で縛り上げた。 青ざめた顔で震えながらも、必死に涙をこらえているスカーレット嬢を、私は強く抱きしめる。
「先ほどの男たちの会話を聞いていました。ここまで憎まれていたのですね……。私を殺そうとするなんて。アメリとメルバが、まさかここまでのことを仕組むとは思っていませんでした。私が屋敷を出れば、それで済むはずだと思っていたのに……命まで奪おうとするなんて」
「スカーレット嬢、あいつらの心は魔獣よりも醜い。生きている限り、君を狙い続けるだろう。だから私は君が止めようとも、必ず報いを受けさせる。明日の夜の『聖女認定の儀式』に、君も共に来てほしい」
スカーレット嬢は静かに頷く。その時だった。バキリ、と枝の裂ける音。
次の瞬間、漆黒の毛並みに覆われた巨大な魔獣が茂みをかき分けて姿を現した。赤く光る瞳がぎらりと輝き、鼻先をひくつかせて唸り声を上げる。
「な、なんだこいつは……!」
「やめろ! こっちに来るな!」
縛り上げられ、地面に転がされたままの二人の男に、魔獣の目がすぐさま向いた。血と恐怖の匂いに惹かれたのだろう。ずしん、と大地を震わせる音とともに、魔獣が跳びかかる。
「ぎゃああっ!」
牙が肉を裂く音が森に響き渡り、男たちの絶叫が夜気を震わせた。必死にのたうち回る彼らの姿は、もはや魔獣の爪と牙に蹂躙される獲物にすぎなかった。
私はその光景を一瞥し、低くつぶやいた。
「……メルバ嬢達の悪事の証人が失われたのは損失だが、こいつらにふさわしい最期ではあるな」
スカーレット嬢の目を覆うように抱き寄せ、彼女に惨状を見せぬよう気を配る。動揺で震える身体を馬に乗せると、自らもその背に跨り、手綱を強く握った。
「行くぞ」
近衛騎士たちも素早く陣形を整え、私たちを囲むようにして町へと戻った。
私はスカーレット嬢を宿まで送り届け、その周囲を近衛騎士たちで固めさせた。二度と彼女を危険に晒したくはない。本音は宿の仕事や人々を癒すこともやめさせたかった。だが、彼女はまっすぐな瞳で「続けさせてほしい」と訴えてきた。
宿の主人夫妻への恩義があること、子どもが生まれるまで手伝うと約束したこと、そして自分の力を必要とする街の人々のために役立ちたいという想い。
その責任感と優しさに、私は呆れながらも深く惹かれてしまう。どこまでも真っすぐで、愛おしい存在。
私の唯一無二なのだ。
君の希望はできるだけ叶えよう。私がもつ全ての力を使って君を守るから。
スカーレット嬢を見つけられた安堵と喜びを抱え、私は屋敷へ戻った。しかしベッドに身を横たえても、なかなか眠ることができない。彼女が語った過去を思い返すたびに、妹メルバと継母アメリの卑劣さに怒りが募る。愚かしい父親にも呆れるばかりで、そんな連中に囲まれて育ってきた、スカーレット嬢の境遇を思うと胸が痛んだ。
(クズどもは、彼女をこのまま、そっとしておいてくれるのだろうか?)
アメリやメルバの性格を考えれば、これで手を引くはずがない気がした。なぜなら、街ではすでにスカーレット嬢の噂が広がっている。『奇跡を起こす美少女』――彼女の名は人々の口の端にのぼり、称賛と共に好奇の目にもさらされている。ならば、悪意ある者が彼女を狙わないはずがない。
「……しまった。なぜもっと早く気づかなかったのだろう。彼女には護衛をつけるべきだった」
ゴールドバーグ王国の王太子である私には、常に多くの近衛騎士が身辺を守っている。そのうち数名をスカーレット嬢の宿に泊まらせ、彼女を警護させるべきだった――そう気づいた時には胸騒ぎが収まらず、もうじっとしていられなかった。気がつけば馬に飛び乗り、宿へ向かっていた。もちろん、私の近衛騎士たちも後を追ってきていた。
宿に着いた瞬間、裏口から大きな麻袋を抱えた男が、飛び出してくるのが見えた。どう見ても怪しい。私はその男を追跡することに決め、同行していた近衛騎士に命じて、2階の角部屋を確認するよう指示を出す。スカーレット嬢がそこに無事にいるかどうかを確かめるためだ。
麻袋を抱えた男は、待たせてあった馬車に飛び乗り、そのまま魔獣の多い森へと走り出した。
(……手際が良すぎる)
私もすぐさま馬に跨り、一定の距離を保ちながらその馬車を追う。気づかれぬよう慎重に。森に入って間もなく馬車は急に止まり、先ほどの男が麻袋を地面に放り投げた。袋がナイフで切り裂かれると、中から現れたのはスカーレット嬢。だが彼女はぐったりとしている。眠り薬でもかがされたに違いない。
「悪く思うなよ。これはあんたの妹からの命令なんだ。――あんたがいると自分が霞むから、だとさ。宿屋で少しばかり目立ちすぎたのが運の尽きだな。恨むなら俺らじゃなく、継母と妹を恨むんだな。もっとも、このまま魔獣の腹に収めちまうのは、いささか惜しい気もするなぁ」
その卑劣な言葉を耳にした途端、怒りでどす黒い感情が胸に渦巻く。
(どこまでクズなんだ……スカーレット嬢は復讐を望んでいなかった。だが私は違う。愛する女性にここまでのことをするなら、継母もメルバも、そして こいつらも容赦はしない)
その時だった。地面に横たわっていたスカーレット嬢が、かすかに身じろぎをし、縛られた手足を必死に動かし始める。か細い声がもれ、怯えた瞳がうっすらと開かれた。二人の男が彼女に覆いかぶさろうとした瞬間、私は躊躇なく飛び込んだ。
片方の顎を蹴り上げると、鈍い音と共に男の身体がのけぞり、呻き声を上げて床に転がる。もう一人のみぞおちに拳を叩き込めば、息を詰まらせて膝をつき、そのまま崩れ落ちた。
「ぐっ……誰だ……っ!」
「お前らのような下衆に名乗る名などない。いいか、私の未来の妃を傷つけようとした罪は極刑だ。命乞いなど通じないぞ」
逃げようと身をよじる男の腕を押さえ込む。やがて、近衛騎士たちが駆けつけ縄で縛り上げた。 青ざめた顔で震えながらも、必死に涙をこらえているスカーレット嬢を、私は強く抱きしめる。
「先ほどの男たちの会話を聞いていました。ここまで憎まれていたのですね……。私を殺そうとするなんて。アメリとメルバが、まさかここまでのことを仕組むとは思っていませんでした。私が屋敷を出れば、それで済むはずだと思っていたのに……命まで奪おうとするなんて」
「スカーレット嬢、あいつらの心は魔獣よりも醜い。生きている限り、君を狙い続けるだろう。だから私は君が止めようとも、必ず報いを受けさせる。明日の夜の『聖女認定の儀式』に、君も共に来てほしい」
スカーレット嬢は静かに頷く。その時だった。バキリ、と枝の裂ける音。
次の瞬間、漆黒の毛並みに覆われた巨大な魔獣が茂みをかき分けて姿を現した。赤く光る瞳がぎらりと輝き、鼻先をひくつかせて唸り声を上げる。
「な、なんだこいつは……!」
「やめろ! こっちに来るな!」
縛り上げられ、地面に転がされたままの二人の男に、魔獣の目がすぐさま向いた。血と恐怖の匂いに惹かれたのだろう。ずしん、と大地を震わせる音とともに、魔獣が跳びかかる。
「ぎゃああっ!」
牙が肉を裂く音が森に響き渡り、男たちの絶叫が夜気を震わせた。必死にのたうち回る彼らの姿は、もはや魔獣の爪と牙に蹂躙される獲物にすぎなかった。
私はその光景を一瞥し、低くつぶやいた。
「……メルバ嬢達の悪事の証人が失われたのは損失だが、こいつらにふさわしい最期ではあるな」
スカーレット嬢の目を覆うように抱き寄せ、彼女に惨状を見せぬよう気を配る。動揺で震える身体を馬に乗せると、自らもその背に跨り、手綱を強く握った。
「行くぞ」
近衛騎士たちも素早く陣形を整え、私たちを囲むようにして町へと戻った。
私はスカーレット嬢を宿まで送り届け、その周囲を近衛騎士たちで固めさせた。二度と彼女を危険に晒したくはない。本音は宿の仕事や人々を癒すこともやめさせたかった。だが、彼女はまっすぐな瞳で「続けさせてほしい」と訴えてきた。
宿の主人夫妻への恩義があること、子どもが生まれるまで手伝うと約束したこと、そして自分の力を必要とする街の人々のために役立ちたいという想い。
その責任感と優しさに、私は呆れながらも深く惹かれてしまう。どこまでも真っすぐで、愛おしい存在。
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君の希望はできるだけ叶えよう。私がもつ全ての力を使って君を守るから。
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