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6 バーン視点
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(バーン視点)
カイリンはどんなにその容姿を褒められても本気にせず、かえって居心地が悪そうに気まずい表情を浮かべた。多分これは母親から刷り込まれた間違った美的感覚からくる反応だろう。
だが、淹れてくれたお茶がおいしいと言えば素直に「嬉しい」と良い、やりくり上手だと褒めると頬を染めた。
「もし興味があるのならわたしの事業を手伝ってみるか? カイリンは着飾って夜会に出るよりもそちらの方がやりたさそうだ」
「ですが、将来セアー伯爵夫人として社交界でお付き合いができないと迷惑をかけてしまいますから、要のパーティだけは参加させて頂きますね」
しっかりとした口調でそう言った。
賢い女性は大歓迎だ。それに金銭感覚がしっかりしており、貴族令嬢とは思えないほど商人を質問攻めにし、しまいには商人に価格をまけさせるところも愉快だ。
「カイリンは見ていて飽きないし、事業の話をしても楽しそうだ。これならきっと愛せるかもしれない」
わたしはつい本音を吐いてしまう。
「無理に愛していただかなくても大丈夫です。お互いが信頼できるとても仲の良い友人のような夫婦ではいかがですか? それに、愛されないのは私のせいです。もっと普通の感覚の妹が欲しかった、とメーガンお姉様から何度も言われました」
「普通の感覚ねぇ。観劇や演奏会に誘っても嬉しそうではないし、ドレスや宝石を選ばせれば金額のことばかり気にしている。確かに変わっていると思う」
「はい、私は亡きジアンナお祖母様にそっくりだそうです。容姿も似ていて、お母様には『カイリンのように醜いお金に汚い子は誰からも愛されない』と、言われました」
「よく聞いて。カイリンは綺麗だし、お金の価値をしっかり把握して、無駄遣いしないようにすることは美徳だ。わたしはカイリンは最高の女性だと思うよ。わたしにぴったりだ」
「美徳ですか? 迷惑ではなく? 私をバーン様にぴったりだと思ってくださるのですか?」
「もちろんさ。カイリンが家族から愛されなかったのは、君の責任でも問題でもない。お金にだらしない、真面目な人間を疎むような家族が抱える心の闇だ。そんな者達から愛されなかったことはむしろ幸運だよ」
人間には相性があって、家族とはいえ性格が違えば仲良くできるとは限らない。この場合のカイリンは少しも悪いところはなく、あちらの家族に問題があると思う。
お金の管理を任せていながら文句ばかり言って、責任だけをカイリンになすりつけ、娘を売るような真似をして恥ずかしい奴らだ。
だが、このように妻を金で買おうとしたわたしも同類で、恥ずべき人間なことに気づく。
罪滅ばしに、カイリンの提案通りに友人のような夫婦になろうと思う。
そう、愛せないかもしれないけれど努力するよ。
・・・・・・でも、努力なんていらなかった。
有名なパティシエの店の前を通ればカイリンの喜ぶ顔が浮かんで気づけばたくさん買い込んでいるし、生まれたての猫の里親を探しているという部下の話を聞けば、子猫を連れて帰ったらカイリンは喜ぶかな、と考えていた。
これは愛なのかな?・・・・・・多分、きっと他の女性とかなり違ったところのあるカイリンが気に入っただけなのだと思っていた。
「まぁ、それは恋ね。間違いないわ」
母上に言ったらそう断言されたが自覚はない。
でも、こんな気持ちも悪くないな。
カイリンはどんなにその容姿を褒められても本気にせず、かえって居心地が悪そうに気まずい表情を浮かべた。多分これは母親から刷り込まれた間違った美的感覚からくる反応だろう。
だが、淹れてくれたお茶がおいしいと言えば素直に「嬉しい」と良い、やりくり上手だと褒めると頬を染めた。
「もし興味があるのならわたしの事業を手伝ってみるか? カイリンは着飾って夜会に出るよりもそちらの方がやりたさそうだ」
「ですが、将来セアー伯爵夫人として社交界でお付き合いができないと迷惑をかけてしまいますから、要のパーティだけは参加させて頂きますね」
しっかりとした口調でそう言った。
賢い女性は大歓迎だ。それに金銭感覚がしっかりしており、貴族令嬢とは思えないほど商人を質問攻めにし、しまいには商人に価格をまけさせるところも愉快だ。
「カイリンは見ていて飽きないし、事業の話をしても楽しそうだ。これならきっと愛せるかもしれない」
わたしはつい本音を吐いてしまう。
「無理に愛していただかなくても大丈夫です。お互いが信頼できるとても仲の良い友人のような夫婦ではいかがですか? それに、愛されないのは私のせいです。もっと普通の感覚の妹が欲しかった、とメーガンお姉様から何度も言われました」
「普通の感覚ねぇ。観劇や演奏会に誘っても嬉しそうではないし、ドレスや宝石を選ばせれば金額のことばかり気にしている。確かに変わっていると思う」
「はい、私は亡きジアンナお祖母様にそっくりだそうです。容姿も似ていて、お母様には『カイリンのように醜いお金に汚い子は誰からも愛されない』と、言われました」
「よく聞いて。カイリンは綺麗だし、お金の価値をしっかり把握して、無駄遣いしないようにすることは美徳だ。わたしはカイリンは最高の女性だと思うよ。わたしにぴったりだ」
「美徳ですか? 迷惑ではなく? 私をバーン様にぴったりだと思ってくださるのですか?」
「もちろんさ。カイリンが家族から愛されなかったのは、君の責任でも問題でもない。お金にだらしない、真面目な人間を疎むような家族が抱える心の闇だ。そんな者達から愛されなかったことはむしろ幸運だよ」
人間には相性があって、家族とはいえ性格が違えば仲良くできるとは限らない。この場合のカイリンは少しも悪いところはなく、あちらの家族に問題があると思う。
お金の管理を任せていながら文句ばかり言って、責任だけをカイリンになすりつけ、娘を売るような真似をして恥ずかしい奴らだ。
だが、このように妻を金で買おうとしたわたしも同類で、恥ずべき人間なことに気づく。
罪滅ばしに、カイリンの提案通りに友人のような夫婦になろうと思う。
そう、愛せないかもしれないけれど努力するよ。
・・・・・・でも、努力なんていらなかった。
有名なパティシエの店の前を通ればカイリンの喜ぶ顔が浮かんで気づけばたくさん買い込んでいるし、生まれたての猫の里親を探しているという部下の話を聞けば、子猫を連れて帰ったらカイリンは喜ぶかな、と考えていた。
これは愛なのかな?・・・・・・多分、きっと他の女性とかなり違ったところのあるカイリンが気に入っただけなのだと思っていた。
「まぁ、それは恋ね。間違いないわ」
母上に言ったらそう断言されたが自覚はない。
でも、こんな気持ちも悪くないな。
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