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1 神殿のなかでの出来事ー1
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神殿に報告に行くと即位されたばかりのアーサー国王陛下が、アスペンに駆け寄りその手の甲に口づけてきます。
「やっぱりアスペンが聖女様なのだね! それならば、私の妻になれるね!」
「えぇ、もちろんですわ!」
アーサー国王陛下とアスペンがこれほど親密だとは思っていなかった私は、その光景に唖然としてしまいました。
「ですが、陛下。この姉も夢のお告げを受けたと言い張って、私をインチキ呼ばわりし突き飛ばしたのですよ!」
「そうなのですわ! 本当にひどい子です。ほら、アスペンの膝がすりむけていますでしょう? これは性悪なあのアータムが突き飛ばしたからですわ」
お母様……いいえ、赤の他人様は私に罪を着せようとしますけれど、その傷は二日前にアスペンが私を突飛ばそうとして自分で転んだときの傷ですが。よく見れば、かさぶたができていますよね? いくらなんでもそのような傷を今できたばかりの傷とは思わない……?
アーサー国王陛下は鬼の形相で私を睨みつけて憎しみのオーラを放っています。まさか……
「アータムよ! お前はこのアスペンと公衆の前で勝負するがいい! すぐに、どちらが聖女かわかるはずだ!」
信じたようです。というか突き飛ばしたことが真実かどうかなど、アーサー国王陛下にとってはどうでもいいのでしょう。
アスペンだけを見つめて愛おしそうに髪を撫でる様子は、まさに二人だけの世界なのでした。
神官様達もアスペンを囲み皆口々に褒めたたえて、アスペンにひざまずきました。
*̩̩̥*̩̩̥ ୨୧ ⑅ ୨୧ *̩̩̥*̩̩̥
神殿の奥の大広間には準備周到に、たくさんの病人がおりました。
私とアスペンは大神官様から一段高い祭壇の前に呼ばれます。
「さぁ、二人ともこの水晶をそれぞれ持ちなさい。聖女様がお持ちになればまばゆいほどに虹色に輝き、そうでなければなにもおこらない」
大神官様は私とアスペンに、その大きな水晶の玉を差し出しました。
「ここにいる愛らしいアスペン・カミーユ男爵令嬢が、恐れ多くも女神様から聖女様だとお告げをいただいた! しかし、どうしたことかこの姉のアータムもお告げを受けたと言い張り、アスペンを殴りつけ蹴りあげたという!
さぁ、どちらが本物の聖女様なのか見極めてやろうじゃないかっ!」
アーサー国王陛下は、私の罪をさらに重くしたようですね。『殴りつけ、蹴りあげた』という罪を国王陛下から偽造された私は、きっと命の保証はないでしょう。
この神殿に集められた人のなかには、私が見知った人もたくさんおりました。普段仲良くしているパン屋のおばさんに、いつもおまけをしてくれる肉屋のおじさんもいます。
私はカミーユ男爵家では令嬢というよりは下女のような扱いで、掃除もお料理もしておりました。コックはいるのですがその手伝いは私の仕事でして、食料の買い出しなどもするのです。
私を見ると手を振ってにこやかに接してくれた方達も、今は嫌悪の表情を浮かべています。
私から先に水晶の玉が渡されましたが、悲しいことになんの変化もなくチカリとも光らないのです。大広間にいた人々からはがっかりした声や、責めるような声があがります。
「アータムは嘘つきだ!」
「よくも聖女だなんて言い張って、恥知らずもいいところよね?」
「きっと、注目されたかったのよ。陰気な嘘つきの大女!」
一方、アスペンが持っていた水晶は虹色にまばゆく輝き、その光は神殿の白い四方の壁にすばらしい虹を描いたのでした。
「やっぱりアスペンが聖女様なのだね! それならば、私の妻になれるね!」
「えぇ、もちろんですわ!」
アーサー国王陛下とアスペンがこれほど親密だとは思っていなかった私は、その光景に唖然としてしまいました。
「ですが、陛下。この姉も夢のお告げを受けたと言い張って、私をインチキ呼ばわりし突き飛ばしたのですよ!」
「そうなのですわ! 本当にひどい子です。ほら、アスペンの膝がすりむけていますでしょう? これは性悪なあのアータムが突き飛ばしたからですわ」
お母様……いいえ、赤の他人様は私に罪を着せようとしますけれど、その傷は二日前にアスペンが私を突飛ばそうとして自分で転んだときの傷ですが。よく見れば、かさぶたができていますよね? いくらなんでもそのような傷を今できたばかりの傷とは思わない……?
アーサー国王陛下は鬼の形相で私を睨みつけて憎しみのオーラを放っています。まさか……
「アータムよ! お前はこのアスペンと公衆の前で勝負するがいい! すぐに、どちらが聖女かわかるはずだ!」
信じたようです。というか突き飛ばしたことが真実かどうかなど、アーサー国王陛下にとってはどうでもいいのでしょう。
アスペンだけを見つめて愛おしそうに髪を撫でる様子は、まさに二人だけの世界なのでした。
神官様達もアスペンを囲み皆口々に褒めたたえて、アスペンにひざまずきました。
*̩̩̥*̩̩̥ ୨୧ ⑅ ୨୧ *̩̩̥*̩̩̥
神殿の奥の大広間には準備周到に、たくさんの病人がおりました。
私とアスペンは大神官様から一段高い祭壇の前に呼ばれます。
「さぁ、二人ともこの水晶をそれぞれ持ちなさい。聖女様がお持ちになればまばゆいほどに虹色に輝き、そうでなければなにもおこらない」
大神官様は私とアスペンに、その大きな水晶の玉を差し出しました。
「ここにいる愛らしいアスペン・カミーユ男爵令嬢が、恐れ多くも女神様から聖女様だとお告げをいただいた! しかし、どうしたことかこの姉のアータムもお告げを受けたと言い張り、アスペンを殴りつけ蹴りあげたという!
さぁ、どちらが本物の聖女様なのか見極めてやろうじゃないかっ!」
アーサー国王陛下は、私の罪をさらに重くしたようですね。『殴りつけ、蹴りあげた』という罪を国王陛下から偽造された私は、きっと命の保証はないでしょう。
この神殿に集められた人のなかには、私が見知った人もたくさんおりました。普段仲良くしているパン屋のおばさんに、いつもおまけをしてくれる肉屋のおじさんもいます。
私はカミーユ男爵家では令嬢というよりは下女のような扱いで、掃除もお料理もしておりました。コックはいるのですがその手伝いは私の仕事でして、食料の買い出しなどもするのです。
私を見ると手を振ってにこやかに接してくれた方達も、今は嫌悪の表情を浮かべています。
私から先に水晶の玉が渡されましたが、悲しいことになんの変化もなくチカリとも光らないのです。大広間にいた人々からはがっかりした声や、責めるような声があがります。
「アータムは嘘つきだ!」
「よくも聖女だなんて言い張って、恥知らずもいいところよね?」
「きっと、注目されたかったのよ。陰気な嘘つきの大女!」
一方、アスペンが持っていた水晶は虹色にまばゆく輝き、その光は神殿の白い四方の壁にすばらしい虹を描いたのでした。
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