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1面倒な事態
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その日は朝から不運が付きまとっていた。
いつもはやらない寝坊をして、慌てていたせいで部屋から食堂に向かう階段で踏み外しかけた。
学校に着いても、今日提出の課題を持ってくるのを忘れ、罰として教材室の掃除を言い渡された。
教材室は、多くの課の先生が使用しているのでかなりの広さだ。
罰としてはかなりの厳罰だとアデルは思ったが、自分が悪いので文句は言えずに、肩を落とした。
さすがに、一人では無理すぎる広さなので、見かねた友人が放課後に手伝ってくれると申し出てくれたのが、その日唯一の喜ばしい事だったかもしれない。
しかし、その直後担任教師から呼び出され、一緒に学校長室に入った瞬間、最大の警戒警報が頭の中に鳴り響いた。
それが昨日の出来事。
アメルは、ぼんやりとテスト結果が張り出されている掲示板を後ろから眺めていた。
わいわいがやがやと賑わい、あるものは喜びあるものは肩を落とす。
そんな様子さえも、頭の中に入ってこない。
自分の成績を確認することもなく、ぼーっとしているが、そんなアメルの横に不機嫌そうに並ぶ男子生徒が一人。
彼は背が高く、学生たちが確認しているテスト結果も最後尾から眺めることができる。
アメルは腕を組んで、テスト結果を睨みつけるように見ている男子生徒をちらりと横目で見て、すぐに正面に向き直った。
しかし、そんなアメルの様子を気に食わなかったのか、男子生徒が小さく舌打ちをして、アメルを見下ろした。
「おい、その態度は嫌味か?」
「デリック、どこをどう見たらそう思うの?」
「全部。どうってことない顔して、つまらなそうにして、嫌味じゃなければなんだ?」
デリックと呼ばれた男子生徒が、くいっとテスト結果を顎で指し示す。
「お前は相変わらずの一位、俺は二位。この結果が分かり切ってたようなその顔がむかつく」
「むかつくって……」
子供のような返しに、アメルは一瞬唖然とし、少しだけ苦笑した。
「おい、笑い事じゃ――!」
「騒がないで。あなたはただでさえ目立つんだから」
不機嫌な顔で眉間に皺が寄っているが、デリックの顔はとても整っていた。
黒い髪はやわらかく、深い緑の瞳は知的な輝きを放っている。
しかも、この国でも有数な資産家で爵位も公爵家となれば、彼の隣を狙っている女子は後をたたない。
目立つ彼が、騒げば余計に目立つ。
今でさえ、アメルに向けられる視線は敵意が多い。
アメルの返しにむっつりと黙り込む彼は、大人びてきているのに、少年の様でそのギャップがかわいいとアメルは常々思う。
アメルとデリックは、親同士の交流があり、お互い一桁台の年の頃からの友人だ。
ただそれだけの関係ではあるものの、傍から見ればデリックに一番近い女子という状況なので、アメルを気に食わないと思う存在はそこそこいる。
デリックに気がない自分が側にいるのは良くないと思っても、そもそもアメルは現在デリックの家に居候中だ。
そのため、関係性を立つのはかなり難しい。
それに、別にやましい関係でもないのにあからさまに避けていれば、逆におかしな噂がはびこる可能性もあった。
それなら堂々とした居た方がいいというのが、友人の言葉だ。
こちらが気を使ってデリックとなるべく距離をおいても噂されるくらいならば、もういっそのこと側で見せつけてやれとも言っていた。
もちろん、アメルにはデリックと仲が良い事を意地悪く見せつける気はないが。
とにかく、目立たず過ごすことが一番女子を刺激しないのだから、ぜひともデリックにも静かにしていただきたい――、それがアメルの本心だった。
「お前、家でもいつも母上の話し相手になってるのに、いつ勉強してるんだ。必死に勉強している俺がバカみたいだな」
自分を皮肉って、口の端が上がっているデリックは再び、鼻を鳴らした。
「わたしは勉強しにこの国に来ているのに、勉強していないわけないじゃない。隠れてこっそりやっているの。これでも必死なんだから」
そう、アメルはこの国――中央大陸と呼ばれる大陸の一国家にして大国アーバンド帝国に留学中の身だ。
留学理由は色々とあったが、一番の理由は従姉との関係性の悪化だ。
正確には、派閥争いやらいろいろな事情があるのだが、アメル的にはリディアから離れられて、ようやく自分らしく生きられている。
この国は自由だ。
男女差別が少なく、力があれば男女関係なく登用される。
だからこそ、列強諸国の中でも飛びぬけているのかもしれない。
自らの生まれた国と比べると、全てにおいて勝っているこの国を、自国では遠い蛮族の国とみていること自体、ばからしいと思う。
そんな自国のことを思い返すと、昨日学校長に頼まれたことにについて思い出いし、眉をひそめた。
アメルが、ぼんやりと考え事をしていたのは、学校長が頼んできた事柄のせいだった。
それは、アメルの出身国から留学生が来るので、その世話を同郷のアメルに任せたいということだ。その留学生の名前の中に、従姉の名があったのだ。
そして、思い出すのはこの国に留学に来るまでの従姉との関係だった。
いつもはやらない寝坊をして、慌てていたせいで部屋から食堂に向かう階段で踏み外しかけた。
学校に着いても、今日提出の課題を持ってくるのを忘れ、罰として教材室の掃除を言い渡された。
教材室は、多くの課の先生が使用しているのでかなりの広さだ。
罰としてはかなりの厳罰だとアデルは思ったが、自分が悪いので文句は言えずに、肩を落とした。
さすがに、一人では無理すぎる広さなので、見かねた友人が放課後に手伝ってくれると申し出てくれたのが、その日唯一の喜ばしい事だったかもしれない。
しかし、その直後担任教師から呼び出され、一緒に学校長室に入った瞬間、最大の警戒警報が頭の中に鳴り響いた。
それが昨日の出来事。
アメルは、ぼんやりとテスト結果が張り出されている掲示板を後ろから眺めていた。
わいわいがやがやと賑わい、あるものは喜びあるものは肩を落とす。
そんな様子さえも、頭の中に入ってこない。
自分の成績を確認することもなく、ぼーっとしているが、そんなアメルの横に不機嫌そうに並ぶ男子生徒が一人。
彼は背が高く、学生たちが確認しているテスト結果も最後尾から眺めることができる。
アメルは腕を組んで、テスト結果を睨みつけるように見ている男子生徒をちらりと横目で見て、すぐに正面に向き直った。
しかし、そんなアメルの様子を気に食わなかったのか、男子生徒が小さく舌打ちをして、アメルを見下ろした。
「おい、その態度は嫌味か?」
「デリック、どこをどう見たらそう思うの?」
「全部。どうってことない顔して、つまらなそうにして、嫌味じゃなければなんだ?」
デリックと呼ばれた男子生徒が、くいっとテスト結果を顎で指し示す。
「お前は相変わらずの一位、俺は二位。この結果が分かり切ってたようなその顔がむかつく」
「むかつくって……」
子供のような返しに、アメルは一瞬唖然とし、少しだけ苦笑した。
「おい、笑い事じゃ――!」
「騒がないで。あなたはただでさえ目立つんだから」
不機嫌な顔で眉間に皺が寄っているが、デリックの顔はとても整っていた。
黒い髪はやわらかく、深い緑の瞳は知的な輝きを放っている。
しかも、この国でも有数な資産家で爵位も公爵家となれば、彼の隣を狙っている女子は後をたたない。
目立つ彼が、騒げば余計に目立つ。
今でさえ、アメルに向けられる視線は敵意が多い。
アメルの返しにむっつりと黙り込む彼は、大人びてきているのに、少年の様でそのギャップがかわいいとアメルは常々思う。
アメルとデリックは、親同士の交流があり、お互い一桁台の年の頃からの友人だ。
ただそれだけの関係ではあるものの、傍から見ればデリックに一番近い女子という状況なので、アメルを気に食わないと思う存在はそこそこいる。
デリックに気がない自分が側にいるのは良くないと思っても、そもそもアメルは現在デリックの家に居候中だ。
そのため、関係性を立つのはかなり難しい。
それに、別にやましい関係でもないのにあからさまに避けていれば、逆におかしな噂がはびこる可能性もあった。
それなら堂々とした居た方がいいというのが、友人の言葉だ。
こちらが気を使ってデリックとなるべく距離をおいても噂されるくらいならば、もういっそのこと側で見せつけてやれとも言っていた。
もちろん、アメルにはデリックと仲が良い事を意地悪く見せつける気はないが。
とにかく、目立たず過ごすことが一番女子を刺激しないのだから、ぜひともデリックにも静かにしていただきたい――、それがアメルの本心だった。
「お前、家でもいつも母上の話し相手になってるのに、いつ勉強してるんだ。必死に勉強している俺がバカみたいだな」
自分を皮肉って、口の端が上がっているデリックは再び、鼻を鳴らした。
「わたしは勉強しにこの国に来ているのに、勉強していないわけないじゃない。隠れてこっそりやっているの。これでも必死なんだから」
そう、アメルはこの国――中央大陸と呼ばれる大陸の一国家にして大国アーバンド帝国に留学中の身だ。
留学理由は色々とあったが、一番の理由は従姉との関係性の悪化だ。
正確には、派閥争いやらいろいろな事情があるのだが、アメル的にはリディアから離れられて、ようやく自分らしく生きられている。
この国は自由だ。
男女差別が少なく、力があれば男女関係なく登用される。
だからこそ、列強諸国の中でも飛びぬけているのかもしれない。
自らの生まれた国と比べると、全てにおいて勝っているこの国を、自国では遠い蛮族の国とみていること自体、ばからしいと思う。
そんな自国のことを思い返すと、昨日学校長に頼まれたことにについて思い出いし、眉をひそめた。
アメルが、ぼんやりと考え事をしていたのは、学校長が頼んできた事柄のせいだった。
それは、アメルの出身国から留学生が来るので、その世話を同郷のアメルに任せたいということだ。その留学生の名前の中に、従姉の名があったのだ。
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