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4.ご破算になった約束と新たな提案1
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「お久しぶりでございます、ヴィクトリア様」
「本当に久しぶりね、グレイ。まあ、あなたはクリメンス様付の侍従ですもの。あの方とお会いすることがなければ会う事もないでしょうけど……あなた一人?」
一瞬、グレイの顔が強張った。
その瞬間、ヴィクトリアは全てを悟る。後ろに控えているロザリーは今すぐにでも噛みつかんばかりにグレイを睨みつけた。きっと口を開け相手を罵倒するような言葉が飛び出してくることは想像できた。
「申し訳ありません。クリメンス様は本日別のご予定が入りまして、こちらに伺う事ができなくなりました」
「また!? 一体何度目だと――!!」
「ロザリー」
窘める様に名を呼べば、忠実な侍女は口を閉じた。
まだまだ言い足りない彼女は、きっとこの後散々文句と愚痴が出てくるだろう。
それもヴィクトリアを思っての事だと知っているので、叱ることも出来ない。
「まだ、マシだと思うしかないわね。いつぞやかは、鐘二つ分も待たされた挙句、凍死しそうになった記憶もあるもの。今日は熱中症になる前に来てくれて助かったわ。そう思う事にしましょう、ロザリー」
「お嬢様……」
「グレイもいつも嫌な役目押し付けられて大変ね。もう分かったから行っていいわよ」
グレイは心底申し訳なさそうにしながら、頭をきっちりと下げて去っていく。
彼はクリメンス付きになってから、いつもこんな役回りばかりさせられている。
他の侍従は横柄な態度があからさまに出ているのに対し、彼だけはいつも申し訳なさそうに頭を下げてくれていた。
そのせいで、なんだか申し訳なく思ってしまうのだ。
自分とクリメンスが上手くいっていないこともあって、気を使わせてしまっていると。しかもここ最近、こんな役回りが多い。主従の間で何があったのかは分からないが、グレイがクリメンスに冷遇されているように感じた。
相手はクリメンス側の人間ではあるが、流石に同情してしまうところがあった。
「お嬢様は優しすぎます」
「そうかしら? それほどでもないわよ。少なくとも、クリメンス様には言いたいことはたくさんあるけど、グレイにそれを言っても仕方がないでしょう?」
「グレイさんも、早く辞めればいいのに」
「ロザリー、言い過ぎよ。きっと何か思うところがあるのでしょう」
ロザリーは納得できないようではあったが、それでもグレイの置かれている立場には思うところがあるようだで、それ以上何も言わなかった。
しかし、これからどうしようかと軽く息を吐いた。
このまま帰れば自宅内でまたかという空気になり、両親にも心配かけてしまう。
だからと言って、この暑さの中外をうろつく気にもなれなかった。
心配されるのは仕方ないが、ここ最近はそれが過剰になりがちなので、それもまた負担だったが、帰るしかないかとベンチから立ち上がろうとした。
その時、待ち人が来たと言って離れていったルドヴィックがこちらを見ていた。
向こうも、待ち人との話は終わったのに、こちらを気にしているようだった。
メイドが待ち人というのもおかしな話だったので、もしかしたらヴィクトリアのように予定がキャンセルされたのかも知れないと思い至る。
目が合うと苦笑されて、ヴィクトリアも困ったように笑うしかない。
そのまま去ってくれればよかったのに、ルドヴィックは何を思ったのかヴィクトリアの方に戻ってきて、すっと手を差し出した。
どうやら、立ち上がるために手を貸してくれるようだ。
なんとも、紳士だ。昔は何をするにも男性が女性に手を貸すのは良くある行為ではあったが、最近ではそういう文化もなくなってきている。
理由は、どちらも煩わしいから、らしい。
男性側は、やってもらって当たり前という女性に辟易して、女性側は、頼んでもいないのにそんな事されたくない、という自立心旺盛な女性が増えてきたせい――とは言われているが、結局は良く分からない。
女性側の立場からすれば、確かに全く知らないような男性からそんなことされたら怖いが、彼の様に顔の整った男性にしてもらえるとやはり少し心が浮き足立ったりする。もちろん、勘違いするようなことはないが。
「ありがとうございます」
「いえ、男として当然の――……」
一瞬しまったという顔になり、言葉に詰まるルドヴィックに、ヴィクトリアは首を傾げた
「どうされましたか?」
ヴィクトリアは差し出された手の上に自分の手を重ねながら聞くと、彼は少し戸惑いながらヴィクトリアの手を引く。
「いえ、最近の若い女性はこういう事は好まないと聞いていたのですが、うっかりと手を差し伸べてしまったので、嫌な気持ちにさせてしまったかと思いまして……」
「若い女性って……」
そっきからその言い回しにヴィクトリアは思わず口元が緩んでしまった。
おそらく相手は至極真面目に返したのに、失礼かと思って口元を隠すように手を当てるが、おそらく見られている。
「あなたは十分、若いと思いますよ。私の婚約者と同じくらいでは?」
「まさか! そんなに若くはないですよ。おそらく若く見えているのはこの化粧のせいかもしれません。それともドレスでしょうか? 自分でも年のわりに痛い恰好していると思っているのですけど」
ルドヴィックの婚約者はヴィクトリアでも良く知っている相手だ。
特別かかわりはないが、社交界では有名な美少女。
今年十八になり、今が花の盛りで社交界の華として君臨している少女の事を知らない人はいない。
そんな相手と結婚適齢期から数年たったヴィクトリアとでは全く違う。
「わたくしは本来の見た目は随分年上なんですよ。少なくとも、ルドヴィック様のご婚約者様よりは年上です」
「そうでしょうか? そうは見えません」
社交辞令でも、そんな風に真面目に返されると照れてしまう。
日傘で顔を隠す様に傾けた。
「本当に久しぶりね、グレイ。まあ、あなたはクリメンス様付の侍従ですもの。あの方とお会いすることがなければ会う事もないでしょうけど……あなた一人?」
一瞬、グレイの顔が強張った。
その瞬間、ヴィクトリアは全てを悟る。後ろに控えているロザリーは今すぐにでも噛みつかんばかりにグレイを睨みつけた。きっと口を開け相手を罵倒するような言葉が飛び出してくることは想像できた。
「申し訳ありません。クリメンス様は本日別のご予定が入りまして、こちらに伺う事ができなくなりました」
「また!? 一体何度目だと――!!」
「ロザリー」
窘める様に名を呼べば、忠実な侍女は口を閉じた。
まだまだ言い足りない彼女は、きっとこの後散々文句と愚痴が出てくるだろう。
それもヴィクトリアを思っての事だと知っているので、叱ることも出来ない。
「まだ、マシだと思うしかないわね。いつぞやかは、鐘二つ分も待たされた挙句、凍死しそうになった記憶もあるもの。今日は熱中症になる前に来てくれて助かったわ。そう思う事にしましょう、ロザリー」
「お嬢様……」
「グレイもいつも嫌な役目押し付けられて大変ね。もう分かったから行っていいわよ」
グレイは心底申し訳なさそうにしながら、頭をきっちりと下げて去っていく。
彼はクリメンス付きになってから、いつもこんな役回りばかりさせられている。
他の侍従は横柄な態度があからさまに出ているのに対し、彼だけはいつも申し訳なさそうに頭を下げてくれていた。
そのせいで、なんだか申し訳なく思ってしまうのだ。
自分とクリメンスが上手くいっていないこともあって、気を使わせてしまっていると。しかもここ最近、こんな役回りが多い。主従の間で何があったのかは分からないが、グレイがクリメンスに冷遇されているように感じた。
相手はクリメンス側の人間ではあるが、流石に同情してしまうところがあった。
「お嬢様は優しすぎます」
「そうかしら? それほどでもないわよ。少なくとも、クリメンス様には言いたいことはたくさんあるけど、グレイにそれを言っても仕方がないでしょう?」
「グレイさんも、早く辞めればいいのに」
「ロザリー、言い過ぎよ。きっと何か思うところがあるのでしょう」
ロザリーは納得できないようではあったが、それでもグレイの置かれている立場には思うところがあるようだで、それ以上何も言わなかった。
しかし、これからどうしようかと軽く息を吐いた。
このまま帰れば自宅内でまたかという空気になり、両親にも心配かけてしまう。
だからと言って、この暑さの中外をうろつく気にもなれなかった。
心配されるのは仕方ないが、ここ最近はそれが過剰になりがちなので、それもまた負担だったが、帰るしかないかとベンチから立ち上がろうとした。
その時、待ち人が来たと言って離れていったルドヴィックがこちらを見ていた。
向こうも、待ち人との話は終わったのに、こちらを気にしているようだった。
メイドが待ち人というのもおかしな話だったので、もしかしたらヴィクトリアのように予定がキャンセルされたのかも知れないと思い至る。
目が合うと苦笑されて、ヴィクトリアも困ったように笑うしかない。
そのまま去ってくれればよかったのに、ルドヴィックは何を思ったのかヴィクトリアの方に戻ってきて、すっと手を差し出した。
どうやら、立ち上がるために手を貸してくれるようだ。
なんとも、紳士だ。昔は何をするにも男性が女性に手を貸すのは良くある行為ではあったが、最近ではそういう文化もなくなってきている。
理由は、どちらも煩わしいから、らしい。
男性側は、やってもらって当たり前という女性に辟易して、女性側は、頼んでもいないのにそんな事されたくない、という自立心旺盛な女性が増えてきたせい――とは言われているが、結局は良く分からない。
女性側の立場からすれば、確かに全く知らないような男性からそんなことされたら怖いが、彼の様に顔の整った男性にしてもらえるとやはり少し心が浮き足立ったりする。もちろん、勘違いするようなことはないが。
「ありがとうございます」
「いえ、男として当然の――……」
一瞬しまったという顔になり、言葉に詰まるルドヴィックに、ヴィクトリアは首を傾げた
「どうされましたか?」
ヴィクトリアは差し出された手の上に自分の手を重ねながら聞くと、彼は少し戸惑いながらヴィクトリアの手を引く。
「いえ、最近の若い女性はこういう事は好まないと聞いていたのですが、うっかりと手を差し伸べてしまったので、嫌な気持ちにさせてしまったかと思いまして……」
「若い女性って……」
そっきからその言い回しにヴィクトリアは思わず口元が緩んでしまった。
おそらく相手は至極真面目に返したのに、失礼かと思って口元を隠すように手を当てるが、おそらく見られている。
「あなたは十分、若いと思いますよ。私の婚約者と同じくらいでは?」
「まさか! そんなに若くはないですよ。おそらく若く見えているのはこの化粧のせいかもしれません。それともドレスでしょうか? 自分でも年のわりに痛い恰好していると思っているのですけど」
ルドヴィックの婚約者はヴィクトリアでも良く知っている相手だ。
特別かかわりはないが、社交界では有名な美少女。
今年十八になり、今が花の盛りで社交界の華として君臨している少女の事を知らない人はいない。
そんな相手と結婚適齢期から数年たったヴィクトリアとでは全く違う。
「わたくしは本来の見た目は随分年上なんですよ。少なくとも、ルドヴィック様のご婚約者様よりは年上です」
「そうでしょうか? そうは見えません」
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