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6.婚約者への悩みと魅力的な男性1
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「ようこそお越しくださいました、ミルドレット様」
「突然だったが、すまなかった」
「いえそのような事は。むしろ予約が突然キャンセルになりましたので、こちらこそ助かりました」
ルドヴィックとヴィクトリアが店の中に入るとすぐさま支配人らしき人物が挨拶にやって来た。
お互い挨拶を交わしている姿を見ると、初対面ではないようだ。
「こちらは、ヴィクトリア・アーモリア子爵令嬢だ。すぐそこの庭園で知り合って、偶然にもお互い予定が白紙になってしまったので、ここに誘った」
「初めましてアーモリア子爵令嬢様。私はこの店の総支配人のバルドと申します。よろしくお願いいたします」
きっと、ルドヴィックと来る予定だった人物の事も知っているに違いないのに、ヴィクトリアに代わっていることに何も言わず顔色も変わらない。
さすがは一流の人しか招くことがない場所の総支配人。相当な切れ者の気配がした。
その時、ふとそういえば自己紹介した記憶がない事に気付く。
なぜ自分の名前を知っていたのかと思いかすかに視線を上げれば、思い切り目が合い、曖昧に微笑む。
今ここで追及するべきことでもない。
「お席にご案内します」
総支配人バルドの案内で席に着く。
広々とした個室で、窓際に席が準備されており、外の様子が良く見えた。
庭園も眺められる仕様で、目を楽しませてくれる。
「気に入りましたか?」
「ええ、もちろん」
侍女のロザリーと彼の侍従のためにもう一つ席が用意された。
この空間だけでもお金をかけて作られている。
一つ一つの装飾が細かく、派手ではないのに品を感じた。
絵画も落ち着いた大人の雰囲気。絵画には詳しくないヴィクトリアだが、飾ってあるものの良し悪しは少なからず分かる。
「素晴らしいですね」
「そう言っていただけると助かります。姉も妹も好んでいるのですが、私の婚約者はどうも合わないようでして。若い方には殺風景に映るようです」
派手好きの人にとっては物足りない殺風景に見えるかもしれないが、少なくともヴィクトリアの感性ではそんなことはない。
むしろ、派手好きではないのでこういう落ち着いた空間は好きだ。
「若い方というよりも、人それぞれの好みの問題だと思います。こればかりは変えられませんから」
「その好みがすぐに変わってしまうので、苦労してます」
若いうちは移り気ではあるが、それでも根本的な好みは変わらないと思っている。
もし本当にコロコロ変わるようならば、それはむしろ嫌がらせでやっているのではないかと考えてしまう。
「ここは初めてですか?」
「ええ、本当は今日来る予定だったのですが……」
最後まで言わなくても、分かってもらえるだろう。
何せ、彼の目の前での出来事なのだから。
婚約者に当日にキャンセルされるという不運――いや、それこそ大衆の面前で恥をかかされたと言うべき事。
「私は甘い物はあまり好まないのですが、姉や妹が言うには、特に季節の日替わりアフターヌーンセットが良いのだとか」
「それはわたくしも聞いた事があります。今日はそれを頼もうと思っておりました」
「では、それでいいですか? 飲み物は、向こうに任せれば問題ないでしょう」
てきぱきと決定し、注文を行う。
こうして男性にすべてを任せて安心と思える対象は、父親しかいなかったので、少し新鮮だった。
――もしかしたら、わたくしが色々決めてしまうのも気に食わなかったのかも知れないわ。
好きにしろという態度だから、いつもヴィクトリアが気を使って色々考えていたが、もしかしたら任せた方が少しは距離が縮まったのかと考える。
男性はあれこれ言われるよりも、うんうん頷く女性が好きな人もいるのだから。
むしろ、そういう可愛く男性の庇護欲を誘う女性の方が需要があるというのは分かっている。
しかし、性格上誰かに縋る生き方よりも自分の足でしっかり歩いて行く生き方の方がしっくりきてしまうヴィクトリアだ。
「ため息をついてどうしました?」
「あ、いえ……。自分のいたらなさに少し思うところが」
「いたらない?」
「はい。もうお気づきかも知れませんが、わたくと婚約者はあまり上手くいっていないのです。相手が年下という事もあって、わたくしの方が導いていかなければならないという使命感のようなものがあって、おそらくそれが気に障ったのだろうかと」
考えてみれば、まるで弟の様に接していた事は否定できない。
今なら分かるが、婚約当時の年齢の男性は子供扱いを嫌がる傾向にある。
それなのに、婚約者が年上で子供扱いのように諭していれば、うんざりもするだろう。
「それを言うなら、私も同罪ですね。知っての通り、私の婚約者は私と十離れています。貴族の結婚ではそれくらいの年の差普通にあるのですが、近年は自由恋愛が盛んに言われていますから、余計に十も上のおじさんでは不満なんでしょうね」
「むしろ、わたくしは十ぐらいの年の差だったら、うれしいくらいかもしれません。頼りがいがあって」
「それはあなたがしっかりしている方だからでしょうね。私の婚約者はまだまだ子供のようです。だから一層厳しくなってしまう。彼女の両親が溺愛しているせいもあって、私がしっかりしなければと、親のような気持ちです。そのせいか、若い女性を見ると今日のようなお節介をよくやってしまう」
お互い婚約者には苦労している者同士。しかも、悩みが似ているせいで遠い存在のような相手に親近感がわいた。
「突然だったが、すまなかった」
「いえそのような事は。むしろ予約が突然キャンセルになりましたので、こちらこそ助かりました」
ルドヴィックとヴィクトリアが店の中に入るとすぐさま支配人らしき人物が挨拶にやって来た。
お互い挨拶を交わしている姿を見ると、初対面ではないようだ。
「こちらは、ヴィクトリア・アーモリア子爵令嬢だ。すぐそこの庭園で知り合って、偶然にもお互い予定が白紙になってしまったので、ここに誘った」
「初めましてアーモリア子爵令嬢様。私はこの店の総支配人のバルドと申します。よろしくお願いいたします」
きっと、ルドヴィックと来る予定だった人物の事も知っているに違いないのに、ヴィクトリアに代わっていることに何も言わず顔色も変わらない。
さすがは一流の人しか招くことがない場所の総支配人。相当な切れ者の気配がした。
その時、ふとそういえば自己紹介した記憶がない事に気付く。
なぜ自分の名前を知っていたのかと思いかすかに視線を上げれば、思い切り目が合い、曖昧に微笑む。
今ここで追及するべきことでもない。
「お席にご案内します」
総支配人バルドの案内で席に着く。
広々とした個室で、窓際に席が準備されており、外の様子が良く見えた。
庭園も眺められる仕様で、目を楽しませてくれる。
「気に入りましたか?」
「ええ、もちろん」
侍女のロザリーと彼の侍従のためにもう一つ席が用意された。
この空間だけでもお金をかけて作られている。
一つ一つの装飾が細かく、派手ではないのに品を感じた。
絵画も落ち着いた大人の雰囲気。絵画には詳しくないヴィクトリアだが、飾ってあるものの良し悪しは少なからず分かる。
「素晴らしいですね」
「そう言っていただけると助かります。姉も妹も好んでいるのですが、私の婚約者はどうも合わないようでして。若い方には殺風景に映るようです」
派手好きの人にとっては物足りない殺風景に見えるかもしれないが、少なくともヴィクトリアの感性ではそんなことはない。
むしろ、派手好きではないのでこういう落ち着いた空間は好きだ。
「若い方というよりも、人それぞれの好みの問題だと思います。こればかりは変えられませんから」
「その好みがすぐに変わってしまうので、苦労してます」
若いうちは移り気ではあるが、それでも根本的な好みは変わらないと思っている。
もし本当にコロコロ変わるようならば、それはむしろ嫌がらせでやっているのではないかと考えてしまう。
「ここは初めてですか?」
「ええ、本当は今日来る予定だったのですが……」
最後まで言わなくても、分かってもらえるだろう。
何せ、彼の目の前での出来事なのだから。
婚約者に当日にキャンセルされるという不運――いや、それこそ大衆の面前で恥をかかされたと言うべき事。
「私は甘い物はあまり好まないのですが、姉や妹が言うには、特に季節の日替わりアフターヌーンセットが良いのだとか」
「それはわたくしも聞いた事があります。今日はそれを頼もうと思っておりました」
「では、それでいいですか? 飲み物は、向こうに任せれば問題ないでしょう」
てきぱきと決定し、注文を行う。
こうして男性にすべてを任せて安心と思える対象は、父親しかいなかったので、少し新鮮だった。
――もしかしたら、わたくしが色々決めてしまうのも気に食わなかったのかも知れないわ。
好きにしろという態度だから、いつもヴィクトリアが気を使って色々考えていたが、もしかしたら任せた方が少しは距離が縮まったのかと考える。
男性はあれこれ言われるよりも、うんうん頷く女性が好きな人もいるのだから。
むしろ、そういう可愛く男性の庇護欲を誘う女性の方が需要があるというのは分かっている。
しかし、性格上誰かに縋る生き方よりも自分の足でしっかり歩いて行く生き方の方がしっくりきてしまうヴィクトリアだ。
「ため息をついてどうしました?」
「あ、いえ……。自分のいたらなさに少し思うところが」
「いたらない?」
「はい。もうお気づきかも知れませんが、わたくと婚約者はあまり上手くいっていないのです。相手が年下という事もあって、わたくしの方が導いていかなければならないという使命感のようなものがあって、おそらくそれが気に障ったのだろうかと」
考えてみれば、まるで弟の様に接していた事は否定できない。
今なら分かるが、婚約当時の年齢の男性は子供扱いを嫌がる傾向にある。
それなのに、婚約者が年上で子供扱いのように諭していれば、うんざりもするだろう。
「それを言うなら、私も同罪ですね。知っての通り、私の婚約者は私と十離れています。貴族の結婚ではそれくらいの年の差普通にあるのですが、近年は自由恋愛が盛んに言われていますから、余計に十も上のおじさんでは不満なんでしょうね」
「むしろ、わたくしは十ぐらいの年の差だったら、うれしいくらいかもしれません。頼りがいがあって」
「それはあなたがしっかりしている方だからでしょうね。私の婚約者はまだまだ子供のようです。だから一層厳しくなってしまう。彼女の両親が溺愛しているせいもあって、私がしっかりしなければと、親のような気持ちです。そのせいか、若い女性を見ると今日のようなお節介をよくやってしまう」
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