10 / 20
10.迷惑な訪問者と突然の訪問者3
しおりを挟む
「そちらが言いだした事です。ぜひ、婚約破棄しましょう。でも、有責なのは我が家ではなくそちらです。規定通りの違約金はしっかり払っていただきます」
クレメンスの前では控える様にしていたが、ヴィクトリアの性格は大人しい従順な性格ではない。
「認めないつもりか、ヴィクトリア! 数日前に私と行く予定だった店で男と逢引しているところを友人が見ていたんだぞ?」
「ただ、男性とお茶をしていただけで浮気とは……、でしたらあなた様は一体何人の女性と浮気しているのでしょうか? 社交界では親切に色々教えて下さる方が大勢いらっしゃるんですよ?」
「男の付き合いと同類にしてもらっては困る」
またこれだ。
結婚するまでは遊ぶのが男の流儀。そんな意味不明な説明で本当に納得しているとでも思っているのか不思議だ。
緊迫した空気の中、突然応接室の扉がノックされ、許可を出す前に開かれた。
「誰だ、一体――!」
「お話の最中、申し訳ありません」
きっちりとした騎士隊の制服を身に纏った人物が丁寧に謝罪する。
その人物に、驚きで固まるヴィクトリア。そしてその存在に驚きつつも訝し気に彼を見る三人。
一番初めに我に返ったのは父親だった。
「お出迎えできず申し訳ありません、ミルドレット卿……しかし、一体どうのようなご用件でしょうか? 大変申し訳ないのですが、今取り込み中でして」
「ええ、ですからこちらに伺いました」
突然現れた彼は、落ち着いた様子で部屋の中を見回し、最後にヴィクトリアに微笑みかける。
その微笑みに心臓がかすかに高鳴った。
「この集まりの当事者の一人である私が弁明しなければ、彼女の名誉に傷がつくと思いましてまいりました」
「どういう事でしょうか?」
「問題になっていたんですよね? 彼女が男性と出かけていたという事が」
「まさか……」
「少し事情は違いますが、私の事です。出かけていたと言うよりも、お互い約束が反故されて時間があったので、私がお誘いしました。なにせ、暑い中待たされたもので、令嬢も涼しい場所で休憩したほうがいいかと思いましてね。もし、それが浮気と言うのなら、ぜひ私にも慰謝料を請求してください。まあ、支払いませんが」
微笑みながらもその目は笑っていなかった。
非難するかのようにクレメンスを捕らえて離さない。
「それと、少し漏れぎ聞こえて来たのですが、結婚前に遊ぶのが男の嗜みと声高に主張するのは止めていただきたいですね。不愉快ですから……ああ、もう一つ。その日あなたは、女性のいる店で昼まで過ごしていたらしいですが……これは浮気ではない? 果たして裁判所ではどのように解釈されるのか楽しみですね」
やはり、はじめから反故されるための約束だった。
その時横からどういうことだと説明を求める視線を感じた。
(そうだった。あの日の事はロザリーに黙っていてもらって、余計な心配をかけたくなくてクレメンス様と出かけたことにしていたんだったわ)
とりあえず、説明は後でしっかりしておこうと心に留めている間にも、ルドヴィックが当事者権限とでもいうように話を進めていく。
いや、婚約に関しては完全に部外者だのだが、それを突っ込める人間はここにはいない。
強引ともとれるが、誰も口を挟むすきを与えなかった。
さすがは騎士団長。
荒くれ者たちを束ねているような人は一味も二味も違う。と変なところで感心してしまった。
「それで……婚約破棄でしたか? そうしたほうがよろしいでしょう。その方がお二人のため。今後の交渉は、第三者を通した方がよろしいでしょう。子爵、よろしかったら私の知り合いを紹介しましょうか?」
そこで伯爵家に聞かずにヴィクトリアの父親に尋ねる辺りで、完全に相手を無視しているような形だ。
「ミルドレット卿、お手数をおかけしますがぜひお願いします」
考えるそぶりも見せず子爵は即決した。
第三者を通した方が良い事はすぐに分かっていたが、この結婚を仲介してきたのが公爵家のため、伯爵家の後ろには公爵家がいる。そのため、第三者をどうするのか悩むところだだったが、ミルドレット侯爵家が紹介してくれると文句はない。
家格は公爵家の方が上ではあるものの、影響力という面ではミルドレット侯爵家の方が上。
「私の友人はこういう争いにはとても慣れていますので、満足する結果で終われると思います。それに、ご令嬢の名誉を汚すことはしないと約束します」
「そこにまで配慮いただけるとは。まことにありがたく思います」
「さて、では話は終わったという事で、伯爵家の方々はお帰りになっていただきましょう。大丈夫、外に私を見張っている部下が幾人かいますので、無事伯爵家に送り届けますとも」
「見張って……?」
「ちょっとした冗談です。お気になさらずに。一応上の立場の人間ですので、護衛のような者です。ただし、私の方が腕は立つので、便利な小間使いのような感じですが。しかし、忠実に私の命令に従って動いてくれるので、重宝してます」
きらりと輝く瞳から、まるで肉食獣のように狙った獲物は逃がさないような執着心を感じた。
一瞬、これはちょっとした脅しではないのかしら、と思うヴィクトリア。
大人しくしていなければどうなるか分からないぞと聞こえたが……向こうの二人は気づいていなさそうだ。
分が悪いと思ったのか、逃げる様に足音を響かせて去っていく。
無事帰れればいいのだけど……と余計な心配をしてしまった。
クレメンスの前では控える様にしていたが、ヴィクトリアの性格は大人しい従順な性格ではない。
「認めないつもりか、ヴィクトリア! 数日前に私と行く予定だった店で男と逢引しているところを友人が見ていたんだぞ?」
「ただ、男性とお茶をしていただけで浮気とは……、でしたらあなた様は一体何人の女性と浮気しているのでしょうか? 社交界では親切に色々教えて下さる方が大勢いらっしゃるんですよ?」
「男の付き合いと同類にしてもらっては困る」
またこれだ。
結婚するまでは遊ぶのが男の流儀。そんな意味不明な説明で本当に納得しているとでも思っているのか不思議だ。
緊迫した空気の中、突然応接室の扉がノックされ、許可を出す前に開かれた。
「誰だ、一体――!」
「お話の最中、申し訳ありません」
きっちりとした騎士隊の制服を身に纏った人物が丁寧に謝罪する。
その人物に、驚きで固まるヴィクトリア。そしてその存在に驚きつつも訝し気に彼を見る三人。
一番初めに我に返ったのは父親だった。
「お出迎えできず申し訳ありません、ミルドレット卿……しかし、一体どうのようなご用件でしょうか? 大変申し訳ないのですが、今取り込み中でして」
「ええ、ですからこちらに伺いました」
突然現れた彼は、落ち着いた様子で部屋の中を見回し、最後にヴィクトリアに微笑みかける。
その微笑みに心臓がかすかに高鳴った。
「この集まりの当事者の一人である私が弁明しなければ、彼女の名誉に傷がつくと思いましてまいりました」
「どういう事でしょうか?」
「問題になっていたんですよね? 彼女が男性と出かけていたという事が」
「まさか……」
「少し事情は違いますが、私の事です。出かけていたと言うよりも、お互い約束が反故されて時間があったので、私がお誘いしました。なにせ、暑い中待たされたもので、令嬢も涼しい場所で休憩したほうがいいかと思いましてね。もし、それが浮気と言うのなら、ぜひ私にも慰謝料を請求してください。まあ、支払いませんが」
微笑みながらもその目は笑っていなかった。
非難するかのようにクレメンスを捕らえて離さない。
「それと、少し漏れぎ聞こえて来たのですが、結婚前に遊ぶのが男の嗜みと声高に主張するのは止めていただきたいですね。不愉快ですから……ああ、もう一つ。その日あなたは、女性のいる店で昼まで過ごしていたらしいですが……これは浮気ではない? 果たして裁判所ではどのように解釈されるのか楽しみですね」
やはり、はじめから反故されるための約束だった。
その時横からどういうことだと説明を求める視線を感じた。
(そうだった。あの日の事はロザリーに黙っていてもらって、余計な心配をかけたくなくてクレメンス様と出かけたことにしていたんだったわ)
とりあえず、説明は後でしっかりしておこうと心に留めている間にも、ルドヴィックが当事者権限とでもいうように話を進めていく。
いや、婚約に関しては完全に部外者だのだが、それを突っ込める人間はここにはいない。
強引ともとれるが、誰も口を挟むすきを与えなかった。
さすがは騎士団長。
荒くれ者たちを束ねているような人は一味も二味も違う。と変なところで感心してしまった。
「それで……婚約破棄でしたか? そうしたほうがよろしいでしょう。その方がお二人のため。今後の交渉は、第三者を通した方がよろしいでしょう。子爵、よろしかったら私の知り合いを紹介しましょうか?」
そこで伯爵家に聞かずにヴィクトリアの父親に尋ねる辺りで、完全に相手を無視しているような形だ。
「ミルドレット卿、お手数をおかけしますがぜひお願いします」
考えるそぶりも見せず子爵は即決した。
第三者を通した方が良い事はすぐに分かっていたが、この結婚を仲介してきたのが公爵家のため、伯爵家の後ろには公爵家がいる。そのため、第三者をどうするのか悩むところだだったが、ミルドレット侯爵家が紹介してくれると文句はない。
家格は公爵家の方が上ではあるものの、影響力という面ではミルドレット侯爵家の方が上。
「私の友人はこういう争いにはとても慣れていますので、満足する結果で終われると思います。それに、ご令嬢の名誉を汚すことはしないと約束します」
「そこにまで配慮いただけるとは。まことにありがたく思います」
「さて、では話は終わったという事で、伯爵家の方々はお帰りになっていただきましょう。大丈夫、外に私を見張っている部下が幾人かいますので、無事伯爵家に送り届けますとも」
「見張って……?」
「ちょっとした冗談です。お気になさらずに。一応上の立場の人間ですので、護衛のような者です。ただし、私の方が腕は立つので、便利な小間使いのような感じですが。しかし、忠実に私の命令に従って動いてくれるので、重宝してます」
きらりと輝く瞳から、まるで肉食獣のように狙った獲物は逃がさないような執着心を感じた。
一瞬、これはちょっとした脅しではないのかしら、と思うヴィクトリア。
大人しくしていなければどうなるか分からないぞと聞こえたが……向こうの二人は気づいていなさそうだ。
分が悪いと思ったのか、逃げる様に足音を響かせて去っていく。
無事帰れればいいのだけど……と余計な心配をしてしまった。
67
あなたにおすすめの小説
執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~
犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…
婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜
夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」
婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。
彼女は涙を見せず、静かに笑った。
──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。
「そなたに、我が祝福を授けよう」
神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。
だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。
──そして半年後。
隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、
ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。
「……この命、お前に捧げよう」
「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」
かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。
──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、
“氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。
王子に買われた妹と隣国に売られた私
京月
恋愛
スペード王国の公爵家の娘であるリリア・ジョーカーは三歳下の妹ユリ・ジョーカーと私の婚約者であり幼馴染でもあるサリウス・スペードといつも一緒に遊んでいた。
サリウスはリリアに好意があり大きくなったらリリアと結婚すると言っており、ユリもいつも姉さま大好きとリリアを慕っていた。
リリアが十八歳になったある日スペード王国で反乱がおきその首謀者として父と母が処刑されてしまう。姉妹は王様のいる玉座の間で手を後ろに縛られたまま床に頭をつけ王様からそして処刑を言い渡された。
それに異議を唱えながら玉座の間に入って来たのはサリウスだった。
サリウスは王様に向かい上奏する。
「父上、どうか"ユリ・ジョーカー"の処刑を取りやめにし俺に身柄をくださいませんか」
リリアはユリが不敵に笑っているのが見えた。
2度目の結婚は貴方と
朧霧
恋愛
前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか?
魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。
重複投稿作品です。(小説家になろう)
もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?
当麻月菜
恋愛
次期当主になるべく、領地にて父親から仕事を学んでいた伯爵令息フレデリックは、ちょっとした出来心で領民の娘イルアに手を出した。
ただそれは、結婚するまでの繋ぎという、身体目的の軽い気持ちで。
対して領民の娘イルアは、本気だった。
もちろんイルアは、フレデリックとの間に身分差という越えられない壁があるのはわかっていた。そして、その時が来たら綺麗に幕を下ろそうと決めていた。
けれど、二人の関係の幕引きはあまりに酷いものだった。
誠意の欠片もないフレデリックの態度に、立ち直れないほど心に傷を受けたイルアは、彼に復讐することを誓った。
弄ばれた女が、捨てた男にとって最後で最高の女性でいられるための、本気の復讐劇。
公爵令嬢は結婚前日に親友を捨てた男を許せない
有川カナデ
恋愛
シェーラ国公爵令嬢であるエルヴィーラは、隣国の親友であるフェリシアナの結婚式にやってきた。だけれどエルヴィーラが見たのは、恋人に捨てられ酷く傷ついた友の姿で。彼女を捨てたという恋人の話を聞き、エルヴィーラの脳裏にある出来事の思い出が浮かぶ。
魅了魔法は、かけた側だけでなくかけられた側にも責任があった。
「お兄様がお義姉様との婚約を破棄しようとしたのでぶっ飛ばそうとしたらそもそもお兄様はお義姉様にべた惚れでした。」に出てくるエルヴィーラのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる