年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました

チカフジ ユキ

文字の大きさ
12 / 20

12.突然の求婚と困惑2

しおりを挟む
「信じがたい話かも知れませんが侯爵領を買ったんですよ。一括で払う事はできないので、一定の金額を毎年振り込んでいました。それも今年で終わりですが」
「ええと?」
「つまり、この先彼女と婚約し結婚すれば侯爵家の土地の名義は私であっても、結局自分たちのものでしょう? 次代になっても侯爵家の血が引き継がれていくわけですからね。悪くない取引だと向こうは思ったようです。私としては土地さえあれば良かったわけですので、婚約は彼女が成人したときにもう一度考えることになってました」
「は、はぁ。土地、ですか? それは売り買い出来るものなんですね?」

 確か領地は担保にすることが出来ないと法律で決まっていたはずだ。
 そのせいで、金貸しはそれ以外の物を担保に領地を持つ貴族に金を貸すと聞いている。
 つまり、土地の売り買いは出来ないわけで……。

「法律の隅をつつくような事ですけど、できない訳じゃないんですよ。当主が財産設定から土地を外せば売ることも出来ます。実際は、そんな事をすれば自分たちが困る事が分かっているので普通はしません。なにせ領地があれば、そこから上がる税収で暮らせるのに、それを手放す馬鹿はいませんから」

 暗に、婚約者の侯爵家はバカなのだと言っている。

「かの侯爵は借金で非常に困窮していました。しかし、派手好きで金遣いが荒い。売れるモノと言ったら領地ぐらいなものですが、下手の所に売れば名誉に傷がつく。上位貴族というのは体面も重要でしてね。領地を売ったとなれば、社交界ではいい笑いものです」

 むしろ、社交界からつまはじきにされるのではないだろうか。
 なにせ、お金がないと言っているのも同然なのだから。

「私はあの土地が少々魅力的でして、爵位はどうでもいいのですが、あの土地だけは手に入れたかったんです。侯爵に売ってほしいと言ったらあっさりと決りました。もちろん、令嬢との婚約が条件に出されましたが、先ほど言った通りの事を説明したら、とりあえず納得してくれました」

 確実に婚約しておいた方が良いような気がして、困惑する。

「ああ、もし私が死んだ場合、領地の売買契約金は一括で振り込まれ、されに領地は侯爵家に戻る予定でした」
「それは、ミルドレット侯爵家にとって不利な条件だったのではないでしょうか?」
「これは両親も知らない事です。侯爵領を買った事も、この契約の内容も。ただ、婚約したという事実だけを信じました」

 もちろん、体面的には婚約者として振る舞ってほしいと侯爵から頼まれたそうだ。 
 そうでないと、疑われるからと。

「両親は私が婚約していると思っていたので、ちょっとややこしい問題になりそうでした。あ、ちなみになぜ婚約者として振る舞っていたのかと言いますと、面倒だったからです。私もいい年でしたから、方々から婚約の打診が舞い込んでいましてね」

 つまり、結婚したくなかったから、婚約したと見せかけていたという事だ。
 よく両親にもバレなかったなと心底思う。

「しかし、それでは彼女の方が不名誉な傷になるのではないでしょうか?」

 婚約していなかったとしても、婚約者として振る舞っていれば、付き合いがなくなった時点で婚約解消かもしくは破棄されたと思われてもしょうがない。
 男性が悪くても、多少なりとも女性にだって傷がつく。
 特に、社交界の華である彼女の婚約に関することは面白おかしく広まってもおかしくない。

「もちろんお互い納得の形で解消という手立てをとるつもりでした。最悪、私が悪になってもいいと。これは侯爵との契約で令嬢にはなんの咎もない事も分かっていましたので。父親が無能なのは令嬢のせいではないし、多少同情しました。なので、新たな婚約に支障がない様に結婚するのに必要となる持参金は私の方で渡す予定だったのです」

 予定、という事はそうしなかったわけだ。

「先ほど、彼女が侯爵邸に乗り込んできたと言ったでしょう? 私が浮気していると。しかし、実は彼女の方こそ若い男性と夜を過ごすこともあったようですよ」
「それは、その……なんと言ってよいか」

 実際は婚約していなかったわけだから、浮気ではない。
 侯爵の方はその事実を知っていたはずなのに、娘は婚約しているといつの間にか自分の中で変化していたそうだ。
 事実を指摘すると、すごい剣幕で捲し立てられたとルドヴィックは言う。ついでに、両親――というか父親にもネチネチ言われたそうだ。
 なぜ、そこまでして婚約したと思わせていたのかという事になるけど、ルドヴィックには気になる女性がいたとの事だ。

「とりあえず、十一の子供と婚約したと思わせておけば、結婚まで時間が稼げます。そして、ゆっくりと対策を練ろうと……」
「対策?」
「そうです。自分が好きな女性と結婚するための対策です。まさか、もう少しのところで隣国との国境で問題が発生するとは思ってもみませんでしたが」

 不穏な発言だ。一体どんな対策なんだろうか。突っ込みたいが、突っ込めない。
 ルドヴィックは、隣国との事を思い出しているのか忌々しそうに今にも舌打ちをしそうな雰囲気になった。
 しかし、それもほんの一瞬ですぐに微笑みを戻す。

「ええと……それでその女性と結婚するのでしょうか?」
「私の中ではする予定です。もっと早く決着付ける予定が狂わされ、思わず八つ当たりしてしまいましたが、それも些細な問題です」

 誰にどうやって八つ当たりしたのか、きっと聞かない方が自分のためだと勘が囁いた。
 それにしても、ルドヴィックにここまで思われているなんてと、ヴィクトリアはその女性を羨む以上に不憫に思えてきた。
 執着――というかストーカー。いいのかそれで、騎士団長ともあろう人が。
 ただ、そんな話重要な話をヴィクトリアにしても問題ないのか気になった。
 口の堅さには自信があるが、信用されていると思っていいものか。
 その真意を聞きたくてヴィクトリアは口を開いたが、ヴィクトリアの言葉に重ねる様にルドヴィックが話し出した。

「あの……」
「あのような男が好みでしたが?」
「え?」
「確かに、彼は社交界の若い女性の間ではなかなか人気でしたが、あなたもあのような容姿の男が好きなのかと」


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~

犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。

王子に買われた妹と隣国に売られた私

京月
恋愛
スペード王国の公爵家の娘であるリリア・ジョーカーは三歳下の妹ユリ・ジョーカーと私の婚約者であり幼馴染でもあるサリウス・スペードといつも一緒に遊んでいた。 サリウスはリリアに好意があり大きくなったらリリアと結婚すると言っており、ユリもいつも姉さま大好きとリリアを慕っていた。 リリアが十八歳になったある日スペード王国で反乱がおきその首謀者として父と母が処刑されてしまう。姉妹は王様のいる玉座の間で手を後ろに縛られたまま床に頭をつけ王様からそして処刑を言い渡された。 それに異議を唱えながら玉座の間に入って来たのはサリウスだった。 サリウスは王様に向かい上奏する。 「父上、どうか"ユリ・ジョーカー"の処刑を取りやめにし俺に身柄をくださいませんか」 リリアはユリが不敵に笑っているのが見えた。

2度目の結婚は貴方と

朧霧
恋愛
 前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか? 魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。 重複投稿作品です。(小説家になろう)

乙女ゲームの世界だと知っていても

竹本 芳生
恋愛
悪役令嬢に生まれましたがそれが何だと言うのです。

もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?

当麻月菜
恋愛
次期当主になるべく、領地にて父親から仕事を学んでいた伯爵令息フレデリックは、ちょっとした出来心で領民の娘イルアに手を出した。 ただそれは、結婚するまでの繋ぎという、身体目的の軽い気持ちで。 対して領民の娘イルアは、本気だった。 もちろんイルアは、フレデリックとの間に身分差という越えられない壁があるのはわかっていた。そして、その時が来たら綺麗に幕を下ろそうと決めていた。 けれど、二人の関係の幕引きはあまりに酷いものだった。 誠意の欠片もないフレデリックの態度に、立ち直れないほど心に傷を受けたイルアは、彼に復讐することを誓った。 弄ばれた女が、捨てた男にとって最後で最高の女性でいられるための、本気の復讐劇。

この偽りが終わるとき

豆狸
恋愛
「……本当なのか、妃よ」 「エドワード陛下がそうお思いならば、それが真実です」 この偽りはまだ終わるべきときではない。 なろう様でも公開中です。

公爵令嬢は結婚前日に親友を捨てた男を許せない

有川カナデ
恋愛
シェーラ国公爵令嬢であるエルヴィーラは、隣国の親友であるフェリシアナの結婚式にやってきた。だけれどエルヴィーラが見たのは、恋人に捨てられ酷く傷ついた友の姿で。彼女を捨てたという恋人の話を聞き、エルヴィーラの脳裏にある出来事の思い出が浮かぶ。 魅了魔法は、かけた側だけでなくかけられた側にも責任があった。 「お兄様がお義姉様との婚約を破棄しようとしたのでぶっ飛ばそうとしたらそもそもお兄様はお義姉様にべた惚れでした。」に出てくるエルヴィーラのお話。

処理中です...