1 / 1
婚約破棄の破棄は了承しましたが、彼女と別れる必要はありませんよ
しおりを挟む
「お前との婚約を破棄する!」
とある夜会で婚約者である公爵令息に、そう叫ばれた。
彼の突然の婚約破棄宣言のせいで周囲から好奇の視線にさらされてしまったのは、正直、嬉しくない。
彼は自分の立場が分かっているのだろうか?
「俺は容姿も能力も平凡なお前ではなく美しく優秀な彼女と結婚する!」
そう言って彼は傍らにいる美しい男爵令嬢を抱き寄せた。
彼と彼女の仲が噂されているのは知っていたが、まさか私との婚約を破棄してまで彼女と結婚をしようと考えていたとは思いもしなかった。
彼の家は公爵家だが、優秀な前公爵、彼の祖父が亡くなった後、困窮しているのだ。彼を含めた彼の家族が湯水のごとくお金を使い、そのくせ稼ぐ事をしないからだ。
現在無能揃いの公爵家だが、それでも王家に一番近い血統の我が国第二の名家だ。王家が滅亡させる訳にはいかないと新興貴族であるが、大陸一の商家でもあり、お金が潤沢にある子爵家の令嬢である私と公爵令息である彼との婚約を王命で結ばせたのだ。
「私達の婚約は王命です。あなたの一存だけでは、どうにもなりませんが?」
「ふん。国王ご夫妻は俺をかわいがってくださっている。俺が望めば、お前との婚約破棄も彼女との結婚も認めてくださるさ」
確かに、国王ご夫妻も彼の両親も彼を愛している。だが、それは美しい愛玩人形を愛でるのと同じだ。かくいう私の彼への愛もそれと同じなのだが。
「無理ですわ。だって、王命ですのよ?」
愛玩人形へ愛などで国王が一度命じた事を覆せば誰も従わなくなる。それでは権威の失墜になってしまう。
「それに、そもそも、私とあなたの婚約は、困窮したあなたの家を救うためですのよ」
まだ何か言い募ろうとする婚約者の言葉を遮る。耳に心地よい美声だが、いかんせん頭が悪い彼が放つ言葉は、とても耳を傾ける価値がないものばかりだ。聞いているだけ時間の無駄だ。
「そこの彼女のお家が、あなたのお家を救うほどの財力がおありなら、王家も婚約を認めてくださるでしょうが、違いますわよね?」
「え、えっと」
彼女が口ごもった。私の言う通りなのだ。
「彼は外見だけは、とてもお美しいし、公爵家の嫡子だもの。彼を手に入れれば、贅沢に暮らせると思って婚約者がいても構わず彼を誘惑したのでしょう?」
目端の利く貴族ならば、優秀な前公爵が亡くなって以降の公爵家が困窮しているのは分かるはずだが彼女は気づいていなかったのだろう。
「違います! 私は本当に彼を愛し」
「どうでもいいですわ。そんな事」
私は彼女の言葉を遮った。
「あなた達が真実愛し合っているかどうかなど、私にはどうでもいい事ですわ」
私は二人に私との婚約を破棄した場合、確実に起こる未来を話して聞かせた。
「それよりも、我が家の支援がなくなれば、あなたのお家は立ち行かなくなります。今お住まいになっている美しい館を手放す事になるだろうし、今よりもずっと質の落ちる衣服を着る事になるだろうし、今よりもずっと粗末な食事になるでしょうね」
私の話を聞いているうちに、二人の顔色が段々と悪くなってきた。
「それでも、彼女と添い遂げる覚悟がおありですか? その覚悟がおありなら、お祝い代わりに慰謝料を請求しない婚約解消にしますが?」
そう、慰謝料は請求しない。
ただ、望みのモノは頂いていくが。今まで彼の家を援助してきたのだ。望むモノを貰わなければ割に合わない。
「う、あ、分かった。婚約破棄はやめる。彼女とも別れる。それでいいか?」
「そんな!」
あっさり恋人である自分を捨てる彼に、彼女はショックを受けている。
「婚約破棄の破棄は了承しましたが、彼女と別れる必要はありませんよ」
「「え?」」
目の前の二人だけでなく周囲も怪訝そうな顔で私を見ていた。こんな大勢に注視されるのは、正直、居心地が悪い。
「婚約した時に交わした誓約書をちゃんと読んでいないのですね」
私は溜息を吐いた。
「私とあなたは白い結婚です。私、あなたの美しいお顔以外、興味ありませんので。なので、あなたが浮気しても、それで子供ができても、優秀なら後継者にしても構わない旨も誓約書の記載していますよ。王家にも認めて頂いています」
王家や公爵家としては、大陸一の商家と血縁関係となり完全に取り込む事を望んだようだが、王命だから結婚はするけど閨を強要するなら資金援助はしない、滅亡でも何でもしろと言い放つと、しぶしぶ了承した。
我が家にとっては、滅亡寸前の公爵家を手に入れてもメリットはないのだ。伊達に大陸一の商家ではない。王命に逆らって、この国で生きていけなくなっても他国で悠々自適に暮らせる財とコネはある。我が家を敵に回して困るのは王家や公爵家のほうだ。
「……そうだったのか?」
「ええ。だから、私とは結婚しなければいけませんが、彼女と別れる必要ありませんよ」
まあ、危うくなれば、あっさり自分を捨てる男と再び恋人関係になれるかどうかは彼女次第だが。
彼女にプライドがなかったからか、それとも我が家のお金で贅沢できると思ったのか、彼女は再び彼の恋人に戻った。大勢の前で婚約破棄騒動を起こしたのだ。彼女に、まともな縁談がこなかったせいもあるのだろう。
婚約破棄騒動を起こされても怒らず、愛人の存在を認め、そのまま結婚した私は、いろいろ言われているようだ。馬鹿だと言い切る者、寛大だと評する者。
外野に何を言われようと、どうでもいい。
私の目的は、たった一つで、そのために、彼と結婚したのだから。
「ああ、子が生まれたのね」
公爵となった夫と男爵令嬢の彼女との間に子が生まれたという報告をたった今受けた。
しかも都合がいい事に男女の双子だ。
跡継ぎとなる男の子と政略結婚に使える女の子。
「もう彼女は必要ないわね」
私の呟きを受け、控えていた部下の一人が即座に動いた。多くを語らなくても意を汲んでくれるのは、ありがたい。
彼女の役目は終わった。お金は潤沢にあるが、これ以上、彼女の生活資金という無駄金を使いたくない。
同じ理由で、彼と結婚したその日に、彼の両親である公爵夫妻を強盗に見せかけて部下に始末させた。公爵家は彼が継ぐし、領地経営は私や私が雇った優秀な部下達がしているのだ。無能で金を使うだけの公爵夫妻は必要ない。
「彼も、もう必要ない。なので、私の願いを叶えてほしいのだけど」
公爵家の執務室にいるのは、私と家令だけ。
目の前にいる家令の姿が、ぐにゃりと歪み変わった。
平凡な容姿だった家令は完璧な美貌の男になった。それだけでなく尖った耳と山羊の角を持ち、禍々しい気配を放っている。美しさも相まって一目で人間ではないと分かる。
彼は幼い私の前に突然現れた魔王だ。
人間が足を踏み入れられないという世界の果てに棲んでいる魔族の頂点に立つ魔王は、水鏡で世界各地を覗いた時、たまたま映った私を気に入り、死後、その魂をくれるのなら私が生きている間、自分の万能に近い魔王としての魔力を使ってやろうと持ち掛けてきたのだ。
出会った瞬間、私を殺して、さっさと魂を奪えばいいのに、そうせず、人間の小娘相手に、そんな提案をした魔王は甘いのか優しいのか。
ともかく、私は魔王の提案を承諾し、今現在、彼を思う存分こき使っている。
私が悩みもせず魂の譲渡を承諾した事に、人間にとって恐怖の対象である魔王が露骨に驚いたのは、おもしろかった。
転生して前世の記憶を保持できたとしても、私が「私」として生きられるのは、この人生の一度きりだ。魔王という最強の切り札を使って面白おかしく生きたほうが、よほどいい。
「そう言うと思って、もう叶えた」
私の目の前の空間に、ソレが浮かんでいた。
コレが欲しかった。
夫の美しい顔が。
そのために、彼と結婚したのだ。
「ああ、ありがとう」
私は首だけになった夫を抱えると、うっとりと見上げた。
苦悶と恐怖に彩られた最期の表情。
だが、それでも――。
「ああ、やっぱり、顔だけは美しいわね。旦那様」
頭の悪い夫が放つ言葉の数々は聞く価値がない。
肌を重ねる気にはなれなかったので体も不要だ。
私が欲しかったのは夫の美しい顔だけだ。
「間近で、ずっと俺の顔を見てきたのに、そんな男のほうがいいのか?」
魔王には不思議なのだろう。夫と出会うよりずっと前から夫よりも何倍も美しい魔王を見てきて、なぜ、自分よりも美しくない夫を生首にして傍に置きたがるのか。
「確かに、あなたは誰よりも美しいけど、生憎、私の好みじゃないのよね」
美しいとは思うが、心惹かれた事はない。
万能に近い魔力と整いすぎた容姿。
完璧であるが故に心惹かれないのだ。
私が心惹かれるのは、どこか不安定で歪みがあるモノなのだ。
「俺に向かって好みじゃないと言い切る女は、お前くらいだ」
魔王は笑った。私の物言いに怒りよりも面白さを感じたようだ。
「だから、いいんじゃないの? 私が、あなたに恋情を抱いていたら、うっとうしくなって、さっさと殺して魂を奪っているはずだもの」
「うーん、どうだろうな。逆に、俺も、お前に恋をして、魂を奪うのをやめて、伴侶にして魔王の永遠に近い命の半分を与えるかもしれんぞ」
「それこそ、ありえないわね」
私は笑った。
私の魂は、それはそれは美しいらしい。
用無しだと判断すれば部下に始末させ、夫を生首にして所有する女の魂が美しいとは到底思えないのだが。魔王には、そう見えるのだという。
だからこそ、魔王は私の魂を欲したのだ。
けれど、外見は、どこにでもいる十人並みの女だ。今のままの私を欲するなど、ありえないだろう。
この時は、そう思っていたのだが。
まさか、冗談めかした魔王のあの時の科白は本心だとは思いもしなかった。
幼い私の前に現れてから、ずっと傍にいた魔王は、魂だけでない「私」という女に本気で惚れていたのだ。ただ人間の小娘に本気で惚れたと認めるのは魔王としての矜持が許さなかったので、あんな冗談めかした言い方をしたのだ。
そんな魔王が腹をくくって私を口説きだし、私がそれに絆されるのは、そう時間はかからなかった。
二度と転生できなくても、魔王という最強の切り札を使って、今生を面白おかしく生きられれば、それでいいと思っていたのに――。
人間の短い生ではなく、魔王の伴侶となり長い長い時を生きる事になった私だが、どちらにしろ、魔王という最強の切り札を使って面白おかしく生きられるのに変わりはないから、これはこれでよかったのだと思う事にする。
後書き。
あらすじの○○は「生首」です。
とある夜会で婚約者である公爵令息に、そう叫ばれた。
彼の突然の婚約破棄宣言のせいで周囲から好奇の視線にさらされてしまったのは、正直、嬉しくない。
彼は自分の立場が分かっているのだろうか?
「俺は容姿も能力も平凡なお前ではなく美しく優秀な彼女と結婚する!」
そう言って彼は傍らにいる美しい男爵令嬢を抱き寄せた。
彼と彼女の仲が噂されているのは知っていたが、まさか私との婚約を破棄してまで彼女と結婚をしようと考えていたとは思いもしなかった。
彼の家は公爵家だが、優秀な前公爵、彼の祖父が亡くなった後、困窮しているのだ。彼を含めた彼の家族が湯水のごとくお金を使い、そのくせ稼ぐ事をしないからだ。
現在無能揃いの公爵家だが、それでも王家に一番近い血統の我が国第二の名家だ。王家が滅亡させる訳にはいかないと新興貴族であるが、大陸一の商家でもあり、お金が潤沢にある子爵家の令嬢である私と公爵令息である彼との婚約を王命で結ばせたのだ。
「私達の婚約は王命です。あなたの一存だけでは、どうにもなりませんが?」
「ふん。国王ご夫妻は俺をかわいがってくださっている。俺が望めば、お前との婚約破棄も彼女との結婚も認めてくださるさ」
確かに、国王ご夫妻も彼の両親も彼を愛している。だが、それは美しい愛玩人形を愛でるのと同じだ。かくいう私の彼への愛もそれと同じなのだが。
「無理ですわ。だって、王命ですのよ?」
愛玩人形へ愛などで国王が一度命じた事を覆せば誰も従わなくなる。それでは権威の失墜になってしまう。
「それに、そもそも、私とあなたの婚約は、困窮したあなたの家を救うためですのよ」
まだ何か言い募ろうとする婚約者の言葉を遮る。耳に心地よい美声だが、いかんせん頭が悪い彼が放つ言葉は、とても耳を傾ける価値がないものばかりだ。聞いているだけ時間の無駄だ。
「そこの彼女のお家が、あなたのお家を救うほどの財力がおありなら、王家も婚約を認めてくださるでしょうが、違いますわよね?」
「え、えっと」
彼女が口ごもった。私の言う通りなのだ。
「彼は外見だけは、とてもお美しいし、公爵家の嫡子だもの。彼を手に入れれば、贅沢に暮らせると思って婚約者がいても構わず彼を誘惑したのでしょう?」
目端の利く貴族ならば、優秀な前公爵が亡くなって以降の公爵家が困窮しているのは分かるはずだが彼女は気づいていなかったのだろう。
「違います! 私は本当に彼を愛し」
「どうでもいいですわ。そんな事」
私は彼女の言葉を遮った。
「あなた達が真実愛し合っているかどうかなど、私にはどうでもいい事ですわ」
私は二人に私との婚約を破棄した場合、確実に起こる未来を話して聞かせた。
「それよりも、我が家の支援がなくなれば、あなたのお家は立ち行かなくなります。今お住まいになっている美しい館を手放す事になるだろうし、今よりもずっと質の落ちる衣服を着る事になるだろうし、今よりもずっと粗末な食事になるでしょうね」
私の話を聞いているうちに、二人の顔色が段々と悪くなってきた。
「それでも、彼女と添い遂げる覚悟がおありですか? その覚悟がおありなら、お祝い代わりに慰謝料を請求しない婚約解消にしますが?」
そう、慰謝料は請求しない。
ただ、望みのモノは頂いていくが。今まで彼の家を援助してきたのだ。望むモノを貰わなければ割に合わない。
「う、あ、分かった。婚約破棄はやめる。彼女とも別れる。それでいいか?」
「そんな!」
あっさり恋人である自分を捨てる彼に、彼女はショックを受けている。
「婚約破棄の破棄は了承しましたが、彼女と別れる必要はありませんよ」
「「え?」」
目の前の二人だけでなく周囲も怪訝そうな顔で私を見ていた。こんな大勢に注視されるのは、正直、居心地が悪い。
「婚約した時に交わした誓約書をちゃんと読んでいないのですね」
私は溜息を吐いた。
「私とあなたは白い結婚です。私、あなたの美しいお顔以外、興味ありませんので。なので、あなたが浮気しても、それで子供ができても、優秀なら後継者にしても構わない旨も誓約書の記載していますよ。王家にも認めて頂いています」
王家や公爵家としては、大陸一の商家と血縁関係となり完全に取り込む事を望んだようだが、王命だから結婚はするけど閨を強要するなら資金援助はしない、滅亡でも何でもしろと言い放つと、しぶしぶ了承した。
我が家にとっては、滅亡寸前の公爵家を手に入れてもメリットはないのだ。伊達に大陸一の商家ではない。王命に逆らって、この国で生きていけなくなっても他国で悠々自適に暮らせる財とコネはある。我が家を敵に回して困るのは王家や公爵家のほうだ。
「……そうだったのか?」
「ええ。だから、私とは結婚しなければいけませんが、彼女と別れる必要ありませんよ」
まあ、危うくなれば、あっさり自分を捨てる男と再び恋人関係になれるかどうかは彼女次第だが。
彼女にプライドがなかったからか、それとも我が家のお金で贅沢できると思ったのか、彼女は再び彼の恋人に戻った。大勢の前で婚約破棄騒動を起こしたのだ。彼女に、まともな縁談がこなかったせいもあるのだろう。
婚約破棄騒動を起こされても怒らず、愛人の存在を認め、そのまま結婚した私は、いろいろ言われているようだ。馬鹿だと言い切る者、寛大だと評する者。
外野に何を言われようと、どうでもいい。
私の目的は、たった一つで、そのために、彼と結婚したのだから。
「ああ、子が生まれたのね」
公爵となった夫と男爵令嬢の彼女との間に子が生まれたという報告をたった今受けた。
しかも都合がいい事に男女の双子だ。
跡継ぎとなる男の子と政略結婚に使える女の子。
「もう彼女は必要ないわね」
私の呟きを受け、控えていた部下の一人が即座に動いた。多くを語らなくても意を汲んでくれるのは、ありがたい。
彼女の役目は終わった。お金は潤沢にあるが、これ以上、彼女の生活資金という無駄金を使いたくない。
同じ理由で、彼と結婚したその日に、彼の両親である公爵夫妻を強盗に見せかけて部下に始末させた。公爵家は彼が継ぐし、領地経営は私や私が雇った優秀な部下達がしているのだ。無能で金を使うだけの公爵夫妻は必要ない。
「彼も、もう必要ない。なので、私の願いを叶えてほしいのだけど」
公爵家の執務室にいるのは、私と家令だけ。
目の前にいる家令の姿が、ぐにゃりと歪み変わった。
平凡な容姿だった家令は完璧な美貌の男になった。それだけでなく尖った耳と山羊の角を持ち、禍々しい気配を放っている。美しさも相まって一目で人間ではないと分かる。
彼は幼い私の前に突然現れた魔王だ。
人間が足を踏み入れられないという世界の果てに棲んでいる魔族の頂点に立つ魔王は、水鏡で世界各地を覗いた時、たまたま映った私を気に入り、死後、その魂をくれるのなら私が生きている間、自分の万能に近い魔王としての魔力を使ってやろうと持ち掛けてきたのだ。
出会った瞬間、私を殺して、さっさと魂を奪えばいいのに、そうせず、人間の小娘相手に、そんな提案をした魔王は甘いのか優しいのか。
ともかく、私は魔王の提案を承諾し、今現在、彼を思う存分こき使っている。
私が悩みもせず魂の譲渡を承諾した事に、人間にとって恐怖の対象である魔王が露骨に驚いたのは、おもしろかった。
転生して前世の記憶を保持できたとしても、私が「私」として生きられるのは、この人生の一度きりだ。魔王という最強の切り札を使って面白おかしく生きたほうが、よほどいい。
「そう言うと思って、もう叶えた」
私の目の前の空間に、ソレが浮かんでいた。
コレが欲しかった。
夫の美しい顔が。
そのために、彼と結婚したのだ。
「ああ、ありがとう」
私は首だけになった夫を抱えると、うっとりと見上げた。
苦悶と恐怖に彩られた最期の表情。
だが、それでも――。
「ああ、やっぱり、顔だけは美しいわね。旦那様」
頭の悪い夫が放つ言葉の数々は聞く価値がない。
肌を重ねる気にはなれなかったので体も不要だ。
私が欲しかったのは夫の美しい顔だけだ。
「間近で、ずっと俺の顔を見てきたのに、そんな男のほうがいいのか?」
魔王には不思議なのだろう。夫と出会うよりずっと前から夫よりも何倍も美しい魔王を見てきて、なぜ、自分よりも美しくない夫を生首にして傍に置きたがるのか。
「確かに、あなたは誰よりも美しいけど、生憎、私の好みじゃないのよね」
美しいとは思うが、心惹かれた事はない。
万能に近い魔力と整いすぎた容姿。
完璧であるが故に心惹かれないのだ。
私が心惹かれるのは、どこか不安定で歪みがあるモノなのだ。
「俺に向かって好みじゃないと言い切る女は、お前くらいだ」
魔王は笑った。私の物言いに怒りよりも面白さを感じたようだ。
「だから、いいんじゃないの? 私が、あなたに恋情を抱いていたら、うっとうしくなって、さっさと殺して魂を奪っているはずだもの」
「うーん、どうだろうな。逆に、俺も、お前に恋をして、魂を奪うのをやめて、伴侶にして魔王の永遠に近い命の半分を与えるかもしれんぞ」
「それこそ、ありえないわね」
私は笑った。
私の魂は、それはそれは美しいらしい。
用無しだと判断すれば部下に始末させ、夫を生首にして所有する女の魂が美しいとは到底思えないのだが。魔王には、そう見えるのだという。
だからこそ、魔王は私の魂を欲したのだ。
けれど、外見は、どこにでもいる十人並みの女だ。今のままの私を欲するなど、ありえないだろう。
この時は、そう思っていたのだが。
まさか、冗談めかした魔王のあの時の科白は本心だとは思いもしなかった。
幼い私の前に現れてから、ずっと傍にいた魔王は、魂だけでない「私」という女に本気で惚れていたのだ。ただ人間の小娘に本気で惚れたと認めるのは魔王としての矜持が許さなかったので、あんな冗談めかした言い方をしたのだ。
そんな魔王が腹をくくって私を口説きだし、私がそれに絆されるのは、そう時間はかからなかった。
二度と転生できなくても、魔王という最強の切り札を使って、今生を面白おかしく生きられれば、それでいいと思っていたのに――。
人間の短い生ではなく、魔王の伴侶となり長い長い時を生きる事になった私だが、どちらにしろ、魔王という最強の切り札を使って面白おかしく生きられるのに変わりはないから、これはこれでよかったのだと思う事にする。
後書き。
あらすじの○○は「生首」です。
190
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。
朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。
そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。
だけど、他の生徒は知らないのだ。
スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。
真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。
三度裏切られたので堪忍袋の緒が切れました
蒼黒せい
恋愛
ユーニスはブチ切れていた。外で婚外子ばかり作る夫に呆れ、怒り、もうその顔も見たくないと離縁状を突き付ける。泣いてすがる夫に三行半を付け、晴れて自由の身となったユーニスは、酒場で思いっきり羽目を外した。そこに、婚約解消をして落ちこむ紫の瞳の男が。ユーニスは、その辛気臭い男に絡み、酔っぱらい、勢いのままその男と宿で一晩を明かしてしまった。
互いにそれを無かったことにして宿を出るが、ユーニスはその見知らぬ男の子どもを宿してしまう…
※なろう・カクヨムにて同名アカウントで投稿しています
【短編】将来の王太子妃が婚約破棄をされました。宣言した相手は聖女と王太子。あれ何やら二人の様子がおかしい……
しろねこ。
恋愛
「婚約破棄させてもらうわね!」
そう言われたのは銀髪青眼のすらりとした美女だ。
魔法が使えないものの、王太子妃教育も受けている彼女だが、その言葉をうけて見に見えて顔色が悪くなった。
「アリス様、冗談は止してください」
震える声でそう言うも、アリスの呼びかけで場が一変する。
「冗談ではありません、エリック様ぁ」
甘えた声を出し呼んだのは、この国の王太子だ。
彼もまた同様に婚約破棄を謳い、皆の前で発表する。
「王太子と聖女が結婚するのは当然だろ?」
この国の伝承で、建国の際に王太子の手助けをした聖女は平民の出でありながら王太子と結婚をし、後の王妃となっている。
聖女は治癒と癒やしの魔法を持ち、他にも魔物を退けられる力があるという。
魔法を使えないレナンとは大違いだ。
それ故に聖女と認められたアリスは、王太子であるエリックの妻になる! というのだが……
「これは何の余興でしょう? エリック様に似ている方まで用意して」
そう言うレナンの顔色はかなり悪い。
この状況をまともに受け止めたくないようだ。
そんな彼女を支えるようにして控えていた護衛騎士は寄り添った。
彼女の気持ちまでも守るかのように。
ハピエン、ご都合主義、両思いが大好きです。
同名キャラで様々な話を書いています。
話により立場や家名が変わりますが、基本の性格は変わりません。
お気に入りのキャラ達の、色々なシチュエーションの話がみたくてこのような形式で書いています。
中編くらいで前後の模様を書けたら書きたいです(^^)
カクヨムさんでも掲載中。
離婚します!~王妃の地位を捨てて、苦しむ人達を助けてたら……?!~
琴葉悠
恋愛
エイリーンは聖女にしてローグ王国王妃。
だったが、夫であるボーフォートが自分がいない間に女性といちゃついている事実に耐えきれず、また異世界からきた若い女ともいちゃついていると言うことを聞き、離婚を宣言、紙を書いて一人荒廃しているという国「真祖の国」へと向かう。
実際荒廃している「真祖の国」を目の当たりにして決意をする。
厄介払いされてしまいました
たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。
十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。
しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。
傷物の大聖女は盲目の皇子に見染められ祖国を捨てる~失ったことで滅びに瀕する祖国。今更求められても遅すぎです~
たらふくごん
恋愛
聖女の力に目覚めたフィアリーナ。
彼女には人に言えない過去があった。
淑女としてのデビューを祝うデビュタントの日、そこはまさに断罪の場へと様相を変えてしまう。
実父がいきなり暴露するフィアリーナの過去。
彼女いきなり不幸のどん底へと落とされる。
やがて絶望し命を自ら断つ彼女。
しかし運命の出会いにより彼女は命を取り留めた。
そして出会う盲目の皇子アレリッド。
心を通わせ二人は恋に落ちていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる