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元奴隷(敵国の騎士)×捕えられた小貴族
後半 ※微流血注意
しおりを挟む屋敷に燃え上がる炎、誰かの叫び声。
出火場所は一階なのか既に火の海だった。
―――ッ!?熱い、くる、しい・…っ、!
三階にも非常口があるはずなのに真っ黒な煙に方向感覚を失った。
どうしよう…、俺は、…このまま焼け死ぬのか…!?
「ウィル様!そっちはいけません」
ひとり屋敷の中を逃げ惑うウィルの手を引いてくれたのは、父でも母でも兄でもなく―――ルシウスだった。
「ち…父上達が、まだっ・…ゴホッ!」
「っ!ほとんどの者が窓を破り外に出ていくのを確認しました、どうか今は避難を優先してください」
「でも、」
「このままでは貴方も私も死にます!」
―――――!
ルシウスも熱さと煙にやられたのか苦しげにしている。
言われた通り身を低くすると、煙を吸わないよう布を強く押し当てられた。そして、あろうことかルシウスはウィルを抱き抱えた状態で窓から飛び降りたのだった。
「っ、ウィル様、大丈夫ですか!?」
「ーーーし、死んだかと思った…ホント」
「何を言いますか、縁起でもない…」
いやいや!!もしも俺が一人で飛び降りてたら、死ななくても重傷だからね!?
けれどお互い無事でよかったと、ルシウスと目を合わせたのも束の間だった。
ザッザッザ、と砂利を踏み二人へと近づいてくる足音に、ハッとしたルシウスがウィルを隠すように庇った。
「――――あ、貴方はっ」
「ルシウス様!!よくぞご無事で!!」
炎は闇世の中でも二人を、そして現れた白銀の鎧を着た男をハッキリと照らしていた。
そう。その鎧にべっとりと纏わりついた返り血まで…。
(……え、)
大きく跳ねた心臓。
ルシウスへの様付けなど気になっていなかった。ウィルの目は、目の前の男…その左手に釘付けになっていたのだから。
ぽたり、ぽたり…
――――――地面に滴り落ちる血、
屋敷から逃げ出した使用人達の、死体、死体…
「ルシウス団長がいたぞ!!」
「あぁよかった、貴方が捕らわれていると知って真っ先に攻め込んできたのです」
「中々出てこられず、皆心配しておりました」
「―――――あ、あっ、…、」
歓喜に沸く騎士たちの声など、ウィルの耳には入っていない。
ただ目を背けられない
男が戦利品のように手にしている、その塊は―――――、
返せ、と叫んだ。
焼けた喉で叫んだ、ぶっ殺してやる、ふざけるな!俺達が何をしたんだ、と
けれど、いくら憎い敵を殴ろうとしても強い力で抑えつけられていた。
父上、父さん…ッ、!
―――――――――あぁ、どうして…
ウィルは薬で眠らされた。
目が覚めても暴れる、叫ぶのでまた薬を与えられ、―――ルシウスの顔を見られるようになったのは、三週間も経ってからだった。
ルシウスの…ルタ国は、長引く戦争を終わらせるため、ついによその国と結託した。
そしてゼノンの土地へ攻め込んできたのだ。
自分達の仲間を酷い目に遭わせたことを知った騎士らの怒りは、屋敷を燃やし、逃げ惑う使用人を殺し、ウィルのすべてを灰にした。
「ウィル様」
「教えて。…俺達を、裏切っていたのか」
そんなわけない。
ルシウスは何も知らなかったんだ。仲間を、ルシウスを奪い返すために騎士達が暴走してしまったのだと…、何でもいいから言い訳をしてほしかった。
けれど現実は残酷だ。
「いつか、部下達が私を救出しにくるだろうとは思っていました。継承権がないとはいえ私は…ルタ国を治める現マルツ陛下の実子です」
とんだ起爆剤だ。
大事なのは継承権などではない。長年争っていた国同士だった。国王の息子が捕らえられたなど、ルタ国が本腰を上げる理由には十分成った。
「父上は、そのことを知っていたの?」
「いいえ。もしも知っていたならば、私を飼うなどしなかったでしょう」
(かう、・……。そうか、アンタは俺達を家族とは思ってくれなかったんだな)
それもそうだ。だって国王様の息子だ。ゼノンに捕えられ、あげく奴隷にされるまではお金にも食べ物にも困らない生活を送ってきたんだろ。
薪を割って湯を沸かすなんてしない。井戸や川から水を汲んで畑に撒くこともしない。安く手に入る鶏肉どころか毎日牛肉三昧の生活だったんだろ??
「ずっと俺たちを恨んでいたのか…」
父上は、首を切られて死んだ。
母上は焼け爛れた屋敷の中で。兄上は……、重傷を負っても逃げ惑う使用人達をギリギリまで助けようとしていたらしい。誰かに斬られるまでもなく、外で生き絶えた。
そして、俺は…
俺は……、なんなのだろう…?
なぜ、生かされている?
「ウィル様。領主を失った今、あの土地の所有権は貴方にあります。といってもゼノンの王が敗戦を認めればルタ国の領地になるでしょうが」
「………なら俺、邪魔だよね。処刑の日時は決まってるの?」
「いいえ。ただ私は奴隷に落とされてからずっと、最大の屈辱を受け続けました。貴方を殺しても晴れない恨みです」
ルシウスはゼノンの貴族達のせいで酷い目に遭った。
その矛先をウィルに向けたいのだと思った。
「俺に、なにしろって…?」
「私は国の都合上、ゼノンには内部調査の為に奴隷として潜入したことになっています」
そして長期任務の特別報酬として与えられた権利が、屋敷の生き残りであるウィルの命だった。
小さな土地の貧乏小貴族様。脅威はなく、燃えた屋敷がいい見せしめになった以上、末息子の存在などどうでもいいと判断されたらしい。
「貴方には、あの時の俺と同じ身分に落ちてもらいます」
「は?俺が、奴隷…?まだ拷問したあと民衆の前で処刑した方が役立つよ」
「拷問への耐性は?」
「……」
あるはずがない。
しかしウィルには秀でた才能などない。兄ならばともかく、引きこもってばかりの生活で貧相な体つきだ。ハキハキと動くわけでも機転が利くわけでもない、器量も普通。
これならば使用人を雇った方がずっといい仕事をしてくれる。
「心配しないで、ウィル様。私は長い奴隷生活を過ごしたせいか、女性を受け付けない体になったのです」
「――――――は?」
「言わなければ分かりませんか?これから貴方には、私専用の性処理係になってもらいます」
ただの使用人達にはできないことがあります。
どこか疲れ切った表情でも、笑ったルシウスを久しぶりに見た。
その翌日から、ルシウスに犯される生活が始まった。
問題があれば殺してくれるだろうと癇癪を起しても意味はなくて、ただ危険という理由から監禁部屋を与えられた。
「逃げても構いませんよ、ただし生き残った領民達をお忘れなく。」と言われた瞬間、ぞっと背筋が凍った。
ほんの少し前までルシウスと一緒に笑っていた領民達だ。
彼らを、俺などを辱める為の人質として扱うのか……。
「ウィル様。すっかり男に抱かれる体になりましたね」
「……」
「そういえば、私の兄が貴方に興味を持たれましてね、貴方を貸してくれなどと困ったものです」
「…っ、……るしっ、っ…」
”貸せ”の意味が分からないほど子供じゃない。
兄、ということはルシウスよりずっと立場が上の存在なのだろうか?
俺は、俺はっ――――、…
「…、っ、るしうすだけ、・…他の人は、いやだっ…」
「えぇ断りましたよ。私だけです、貴方に触れていい人間は………ね、ウィル様?」
――――――心が軋む。
あえて酷い事を言うのは、ウィルを生かすためだと思いたかった。
ルシウスの今が嘘で、本当の顔は屋敷で過ごしていた…あの三年にあったのだと
「好きだって言ってください。ウィル様、貴方の欲しいものは全部私が与えてあげます。なにがあっても、貴方だけは必ず守ります」
まるで誓いを乞うような、手の甲への口づけだ。
だけどウィルは 嫌だと首を振る。
だって好きと言った時、お前はどんな表情を浮かべるんだ?
俺を辱めるだけの行為。
これ以上、心を抉られるのはごめんだった。
だって、俺はっ、お前の事がっ………、本当に…。
「……きらいだ、お前なんて、きらい…、嘘つき」
「なら、もっと嫌いになってもらいましょう。怒りで身も心を焦がして、私を殺すしか考えられなくなるまでの憎悪を抱いてください」
私は貴方を殺してでも、生かしたいのです.
そんな願う声を 聞いた気がした。
―――――――――――――――――――――――
憎しみを希望と呼んでしまうくらいなら
まだ愛おしいと想える手に、殺されたかった.
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